2012年01月09日
●特別展 北京故宮博物院200選@国立東京博物館平成館
東京国立博物館平成館で開催中の「特別展 北京故宮博物院200選」を観ました。見所はなんといっても神品と讃えられる「清明上河図」。所蔵国の中国でもめったに公開されない名宝中の名宝であり、その実体は12世紀の都市風景を活写する超細密風俗画です。主催メディアの力の入れようも相当なもので、公開初日の1/2から140分待ちの報にさもありなん。1/2に出かけた「博物館に初もうで」の際にあわよくばチラ見しようという魂胆はあっさり打ち砕かれ、絶対見るぞと心を入れ替えて出かけました。
開館90分ほど前に東博の門扉前に到着、先客は20人ほどで一安心。開館前には300人くらいに増えていました。開館とともに平成館入場、そのまま清明上河図待ちの列に並び、10分ほどして感動の対面となりました。導入は郊外の風景、木立の中をロバと童子が街へと向かいます。ほどなく街の大動脈たる河川が現れ、船が停泊して荷揚げしています。左に伸びる大画面に沿って都市のパノラマが広がり、その中で活き活きと活動する人々の描写にグイグイと引き込まれます。そして虹橋が登場します。陸路である橋が海路である河と立体交差して、街の賑わいが最高潮に達します。往来を往く人人人。その下を声を上げながら船の帆を畳む人々が往きます。お互いの視線が交差し、声がかけ交わされ、通り抜けんとする船のスピード感!緻密な描写と驚くほど保存状態の良い画面が生み出す、12世紀の北宋の賑わいをそのまま持ってきたような臨場感に魅了されます。画面は街中に移り、木軸の巨大な酒楼を横目に城門をくぐって城内へと至ります。往来には店が並び、人々が行き交います。城門の石垣のシャープな直線、瓦屋根の美しい曲線、人々を活写する柔らかな線。木々は少しぼかした描写で、緻密な画面の中でもその存在感をしっかりと保ちます。まるで現代の漫画家が見聞したそのままを、入魂の思いで描写したような画面は本当にすごい。その場で立ち止まってじっくりと見たいという思いを抱えつつ、警備員の方の「立ち止まらないで下さい」という声に急かされて通り過ぎる数分の鑑賞体験でした。
その後入口に戻って、改めて展示を観ました。異様な大行列状態なのは「清明上河図」のみで、それ以外の展示は比較的ゆったりと見ることができます。
第I部 故宮博物院の至宝-皇帝たちの名品-
清明上河図を含む書画、工芸、服飾の名品展。
第II部 清朝宮廷文化の精粋
第1章 清朝の礼制文化-悠久の伝統-
「康熙帝南巡図巻」。清の康熙帝が甲南へ巡行した際の長編図巻。川沿いの庶民の活気ある生活生活、一巻丸々使っての紫禁城城下の様子。清明上河図への憧れが感じられる。
第2章 清朝の文化事業-伝統の継承と再編-
「乾隆帝是一是二図軸」。満州族の皇帝が漢族の文人に扮してコレクションを鑑賞する。コスプレすることで異民族の文化を継承し再編する。
第3章 清朝の宗教-チベット仏教がつなぐ世界-
「大威徳金剛立像」。千手を思わせる多数の手とデフォルメされたプロポーションが、愛らしさと威厳を感じさせる。
第4章 清朝の国際交流-周辺国との交流-
「乾隆帝大閲像軸」。ヨーロッパ貴族のコスプレをする皇帝像。多数のイメージを合わせ持つ皇帝像が、広大な版図におけるイメージ戦略の一端を感じさせる。
「清明上河図」で力尽きた感もありますが、いずれも劣らぬ名品の数々。できれば再訪してじっくりと観たいです。
2011年08月01日
●7月の鑑賞記録
7/2
倉俣史朗とエットレ・ソットサス@21_21デザインサイト
オリベッティのタイプライター、ミス・ブランチ、ラピュタ。様々な名作プロダクトの実物を観られるのが魅力。同時に、それ以上の何かがあるとは思えない。よく出来た有料ショールームのようだった。
○鳳凰と獅子@サントリー美術館
若冲「旭日鳳凰図」の送別と、永徳「唐獅子図屏風」登場へ向けてのインターミッション。獅子の脇腹と背骨の浮き彫りが気になり、雪花の上品さを再認識、山楽「唐獅子図屏風」に期待感を高め、又兵衛の鳳凰を操る皇女、一蝶の滝に打たれる獅子に首をひねる。面白い。
7/3
肥前磁器の華@根津美術館。伊万里、柿右衛門、鍋島
個々の磁器の美しさと、「並べることに意味がある」と開き直って展示の美を前面に出す構成が意欲的。実用の美をガラスケースに押し込める矛盾に、上手い補助線を引いたと思う。
7/5
Summer Show 2011@西村画廊
三沢厚彦。大きな額装から小さな落書きまでドローイングを多数出展。立体は猫のみ。小林孝亘。大きなマスカットと小さな新作ドローイングが2点。画面に満ちる光がステキ。町田久美。2点。ちょっと画題が変わった?カプーアも一点。
○松尾高弘インタラクティブアート展@ポーラミュージアムアネックス
Aquatic Colors。観客の動作に反応し、無数のクラゲが浮遊する幻想的な空間体験が美しい。
White Rain。LED光の滴る「雨」の中を散策する。どちらも音楽が効果的で、とても癒される。
7/9
○恐竜展@科博
親子連れとカップルに大人気。一番人気はもちろんティラノvsトリケラトプス。夏休み前から大入り。
◎鳳凰と獅子@サントリー美術館
永徳「唐獅子図屏風」登場!設置位置の低い展示が迫力満点。屏風の巨大さ、二頭の獅子の視線が交差する濃密さ、豪華絢爛な画面作り。永徳展よりも、皇室の名宝展よりも断然良い。若冲「花鳥図押絵貼屏風」。フワフワした鳳凰の尾羽、松の枝などの筆捌きが見事!
7/11
○橋口五葉展@千葉市美術館
五葉といえば「髪を梳ける女」の緻密な描き込みと、色気ある女性像。でも今回の展示では、意外と硬い人物スケッチが多く並ぶ。その一方で、渓流(耶麻渓)等の美しい色彩と水流描写、スケッチブックの活き活きとしたイメージも点在する。作家像を掘り下げる意欲展。
○ワシントンナショナル・ギャラリー展@国立新美術館
ギャラリーの誇る常設9点の作品は、素晴らしい存在感。中でもマネ「鉄道」はひときわ目を惹く。カサットの表情豊かな子供たちも可愛らしい。ただ全体としてはコマが足りない感じ。去年のオルセー展を期待すると肩透かし感アリ。
7/16
○三鷹天命反転住宅 見学会
もう一つの住む形を実体験できるパビリオン。強固な立方と球形状。その中に設えられた人工楽園。
鳳凰と獅子@サントリー美術館
永徳「唐獅子図屏風」にお別れを。前期に若冲「旭日鳳凰図」、後期に本屏風を配することで、全期を通して楽しませていただきました。
○MIDTOWN RAINBOW@ミッドタウン・ガーデン
夜空に飛び交うレーザー光とミストが、涼を呼ぶ。鳳凰が舞うような演出がサントリーの展示と連動して感じられて好印象。ミストが子供たちに大人気で、イベント後にあちこちでバスタオルを巻いた姿が見られた。ミッドタウンの盆踊り。
7/18
○国芳展(後期)@太田記念美術館
待ちに待ってた、猫登場。猫文字等の柔軟な発想に驚かされる。スカイツリーも登場して、国芳エンターテイメントを堪能した。
◎シンセシス@東京都現代美術館
キャタリスト公開制作!そして驚きのサプライズライブ、ゆず登場!!「栄光の架橋」が響き渡る吹抜けは、現代アートが化学反応する夢空間!満足度200%を振り切る、最高にスタイリッシュ!ほんま、カッコよかった!
7/22
○鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星
宮崎アニメの中を、エドとアルが駆け抜ける!面白かったです。
7/23
○フェルメールからのラブレター展@京都市美術館
手紙を中心としたコミュニケーションから読み解くオランダ絵画。とはいえ、やはりホーホの中庭空間とか、ボルの右上から射す光に眼が行く。そして、フェルメール。青、赤、黄の豪華三点揃いを堪能。じっくり見られるのが嬉しい。
とはいえ、全43点というボリュームは鳴り物入り展示としては物足りない。青衣の女の色飛び気味にも見える画面、手紙を書く女の肌部のみのソフトフォーカスも気になる。修復でバランスを崩すこともあるのだろうか。
◎百獣の楽園 美術にすむ動物たち@京都国立博物館
間口を広く、娯楽性強く構成した、夏休み企画。なんだけど、そこは京博。羊は雪舟、牛は宗達、虎に至っては光琳のコミカル虎の横に、芦雪の超本気虎!解説も「生きた虎、芦雪の超絶技巧にしびれたい」とあり、もはやファンレターレベル。心底、楽しい!
7/25
○皇帝の愛したガラス@東京都庭園美術館
レースのような「フィルグリーナ」の意匠、2Fホールに広がる枝付燭台の非常に豪華なセット。かの「もてなすび」の皇帝版ともいえる内容と、庭園の美しさにうっとり。
7/30
○常設展@東京近代美術館
原田直次郎「騎龍観音」は東宝怪獣映画のきぐるみのようだと思う。
石本泰博「桂」の美しさを、近代絵画の中で再発見。畳と欄間が生み出す交差線、素材ごとに面分割したような外観写真、石畳のコラージュのような質感コンポジション。
7/31
山口 晃アーティスト・トーク@ヴァンジ彫刻庭園美術館
美しく着彩された「東海道 新風景」が楽しい。特にムーミン神社がお気に入り。トークは相変わらずの面白さ。画伯の巧みな話術に気持ち良く転がされて満足。
2011年07月26日
●百獣の楽園 美術にすむ動物たち@京都国立博物館
今年の夏は美術館が動物園に!山種美術館、横須賀美術館、京都国立博物館の3館が同時期に、動物を切り口にした展示を開催します。古典から現代アート、平面から立体。各館の特色を活かした多彩な展示がとても楽しみです。

京都国立博物館で開催中の「百獣の楽園 美術にすむ動物たち」を観ました。
第1室
京博動物園の開幕。
まずは羊。倣梁楷黄初平図 雪舟等楊筆。いきなり雪舟!
そして牛。牛図 俵屋宗達筆。続いて宗達!たらしこみの技法が冴える!
振り返れば駱駝。三彩駱駝。唐三彩の名品で立体も抜かりなし!
第2室
猿。
猿蟹図 雪村周継筆。目がクリクリして可愛い!イタズラ心に満ちた瞳。
猿蟹図 伊藤若冲筆。意外なところで若冲!刷毛目の猿の毛、水気ある蟹の甲。芸が冴える。
猿図絵馬 森狙仙筆。猿といえばこの人!毛の描写が見事。
第3室
犬!キョーアクなまでに可愛い。
加彩婦女 犬を抱く。ふくよかな婦人の造形が美しい。
嵯峨人形 犬。チョコンと座る愛らしさ、首を回すと尻尾が動くギミック!首に巻いたマフラーもキュート。
獅子・狛犬。角がないのが獅子、あるのが狛犬。へー。前足をチョコンと出したスタイルは、湛慶によって編み出された。へー。
百犬図 伊藤若冲筆。はっきりいって可愛くないけど、細密な書き込みが見せる!
栗鼠。黒漆葡萄栗鼠螺鈿箔絵卓。葡萄に見え隠れする栗鼠がかわえーのう。かわえーのう。
兔。銀製兎形水滴 葵紋蒔絵卦算并硯のうち。将軍家ご子息使用のお習字道具。耳をチョコンと傾ける姿が愛らしい。往時の白い状態も見てみたい。
猫!
南泉斬猫図屏風 海北友松筆。斬られた猫が見つからない。。。
惺々狂斎画帖 河鍋暁斎筆。大猫に驚く二人が良い味出してる。
第4室
小さな生きもの。虫。蛙。
蚤図扇面 長沢芦雪筆。画は蚤だけの大胆さ。蚤の脚の繊毛まで描く超細密描写。
朝顔に蛙図襖 長沢芦雪筆。画面いっぱいにヒョロヒョロと伸びる朝顔の蔓。それを見上げる二匹の蛙の活き活きとしたポーズが素晴らしい。
ひねった角度から剛速球を投げ込む、芦雪の構想力と画力が冴える!
第5室
鹿。
楓鹿図屏風 長沢芦雪筆。師円山応挙「双鹿図屏風」と並べて、師弟対決。毛の描写の違いに注目あれ。芦雪、ものすごい優遇されっぷり。
中央室
鳥。
群鶏図障壁画 伊藤若冲筆。楕円の胴に流麗な尾羽。多彩なポーズと羽模様。お馴染みの、技のデパート。
四季花鳥図 狩野元信筆。狩野派二代目の大作。雄大な滝、うねる松、白地画面に彩色された鳥達。「松の幹に止まる鳥たちに踏みつけられた哀れな虫(ハチか?)は必見!!」と悪ノリする解説も絶好調。
花鳥図押絵貼屏風 狩野永徳筆。狩野派御曹司、永徳!あの唐獅子図屏風の永徳、二十歳の頃の作品に思いがけず出会えて感涙。
鳥類図巻 狩野派。狩野派のネタ帳。種類豊富、細密によく書き込まれている。一門繁栄の立役者。
百鳥文様打掛。前面背面に99羽、裏地に鶴を描いて百羽。お見事!背面肩口に大きく描かれた鳳凰が美しい。尾羽はもちろんハート型。
第6室
虎!
竹虎図 尾形光琳筆。フン!とちょっと拗ねた表情とポーズが楽しい。
虎図 長沢芦雪筆。芦雪の超本気虎!リアルでカッコイイ。解説も「生きた虎、芦雪の超絶技巧にしびれたい」とあり、もはやファンレターレベル。某ロセツ展よりも充実しているのでは?
第10室
霊獣。
雲龍図屏風 円山応挙筆。最後は応挙の大作で締め。
間口を広く、娯楽性強く構成した、夏休み企画。なのですが、そこは京博。ゆるい縛りを良いことに、個性豊かな個人蔵をこれでもかと押し込んでます。えっ、あの作家がこんなの描いてるの?あれとこれ並べちゃうんだ!という新鮮な驚きの連続は、心底楽しい!
2011年05月30日
●5月の鑑賞記録
5月はなんといってもレンブラントと写楽の東西版画対決。そして狩野一信畢生の大作「五百羅漢」。地震を乗り越えて開催されて、本当に良かった。
5/5
○アート好きによるアート好きのための図録放出回 Vol.1
関係者の方の行動力に脱帽。楽しませていただきました。
5/7
○国宝 燕子花図屏風 2011@根津美術館
今年は小雨の中、庭園を散策。人出も少なめで燕子花を満喫。来年こそは、八橋と燕子花を並べて観たい。
5/8
○香り かぐわしき名宝展(前期)@東京藝術大学大学美術館
大きな顔に風船のような胴体の「獅子香炉」。黒いマッスを宙に浮かせた「香時計」。香りと実用の接点にとても惹かれた。 速水御舟「夜梅」。マイクロテープを貼ったような明確な幹と、黒く滲む背景のグランデーション。透ける白い花弁。激ラブ。上村松園「楚蓮香之図」。ピンクの上衣に青いストライプ。逆手に持った扇の軽やかさ。美しい。
◎レンブラント 光の探求/闇の誘惑@国立西洋美術館
和紙等素材へのこだわり、版画のステート毎の大胆な変更。愛好家への需要喚起もあったろうけど、やはり全てをコントロールをしたいという強烈な欲求が作家を突き動かしたのだろう。そんな素顔を感じました。画面右上から射す光、その反対側からも補助光を当てて、ディテールは保持。柔らかな質感を産み出しつつ、画面密度も高める。あれは発明だろうか、観察に基づく発見だろうか。あるいは同時代性の産物か。とても興味を惹かれました。
5/14
◎写楽@東京国立博物館平成館
写楽誕生の背景を丁寧に辿る前半、歌舞伎演目ごとに作品を見せる後半。特に蔦重の吉原細見と歌麿のコンビネーション、豊国と写楽の同題材対決は見応えあり。まさに役者は揃った!北斎展に並ぶ空前絶後展!
○手塚治虫のブッダ展@東京国立博物館 本館特別5室
音声ガイドを借りて観た。漫画と仏像を観て、とってもわっかりやすーい!コンパクトな展示なのでダイジェストだけど、物語風味で面白かった。
◎五百羅漢展@江戸東京博物館
冒頭日常編の異様な密度と、色彩美と、精気漲る画面がとにかく魅力的。間近で見られる展示ケースの工夫も効果大!新勝寺の大作を照らす照明変化も効果的。一気呵成に観られる会場構成に、仕掛側の気合を感じた。
5/15
シュルレアリスム展@国立新美術館
法皇ブルトンの宣言から、その死まで。詩に触発された絵画、オブジェ、映像がズラリと並ぶ。詩が表現を導くのだなあと、オーディオガイドを借りてじっくり観た。教科書を淡々とめくりながら、内面世界を延々と彷徨った気分。
5/19
NIJIMASS@ギャラリーアートポイント
あおひーさんの個展。なぞなぞは面白いけど、モティーフとは別物に変化した作品をもっと見せて欲しかった。
5/22
◎あるべきようわ@資生堂ギャラリー
地下の参道。縦の光、渦巻く手水鉢、垂直な数珠。手摺を包む白布、垂れ下がる紐、薄く天を覆う透過膜。白い回廊の突き当たりに、塔が座する厨子。左に折れて、質感を残した白染の祭壇。その上に浮かぶ、聖なるガラス。光に誘われて段を登ると、均質な光のプレートの上で透明ガラスが驚くほど多様な表情に見せる。恍惚。ふと我に帰る。何を拝んでるんだっけ?透過膜の向こうに、雑然とした天井設備が見えてくる。現実の中に神殿が重なる。段取りの美が美しい。
夢に挑む コレクションの軌跡@サントリー美術館
蒔絵提重、薩摩切子 船形鉢、遊楽屏風、光悦茶碗。「生活の中の美」というコンセプトと優品展示に妄想心が刺激されまくり!新収蔵品も華やかで、とても素敵だった。
2011年05月16日
●写楽@東京国立博物館平成館

上野の東京国立博物館平成館で開催中の特別展「写楽」を観ました。
□写楽以前の役者絵
写楽の描く浮世絵の題材は歌舞伎。そのルーツとなる出雲の阿国から、役者絵の誕生、そして写楽へ。師宣、北斎、清長、歌麿。オールスター出演で、その歴史を50年単位でダイジェスト紹介。
菱川師宣「歌舞伎図屏風」。浮世絵展と銘打ちながら、屏風をドドーンと並べて、視覚的にも意表をつく。風俗図屏風が好きなので、これだけでも楽しめる。
□写楽を生み出した蔦屋重三郎
写楽を生み出したのはプロデューサー。去年のサントリー美術館での展示も記憶に新しい、仕掛人「蔦重」にスポットライトを当てる。プロデューサー戦略がクローズアップされる、現代に合わせた構成。
「吉原細見 寛政6年版」。蔦重の始まり、吉原ガイドブック。その袖に忍ばせるのに程よいサイズが、吉原巡りを楽しんだであろう当時を思わせてリアル。
喜多川歌麿「当時全盛美人揃 越前屋内唐土 あやの をりの。細見で見た名前が、歌麿の浮世絵で登場!「これが評判の美人かい!一枚おくれ。」と、飛ぶように売れたことだろう。
喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」「歌撰恋之部 深く忍恋」。フランスギメ美術館が誇る、紫、ピンクが鮮明に残る歌麿浮世絵の名品。往時の画面の美しさに溜め息。
□写楽とライバルたち
出版界不況の中、自信の大首絵を携えて颯爽と登場する写楽。同時期に活躍した他の浮世絵師、歌川豊国、勝川春英等の作品と並べて展示することで、その特徴を浮き彫りにする。歌舞伎演目ごとに整理して並べてあるので、そのストーリーを踏まえて各絵師の描写を見比べられるのがとても親切。
前半の主役は写楽。役者自身の特徴を捉え、見得きりポーズもキッチリ決めた大胆な大首絵はとても目立つ。
東州斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」「初代市川男女蔵の奴一平」。「恋女房染分手綱」で対決する二人を、二枚組構図で表現。ロビーで上映されている再現映像も分かりやすくて、理解が深まる。凄い迫力。人気のほどが想像できる。
後半になると写楽は姿を消して、歌川豊国が躍進する。長寿命=絵師の実力とすると、時代を背負ったのは豊国。そこに閃光の如く登場して、数枚の名作を以って歴史に名を残し、あっという間に舞台から消えたのが写楽。
「あっ、これは活きが良い」「これは女形なのにオッサンすぎてひどい」「豊国もなかなか似てるねえ」。往時の賑わいに紛れ込んで絵を見比べ、お気に入りを探す。作品をズラリと揃える本展ならではの贅沢なひと時。
□写楽の全貌
そして本編。時系列順に4期に分けて、写楽作品の全貌を示す。さらに歌舞伎演目ごとに細分化し、演目内の人物関係を1分にまとめた映像で紹介。人物相関が分かると、絵を観る視点がグググッとミーハー方向に深まる。もう気分は話題の歌舞伎演目の開幕を待ちきれずに、役者ブロマイドを眺めながらあれやこれやと想像をめぐらす町人の気分。同時に、あっという間に魅力を失う画風に、急速に興味を失う。
□写楽の残影
他絵師の浮世絵に描き込まれた写楽画、取り込まれた見得きりポーズを並べて、写楽の影響がうかがえる浮世絵を紹介。でも、一番の残影は、現代でもこうして繰り返し開かれる大回顧展だなあと思う。一瞬が永遠になる「写楽」という現象。
写楽展といえば、1995年に東武美術館で開催された「大写楽展」が記憶に残っています。バブル残滓の残る時期の開館記念展ということで、ずいぶんと力の入った展示でした。主催は今回と同じくNHK、NHKプロモーション。今回が前回と比べてとても優れているのは、丁寧な解説と見せる工夫だと思います。写楽登場の前史を、題材、生産システムの2面から解き明かし、さらにライバルたちの作品と並列展示することで時代の空気を再現。その上で作品相互の関係を簡潔に解説しつつ「写楽」を紹介。当時の雰囲気にタイムスリップしながら浮世絵に夢中になるひとときは、数多くの優品を揃えた本展だけが成し得る体験でしょう。まさに「役者は揃った」。2005年の「北斎展」と並ぶ空前絶後の展覧会だと思います。
2011年05月06日
●4月の鑑賞記録
4/2
◎江戸の人物画-姿の美、力、奇@府中市美術館 (前期)
毎回毎回、新しい視点を開いて見せる企画力と、個人蔵を多く集めてそれらを色付ける構成力。そして観客を楽しませる仕掛けをタップリ盛り込む演出力。桜の季節に柔らかく射す光。あたたかい。
◎白洲正子 神と仏、自然への祈り(前期)@世田谷美術館
白洲正子の眼を通して観る仏様たち。好奇心に満ちた平明な文章が、目の前の景色を一変する。展覧会の醍醐味を堪能。
4/7
◎京都 2011 清水寺-産寧坂-円山公園-祇園
清水寺から四条まで夜桜巡り。歩くにはチョット長いかなーと思うも、桜の魅力に夢中になってあっという間。中でも円山公園の枝垂桜と花見の光景はひときわ印象的。
4/8
屏風「親鸞」@東本願寺
眼光鋭く何かを見据える鋭い青年として描かれる親鸞。迷い、期待、憧れ。様々な思いを抱いて繋がる人々。地震と放射能であっけなく崩れる世界に直面して、彼の生きた時代が身近に感じられる。
○法然 生涯と美術@京都国立博物館
人物像を知る資料が全然ないことを逆手にとって、絵伝として再構成された物語を辿る展示。全48巻の法然上人絵伝を主軸に、複数の別バージョン、所縁の仏像や宝物が彩を添える。ビジュアル情報豊富で、マンガを読む感じ。解説が何気に毒舌。
4/9
◎京都2011 醍醐寺-京都御所
醍醐から御所へ、桜巡りその2。三宝院の枝垂れには早かったけれども、境内と宝物館は満開から散り始め。「醍醐の花見」の栄華を今に伝える庭園が素晴らしい。そして京都御所の特別公開に滑り込み。平安時代から続くその空間は、王朝タイムカプセルそのもの。
4/15
◎三沢厚彦 Meet The Animals-ホームルーム@京都芸術センター
ギャラリーの白壁にスッと立つペガサス。教室の教壇に立つ白熊。和室の畳にそびえるように立つ鹿。みんなずっとそこにいたように馴染んでいる。横浜そごう、愛トリ、平塚のエントランス。僕が今まで観た中ではダントツで好きです。
4/16
○もうひとつの京都-モダニズム建築から見えてくるもの-@京都工芸繊維大学 美術工芸資料館
写真パネルと白模型で辿る、京都モダニズムの足跡。戦前の建物が、用途を替えながら今も現役な例が幾つも紹介されていて嬉しい。戦災を逃れたことも大きいのだろう。後半の主役は京都国際会館。そのあまりに異次元な存在感は、モダニズムという範疇を超越しているように思えた。
4/20
◎長沢芦雪 奇は新なり(前期)@ミホミュージアム
水墨画の動物たちが魅力的。師匠譲りのかわいい狗、ボケボケた味わいの蛙、牛、蛸、仕草の細かい雀、マンガな表現で時代を跳躍する猫トラ、スヤスヤと居眠りする虎、前脚で雲海を切り裂く龍。役者は揃った、あとは紅枝垂を待つ。
○親鸞展 生涯とゆかりの名宝@京都市美術館
法然展とうって変わって、こちらは真筆がドンドン登場。仏像に絵巻物に絵画とバラエティも豊か。けれども意外と人物像は浮かび上がらない。「飛雲閣襖絵」と狩野探幽「雲龍図」が観られて嬉しい。
4/23
○内海聖史「さくらのなかりせば」@ギャラリエアンドウ
緻密に描かれたピンクの点描が、桜の屏風絵のようでとても美しい。照明を落とすと夜桜の景に早変わり。「色」と「見え方」を、とても意識して作られた絵画体験。
◎Shuffle | シャッフル@白金アートコンプレックス
1F/コンクリートブロックと「根来」の対比。4F/長谷川等伯「四季柳図屏風」!不動明王半跏像の新旧対比。縦に並んだギャラリー群を横断して、古今アートをシャッフル!質、アイデア、見応え。三拍子揃った傑作。
4/24
東海道 新風景-山口晃と竹﨑和征@ヴァンジ彫刻庭園美術館
ようやくヴァンジ初訪問。アーティスト・トークショー目当てで、初日にGO。山口さんの作品は予想通り(?)白かったけれども、大作「階段遊楽圖」が出ていたのでバランスはとれた感じ。竹﨑さんは初見。通路空間を利用しての展示なので、決して恵まれた条件ではないけれども、それでも巧みな話術と竹崎さんとの掛け合いで場を盛り上げるのは流石。色は着くのだろうか。。。
母たちの神—比嘉康雄展@伊豆フォトミュージアム
こちらも初訪問。シャッフルの感動覚めやらぬ、新素材研究所(杉本博司+榊田倫之)による改装空間。エントランスと展示折り返し点に坪庭を配した構成は、美しく明快。その間に展示パネルを折り畳んで押し込んだ感じ。もうちょっと広さがあれば、より杉本さんらしい空間に仕上がっただろう。
4/25
◎フェルメール 《地理学者》 と オランダ・フランドル絵画展 @Bunkamura ザ・ミュージアム
オランダ・フランドル絵画を五つのテーマから紹介。王侯貴族から富裕市民層へ。注文主の変化に合わせて、画題も変化。貴族を真似た画題あり、職業に因んだ画題あり。その多様性と柔軟性がとてもリアルで興味深い。さらに大航海時代を背景に、フェルメール「地理学者」を特別公開!とびきり美味しいオマケの付いた、一粒で二度美味しい展示。
●3月の鑑賞記録
3/2
◎平等院鳳凰堂、鳳翔館
浄土式庭園唯一の遺構、鳳凰堂。20年ぶりくらいの再訪。折りしも宇治関白頼道の命日だそうな。西方極楽浄土を再現した内部の壁画、運中供養菩薩。土門拳の夕景で有名な鳳凰。本当に奇跡のような建物。
鳳翔館、初訪問。鳳凰堂の再現CG、内部壁画再現コーナー。何より運中供養菩薩様たちが楽しそう!
3/13
○長沢芦雪 奇は新なり(前期)@ミホミュージアム
まだウォーミングアップな感じ。4/19からが本番?「山姥図」は対決展で、「虎図」は名古屋城でそれぞれ観たけれども、ないとやはり寂しい。深山に桜の咲く頃にまた来たい。
○薬師寺東塔
これから解体修理に入る東塔、10年のお別れ。
3/19
◎若冲水墨画の世界@承天閣美術館
館に入ると、立ち込めるお香。その匂いに癒される。鹿苑寺大書院旧障壁画。入口面とその先4部屋の全50面が勢揃い!展示の都合上、部屋順でなけれども、パズルの様に頭の中で空間をイメージしながら観るのは格別の楽しみ。若冲ファン必見!
○生誕100年 岡本太郎展@東京国立近代美術館
対決をテーマにした七番勝負。明快な構成、エネルギッシュな絵画、大きく目を見開いたパフォーマンス。一見エンターテイメントショーのような楽しい展示。個人的には太陽の塔がクライマックス。建築と対決して屋根をぶち破り、万博という場で原始を打ち出す。そして40年。大屋根は遠になく、ジェットコースターも撤去。塔は綺麗に修復されて燦然と輝く。消えたモノと残ったモノの対比が印象深かった。
3/27
◎建築家 白井晟一 精神と空間@パナソニック電工 汐留ミュージアム
虚白庵の濃密な思索空間に引き込まれ、親和銀行、原爆堂。気がつけば松濤美術館。ロビーのDVD映像で実空間体験を補って、とても濃密なひと時でした。
●2月の鑑賞記録
2/5
○琳派芸術 第1部 煌めく金の世界@出光美術館
俵屋工房を中心に、琳派の大家が客演する。伝宗達「月に秋草図屏風」の、月光に満ちて金色に輝く空間にゾクゾクした。「龍虎図」の、ゆるくドラえもん顔の虎に心を掴まれた。始祖宗達の創造性が光った。
生誕250年 酒井抱一 -琳派の華- (前期)@畠山記念館
一面を抱一で固め、対面は琳派大家の顔見せ。間に工芸をはさむ、手堅い構成。「四季花木図屏風」の、地色を活かした桜の幹の描写、「十二ヶ月花鳥図」の、美しい花と鳥の取合せ。抱一、萌え燃え展示。
○「日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館
バウハウスの輸入から始まり、琳派の影響が見え隠れしつつ、様々な試み、時代の変遷を紹介して戦後の新たな出発で〆。個人的には、その因子が感じられる現代アート作品を最後に並べて、現代への継承を見たかったです。
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筆墨精神@京都国立博物館
「今日、キョーハクする!」。典籍、名筆ザックザク。書の知識が皆無でも、意外と見応えあり。さすが京博。「山越阿弥陀図」。山より大きな阿弥陀様。その右手から伸びる五色の糸に導かれて、天国へGO!人生最期のイベントを荘厳する晴れ舞台。
TRANS COMPLEX - 情報技術時代の絵画@京都芸術センター
情報技術とインスタレーションの境界が揺らぐような視点が観られるのでは?と期待して訪問。実際の展示は思ったよりも堅実な印象でした。
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◎立体曼荼羅@東寺講堂
運慶物語序章。本編は金沢文庫で公開中!
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特別展ダ・ヴィンチ~モナリザ25の秘密~@日比谷公園
超細密撮影+解析で浮かび上がる往時のモナリザ像は意外性があって引き込まれた。ダヴィンチ手稿の再現展示はトンデモ内容もあったけれども、以外と充実していて見応えがあった。
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◎酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界@出光美術館
とにかく「八ツ橋図屏風」と「紅白梅図屏風」のダブル大作が圧巻。酒井抱一生誕250年と銘打つだけあって、主役は抱一。抑制の効いた展示空間と相まって、とても魅力的。
◎イメージの手ざわり展@横浜市民ギャラリーあざみ野
「イメージの手ざわり」をキーワードに、6組の作家の作品を展示。アートワークの展示だけでなく、作家とアートサポーターとのワークショップにも力を入れている。さらに展示室だけでなく、建物エントランスや階段にも作品が溢れ出ている。そういった手作り感、共有感、日常感を大切にした展示。
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○TOKYO FRONTLINE@3331 Arts Chiyoda
アーツ千代田、初訪問。日本酒の利き酒コーナーがあるのが素敵。知り合いとバッタリ遭遇して、新聞紙のサイの前で語り合った。
奈良美智プリントワークス@六本木ヒルズ
奈良さんが中田隊長に力説してた。お二人を取り囲む観客で、ギャラリーが埋まってた。
G-tokyo 2011@森アーツセンターギャラリー
G-tokyoも初訪問。「アートを身近に」というフレーズと、差別化を図るような会場設定のギャップに戸惑った。スケジュールを詰め込みすぎて、既にグッタリ。
分岐展@ギャラリーモモ 六本木
「Roppongi α Art Week 2011」と称して、6つのギャラリーを巡るイベントの一環。六本木の回遊性が増えて嬉しい。
Mancy's Art Nights@Mancy's
浴室付き等、セレブ向け(?)カラオケボックスで繰り広げられる、アート展示即売会。奥まった会場設定と閉場間近な時間のせいか、ガラガラ。画廊スタッフの方のヒソヒソ話が反響して、観る気を削ぐ。
Tweet Me Love, Sputniko!@EYE OF GYRE
アーティストご本人も楽しそうにコスプレ?してて、趣味の合う友人達が集まったパーティー会場のよう。活気があって良かった。
2011年04月02日
●江戸の人物画-姿の美、力、奇@府中市美術館 (前期)
府中市美術館で開催中の「江戸の人物画-姿の美、力、奇」(前期)を観ました。
○美の百様
志村榛斎「見立江口君図」。象の背に波濤が広がり、その中に遊女が腰掛ける。ダイナミックな構成に加えて、頭に挿した簪が放射状に伸び、普賢の化身というヒーロー造形がとてもカッコイイ。
○「迫真」のゆくえ
円山応挙「三美人図」。森美で観て以来の再見。それぞれの特徴を捉えた三人の女性像。「描かれた当人はどう思ったのだろう」という解説に、確かにと思った。自分たちのお得意さんの戯れと、笑って流したのだろうか。
○聖の絵姿
住吉広行「賢聖障子絵」。強弱ある黒い輪郭線が白地と赤地の衣装から浮いて見えて、マンガの輪郭線のようだった。
○ポーズ考
「舞踏図」。緻密に描き込まれた着物柄、扇子を手に動きのあるポーズ。金地を背景に6人の女性が並ぶ。写実的に見えて観念的。そんな世界に引き込まれます。
円山応挙「鍾馗図」。上半身を少し捻り、左手を前に出して裾をキュッと掴み、右手は画面奥に隠れながら剣を握る。西洋人のような相貌。研究熱心な人だったのだろうなあ。
谷文晁「法隆寺五重塔塑像図」。涅槃に入る釈迦の周りで従者たちが声の限り歌っているように見えた。
海の向こうの不思議とロマン
曾我蕭白「太公望・登竜門図」。府中市美といえば、蕭白。毎回毎回優品が出てきて本当に嬉しい。左手に水辺から跳ねる鯉、右手に大波を縫って姿を現す龍。白と黒の対比も明確。まとまりがとてもいい三幅対。上手いなあ。
曾我蕭白「蝦蟇仙人図」。極端な縦長構図に薄墨でヘロヘロと、蝦蟇を調教(?)する仙人を描く。上手いなあ。
○人という営み
円山応挙「元旦図」。山裾から頭を出す日の出、伸びる男の影。簡潔に描かれた光と影。そして行間に満ちる余韻。機に敏な人だったのだろうなあ。
西川祐信「高士と美人図」。雲間から覗き見して神通力を失う仙人。ところがどっこい、その後のエピソードがすごい。
歌川広重「命図」。「ああ命取り女」。コミカルだけれど深い。
曾我蕭白「美人図」。モノクロームの世界に彩色された女が立つ。口元にはスルメイカをくわえている。こえー。と思ったら手紙だった。でもやっぱり生々しくて怖い。
林閬苑「妖怪図」。デフォルメの効いたプロポーションどりと、滑稽な表情とポーズ。何か分からないが面白い。現代の風刺画のよう。
春叢紹珠「皿回し布袋図」。「水をこぼさなければ、わたしは豆蔵じゃ」。深い。けれどそれは置いておいて、楽しい。
円山応挙「波上白骨座禅図」。府中の展示は毎回強力なオチで楽しませてくれます。今回は応挙のこれ。衣服も血肉もなくなって、一挙にスーパーヌード。解説文を壁面に大書して、エンディングを盛り上げます。それにしても大乗寺の応挙コレクションはスゴイ。一度出かけなければ。
○かわいい
白骨でキレイに空っぽになった心に、「かわいい」の文字がスコーンと突き抜けます。仙涯、蘆雪、若冲と有名どころを取り揃えて、見事な二段オチ。
やはり府中市美の企画展は別格。毎回毎回、新しい視点を開いて見せる企画力と、個人蔵を多く集めてそれらを色付ける構成力。そして観客を楽しませる仕掛けをタップリ盛り込む演出力。桜の季節に柔らかく射す光。あたたかい。

2011年03月21日
●若冲水墨画の世界@承天閣美術館

晴れた週末の土曜日、梅の花咲く相国寺境内を散策。

承天閣美術館で開催中の「若冲水墨画の世界」を観ました。目的はもちろん、全面修理が完了した伊藤若冲筆「鹿苑寺大書院障壁画」五十面一挙公開。
館内に入ると立ち込める、お香の匂い。体の芯から癒されます。そして第二展示室へ。
入って右手「月夜芭蕉図床貼付」。三之間床の大画面をさらにはみ出す構図で描かれた芭蕉の葉。見事な描写と迫力。
左手「葡萄小禽図床貼付」。若冲が手がけた4室+入口の中で最奥の一之間床を装飾。蹴込床と違い棚の側面を含めた立体的な面構成、縦横無尽に伸びる葡萄の蔓、垂れ下がる葉と実。クライマックスに相応しい小宇宙。
前記二点の常設展示奥のガラスケースから、障壁画展示が始まります。
「竹図襖絵」。入口にあたる狭屋之間に描かれた襖絵。画面左右に並ぶ節の太い算盤竹、画面上から垂れる三角形の葉。何かが違う、これから始まる小宇宙の序。
「芭蕉叭々鳥図襖絵」。「月夜芭蕉図床貼付」と合わせて観られる位置に、三之間襖絵。タッチがちょっとラフになった芭蕉、キノコのような岩形、マンガチックな丸眼の叭々鳥。あれ、なんか意外とノリが軽い?
「葡萄図」。こちらも「葡萄小禽図」と合わせて観られる位置に、一之間襖絵。虫食いのある葉、細かな蔓の描き分けが若冲らしい。
ガラスケースに沿って180度折り返す。
「松鶴図襖絵」。二之間襖絵は、跳ねるように勢いのある松の葉と、針金脚に魚竜のような相貌の鶴。後に続く葡萄と合わせて、若冲節全開な感じ。
「菊鶏図襖絵」、「秋海棠図襖絵」、「双鶏図貼付」。四之間を装飾した襖絵と貼付。若冲の十八番、鶏がお馴染みのポーズをとる。秋海棠は上部に余白を大きく取る控えめな構図。
そして最後に大書院間取図。ここでようやく障壁画の配置と順番が分かります。作品だけ観ても面白いですが、せっかくの立体作品。全体の構成を意識しながら観た方が、十倍楽しいです。ここで間取りを頭に入れて、書院内を歩くつもりで場面を見返しました。
修理が完了したとはいえ、障壁画はかなり傷んでいます。それでもこうして全画面を観られることは素晴らしいことだと思います。また全体から感じられる、敬虔な祈りに満ちた仏画の世界。やはり若冲は、芦雪や応挙といった商業画家とは違ったカテゴリーの人に思えます。旦那衆の道楽という経済的な側面もあるでしょうが、だからこそこんな世界を構築できたのでしょう。
これで第二展示室の半分。あとは若冲の他作品と工芸品。
林良「鳳凰石竹図」、伊藤若冲「鳳凰図」。手本となる鳳凰図と、それを写した若冲作品を並列展示。基本的に写しているが、肩を撫で肩にしたり、脚の曲げ角を急にしたり、尾羽を反対側に曲げてハートマークを加えたり。若冲がいかにアレンジしたかが分かって興味深い。
「群鶏蔬菜図押絵貼屏風」。活き活きとした鶏の描写。羽を顔の両横に上げて、顔を隠すような仕草に至っては、擬人化といっても良いほど。しかも羽は見事な筋目描。
第一展示室では「館蔵の名品展-書画と工芸-」を開催中。
長谷川等伯「探梅騎驢図屏風」。仏画師として出発しながら、絵師としての成功を求めて上京する信春。その大挑戦に、野心の大きさを思う。
2011年03月20日
●長沢芦雪 奇は新なり(前期)@ミホミュージアム

滋賀県にあるミホミュージアムで開催中の「長沢芦雪 奇は新なり」(前期)を観ました。

ミュージアムへのアプローチは、別世界へと誘うトンネル。今回は歩いてテクテク。

エントランスホールの先に広がるのは、一枚の絵としての空間装置。

そして北館2Fへと至ります。「長沢芦雪 奇は新なり」。音声ガイドを借りて、観る気満々。
第1章 温故知新・円山応挙に学ぶ
「松本又三郎宛書簡」。末尾に即興で描かれた男女。寛ぎつつ酒を飲むのは芦雪、お酌をするのは旅館の女中さん。楽しそう。
第2章 南紀くだる
人物像を軽くなぞったと思ったら、舞台は南紀へ。展開はやっ。
「牡丹孔雀図」。千人を超える応挙門弟の中でも、一、二を争うといわれた腕前!横構図は何度か観たけれども、縦構図は初めてで新鮮。
「七福神図」。釣りをしたり、大盃で酒を飲んだり。楽しげな七福神ご一行様。
第3章 大画面を好む
「蓬莱山図」。二年前に府中市美で観て以来の再見。砂浜に松林を大きくとった構図、浜を行く亀の行列、空を飛ぶ鶴の編隊、騎乗する仙人。記憶に残る作品。
「蹲る虎図」。うずくまった虎を正面から捉えた構図。大きな体と小さな顔、丸々とした輪郭線と眼を吊り上げ牙を剥く表情の対比。ユーモア漂う作品。
第4章 奇は新なり
本展タイトルを冠したコーナー。期待が膨らむ。
「群猿図屏風」。右隻は墨を垂らした岩山に腰掛けて下を睨む白猿。左隻は5匹の戯れる猿たち。左右の白黒、硬軟反転の視覚遊戯がとても効果的。
「唐子遊図屏風」。本展の子供向けガイドを務める唐子たちの元絵。鬼ごっこ(?)を興じたり、少し離れて遊んだり。可愛らしくも複雑なお年頃。
「竹に月図」。極端な縦長構図に、竹とぼかした月。現代アートのような切れ味。
第5章 芦雪をめぐる人々
第6章 迫力ある作品
第7章 奇想横溢
「白象黒牛図屏風」。プライス展以来の再見。若冲「象鯨図屏風」と対比した解説に、彼らの同時代性を感じる。象に烏、牛に子犬の取り合わせが可愛らしい。
第8章 多彩な表現
第9章 方寸五百羅漢
「方寸五百羅漢」。
本展の目玉、視覚遊戯の極致!わずか3.1cm四方に描かれた羅漢と動物たち。その描画道具と推定される天眼鏡も合わせて展示。解説を読んで、「あっ、虎がいる!」、「白象がいる!」とひとしきり。でもちっちゃい。
そして出口。あれ、ネコ虎は?山姥は?と思ったら、両者とももう少し先から展示でした。まだ冬季休館から目覚めたばかり、ウォーミングアップの段階です。
現代を席巻する「江戸絵画 奇想ブーム」。その立役者:若冲から、天才:芦雪へのバトンタッチなるか?その期待を胸に、再訪を期します。

南館1F、B1F。ルーバー越しの柔らかな光が空間を満たす。丸鋼のスペースフレームが効いてる。
時間の都合で「隼頭神像」のみを鑑賞。骨は銀、肉は金、髪はまことのラピスラズリ。溜め息。

Back to 現世。また来る日まで。
2011年02月15日
●酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界@出光美術館
先週末から出光美術館で始まった「琳派芸術 第2部 転生する美の世界」。評判が良いので早速出かけました。
1章 琳派の系譜
鈴木其一「三十六歌仙図」。時空を超えて、35人の歌仙が大集合!華やかで目出度い雰囲気が何より楽しい。黒の束帯姿の歌仙をS字に配置した縦構図が、流れるように視線を誘導する。緻密な描表装にもビックリ。
俵屋宗達「伊勢物語 武蔵野草子、若草図色紙」。後期展でも、俵屋工房と宗達が脇を固める。追っ手に追いつかれてどうしようと歌ったり、妹を恋しいと歌ったり。色男業平、大人気なのだなあ。
酒井抱一「八ツ橋図屏風」。私淑した光琳の八ツ橋を更に洗練させた燕子花の配置。雨に濡れるがごとく緑を滲ませた木橋。ジグザグに折られた紙面が、雨の中を歩くような不思議な時間感覚を生み出す。ここからが開幕といわんばかりに、抱一登場。
2章 薄明の世界
酒井抱一「紅白梅図屏風」。銀地の凍える世界に、凛と立つ紅梅。柔らかに枝を伸ばす白梅。屏風の中の世界に自生するような梅の存在感が圧巻。その美しさに涙が出た。
酒井抱一「四季花鳥図屏風(裏・波濤図屏風)」。机上に飾れそうな、お手軽サイズの屏風。持って帰りたいと、みんなが思ったはず。
3章 抱一の美
酒井抱一「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」。華やかな花、彩色美しい小鳥、うっすらと漂う抱一グリーン。抱一の品良く柔らかな感性が画面を満たす。その美しさに溜息。
4章 其一の美
鈴木其一「桜・楓図屏風」。右下に満開の桜花、左上に緑の紅葉。季節を統一し、花のみで桜、幹を強調した紅葉と対比性を強調する構図。抱一の下で磨いた技巧+多少「奇」を含ませた世界観。
鈴木其一「四季花木図屏風」。風にそよぐ牡丹が妙に生々しい。色彩も派手で、まるで熱帯のよう。
とにかく「八ツ橋図屏風」と「紅白梅図屏風」のダブル大作が圧巻。酒井抱一生誕250年と銘打つだけあって、主役は抱一。抑制の効いた展示空間と相まって、とても魅力的です。「第1部 煌めく金の世界」の3倍はパワーアップしたと思います。
2011年02月12日
●立体曼荼羅@東寺講堂

金沢文庫で開催中の「運慶展」は、運慶一門による東寺講堂立体曼荼羅の修復から始まります。その過程で、仏舎利が出現する奇跡が起こって運慶の名が上がり、平安密教の諸尊像はその後の運慶仏の手本となったとか。私は運慶=鎌倉時代という認識でいたので、平安時代の作例が手本という捉え方は意外であり、新鮮でした。
というわけで、東寺講堂立体曼荼羅を観に行きました。京都生まれの大阪育ちのくせに、東寺を訪れるのは実は今回が初めてです。かの有名な五重塔の軒先の下がったシルエットに、「技巧に走って本質を見失った」という先入観があってあまり好きでなかったのです。でも今回はそんなこと関係なし。
修学旅行生で賑わう境内を抜けて、講堂へ。菩薩、大日如来、明王。それぞれ5体の尊像で形成された3つの領域が並び、その左右を四天王と梵天、帝釈天が固めます。合計21体の仏像が並ぶ様は壮観です。中でも興味を惹くのが、X線撮影で頭部に仏舎利が確認されたという不動明王。そのお顔立ちはずいぶんと細部が失われているように見えますが、逆に運慶の時代からの生き証人(?)として説得力があります。まさにあの頭部に鑿を当てたところ、仏舎利が顕現したわけです。さらにその左手に少し離れて座する帝釈天。こちらは体内に古いお顔が埋め込まれているそうです。修理に際して、痛んだお顔を外して新しいお顔を制作する運慶一門の姿が思い浮かびます。言われて見れば、確かに愛知・滝山寺 帝釈天立像と似ているような。
これら諸尊像は、東京国立博物館で開催される「空海と密教美術」展(2011/7/20-9/25)に出展されるそうです。最新の照明設備で浮かび上がる立体曼荼羅!もう楽しみでなりません。
2011年02月11日
●酒井抱一生誕250年 琳派芸術@出光美術館、琳派の華@畠山記念館
今年は酒井抱一生誕250年。それを記念して、琳派の展覧会が続々と開催されます。大胆なデザイン性と華やかな装飾性を合わせ持つその美しさはとても魅力的。
琳派芸術 第1部 煌めく金の世界@出光美術館
1章 美麗の世界
「宗達」という伝説でなく、俵屋という工房に焦点を当てる構成。1人の天才が時代を創るという見せ方よりも、時代背景をきちんと捉えて、その集大成としての天才の活躍という見せ方の方が腑に落ちます。
2章 金屏風の世界
伝俵屋宗達「月に秋草図屏風」。静かな夜、月光が満ちて金色に輝く草原。水平線を用いずに奥行を演出する構成力にゾクゾクしました。
3章 光琳の絵画
光琳は2年半前の大琳派展のときと作品が重複しているので、今回は脇役に見えました。
4章 琳派の水墨画
伝俵屋宗達「龍虎図」。一転してゆるい画風。しかもドラえもん顔の虎。硬軟使い分ける宗達の才気が光りました。あれ、結局主役は宗達か。
第1部最終日直前に行ったので、けっこうな人出でしたが、それでもかなり満足できました。抱一がメインになる第2部も楽しみです。ポスターのカッコ良さは感動的。
生誕250年 酒井抱一 -琳派の華- (前期)@畠山記念館
酒井抱一「四季花木図屏風」。前景に四季の花、右奥に桜、左奥は余白。華やかな構図と彩り、地色を活かした桜の幹の描写に見蕩れました。
酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」。美しい花と鳥の取合せにウットリ。前期6点、後期6点の展示なので、後期も必見。
壁一面を抱一で固め、対面は琳派大家の顔見せ。間に工芸をはさむ、手堅い構成。抱一、萌え燃え展示でした。
2011年02月04日
●春への誘い プーシキン美術館展

この春期待の大型展「プーシキン美術館展」@横浜美術館。会期前にも関わらず、主催の朝日新聞社がすでに2回記事にしていることからも、その力の入りようがうかがえます。
その中でアピールされているのが、ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」を用いたピンクの駅貼りポスターです。1月1日-31日まで首都圏主要駅約100駅に掲出と書かれていたので、そのうち見かけるだろうと思っていたら、意外と見かけない。見かけないと逆に気になり、1月も後半になってわざわざ探しに行きました。
首都圏主要駅といえば、東京駅。京葉線ホームから地上(?)に上がって、中央線、東海道線と見てみるがない。やっぱりアピールするなら山手線か?と思って行ったら、ようやくありました。ポスターを記念撮影する変な人。

翌日、船橋駅で何気なく眺めていたら、再びポスター発見。ああ、ホントに首都圏約100駅に掲出してるんだなあ。と一人納得する、再び変な人。
プーシキン美術館展といえば、前回は2005年に上野の東京都美術館で開催されました。そのときのブログを読むと、けっこう充実した展示だったことが思い出されます。マティスの金魚は良かったなあ。今回もそれに負けない内容を期待してます!
2011年02月01日
●運慶 中世密教と鎌倉幕府@神奈川県立金沢文庫

神奈川県立金沢文庫で開催中の特別展「運慶 中世密教と鎌倉幕府」を観ました。見所はなんといっても、運慶仏大集合。
私は京都で生まれて大阪で育ったので、運慶といえば東大寺南大門の金剛力士立像。遠足や親戚の家に遊びに行く度に観ていたので、筋肉粒々で躍動感のある運慶仏が日本中にあるものだと思っていました。一昨年の興福寺での阿修羅凱旋展示の際に初めて北円堂の無著菩薩・世親菩薩立像を観て、その写実的で神々しい美しさに驚きました。運慶の真作(と確認されたモノ)が実はとても数少ないということは、ほんの数年前に知りました。というわけで、待ちに待っていた展覧会。
イントロダクションは、慶派による東寺講堂の立体曼荼羅の修復について。運慶=鎌倉文化というイメージだったので、その造形に平安密教が多大な影響を及ぼすという指摘は新鮮。
奈良・円成寺「国宝 大日如来坐像」。間近で観る、運慶最初期の大作。静かなポーズとモチモチした体躯が、平安から鎌倉への過渡期を思わせます。黒目の周りが朱で彩られているところまで、じっくりと観ました。
愛知・滝山寺「帝釈天立像」。名前はよく聞く、滝山寺の彩色運慶仏。彩色は後年のモノだそうですが、躍動感ある天衣の造形と相まって、往時の生気ある様を観られるのが嬉しい。華やかな世界だったのだなあ。
神奈川・浄楽寺「毘沙門天立像」「不動明王立像」。浄楽寺運慶仏5体のうち、阿弥陀三尊像は以前に鎌倉国宝館で観たと思います。今回は嬉しいことに、残り二体が揃ってお出まし。表情豊かなお顔立ちとぷっくりとした腕。ずいぶんと可愛らしい。
神奈川・称名寺光明院「大威徳明王像」。今回の展覧会のきっかけとなった、最晩期の作品。いつも大伸ばしした写真で観ていたので、その小ささに驚く。額の玉眼が生気を感じさせます。
最初期から晩年まで、コンパクトかつ充実した展覧会。必見の展示だと思います。

金沢文庫は称名寺の境内奥に位置します。トンネル一つくぐると、そこは野鳥たちの楽園。鴨たちが水辺で羽根を休め、水色の美しいカワセミが舞います。
2011年01月01日
●江~姫たちの戦国~@江戸東京博物館
江戸東京博物館で明日から開催される特別展「江~姫たちの戦国~」の内覧会を観ました。今年のNHK大河ドラマの主人公「江」の時代背景と人物関係を丁寧に解き明かしていきます。音声ガイドの語りは、ドラマで江の母・お市の方を演じる鈴木保奈美さん。愛娘を愛しむようにしっとりと語られますが、女性には敬称付、男性は敬称略な語りに、本作の視点を感じます。
【I 江の父母と叔父】
江は元亀4年(1573)に、50年にわたって北近江を統治した戦国大名浅井長政と、織田信長の妹・市の間に生まれた三人姉妹の末っ子。叔父である信長の手によって浅井氏は滅亡。その信長も本能寺の変で討死。さらに柴田勝家の元に再嫁した母・市は秀吉に攻められて夫とともに自害します。
まずは序章。「姉川合戦図屏風」、「屏風賤ヶ岳合戦図屏風」、「安土城伝米倉跡出土金箔鯱瓦」。戦国時代に名高い二つの合戦と安土城遺構の周りを、主要人物肖像画と文書で固めます。実物で観る教科書。
注:会場内の写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

【II 江の姉・茶々が嫁いだ豊臣家】
三人娘の長女は、かの有名な秀吉の側室、淀殿。
「聚楽第行幸図屏風」、「醍醐花見短冊」。豪華絢爛桃山文化の華といえば、この2点。信長、家康が大名の出なのに対して、秀吉は足軽の出。その負い目がバネになったのだろうか。下克上の王者が造らせた超バブル文化。その絶頂から滅亡までを、豊臣家縁の人物を紹介しながら辿ります。跡継ぎの誕生を機に、一族を根絶やしにされた「豊臣秀次・一族像」が強烈。

【III 江の姉・初と京極家】
三人娘の次女・初の嫁ぎ先は北近江の名門、京極家当主・高次。本能寺の変で明智方について失脚したり、関が原の合戦で落城寸前まで追い込まれたりするも、最後は若狭国小浜八万五千石の城主となる。その影には秀吉の側室となった高次の姉(妹?)・松の丸と、茶々の妹・初の働きかけがあったらしい。「京極高次像」の丸い顔立ちに、時代の読みがちょっと弱い良家の坊ちゃんというイメージが膨らみました。

【IV 江が嫁いだ徳川家】
そして江。二度の結婚の後、徳川家康の三男、秀忠に嫁ぎます。家康の手によって戦国時代に終止符が打たれ、徳川時代へ。長男家光は三代将軍となり、五女和子は後水尾天皇の中宮となって明正天皇を生みます。ドドーンと鎮座する「江戸図屏風」に、時代の勝者の貫禄が漂います。そんな江ですが、遺品が非常に少なく、展覧会冒頭に登場する二点(時期をずらして展示するので、観られるのは一点づつ)の書状しか残っていないそうです。

最後に登場するのが、本展の最大の見所、「崇源院宮殿(くうでん)」。真っ黒なブースに神々しく浮かび上がります。崇源院は江の死後、江に送られた諡号。宮殿(くうでん)とは、厨子の一種で、建物の屋根に類した構造を持つ形式や技法を以って制作されたモノを称するそうです。

複雑に入り組んだ人物相関展に相応しく、本作の由来もかなり複雑。将軍の後継ぎ争いに敗れた次男忠長が駿府に建立した崇源院霊廟内に安置され、享保年間以降に祐天寺に移されたモノ。さらに長い間徳川家康の宮殿と考えられていたのが、最近の修復に伴い崇源院の宮殿であることが確認されたそうです。加えて忠長は、本件が元で自害に追いやられます。
全面に施された装飾は保存状態も良好で見応えがあります。
三人姉妹ごとに章を割り振り、空白の江像を浮かび上がらせる見事な構成と、宮殿のビジュアル・インパクト。負ければ終わりの男のドラマの裏側で、政略結婚の駒として扱われながらも生き抜き、血を残す女のドラマ。とても良く出来た、歴史絵巻のテキストです。
2010年11月22日
●至高なる風景の輝き-バルビゾンからの贈りもの@府中市美術館

府中の森の桜並木、晩秋の景。その左に曲がると府中市美術館。
「至高なる風景の輝き-バルビゾンからの贈りもの」を観ました。江戸絵画を中心にその企画力は定評がありますが、今回は「府中市美術館開館十周年記念展」と銘打つだけあって見応え十二分。
第一章 ドラマチック・バルビゾン
イヌー,エルネストの野外写生道具一式(パラソル、イーゼル、椅子、絵の具箱)。パラソル軸の連結金具に長さを調節する工夫があったりして、とても実用的。ハードの支援があって初めて、自然と色彩の発見に満ちた日々が送れるのだと納得。
デュプレ,ジュル「山村風景」。小品ながら緻密な描き込みと茜射す光が美しい。
クールベ,ギュスターブ「雪の中を駆ける鹿」。雪原を駆ける躍動感と、その直後にある死。大気を切り裂くような緊迫感が素晴らしい。
ジャック,シャルル=エミール「森はずれの羊飼いの少女」。羊のフワフワさに魅了され、描こうとする思いが伝わってくる。
ミレー,ジャン=フランソワ「鵞鳥番の少女」。鵞鳥の鳴き声が画面から聞こえてくるような絵を描こうとしたという意図どおり。ガアガアガア。
ガシ,ジャン=バティスト=ジョルジュ「バルビゾンの平野に沈む夕日」。大きくうねりながら地平線へと消えてゆく道。その向うに並ぶ木立のシルエットと茜色の空。ドラマッチック・バルビゾン。
第二章 田園への祈り―バルビゾン派と日本風景画の胎動
舞台を日本に移して、第二幕。
高橋由一「墨水桜花輝耀の景」。写実という面のみで捉えがちな由一をここで出す構成の妙。浮世絵の時間軸と、バルビゾンの移入軸が見事に交差する。
高橋由一「芝浦夕陽」。鮭のリアリズムと対極をなす、叙情的な夕景。あっと驚くもう一つの由一。風景画としては手前の舟が画面2/3を占めるのはちょっと大きすぎるような気もしますが、構成としては文句なし。
本多錦吉郎「豊穣への道」。夕暮れを背に農夫のシルエットが浮かぶ。解説によると、この絵の寄贈が本展企画のきっかけとなったとか。確かに。
本多錦吉郎「景色」。画面の主役は大ケヤキ並木。バルビゾンの影響が色濃い構図であり、今も残る景色でもあり。
和田英作「波頭の夕暮」。これも夕景。渡し舟を待つ人たちの視線が右手に伸びる。その先にあるのは何だろう。誰かが帰ってくるのか?何かがやって来るのか?
第三章 人と風景―その光と彩りの輝き
人物に視点を移し、そしてまた風景へ。
第四章 バルビゾンからの贈りもの―光と彩りの結実
最後はフルキャストで大団円。
ルノワール,オーギュスト「森の小径」。淡く爽やかな森の木立の描写は、一服の清涼剤のよう。
高島野十郎「霧と煙のニューヨーク」。ロマンチックな世界から一変、灰色の世界が視界に広がる。えっ、ここで野十郎?しかも海外風景画!観られて嬉しいです。
冒頭でバルビゾン絵画の自然美を見せて、気が付けば舞台は日本、そして武蔵野へ。夕景をフックにすることで海外絵画の借り物感を払拭して、深くその世界に引き込まれました。屋外の晩秋の景とも上手くオーバーラップして、時、場所、テーマが見事に調和した展示でした。
2010年05月16日
●伊藤若冲 アナザーワールド@静岡県立美術館

静岡県立美術館で本日まで開催された「伊藤若冲 アナザーワールド」。初日に行くつもりが桜の誘惑に負け、二度目の予定は思わぬ急用に延期を余儀なくされ、三度目の正直で最終日に滑り込みました。
第一章 若冲前史
同時代の画家たちの作品から、若冲に似た表現をピックアップ。若冲絵画を異端児としてでなく、時代の流れの中から生まれたと位置づけます。
大岡春卜「墨花争奇」。濃墨、薄墨、ぼかしから細密まで多彩な表現が目をひく。巻頭を飾る鳳凰も印象深い。若冲の元ネタの一つだろう。
第二章 初期作品
若冲になる前の若冲絵画。その変遷を辿れるところが本展の魅力。
「花卉双鶏図」、「雪梅雄鶏図」、「隠元豆・玉蜀黍図」。平面を立体的に見せる薄墨表現、美しい彩色、細密表現は完成されているが、大胆なポーズとりやデフォルメがまだない彩色画。
「花鳥蔬菜図押絵貼屏風」。濃墨による力強い表現、薄墨による筋目書きといった実験が詰まった屏風。
第三章 着色画と水墨画
水墨画で培った表現を彩色画に取り入れ、その融合を以って若冲絵画の特徴となす。
「仙人掌群鶏図」。両者の融合到達点として登場!金地に躍動する鶏たちのかっこよさにしびれる。
「樹下鳥獣図屏風」、「果蔬涅槃図」。この二点を観るためにここまで来た!前者は痛みが目立つ。「白象群獸図」が若冲筆で、こちらは若冲監修かなあ。後者は仏教徒と八百屋という若冲の両面がユーモアタップリに描かれていて楽しい。
第四章 晩年-多様なる展開
「石峰図」。府中市美術館で心地よいサプライズを演出した、京博の隠し玉。久々に再会。ユーモアかつ大胆な筆捌きが冴える!
動植物綵絵に代表される美麗彩色画をメインストリーム、水墨画をアナザーワールドと位置付ける構成は明快、展示数も豊富。現代における若冲再生物語は、美麗細密彩色画から始まり、象鯨図屏風発見という大イベントを挟み、アナザーワールドを経て大団円を迎えた。
若冲関連エントリー:
皇室の名宝-日本美の華- 1期 (前編)@東京国立博物館平成館
若冲ワンダーランド(第1期)@MIHO MUSEUM
「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(前期)@府中市美術館
特別展「対決 ―巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
東京アートツアー 東博
四国の旅 その5 「金刀比羅宮 書院の美」
市民美術講座2007「伊藤若冲 -若冲とその時代-」@千葉市美術館
若冲とその時代@千葉市美術館
金刀比羅宮 書院の美@東京藝術大学大学美術館
若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その2
若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その1
動物絵画の100年@府中市美術館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第5期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第4期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第3期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第2期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第1期最終日@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第1期@三の丸尚蔵館
若冲と江戸絵画展 その2@東京国立博物館平成館
若冲と江戸絵画展 その1@東京国立博物館平成館
ニューヨーク・バーク・コレクション展
2010年05月09日
●没後400年 特別展覧会 長谷川等伯@京都国立博物館
京都国立博物館で開催された「没後400年 特別展覧会 長谷川等伯」を観ました。あの「特別展覧会 狩野永徳」から3年、待ちに待った桃山文化の祭典!展示自体は照明環境に優れた東京国立博物館平成館で鑑賞済み。今回は等伯の足跡と展示を重ねることで、立体的に楽しむ趣向です。

まずは等伯飛躍の舞台かつ利休との接点である、大徳寺三門へ。ここにあの天井画が!でも非公開かつ案内もありません。

特別公開中の真珠庵、玉林院。さらに新緑が目に沁みる高桐院へ。等伯が学んだ曾我蛇足をはじめとする襖絵を鑑賞、内部と庭園が連続する空間構成を体験しました。

さらに現代との接点として、現代版利休が登場する「へうげもの」@アートフェア京都を観て、京博へ。
第1章 能登の絵仏師・長谷川信春
等伯前史。細密な技巧と、敬虔な祈りの仏画。
第2章 転機のとき-上洛、等伯の誕生-
「三玄院襖絵 山水図」。相手の留守に上がりこんで描いたという荒っぽいエピソードと、見事な筆捌き。雌伏のときを経て、等伯デビュー。
第3章 等伯をめぐる人々-肖像画-
大徳寺三門天井絵再現展示。松林に囲まれた赤い金毛閣。その中に広がる仏画ワールド。観たい!体験したい!
「千利休像」。黒装束に身を包み、どっしりと構える眼差しが怖い。東博で観たときと凄みが全然違う。
第4章 桃山謳歌-金碧画-
「楓図壁貼付」。細かに書き込まれた草花が、永徳との争いの炎であり、製作に注ぎ込まれる膨大なエネルギーの放散に見える。智積院で観たときより遥かに精気が漲っている。
「弁慶昌俊相騎馬絵馬」。京都限定、等伯晩年の大作。衰えぬ意欲と技巧。
本来なら本展のクライマックスとなる章ですが、残念ながら点数が少ないです。焼けてしまったのか、もともと数が少ないのか。
第5章 信仰のあかし-本法寺と等伯-
「仏涅槃図」。大作。天井高が足りないのは東博と同じですが、下部を緩めに傾斜をつけることでかなり自然に見えます。そのスケール感から、後継者久蔵を失った悲しみと、仏への敬謙な祈りの深さが感じられる。
第6章 墨の魔術師-水墨画への傾倒-
真珠庵、高桐院をはじめ、大徳寺塔頭の襖絵が登場。実際の空間と襖絵を頭の中で合成すると、臨場感倍増。
第7章 松林図の世界
「松林図屏風」。真っ直ぐ伸ばしての展示が新鮮。障壁画(の下絵)として製作されたと予測する解説文に説得力あり。やっぱり下絵だよなあ。とすると喪失感溢れるとする見立ては、伝説化の産物か?はたまた本絵は存在するのだろうか?真相を霧の中に、終幕。
400年前の絵画と遺構を題材に、現代の価値観を反映、再構築した等伯一代記。かくして等伯は現代によみがえった!
2010年05月03日
●国宝燕子花図屏風@根津美術館
初夏の風が気持ち良いGWの中日、根津美術館で開催中の「国宝燕子花図屏風」を観ました。新・根津美術館開館から半年、満を持しての開催です。10分弱の待ち時間を経て入館、まずは庭園へ。水面に映りこむ新緑と青空、それをローアングルで捉える視点設定。都市の超一等地で観る絶景は、夢幻の如し。

弘仁亭の燕子花は満開。季節に祝福されるように館内へと戻ります。

第一展示室
冒頭は宗達工房が2双。華やかに「燕子花」以前の草花図屏風を解説します。
「四季草花図屏風」「伊年」印。金地に細密な草花描写、下地が透けるような着色。
「夏秋草図屏風」「伊年」印。流れるような草花のコンポジションが登場。
「色絵山寺図茶壺」野々村仁清。華麗なる立体絵画の美が、平面美の洪水に彩を添えます。
「桜下蹴鞠図屏風」。公家たちが優雅に蹴鞠を興じる右隻、主を待つ従者たちを活き活きと描写する左隻。斜めに垣根を挿入する場面転換、両手を突き上げるポーズ、大胆な画面構成。
「誰が袖図屏風」。様々な色彩、柄が並ぶ、呉服屋内観。その様はデザインの宝庫のよう。
そして真打ち登場!
「燕子花図屏風」尾形光琳。大胆に省略された金地に緑と青、LED照明に浮かび上がる花びらの書き分け。燕子花の咲く季節、金地に草花のコンポジション、大胆かつリズミカルな画面構成、そのセンスを育んだ生活環境。それら断片がピタリと像を結ぶ構成は圧巻。
その横に光琳屏風が2双。
「夏草図屏風」尾形光琳。リズミカルな配置が「燕子花図屏風」から連続する。描写は細密へと変奏する。
「白楽天図屏風」尾形光琳。大きく反る船形が、大胆さを旨とする光琳らしい。
第二展示室
光琳の周辺と継承者たち。
「夏秋渓流図屏風」鈴木其一。極端な単純化と細密描写の混交、金線で縁取られた波、スケール感の混乱。それらが生み出す独特の魅力に満ちた世界。それは同時に、近代デザインへの橋渡し。
圧倒的な美の洪水に浸る至福のひととき!かくして根津美術館が名実ともに新生しました。建築、庭園、作品が一体となった、素晴らしい再生劇でした。
参考:以前に本ブログに掲載したエントリー
「燕子花図と藤花図」2006/05/08。閉館前最後の展覧会の様子です。
「新・根津美術館」2009/10/07。根津美術館、新創開館の様子です。
2010年04月12日
●大遣唐使展@奈良国立博物館
吉野山を後にして奈良に移動、奈良国立博物館で開催中の「大遣唐使展」を観ました。

第一部 波濤を越えた日中交流
観音菩薩立像と聖観音菩薩立像。気品ある顔立ちに写実的なプロポーションと薄い着衣表現。美しいお腹周り。
井真成墓誌。その才を惜しむ文章が胸を打つ。
諸尊仏龕。空海が将来したと伝わる、超絶技巧の携帯仏。その小ささ、細工の細かさ、25体もの仏様が詰まった密度に目が釘付け!
吉備大臣入唐絵巻。本展の主役。遣唐使を足がかりに出世を極めた吉備真備を主人公に、帰国の夢を果たせず唐に骨を埋めた阿倍仲麻呂をサブキャラに据えた英雄譚。次々に降りかかる難題の対処法が意外と姑息で共感が湧く。第一巻と第四巻の公開。
照夜白図。驚きの墨絵。ぼかし画の上手さと保存状態の良さに目が釘付け。
三彩花文枕、三彩枕。遣唐使が命がけで将来した三彩の品々。その美しさのみならず、伝来の背景を知ることで作品に対する親しみが湧いた
真備、真成にスポットを当てる導入から、超絶技巧の携帯仏、吉備大臣入唐絵巻、驚きの照夜白図、命懸けで将来された三彩。息をつかせぬ怒涛の展示に見とれた。
第二部 国際都市長安と唐代宮廷文化
如来三尊像。左右菩薩の腰のくびれが、本展冒頭の観音菩薩立像を思い起こさせる。両者の共通点に大陸の最新モードを移入、吸収昇華する熱意を感じます。
十一面観音立像。気品ある顔立ちに、スラリとした直立姿勢に見蕩れた。思いがけず閉館30分前の鐘が鳴って慌てた。
第三部、第四部、第七部 ドキュメント遣唐使
第二会場に移って、遣唐使縁の品々を展観。駆け足鑑賞になったのがもったいなかった。
第五部。正倉院の時代 宝物の源流と奈良朝の工芸品
正倉院宝物は去年じっくりと観たので、今回は軽く流した。
第二展示室は駆け足で観たけれど、メインはやはり第一展示室。ドラマ性の高い展示がとても魅力的。意外と空いているので、じっくりと観られます!
2010年03月28日
●歴史を彩る 教科書に載る名品@藤田美術館
藤田美術館で開催中の「歴史を彩る 教科書に載る名品」を観ました。春秋の特別展のみを開催、展示室は蔵の中という異色の展示形態ながら、所蔵品は名品揃いの藤田美術館、初訪問。
展示は2階から。飛鳥から室町時代の名品を中心に並びます。
「法隆寺金堂天蓋付属飛天像」。間近で観られるのが嬉しい。「法隆寺金堂展」を思い出しながらじっくりと観た。
「柴門新月図」。室町時代の作とは思えない瑞々しい墨の描写に目が留まる。風になびく竹林は広重の庄野を思わせる。静かな画面に動きが感じられる。
「平家琵琶 銘 千寿」。演者が背負って諸国を廻ったという、少し小柄な琵琶。とはいえけっこう重そう。これをかき鳴らしながら、「諸行無常の響きあり」と語る様が目に浮かぶ。
「桜狩蒔絵硯箱」尾形光琳作。和歌と風景が一体化した画面構成はグラフィックデザインのよう。七色に輝く螺鈿の花が美しい。光悦の写し。
「曜変天目茶碗」。思ったよりもかなり小振り。その内側に、写真で何度も観た青と黒の宇宙が広がる。誰もいない島型展示ケースで独り占め鑑賞する至福のひととき。
1階は江戸時代の名品を中心に。
「色絵輪宝羯磨文香炉」野々村仁清。「銹絵絵替角皿(鶴・梅)」尾形乾山(尾形光琳 画)。当然のように並ぶ、仁清と乾山。光琳のゆるい筆遣いも冴えてます。
「蔦鴨図」円山応挙。波濤の上で姿勢転換する鴨の躍動感。写生の応挙の面目躍如!
「幽霊・髑髏仔犬・白蔵寸三幅対」長澤芦雪。応挙を写す幽霊、仔犬と髑髏が並ぶ不気味な右幅。画中に枠を描き込むだまし絵的な構成。技と型破りな芦雪らしさが楽しい。
「織耕図屏風 右隻」英一蝶。一際目を惹く大判屏風は英一蝶。稲作風景の細やかな描写。板橋美術館の英一蝶展に行けなかったのが悔やまれる。
「紫式部日記絵詞」。藤原道長ってどんな容姿だったのだろう。そのイメージの一端を担うのが、この絵詞中の描写とのこと。歴史を形作るパーツとしての美術品。何場面も展示されているので、絵巻としての美しさと物語性を堪能。
国宝、重文がズラリ並ぶ展示は濃密で、見応えタップリ。名品をじっくりと観る、至福のひとときです。
2010年03月08日
●修二会おたいまつ@東大寺二月堂

修二会@東大寺二月堂。
おたいまつ1時間前。すでに境内は身動きできないほどの人出。

19時消灯。しばらくして左手登り廊をおたいまつが登ってゆくのが見える。どよめく境内。

ドーン、ドーンという足音の後に、おたいまつが廊下を疾走!木造のお堂が燃えないかと心配するほどの大火力!大歓声!

降り注ぐ火の粉に、一年の無病息災を祈る。

欄干に据えたおたいまつが爆ぜる!充満する煙の匂い。大迫力の炎のイベントに大満足。終了時に拍手で沸いた。
2009年11月13日
●皇室の名宝-日本美の華- 2期@東京国立博物館平成館
上野の東京国立博物館平成館で開催中の「皇室の名宝-日本美の華- 2期」を観ました。正倉院宝物に春日権現験記絵が大公開!夜間開館の日を指折り数えて待っておりました。
1章 古の美-考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
聖徳太子像(法隆寺献納宝物)。教科書やお札で幾度となく目にしてきた、かの有名な聖徳太子像のオリジナル。奈良時代の画とは思えないほど鮮明で、歴史の中から抜け出してきたような錯覚を覚えます。衣服にわずかに残る緑青が、かつての鮮やかな色彩を思わせます。
漆胡瓶(正倉院宝物)。鳥の頭部のシルエットに細い取手、黒漆に銀板細文の表層が美しい。テープ状の木の薄板を巻き上げて作ったという造形が、温かみを感じます。ササン朝ペルシアで流行し、東アジアの技法で生産されたという背景もダイナミック。
螺鈿紫檀阮咸(正倉院宝物)。背面に施された螺鈿細工に目が釘付け。凝らされたディテールが怪獣のような密度を生む、二羽の鸚鵡。その口からこぼれだす宝綬が渦を巻き、画面を覆う。わずかに隆起する螺鈿が照明に照らされて七色に輝く。貝の白と、琥珀の下に透けて見える赤い色彩のコントラストが美しい。聖武天皇が演奏に興じる様が浮かぶようです。
平螺鈿背円鏡(正倉院宝物)。ヤコウガイの白に琥珀伏彩色の赤が美しい、花弁が渦巻く背面。その中に見え隠れする、小さな犀、鳥、獅子たちが愛らしい。動物たちを探してじっと見ていると、螺鈿の草原の中に迷い込みます。
赤漆文欟木御厨子(正倉院宝物)。天武、持統、文武、元正、聖武、考謙と代々の天皇に受け継がれ、数々の宝物を納めたと伝えられる厨子。赤く染色された欅の木目は今もしっかりとしていて、その来歴を重ねると文字通りタイムカプセル。
2章 古書と絵巻の競演
春日権現験記絵 巻第1・5・19。本展一番人気!読みやすい字と、マンガのように分かりやすい絵。平成の大修理を終えた三巻を、ドドーンと大公開。これは必見。ガラスケース最前列に張り付いて、通して見ました。大工仕事の細かな描写、雲に乗って飛び立つ様、雪化粧した山々の美しさ。そして合戦。継ぎ目なく画面を連続できる、絵巻物ならではの描写を堪能しました。
蒙古襲来絵詞。本展二番人気。かの有名な「てつはう」の炸裂シーンが広げてあって、テンションが上がります。驚く馬を静める竹崎季長、馬の腹から滴る血。日本の歴史物語で何度も読んだ場面です。生々しい合戦を誇らしげに描き、武士の時代を感じます。未曾有の国難を退けたものの恩賞に与える領土も宝物もなく、武士たちの不満が高まる結末は苦い。
正倉院宝物と絵巻物をじっくりと堪能できる至福のひとときでした。
2009年10月19日
●国宝 青不動御開帳@青蓮院門跡

「国宝 青不動御開帳」中の青蓮院門跡を拝観しました。
長屋門の両脇に聳える楠。その枝ぶりは、空を覆うが如し。

殿社内を歩き、革頂殿より「相阿弥の庭」を眺めます。龍心池を中心とする池泉回遊式庭園で、滝が流れ、萩が季節を写します。紅葉の頃はさぞかし。。。

小御所を経て本堂に至り、青不動のお前立像にお参りします。ミニチュアみたいで可愛い。
再度小御所を通って宸殿へ。紙片に願い事を記入して、いよいよ拝観。縦203.2cm、横148.5cmの大画面に、火焔を背負い、左右に童子を従え、憤怒の形相を浮かべた青い不動明王が鎮座します。保存状態は意外なほど良く、照明を当てているので画面も明るいです。特に火焔と火の鳥の見事さは眼福。暗闇の中でこの像に礼拝したら、その霊験に恐れおののくことでしょう。まさに平安時代の至宝。よくぞ現代まで護り伝えられてこられました。

龍心池を中心に庭園散策。

宸殿に向けて大きく枝を伸ばす楠。見事な庭園と楠を満喫しました。
2009年10月06日
●皇室の名宝-日本美の華- 1期 (後編)@東京国立博物館平成館
「皇室の名宝-日本美の華- 1期」のブロガープレビュー後編です。前編はこちら。
注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
第2章 近代の宮殿装飾と帝室技芸員

後半の華は工芸品。当代最高の技と素材で作り出される奇跡の業の数々は、瞬く間も惜しいほどの眼福。
川之邊一朝ほか「菊蒔絵螺鈿棚」。違い棚に施された、高蒔絵と螺鈿による菊花と小鳥紋様。細やかな花弁に螺鈿を施し、その輪郭は金で抜く。また反対に、輪郭のみを螺鈿で抜く。まさに超絶技巧。豪華な金地に、螺鈿がクルリクルリと七色の輝きを放つ様は、空から羽が舞い降りる様。こんなに美しいモノを見たことがありません。

並河靖之「七宝四季花鳥図花瓶」。漆黒の闇に浮かび上がる、桜のピンクと紅葉の青。その間を飛び交う小鳥たち。絞り込まれた照明が絶大な効果を発揮して、神々しいまでに美しい。

大連窯業株式会社「菊桐鳳凰文ガラス花瓶」。大きなクリスタル・ガラスに刻まれた菊桐鳳凰の祝賀図案は、その大きさと相まって貫禄十分。存在感と透明感が共存する不思議な世界。

海野勝珉「蘭陵王置物」越しに、川端玉堂「四時ノ名勝」を望む。工芸技術の精華と、四季の景の共演。あまりにも贅沢なひととき。

そして絵画に回帰。
鏑木清方「讃春」。皇居前広場で寛ぐ富裕層の女学生と、隅田川で船暮らしの母子の対比。そして両者に等しく春が訪れる。

上村松園「雪月花」。ふっくらとした顔立ちの松園美人が、散り行く桜の花びらを受け止め、観月を楽しみ、御簾を巻き上げて雪を眺めます。最後は女性らしい柔らかな感性で〆。
「皇室の名宝」の題名に相応しい、全編が見所の、異様に密度の濃い展示でした。しかも2期は全点展示替、正倉院宝物も登場して、更にヒートアップ!「平螺鈿背円鏡」の細工の美しさは、図録を見るだけで悶絶モノです。
最後にお題。「もし1点だけ持って帰れるならどれにするか? どこに飾りたいか?」。私の答えは「菊蒔絵螺鈿棚」、ベッドも机もダイニングに押し込んで、寝室に飾ります。家具でありながら空間を感じさせる「違い棚」が大好きです。超絶技巧の極みのような高蒔絵と螺鈿の競演にメロメロです。
今回のブロガープレビューの機会を与えてくださった関係者の方々に、厚く御礼申し上げます。
2009年10月05日
●皇室の名宝-日本美の華- 1期 (前編)@東京国立博物館平成館
上野の東京国立博物館平成館で明日から開催される「皇室の名宝-日本美の華- 1期」のブロガープレビューに参加しました。
宮内庁所蔵の名宝を展示する施設「三の丸尚蔵館」は、展示作品の質は文句なしですが、狭いのが玉に瑕。行く度に、「皇室の名宝が一堂に会する展覧会が観たい!」という願いは募るばかり。まさかその願いが叶うときが来るとは!しかもブロガープレビューという鑑賞機会に恵まれて!もう狂喜乱舞です。
注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
第1章 近世絵画の名品

入口入った突き当たりにドーン!と構えるのは、狩野永徳・狩野常信「唐獅子図屏風」。「我こそは永徳、絢爛豪華、安土桃山文化の頂点に立つものなり」といわんばかりに、金地の雲と大地を雄雄しく歩む二頭の若獅子。その左手に、軽やかに飛び跳ねる子獅子。最強の絵師とその曾孫、桃山狩野と江戸狩野の競演は、オープニングを飾るに相応しい貫禄と奥行。

右側に視線を移すと、伝狩野永徳「四季草花図屏風」、伝狩野永徳「源氏物語図屏風」が並んで華を添えます。旧桂宮家伝来の、永徳周辺で制作された屏風。豪快な金地の雲と大地の画面の中に、四季の花と宮廷の雅。

左手に折れると、伊藤若冲「旭日鳳凰図」!岩山に佇む二羽の鳳凰。一羽は朝日に向かい大きく羽を広げています。ハートマークがフリフリする尾羽がキュート。モクモクとした雲、三角定規のような波。画面全体からオーラが放散されるよう。

そして振り返ると、伊藤若冲「動植綵絵」が広がります!広々とした空間と充実した照明に浮かび上がる全30幅揃いの畢生の大作は、もう一生ものの感動。精緻極まる細密描写と色彩に目が釘付け。尚蔵館で見たときとは、全くの段違いの迫力です。展示空間に全く力負けしないどころか、オーラを発散しているようにすら見えます。

一点一点観ていくと時間がいくらあっても足りませんが、それでも目が離せない密度と美しさ。そして全点揃うことで形成される空間の美しさ。それは仏に捧げる祈りのようです。これを観ずして若冲は語れない。

次室は江戸絵画の巨匠たち。円山応挙「旭日猛虎図」。揃えた前脚とすぼめた肩、クリクリッとした目が凶悪なまでに可愛い。思わずねこバス!と叫びそうになります。

酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」。金地に輪郭のない花鳥。十二ヶ月折々の取り合わせ。詩を観るような至福のひととき。
振り返ると岩佐又兵衛「小栗判官絵巻」。超絶精緻に描きこまれた画面、豊頬長頤な独特の顔立ち。食い入るように見入ってしまいます。

そして最後は葛飾北斎「西瓜図」。西瓜の上に薄紙を載せ、包丁を置くその描写力!長々と剥いた皮を吊るす縦長の構図。第一章のトリを飾るに相応しい、清々とした画面。
これで半分。第2章に続きます。
2009年09月27日
●若冲ワンダーランド(第1期)@MIHO MUSEUM

MIHO MUSEUMで開催中の「若冲ワンダーランド(第1期)」を観ました。千葉に住む身にとって、滋賀の山奥はあまりに遠い。でも観たいものは観たいと一念発起、始発ののぞみに飛び乗り、友人に最寄り駅から車で拾ってもらうという幸運に恵まれて、開館前に無事到着。山はホンノリ紅葉に染まり始めています。この時点で40-50人ほどの方々が開館を待っていました。

そして開館!柔らかな日差しに満ちる桃源郷を、一路北館へ。待ちに待った対面のとき。
第1章 プロフィール
若冲唯一の書簡の写真パネルを冒頭に配し、若冲像を巡る文献が並びます。かの有名な「平安人物志」(京都府立総合資料館)もあり、文字による若冲像に親しみが湧きます。素麺好きだったんだ!
第2章 版画
「乗興舟」京都国立博物館。淀川下りの眺めを、黒地に白の大胆な画面で描く。版画は一場面しか展示されていないものの、全編を写真パネルで展示してあるのが親切。版木(個人蔵)が数年間、濡れ縁の下張りに使われたというエピソードにビックリ。
「玄圃搖華」個人蔵。物販コーナーのコットンバッグはこの絵柄。迷わず購入しました。
「花鳥版画」平木浮世絵美術館。オレンジの色味が美しい。欲しいー!
3章 動植綵絵への道 法度(ルール)の中に新意を出す
「紫陽花白鶏図」個人蔵。お馴染みの、レースのように細密な羽の描写。ところがどっこい、その質感は油絵のように立体的。図録では全く再現されないので、観るしかない。
「月夜白梅図」個人蔵。月夜の如く黒いブースに絞り込んだ照明、浮かび上がる白梅。神秘的な世界観は、空間演出に優れたここならでは。
「旭日松鶴図」摘水軒記念文化振興財団。千葉県柏市の旧家、寺島家が所蔵する名品。作品収集で力尽きて、今は千葉市美術館に寄託されております。箱作って下さい!
4章 若冲ワンダーランド ユーモアとリアリティのカクテル
「出山釈迦図」個人蔵。同じ構図で墨画と絹本着色が並びます。筋目書きが冴えるモノクロ画のほうが好きです。
「蛙図」個人蔵。大きくへの字に口を閉じた表情がユーモアたっぷり。左右から覗く目もチャーミング。
「雨竜図」個人蔵。身体を大きく旋回させ画面から大きくはみ出す構図が大胆。そして口をクワッと開く!コミカルな表情がたまりません。筋目書きのウロコ表現も細かい。
「蟹・牡丹図衝立」個人蔵。墨の濃淡で、蟹の甲羅の硬さが伝わってくる。裏面は風に吹かれる牡丹。あんな大柄な花を、なぜわざわざ歪めるのか?チャレンジャーな絵。
「菊図」個人蔵。ぼかし表現による菊の花の表現が見事。黒く鋭角で力強い線は川?シュールな画面構成は、名画「菊花流水図」へとつながる。
5章 若冲をめぐる人々
「売茶翁像」個人蔵。顔だけリアルに描き、衣服は墨の勢いある省略画法。さすがの若冲も尊敬する翁の顔だけはユーモアで包めなかったのか?
6章 象と鯨図屏風
「象と鯨図屏風」MIHO MUSEUM。まさかの新発見、初公開!海と陸の巨大哺乳類が対面する大胆な構図、六曲一双の大画面、そしてパオーンと鼻を振り上げる白象と潮を吹く鯨というユーモア溢れる描写。もうたまりません!修復の成果か状態も良好。対面できて本当に嬉しい。象の耳がちょっと浮いてる気もしつつ、今後の研究に期待します。
7章 ワンダーランドの共住者たち
「老松図屏風」与謝蕪村(個人蔵)。77年ぶりに公開という金地に墨で描かれた松。今回は右隻のみ。2期が左隻でしょう。じらします。
「富士三保図屏風」円山応挙(千葉市美術館)。千葉市美術館が誇る、応挙の大作。照明が良いので、とても映えます。
8章 面白い物好き
最後は盛大に、壁一面に石峰寺の五百羅漢を写します。若冲晩年の世界観に包まれてフィナーレ。
展示数は多くないものの、見応えは十分。これまで知らなかった新しい若冲ワールドが広がります。「皇室の名宝展」の「動植綵絵」と合わせてみれば、空前絶後のスーパー若冲ワールドが完成します。必見!

さよならMIHO MUSEUM、また来る日まで。

レセプション棟のレストランで遅いお昼。無農薬栽培の野菜が美味しい!
2009年09月17日
●平常展@東京国立博物館本館
平成館で二つの企画展を観たあと、本館の平常展へ。

「四天王立像 広目天」浄瑠璃寺。何よりこの像が観たかった。九体阿弥陀堂唯一の遺構として知られる浄瑠璃寺に伝わる四天王像の一体。火焔を背負い、右下を見下ろす迫力ある顔立ち。平安時代後期を代表する美しい造形。

そして彩色の保存状態がとても良いのが見所。裾にぶら下げた鈴、緑と赤の彩色に金の縁取り。もう、うっとり。

仁清の大壷。空間に平面絵画を描きこむ迫力に見蕩れる。

龍の螺鈿細工。色とりどりの螺鈿を細かく貼り込んだ細工が美しい。

伝雪舟の花鳥画。えっ、雪舟の花鳥画?伝がつけば何でもありな気がする。じっくりと観た。

メカフグ。これで黒船撃退は難しかろう。。。
表慶館アジアギャラリーを駆け足で見て、東博漬けの一日を終了。混んでて見難かった企画展よりも、落ち着いて観られる常設展の方が圧倒的に良かった。
2009年09月15日
●染付 藍が彩るアジアの器@東京都国立博物館平成館
東京都国立博物館平成館で開催された特別展「染付 藍が彩るアジアの器」を観ました。会期終了前日に滑り込み。染付という技法を主題に、14世紀から江戸時代までの時間軸を縦糸に、中国・朝鮮・日本・ベトナムの場所軸を横糸にとって磁器を通観する展示です。
8 伊万里と鍋島の染付
「染付兔形皿」伊万里。小皿面に、大胆にクローズアップした兔の図案。その面分割に合わせて起伏をつけ、細やかな体毛まで再現した技術の極み。美しい。
「染付鳳凰牡丹唐草文扇形蓋物」伊万里。扇子をモチーフにした外形、大きく盛り上がる上面。豪華で優美な造形と装飾。さすが、サントリー美術館の所蔵品!
「青磁染付水車図大皿」鍋島。大好きな水車紋!大胆に水平分割された画面、画面ごとに切り替わる色彩。さらに大きな水車がランダムに配されて、画面に大きく変化を与える。それらが静寂さが漂う画面に凍結されたように並ぶ。
「染付蓮鷺文三足皿」鍋島。淡いトーンの背景、岩場に佇む三者三様の鷺。薄くむらなく塗る「濃染め」という技法だそうです。
11 伊万里染付大皿-平野耕輔コレクション-
「染付網目文大皿」伊万里。白地に網目文の、シンプルで爽やかな図案。刺身を盛ったら美味しそー。
「染付蜃気楼図稜花大皿」伊万里。蜃気楼とは、大蛤が吐き出す気から生まれる世界。その図案を、白磁ベースに染付の夢描写で描き出す。現実と夢幻が逆転しそうな錯覚を覚える。
12 染付の美を活かす
染付のある生活風景の再現展示。涼やかで見た目も美しい食卓に、食も進みそう。
2009年09月13日
●トリノ・エジプト展@東京都美術館
夏休みといえば、古代へのロマン!「シカン展」の次は、東京都美術館で開催中の「トリノ・エジプト展」を観ました。前者が「未知への誘い」ならば、後者は「約束された感動」です。
館内は物凄い人で、小品の展示は5-6層の人垣。とても観るという感じではありません。久々に体験する、「大型展に湧く都美」です。大物展示だけに絞って、人ごみの中を掻き分けて進みました。
第2章 彫像ギャラリー
というわけで、ここが本展のハイライト。
ライオン頭のセメクト女神立像。柔らかな体の線、ピッタリと持つ杖がキュート、頭には曲線が美しいライオン像。その可愛らしさとはうらはらに、恐ろしい火を吐く女神を抱いた、王の威厳を示す像らしい。でもニャーンって鳴きそう。
イビの石製人型棺の蓋。
両手で大剣をしっかりと握り締めた、本展のキービジュアル。顔の造形も威厳と人間味が感じられます。全身を覆う象形文字も装飾のようで美しい。実は財宝を管理する役人の棺と知ってビックリ。王でも貴族でもなく、役人。往時の栄華と技術の高さに驚くばかりです。
アメン神とツタンカーメン王の像。歴史上から抹消された悲劇の青年王、ツタンカーメン。その左には、彼が唯一神として信仰したアメン神。王なるファラオを小さく、その信仰の対象を大きく作る造形からも、王の敬虔な姿勢が伺えます。日本人好みのサイドストーリーと、美しい砂岩造形が合わさった二重奏が美しいです。彼の名を刻んだ銘が書き換えられているというエピソードも、悲劇性を高めます。
第3章 祈りの軌跡
死者の書。パピルスに描かれた死後の世界。それは、母なるナイルへの復活の道。
永遠の願い「不老不死」。死後の復活を願って、続々と作られるミイラ。内臓を取り出し、別保存として来世での復活に備える。オシリス神信仰と復活を絡めた展示と解説が、とても腑に落ちます。死後の復活を願う儀式と品々が、今も強く心惹かれます。
2009年09月12日
●特別展「黄金の都シカン」@国立科学博物館
上野の国立科学博物館で開催中の特別展「黄金の都シカン」を観ました。今回はこちらの告知で知った「一日ブログ記者」に応募して鑑賞しました。「取材(鑑賞)日は自由に設定可!会場内撮影OK!特典多数!」のとてもありがたい企画です。
題材は科学博物館お得意の「南米ペルー文明の遺産」。今回は「インカ」、「ナスカ」といったメジャーどころに比べると知名度が低い「シカン」を取り上げます。日本人の研究者が30年かけて発掘調査を続け、その全貌を解き明かしてきたという解説と、夏休みの季節特有の探究心の高まりがあわさって、古代へのロマンが掻き立てられます。
注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
プロローグ 考古学の世界へようこそ!
考古学の先達の紹介から、本展の主役の1人である島田教授の紹介。そして最後に発掘道具と発掘品の綿密なスケッチ。壁面には大量の発掘現場写真パネル。この地道な努力の積み重ねが、土に埋もれた古代文明を蘇らせる。ようこそ、シカンの世界へ!

ロロ神殿を中心とする発掘現場周辺の模型。往時のピラミッド(透明プラスチックで造形された部分)は朽ち果てつつも、何度もの調査(小さな紙片が置かれた窪み部分)の繰り返しと、その出土品の解析を経て、失われた文明が姿を現します。何台もの液晶モニターから映像が流れ、立体的にその過程が再現されています。

第1部 シカンを掘る!考古学者の挑戦
そして本編。修復を施した出土品による、「黄金文明の遺産」。本展のキービジュアルに用いられている「シカン黄金大仮面」がドーンと登場します。「月の宮殿」を意味する「シカン」に因んで、黒地に白い三日月をモチーフにした展示スペースもスマート。女性埋葬者も登場して、シカン文明を巡る謎解きが続きます。

第2部 シカン文化の世界とインカ帝国の源流
大物出土品のデモンストレーションの次は、「宗教、交易、卓越した技術、人々の生活、環境条件、社会構造」の6つの側面から、文化を読み解いてゆきます。赤い布地を背景に煌く黄金が、とても魅惑的です。その美しさに魅せられ、自ずからその文明について、もっと知りたい!という欲求が湧いてきます。

刺繍の出土品。キャラの可愛さになんとも惹かれます。たとえ往時とは意味合いが全く違うとしても、現代の文脈で魅力を持つことは素晴らしいことだと思います。

「黄金の御輿」。階層構造の頂点に立つであろう人物に相応しい、豪華で精緻な造形。

「魅力的な黄金文明の遺産」+「日本人研究者の研究の軌跡」という二本立ての構成は、親近感と古代への憧れが重なって、とても魅力的です。また、「一日記者」という企画も展示を観る視点が変わって面白いです。このような機会を設けて下さった関係者の方々に深く感謝いたします。
2009年07月04日
●写楽 幻の肉筆画@江戸東京博物館
江戸東京博物館で開催中の「日本・ギリシャ修好110周年記念特別展 写楽 幻の肉筆画 ギリシャに眠る日本美術~マノスコレクションより」を観ました。去年話題になった「写楽の肉筆画、ギリシャで発見!」の報で脚光を浴びた「マノスコレクション」が早くも日本登場です。
第一章 日本絵画
狩野山楽「牧馬図屏風」。牧に放たれ、駆ける馬、跳ねる馬、水を飲む馬。その数、およそ80頭。山楽基準作である奉納絵馬との比較から作者が特定されたそうで、馬の姿が本当に良く似てます。過去の例を写しながら画面を構成するという描き方が実感できます。
狩野克信・興信「狩野探幽筆 野馬図屏風模本」。画面の端に江戸城本丸御殿に飾られた屏風を写したとメモ書きがある点がポイント。また、写すことで過去の事例を学んだ例でもあります。狩を奨励した江戸幕府の好みが現れている?
周幽斎夏龍「見立て琴高仙人図」。水墨画の鯉に乗る、美しい彩色を施した着物を着た美人。その描画法のコントラスト、鯉に乗るという非現実的な行為が目を惹きます。
第二章 初期版画
鳥居清忠「初代市川門之助」。手に持つ笠と着物の裾にまぶされた黄銅粉がキラキラと輝いて綺麗。保存状態良好。
第三章 中期版画
鈴木春信「唐子と布袋」。あの立派なお腹の布袋様が、浴槽に身をかがめて、唐子に水をかけてもらう。両足に挟まれたお腹の肉、耳をふさぐ仕草がユニーク。
鈴木春重(司馬江漢)「碁」。極端な遠近法で描かれた建物、盤の角に座して向かい合う二人。意欲的な奥行描写が江漢らしい。角柱だけで2階を支える描写は、建物が空を飛ぶよう。
喜多川歌麿「歌撰恋之部 深く忍恋」。紫の色彩も鮮やかに、大首絵の傑作が登場!大首絵の始祖、歌麿の面目躍如!
喜多川歌麿「風流六玉川」。大首絵を禁じられ、模索を繰り返す晩年の大作。6枚続きの大画面が色鮮やかに蘇る。
東洲斎写楽「四代目松本幸四郎の加古川本蔵と松本米三郎の小浪」。絶頂期の歌麿のお株を奪うように登場した東洲斎写楽。その「幻の肉筆画」。あの迫力ある役者大首絵と対照的な細い輪郭線は、わずか10ヶ月で忽然と姿を消したミステリーの後日談のよう。
第四章 摺物・版画
葛飾北斎「四姓ノ内 源 小烏丸の一腰」。画面中央に大きく烏、脚にしっかりと太刀を掴む。趣向を凝らした摺物の中でも一際目を引く、大胆でカッコイイ構図。さすが北斎!
歌川国芳「汐干五番内 其三、四、五」。襟元や着物の描線に銀を載せ、キラキラ輝く様がゴージャスで美しい。
第五章 後期版画
歌川豊国「両国花火之図 三まへつゝき」。花火を観ようと橋に押し寄せる人々を、緻密にギッシリと描く。空に咲く火の花の描き方も斬新。喧騒が伝わってきそう。
歌川豊国「新吉原桜之景色 五枚つゞき」。大門内の桜並木と、その周りを行き交う人々の華やかな景色。歌麿没後5、6年。吉原は相変わらずの大賑わい。
葛飾北斎「百物語 五枚揃」。図柄が有名な百物語の五枚揃い。「さらやしき」や「お岩さん」は良く見るけれども、五枚揃いで見ることは多分初めて。今見ても面白いと思う意匠ながら、百物語と銘打ちながらわずか五作で打ち切り。商売の道は厳しい。。。
江戸絵画を幅広く揃える内容は見応え十分です。その一方で、看板の写楽は今一つ。ここ数年、超絶に保存状態の良い浮世絵コレクションの公開が相次いだこともあり、新鮮味を出す大変さを感じます。
●奇想の王国 だまし絵展@Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「奇想の王国 だまし絵展」を観ました。初日から凄い人出との報に二の足を踏んでいましたが、覚悟を決めて訪問。
トロンプルイユの伝統
ヤーコプ・マーレル「花瓶の花」。精緻な静物画を覗き込むと、花瓶に映り込む景色。さらに男性の顔が見えてくる。んー、これは画家本人なのか?まんまとだまされた。
アドリアーン・ファン・オスターデ「水彩画の上に置かれた透明な紙」。3枚重ねた紙の描写は絶品。台紙の形状が特異な点にだまされる。描画技術としてはマイベスト。
ヨハン・ゲオルク・ヒンツ「珍品奇物の棚」。「だまし絵」というのは技法であり、「目的=コンセプト」とは言えないのではとひっかかっていました。この絵を見て、コンセプトの一つは「お宝自慢」とピンと来る。ひょっとして、「だまし絵展」というタイトル自体にだまされた?タマネギの皮を剥くように、何層にも奥がある構成にひきこまれます。
コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ「食器棚」。ギッシリと情報を詰め込んだ、偽りの扉。タイトルにだまされる。
サミュエル・ファン・ホーフストラーテン「トロンプルイユ-静物(状差し)」。べっこうの櫛が美しい。
アメリカン・トロンプルイユ
ジョン・ハバリー「石盤-覚え書き」。画中に枠を描き込む手法は、本物の額縁と二重になってしまって自ずとネタバレでは?という私的な疑問に答える一品。石版を嵌めた枠まで描いて、枠なしで展示。
イメージ詐術(トリック)の古典
ジュゼッペ・アルチンボルド「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」。赤いホッペの王様。じっと見ていると気持ち悪くなる。
日本のだまし絵
河鍋暁斎「閻魔と地獄太夫図」。達者な筆裁き。「だます」というより「見立て」の面白さ。
浮世絵は面白いけれども、既観のモノばかりで驚きはなかった。
20世紀の巨匠たち -マグリット・ダリ・エッシャー-
ルネ・マグリット「白紙委任状」。図と地の関係で二つの世界が重なる空間だまし絵。重なっていても交わらない、ねじれた世界。
ルネ・マグリット「望遠鏡」。開かれた空に貼り付けた青空。窓の向こうに広がるのは闇。偽りの爽快感が何とも印象に残ります。
ピエール・ロワ「田舎の一日」。箱庭の中の田園風景と邸宅。巨大なワイングラスとアスパラ(?)。タイトルと視覚イメージがなんとなく一致して何でだろうと印象に残った。
多様なイリュージョン -現代美術におけるイメージの策謀-
アニッシュ・カプーア「虚空 No.3」。名古屋市美で見たので、再会。目の前にあるのに見通すことが出来ない漆黒の奥行。カプーアの黒はやはり面白い。
杉本博司「ウィリアム・シェイクスピア」。蝋人形に命を吹き込む杉本マジック!
パトリック・ヒューズ「水の都」。こちらの動きに追従して絵が動く!?本当にビックリした。横から見ると種が分かるけれども、絵の前に立つとまただまされる。虚実の境をさまよって面白い。
「だまし絵」をキーワードに古今東西の作品を集めた、バラエティ豊かな展覧会です。観れば観るほど面白くなり、その深さは底なし沼のようです。観る楽しみを満喫しました。ありがとう、Bunkamura!おめでとう、20周年!
2009年06月06日
●日本の美と出会う-琳派・若冲・数寄の心-@日本橋高島屋
日本橋高島屋8階ホールにて開催中の「日本の美と出会う-琳派・若冲・数寄の心-」を観ました。細見美術館の名品をズラリと60点、18時以降の入館で入館料半額(400円)という驚きの内容と価格設定。ワンフロアにコンパクトに展示されるので、動線が短く観やすいです。さらに夜20時まで開館という嬉しい配慮。夜間は空いていて見やすいです。
第1章「琳派の花づくし」
典雅なる京琳派
渡辺始興「白象図屏風」。養源院の杉戸絵!と思ったけれども、宗達でなく始興。太い輪郭線と皺表現が木彫りのようで印象に残る。
尾形乾山「銹絵牡丹唐草文向付」。最近乾山好きです。カッチリとした形と、単色彩色。これに料理を盛り付けたら美味しそう。
中村芳中「月に萩鹿図」。薄墨で描かれた鹿が印象的。色彩や墨のぼかし方は琳派、コミカルな丸目と素朴なフォルムはヘタウマ系。独特の芳中ワールド。
神坂雪佳「四季草花図屏風」。踊るような流麗なフォームと豊かな色彩。観られることに特化した美の極み。
江戸琳派の洗練
酒井抱一「桜に小禽図」。筆捌きが冴える、桜の幹と枝のかすれ具合、写実的で美しい桜の花と葉。チョコンと枝にのる小鳥の青。華麗なる抱一の世界。琳派を歴史に刻んだ功労者。本展のマイベスト。
酒井抱一「白蓮図」。透けるような白色の花弁。ガラス細工のように美しい。
鈴木其一「雪中竹梅小禽図」。サラーッと流れ落ちる雪。クローズアップした画面に其一の視線を感じる。
鈴木守一「雛・牡丹・菊図」。チョコンとした雛人形が可愛い。
第2章「若冲・北斎と江戸絵画の世界」
若冲と自然へのまなざし
伊藤若冲「糸瓜群虫図」。たぶん初見。奇想というよりも、万物に愛情を注ぐ敬虔な仏教徒としての視線を感じる。
伊藤若冲「花鳥図押絵貼屏風」。力強い描線が素晴らしい。表情豊かな鳥たちは観察の賜物か。鶏だけでなく、鴛鴦、カラスもいて楽しい。
京と江戸の遊楽
葛飾北斎「夜鷹図」。後姿が凛とした美人。上手い。
第3章「数寄の美とかざり」
黒織部が良かった。
展示室に流れていたビデオで、館長さんが初代の古美術収集に関して「打率三割」と評しているのが正直だなあと思いました。当たったときだけを取り上げて、伝説化していくのが常だと思います。伝若冲は外れの代表として展示されているのだろうか。平安時代に憧れた初代、江戸絵画等「優しい絵」を収集した先代とコレクションの形成に触れていたのも親切。細見コレクションへの親しみが深まりました。
2009年05月23日
●ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち@国立新美術館
国立新美術館で開催中の「ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち」を観ました。
第2章 子どもの日常生活
《台車にのったハリネズミ》。背中の細かい四角の切れ込みがイカの切り身みたい。台車にのった白いハリネズミが超ラブリー。
《関節が動く人形》。腕が回る単純なギミックと、ヘレニズムという時間の合わせが歴史の奥行きを感じさせる。やたらに男前な女の子?もう一体は頭に蛇をのせていて、八部衆みたい。
第3章 死をめぐって
《少女のミイラと棺》。生前の姿を写し、神に祝福される様子で装飾する棺。そして網に包まれた小柄なミイラ。若さと死の取り合わせが痛ましい。
第4章 子どもの肖像と家族の生活
《夫婦と子どもの像》。杏仁形の目に微笑む口元。仲良く寄り添う二人。無印の広告みたい。その間にとっても小さな、でもプロポーションは大人な子供。
ルイ・ル・ナン《幸福な家族》。農民に粉して凛々しくポーズをとる貴族一家?コスプレブームだったのだろうか。
ジョシュア・レノルズ《マスター・ヘア》。女のコに粉して育てられる上流階級の男のコ。とても愛らしい。
アントワーヌ・コワズヴォ《9歳のルイ15世の胸像》。ライオンのように逆立つ髪型、凛々しい小顔の美青年。なんと9歳!
ペーテル・パウル・ルーベンス《少女の顔》。上手い。どこかで観た。
第6章 キリスト教美術の中の子ども
《聖母子の小像》。象牙に細い線刻。アダムとエヴァの生まれ変わりという解説を読んで、新しいエヴァシリーズの結末もそんな感じかもと思った。
フランソワ・ブーシェ《幼子イエスを抱えて座る聖母》。大人びた子供ばかりな中で、子供っぽい愛らしさに癒される。
第7章 空想の子ども
ペーテル・パウル・ルーベンス《レベックを弾く小天使》。上手ーい!欲しーい!
フランソワ・ブーシェ《アモールの標的》。キューピッドといえば、マークと矢!マークのお皿の真ん中を射ぬく矢と、月桂冠を両手に掲げて「大当り」のジェスチャーをする天使。ベタベタだけれども、そこが狙いの本展にピッタリなフィナーレ。
普遍的な「こどもたち」というテーマに沿って、古代と中世(特にオランダ)を軽やかに行き来する時空跳躍は、美の宝庫「ルーブル」アーカイブならではの楽しみ。
2009年05月04日
●「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(後期B)@府中市美術館
桜の陽気が過ぎて、爽やかな初夏へと移るこの頃。府中市美術館で開催中の「山水に遊ぶ-江戸絵画の250年」(後期B)展を観ました。前回の観覧券半券持参で、入場料半額!図録も完売だそうです。前期の感想はこちら。
『山水に暮らす』
「自然とともにある」
作者不詳「農耕図屏風」。金色の雲と大地、濃紺の水流、ボリュームのある山々。琳派?と思わせる構図と派手さで描かれた農村風景。後期
鈴木其一「魚楽図」。エメラルドグリーンと青で彩られた岩と松、畳のようなパターンの水面。こちらは正真正銘琳派の系譜。上手い。後期
明堂宗宣「居初邸天然図亭真景図」。琵琶湖を借景にした庭園。小島が浮かぶ琵琶湖の様が新鮮。後期
「神の国のすがた」
小泉斐「男山伝説図」。今回もこの絵が目にとまる。やっぱり龍の山登りは面白い。全期間
岸駒「芙蓉峰図」。雲海よりのぞく富士の山姿。かっこいい。全期間
『絵をつくること』
「中世の残像」
狩野栄信「雪月花図」。霧に霞む雪月花。人物や建物にピンポイントに施された着彩が効果的。後期B
「実景と絵すがた」
狩野栄信・養信「富士山江の島図」。画面手前から伸びる砂の道、舟、江の島。遥か彼方に富士山。奥行の出し方が面白い。後期のみ
平井顕斎「白糸瀑布真景図」。相変わらずインパクトのある構図。奇想な感じが大好き。全期間
『奇のかたち』
曾我蕭白「比叡山図」。5ヶ月ぶりの再会。会場が変わって、見栄えも格段に良し。山のモコモコした感じを描く独特のタッチ、ふもとに立ち込める霧のぼかし。圧倒的な描画技術。後期
曾我蕭白「月夜山水図屏風」。真打ち登場!黄昏時の山水に、細やかな花、家の中のカーテンといった小物がアクセントを添える。緻密に描かれた山々と、省略の効いたモダニズムのような家々が絡み合う画面は、圧倒的な蕭白ワールド。特に左隻中央の、山に包まれるように建物が建つ描写は、自然と建築がとろけるように一体化していて必見。大きな画面に良好な保存状態、なぜこれが国宝でないのかが不思議に思える。後期
東東洋「夏冬山水図」。画面を大きく占める雪山、小さくのぞく建物。大胆な構図と画面に漂う詩情が「蒲原夜之雪」を思わせる。
『ロマンティシズムの風景』
「物語る山水」
住吉弘定「四季之段図」。山野を俯瞰する構図に散りばめられた、梅、山桜、藤、躑躅、山吹、柳、萩、紅葉。遠景にには田植えの景。ロマンティックに四季を綴る。後期
「憧憬」
池大雅「西湖勝覧図屏風」。ボリュームの取り方と淡い色彩がセザンヌっぽい?全期間
鈴木芙蓉「鼈背蓬莱図」。亀の背に乗る切り立った山。下端の水辺に眼光鋭い亀の横顔。険しい山の山頂近くに鶴が佇むステージ。縦長の画面を活かして、異なる様相を一つの画面に納めた構図が面白い。後期
谷文晁「秋渓対話図」。聳える山の緑と、そのふもとの木のピンクの対比が美しい。滝の上に建つ建物は、江戸版「落水荘」だねえ。
長澤蘆雪「赤壁図」。流れるように上へと伸び上がる岩の描写!視線も一気に上へと向かい、岩間の月を仰ぎ見る。動きを感じさせない水辺、緻密な船上の人物描写と対照的。本来の静動が逆転した演出に魅了され、蘆雪のしてやったりな表情が思い浮かぶ。後期
長澤蘆雪「蓬莱山図」。三角形の浜、右下に奇岩、その上を亀の一行が歩く。奥には鶴の編隊が舞い、仙人が乗る。白砂と海の緻密さ、奥の岩山の墨ぼかし、松並木のやっつけ具合。緩急つきすぎなタッチも含めて、画面全体でダイナミックな世界観を構築する。勢いをそのまま画面に定着させる技量は抜きん出て凄い。後期
前半は若冲が抜けてトーンダウンした感じがありましたが、後半に進むに従ってヒートアップ。結局二時間近く観ていました。「風景画」を切り口に、江戸時代の多彩な感性を現代の目で見返す試みは大成功だと思います。
2009年04月06日
●特別展「平泉~みちのくの浄土~」展@世田谷美術館
世田谷美術館で開催中の特別展「平泉~みちのくの浄土~」展を観ました。花見客で大賑わいの遊歩道と砧公園を抜けて、みちのく参りへ。
プロローグ 浄土空間・平泉
「金色堂内陣巻柱 復元模造」。黒漆塗りに螺鈿、金蒔絵、金銅装。荘厳の限りを尽くした極楽浄土が思い浮かぶ。
「螺鈿平塵案(経蔵堂内具) 復元模造」。細長く優美な鷺脚が美しい。
黄金浄土へようこそ。
第1章 みちのくの古代・みちのくの仏たち
「四天王立像のうち持国天立像、広目天立像」。首を肩にうずめ上半身が小さく、下半身がボリューム豊かなプロポーション。下から見上げることを意識しているのだろうか。
「伝吉祥天立像」。柔和な表情。浮き上がる木目が美しい。
「聖観音菩薩立像」。美しい鉈彫りのリズム。「神でもあり、仏でもある」という解説に古代を感じる。もう一体出ている聖観音菩薩様はスラリとしたプロポーションに赤い唇が印象的。
個性豊かな仏さまが大集合。
第2章 仏都平泉~みちのくの中央・朝日差し夕日輝く~
前九年の役、後三年の役を経て、奥州藤原氏の支配が確立。生き残った初代清衡が「この世の浄土」建設を夢見て中尊寺を建立。続く二代基衡が毛越寺、三代秀衡が無量光院を次々と建立。
発掘品が主で、考古学展のおもむき。「伝安倍貞任着用金銅前立」も出品されて、一筋縄ではいかない歴史の裏表を感じる。
第3章 輝きの浄土~中尊寺の至宝
「金光明最勝王経金字宝塔曼茶羅図」<第4幀><第9幀>。字で宝塔を描いたお経。美しい。
第4章 祈りとまつり
中尊寺や毛越寺で行われる宗教行事、能等の紹介。
奥州藤原氏三代の栄華を物語る品々が並ぶのかと思ったら、ちょっと違いました。みちのくの仏さまたちが圧倒的に魅力的。
2009年04月03日
●興福寺創建1300年記念「国宝 阿修羅展」@東京国立博物館
上野の東京国立博物館で先日から始まった興福寺創建1300年記念「国宝 阿修羅展」を観ました。混雑必至の展示なので、金曜日の夜間開館を利用。花見客で賑わう公園を突っ切り、一目散に平成館を目指しました。
第1章 興福寺創建と中金堂鎮壇具
待ち時間なしで入館。館内は意外と空いているというか、ガラスケースの前に一重の人垣。小品が並ぶので、二列目では見えないところもあり。その場合は少し止まって、一列目の切れ目を待ちます。玉を下からライトアップしている展示が綺麗。
第2章 国宝 阿修羅とその世界
「阿弥陀三尊像及び厨子(伝橘夫人念持仏)」。ここから本編。素晴らしい照明セッティングで、虚空に浮かび上がる三尊像の美しさに息を呑む。細い支柱で支えられた像の浮遊感を、神々しいまでの静溢さで満たします。
「華原磬」。獅子の背に生える幹(?)に絡みあいながら銅鑼を包む四頭の龍。メリハリの効いた造形。
そして八部衆、十大弟子像が並ぶ大部屋へ。国宝館で何度も観ましたが、揃って観るのは初めてです。右に十大弟子、左に八部衆が並ぶので、見比べる楽しさもあります。禁欲的な造形の十大弟子に対して、八部衆はかぶり物や鳥顔など造形的に賑やかです。美男ばかりが並ぶわけではなく、そこらへんにいる大人子供に衣装を着せて、ポーズをつけたような親しみやすさを感じます。適度なデフォルメが効いてます。
「沙羯羅立像」。頭に蛇を巻く、幼な顔の像。老若揃ってます。
「乾闥婆立像」。目を細めてちょっと照れる感じがリアル。
「畢婆迦羅立像」。髭面のおっちゃん。こんな人いるよねー。獅子の被り物をしているけれども、後頭部は髪が造形されている。
「鳩槃荼立像」。目がとび出て、口が大きい。くちびる厚し。
「迦楼羅立像」。異形の鳥人。でも、他の八部衆と馴染んで見える。敵を取り込んで味方に転じるのはヒーローモノの王道だよね。
そして阿修羅の部屋へ。毎度お馴染み、スロープで上がって降りて、ぐるりと回る動線。
「阿修羅像」。本展最大の見所、360度阿修羅鑑賞。素晴らしいライディングに浮かび上がる、三面六臂の天平の美青年は本当に美しい。六本の腕が虚空に舞う独特の空間性は必見。二つの異なる顔がシルエットで浮かび上がる後姿も美しい。ここのみ3重の人垣。それでも観るのが困難なほどではなし。
第3章 中金堂再建と仏像
人間的な八部衆、十大弟子像と打って変わって、肉付きが良い仏様がズラリと並ぶ。ベルトを締めるお腹がちょっときつそう。躍動感を感じさせるポーズと衣装表現は、慶派仏師の面目躍如。巨大像が見下ろす様は、庇護というより威嚇に近い。
第4章 バーチャルリアリティ映像「よみがえる興福寺中金堂」「阿修羅像」
前半は今回の出開帳の目的であろう「中金堂」の再現映像。周辺の地形、建物まで再現して、鳥の視点で鳥瞰する映像が面白い。観光バスまで作ってある。往時の再現でなく、現代に蘇る「中金堂」なわけですね。そして堂内へ。データ量の関係か、堂内はガランドウでの表示。さっき見た仏様が光り輝くシーンも観たかった。再び鳥瞰視点に戻って、中門と回廊を再現。中庭化された空間構成が明確になって、「公園」から「境内」へと雰囲気が一変した。ここまで再建できると良いのに。
後半は阿修羅像の映像。映像技術のデモのようで、すごいけれども面白くない。実物の神々しさを観たあとにこの映像は不要では?
個人的に本展の見所は二つ。「阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)」と「阿修羅像」です。素晴らしいライティングに浮かび上がる神々しい世界は必見。360度阿修羅は観るのに時間がかかりますので、余裕を持って出かけることをお勧めします。
2009年03月22日
●薩摩焼~パリと篤姫を魅了した伝統の美~@江戸東京博物館
江戸東京博物館で本日まで開催中の「薩摩焼~パリと篤姫を魅了した伝統の美」を観ました。終了日前日に駆け込み。土曜日の夜は19:30まで開館という配慮が嬉しいです。
プロローグ
薩摩焼といいながら、なぜかセーブル焼がドーンと登場して戸惑う。解説パネルに拠ると、日仏交流を記念して2007年にフランスで「薩摩焼パリ伝統美展」が開催され、本展はその出品作を中心に紹介とのこと。
第1章 豪華絢爛な薩摩焼<世界に雄飛>
「色絵牡丹籬図花瓶」。花瓶の円筒形下部を籬(まがき)で覆い、その中に牡丹や梅を生けるように描く。豪華絢爛な色絵の美しさと、形態を活かした意匠配置が相まって非常に華やか。個人的に本展イチオシ。
「色絵龍文唐子三脚香炉」。唐子三人が香炉をかつぎ、その上で一人の唐子が踊る。脚と持ち手を唐子に置き換えた装飾性の高い作品。唐子衣装の細やかな龍文は溜め息が出るほどに精緻。
「色絵金彩象形香炉」。こちらは象の上に唐子がゾロゾロ。
「富士・藤・孔雀図大花瓶」。その名の通り、三面に富士山、藤花、孔雀を描いた大花瓶。残念ながら展示で観られるのは孔雀面のみで、あとの二面は小さな写真で紹介。他の面も見たかった。
悦を尽くした細工の数々は、観る時間がいくらあっても足りないほど。
第2章 茶道具の薩摩<重厚な味の茶道具>
厚塗り釉薬の豪快さが印象的。
第3章 「白薩摩」と「黒薩摩」<殿様と庶民のやきもの>
白い素地に細かな「貫入」が入る、ガラス質表面の柔らかな美しさ!
「天璋院御用 薩摩 磯御庭焼 錦手獅子香炉」。きめ細かな貫入とクリーム色の地色が奏でる、柔らかで清楚な味わい。脚の獅子顔、取っ手の白獅子も愛らしい。
「天璋院御用 薩摩 磯御庭焼 錦手狗」。ガラス質の肌を持つ、可愛らしい子犬。
「天璋院御用 錦手秋草文竹形文鎮 磯御庭焼」。竹形に秋草文を施した、美しい実用品。
天璋院御用品の清楚な美しさにウットリしたその横に並ぶのは、島津斉彬の手による和歌、絵画、陶器。その多種多芸さにビックリ。
第4章、エピローグを経て、現代の薩摩焼の展示へと続きます。
出品作の質の高さは素晴らしく、見応え十分です。個人的には第1章の豪著な薩摩焼が見られて満足です。その一方で、「フランスとの交流」、「篤姫」、「過去と現在」とテーマが盛り沢山なのは、構成が不明瞭になってむしろマイナスでは?
2009年03月21日
●「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(前期)@府中市美術館
府中市美術館で昨日から始まった「山水に遊ぶ-江戸絵画の250年」(前期)展を観ました。好評を博した「動物絵画の100年 1751-1850」から2年。定評ある企画力に加えて充実したイベントプログラム、展覧会チケット半券持参で二回目は半額というリピーターへの配慮。府中市美術館が放つ江戸絵画ワンダーランド!今回のテーマは「山水に遊ぶ」。江戸絵画に描かれた風景を、様々な角度から捉えます。
『山水に暮らす』
「自然とともにある」
熊谷直彦「騰竜隠雲之図」。強風に吹き上げられて宙に舞う傘、壊れ藁葺屋根端部の壊れた細片。前期のみ
伊藤若冲「石灯籠図屏風」。本展の目玉があっさりと登場。小鳥にかじられたような石灯籠。PCマウスのような葉をつけ、水流のような幹の木々。若冲の視点は楽しい。前期のみ
「神の国のすがた」
小泉斐「男山伝説図」。机に伏してうたた寝する男が見る夢。海から山へと竜がのぼる構図が独特。全期間
『絵をつくること』
「中世の残像」
狩野山雪「富士三保松原図屏風」。思いがけず山雪!雪舟に手本をとる、型を継承する美。前期のみ
原在中「富士三保松原図」。きれいな青いトーンが印象的。前期のみ
野崎真一「富士・三保松原図」。アイスクリーム・サンデーのような、白地に青がかかった富士山。前期のみ
「実景と絵すがた」
高久靄厓「袋田滝真景図」。心に映る真なる景色を描く。淡い色彩と変化に富む水流が美しい。前期のみ
平井顕斎「白糸瀑布真景図」。瀑布の上に富士山が載るような構図が面白い。全期間
『奇のかたち』
曾我蕭白「山水図押絵貼屏風」。ため息が出るほど上手い。切り立つ山、雲海に霞む山姿、荒れ狂う強風、穏やかな夕陽と夜景、幽玄な雪景。モノトーンで季節変化を描き分ける描写力は超絶。前期のみ
曾我蕭白「松鶴山水図」。波、岩、松の見事な描写、その奥に霞む山々。巧みな線の使い分けは、線のダンスのよう。前期のみ。本展の真打ちともいえる「月夜山水図屏風」「比叡山図」を後期に残しつつも、圧倒的な画力をみせつける蕭白!
鈴木芙蓉「那智瀑泉真景図」。水流が霧となり、光の粒子と化して山々に溶け込む。
小野田直武「岩に牡丹図」。超巨大な牡丹が岩山に刺さる。超常な絵。全期間
墨江武禅「月下山水図」。月光に浮かび上がる、凍える山水図。氷細工のような美しい描画。前期のみ
『ロマンティシズムの風景』
「物語る山水」
山本探川「宇津の山図屏風」。画面を埋め尽くす緑の山、上部に紺地に金の波線の海、山間を縫う金色の道。大胆な構成美。前期のみ
「体感する自然、見霽かす心地」
池大雅「山水図屏風」。中央の奇妙な木々がなんとも個性的。前期のみ
「憧憬」
伊藤若冲「石峰寺図」。最後を飾るのは、若冲の風景画+人物画(?)!全く予想外のサプライズに、テンション上がりまくり。丸みを帯びた仁王門を潜ると、そこは仏様ワンダーランド。水面に浮かぶ島々で教えを説く仏様とそれを囲む修行者たち。水面を獅子に乗って渡る一行、亀に乗って移動する人もいる。直線的で鋭角に折れ曲がる橋もインパクトある造形。本当に若冲!?ということも含めて、必見の一枚!前期のみ
とにかく見て楽しい展示です。蕭白と若冲を観るだけでも行く価値は十分にあります。建替中の京博常設展から美味しいところを選り抜いて持って来たような前期、それらがゴッソリ入れ替わる後期。後期はさらにA、Bに分かれているので、最低前期後期で2回、できれば後期A、Bをカバーして3回訪れたい展示です。図録も素晴らしい出来で、迷わず買いな一冊です。
2009年02月25日
●国宝 三井寺展@サントリー美術館
サントリー美術館で開催中の「国宝 三井寺展」を観ました。天台寺門宗総本山園城寺「三井寺」の秘仏を一挙大公開。4期に分かれる会期の2期目になんとか滑り込み。
秘仏開扉
本展のキーワード「秘仏開扉」。展示品は一ヶ所にまとまっているわけでなく、章立てに合わせて分散配置。作品リストと観る順序がバラバラなのが玉に瑕。
智証大師坐像(御骨大師)。生前の智証大師の姿を写し、お骨を収めたと伝わる像。中興の祖としての存在感と、密教の妖しさを感じます。
智証大師坐像(中尊大師)。髭剃り後の青い部分まで再現。
不動明王像(黄不動尊)。4本の指で大地をしっかりと掴み、左手にロープ、右手に剣を掲げる。牙のある口元、ガラスの入った眼、精悍な顔つきと美しい彩色。
新羅明神坐像。横長垂目の赤地眼、三角に尖った冠、ヒョロヒョロの指。目の端から耳へと続く横顔のラインが美しい。明らかに他の仏像と異なる造形の異国の神。
如意輪観音菩薩坐像。左手で頬杖をつき、右手を台座に置いて寛ぐ。その一方で宝珠、蓮花、車輪型宝具など色々と手に持ち、頭に巨大な冠を戴せて慌しい。会場の都合か小さなガラスケースに納められ、ケース越しに対面の観覧者の方たちの顔が視界に入る。やれやれなんとも慌しいことよと呟きが聞こえそう。
第一章 智証大師円珍、第二章 円珍ゆかりの仏たち
三井寺中興の祖「円珍」の足跡を、数多くのエピソードとその伝世物で辿る。オールアバウト「円珍」。
第三章 不死鳥の寺の歴史と遺宝
尊勝曼荼羅図。画面中央の金の満月が綺麗。下部の三日月と三角形が幾何学的なインパクトを与える。
十一面観音菩薩立像。一木造、四頭身。背を丸め右足を休める姿勢。安定感あるプロポーションに巨大な冠を載せ、長い手で世界を救うぞという意思を感じる。
千手観音菩薩立像。五頭身のずんぐりプロポーション、一本の木から削り出したという安定感。一本で25の世界を救うという手が40本で千手。
獅子。胸を張って立つ凛々しい姿勢、美しい彩色。小さいながら密度の高い造形。
阿弥陀如来立像。柔らかな造形と7-8頭身のプロポーションが美しい。繊細で変化に富む彫り。
騎獅文珠菩薩懸仏。四角い獅子が可愛い。
それにしても、争乱の多いお寺という印象。
第四章 信仰の広がり
熊野垂迹曼荼羅図。赤い花弁に人物を描く、緻密な八様蓮華型曼荼羅。
第五章 勧学院障壁画と狩野光信
三階に下りて、吹抜けから障壁画の展示が始まる。天井が高いので、障壁画本来の水平に視線が延びる空間性が狂う。
南禅寺本坊大方丈障壁画 梅に錦鶏図。画面中央に迫り出す梅の枝が生命感。
出品作の質は高く、作品を収める器も綺麗。その一方で、会場の印象は仏様のバックステージツアーのよう。
2009年02月08日
●唐津・鍋島・柿右衛門 九州古陶磁の精華 田中丸コレクションのすべて@茨城県陶芸美術館

茨城県陶芸美術館で開催中の「唐津・鍋島・柿右衛門 九州古陶磁の精華 田中丸コレクションのすべて」を観ました。九州の主要な窯の名品を体系的に網羅した、屈指のコレクション。会場となる陶芸美術館は、「伝統工芸と新しい造形美術」を テーマとする笠間芸術の森公園内の小高い岡の上に建ち、明るく快適です。
唐津
一楽・二萩・三唐津と称される唐津。
冒頭に「絵唐津木賊(とくさ)紋茶碗」。美しい淡い黄土色の色味、簡素な絵紋、口部に少し金。横に東山魁夷、バーナード・リーチらがこの茶碗を描いた色紙が飾られていて、この茶碗が多くの人たちに愛されていることが分かります。
「絵唐津菖蒲文茶碗」。縦に切り立つシンプルな形状、細かいひび割れのような表面に菖蒲の絵付け。
「古唐津茶碗 銘 船越」。釉調と釉際の白い線が、滑らかに山並を描くようで美しい。
「斑唐津丸壺茶入」。藁灰釉をたっぷりかけた、艶やかな白。御饅頭のような愛らしさ。
「朝鮮唐津手付水差 共蓋」。大きくガッチリとした取っ手、へらで大胆な造形。
「絵唐津草花文筒向付 五口」。円筒形の胴に、上部口縁部は少し開いた四角形でとても薄い造形。黒塗り胴に草花文。とても可愛らしく美しい。
「絵唐津草文ぐい呑」。茶に草文、上部を少し絞った形。小さくて可愛い。
「斑唐津小片口」。上部を斜めに切る造形。ホワイトチョコレートのような白。
高取
「掛分半筒茶碗(白旗山窯)」。鉄釉と藁灰釉を片身替りに掛けた独特の質感。薄い口縁部と合わせて、竹の様でもあり、漆の様でもある。
「耳付四方水指 銘 若葉雨(白旗山窯)」。四角く切り立つ重量感ある造形に、小さな耳。藁灰釉に銅呈色の緑釉が、若葉萌える季節の驟雨を思わせる。
「管耳撫四方水指(白旗山窯)」。四角く口縁の薄い造形はバスケットのよう。複雑な釉薬の掛け方といい、美しい趣味の世界。
「白鷺盃洗(東皿山窯)」。外開きの口縁に白鷺が留まる。片脚を内側に伸ばし、白釉の山岳に足先を乗せる。口縁の二箇所を内側にクルクルと巻き込み、耳とする。
上野(あげの)
「茶碗 銘 小倉焼」。ふっくらとしたチョコレートのような小碗。
「割山椒形向付 五口」。碗成りの鉢の三方を大きく谷形に欠き込んだ、大胆な造形。山椒の実が爆ぜた様を写す。
薩摩
「染付松竹梅茶碗」。腰を穏やかに膨らませた造形、白に黄土色かかった艶やかな地に松竹梅を描く美しい器。
「色絵梅樹文角徳利」。豆腐のような平形に、小さな注ぎ口。梅樹の色絵が美しい。
「色絵官女銚子」。銚子を手に持つ官女の形をした銚子。その洒落っ気のある造形といい、後頭部が外れて水を注ぐ作りといい、とても凝った細工。
現川
「刷毛地枝垂桜文四方向付 五口」。浅碗の上縁部を四角、内側に渦巻く白刷毛目地。胴回りに枝垂桜。絵も上手。
伊万里
「色絵婦女図壷」。白地に線描で三人の寛文美女を描く。舞踏、読書、花売。壁画みたい。
「色絵紫陽花牡丹文八角壷 共蓋」。紫陽花がコンペイトウの詰め合わせみたい。
「色絵松梅桜樹形盃台」。太い幹に、松の葉と梅桜の花が台状に広がる。その中央に、外が赤く、内が白い盃を置く。小さく異様に密度の高い細工は驚異的。
鍋島
「色絵蕎麦花畑文皿(尺皿)」。青地に蕎麦の白い花、緑の葉、赤線の幹が2列水平に伸びる。風景を連想させる皿。
「青磁染付錆地桜花幔幕文皿(七寸皿)」。錆地のアズキ色、薄緑、青のグラフィカルな三色塗り分け面に、青い桜花を重ねる。
「色絵毘沙門亀甲文皿(七寸皿)」。青、赤、黄の亀甲文がズレながら重なり合う様が美しい。グラフィックデザインのよう。
「青磁染付水車文皿(七寸皿)」。水車を大胆に図案化。太陽を思わせる二重円。
「色絵紅葉文猪口 五口」。モコモコした六角形断面筒に、色とりどりの紅葉を散らす。
柿右衛門
「色絵栗鼠葡萄文角向付 五口」。上広がりの縁が異様に薄い造形。胴部に葡萄の蔓を描き、色とりどりの栗鼠が駆ける。端正で可愛らしい器。
「色絵象置物」。少しおどけて振り返る白象。背に花鳥画を背負う。
「色絵藤花文燭台」。三脚の付け根に豚鼻の獅子頭、その口から脚が伸びる。胴の藤花文。強烈なインパクト。
長与
「三彩皿」。青、緑、黄の透明感あるグランデーション。
「三彩猪口 七口」。内側の緑、外側の三彩の美しいグランデーション。
平戸
「色絵竹林八仙花入」。竹林の七賢+童子。みんなお爺さんで、童子が分からない。
「白磁鯱置物 一対」。口の中の舌と珠まできっちりと造形、白釉を施す。とても細やかな細工。
手の込んだ一品物を数多く揃える、珠玉のコレクション。その名品の数々と、バランスよく九州各地の窯を網羅する内容は、見応え充分です。笠間芸術の森という立地にも恵まれて、人の入りも上々。春の行楽にお薦めの展示です。
2009年01月31日
●特別展「妙心寺」(前期)@東京国立博物館

上野の東京国立博物館平成館で開催中の特別展「妙心寺」を観ました。
第2章:妙心寺の開創-花園法皇の帰依-
「花園法皇坐像」。数珠を握る左手に躍動感。不敵な容貌は獰猛な肉食動物を思わせる。
「山水楼閣人物図螺鈿引戸」。美しい螺鈿細工。
第4章:禅の空間1-唐絵と中世水墨画-
「菊唐草文玳瑁螺鈿合子」。金銀オレンジの色彩豊富で細やかな細工。
「瀟湘八景図」狩野元信筆。一枚目、迫り出す山とその中腹にある山村。二枚目、深山の奥の寺院と川の流れ。三枚目、モコモコした山と水辺の人物。四枚目、吹雪く雪山。どれも上手い。4枚しか出てませんが、あと4枚あるのでしょうか?
「梵鐘」。飛鳥時代の名鐘。とはいえ鐘。ゴーン。
第6章:妙心寺と大檀越-繁栄の礎-
「快川紹喜像」。龍、菊紋、牡丹(?)等の豊かな色彩と微細な紋で埋め尽くされた衣装。「「心頭滅却すれば火も自ずから涼し」と辞世の句を残して入寂」という解説を読んでビックリ。僧というより戦国武将のようなエピソード。
「豊臣棄丸坐像」、「小型武具」、「玩具船」。頭ちっちゃい坐像、赤ちゃん用武具に豪華なオモチャ。秀吉の愛情と落胆が伝わる品々。
「福島正則像」曾我蕭白筆。眼をギロリと見開き、口をへの字に結ぶ。こんな絵を描いてモデルの機嫌を損ねたりしないのだろうか。
「細川昭元婦人像」。面長の美人。赤白水平ストライプ+金地に草花+白帯の衣装が綺麗。
「春日局坐像」。白顔に窪んだ眼窩、凛とした姿勢。怖い。
「瑠璃天蓋」。白、緑、黄のコントラスト。照明が効果的。
第7章:近世の禅風-白隠登場-
「雲居希膺墨蹟 法語」。踊る墨蹟、水清月現心浄佛現。読み易い!
「自画像」白隠慧鶴筆。大きく開いた眼にM字口。
「大吽一声」して世を去ったというエピソード。
「達磨像」。逆S字の大胆さ。
「鼠師槌子図」。可愛い。赤ら顔の鍾馗(?)、笑っちゃうほど頭の長い老人、鼠がウロウロ、天女も舞う。可愛く楽しい。
「白隠慧鶴墨蹟 寿字円頓章」。
「寿」曼荼羅。「寿」の軍団が押し寄せる分かり易さ。
「白隠慧鶴墨蹟 偈」。常念観世音菩薩のながーい常の縦線。
第8章:禅の空間2-近世障屏画のかがやき-
「四季花鳥図 霊雲院方丈障壁画のうち」狩野元信筆。羽を広げ尾羽を捻る小鳥、首を折り畳む鶴。ユニークな描画。
「楼閣人物螺鈿座屏」伊勢屋直七作。波の円弧状細線、岩の細長ストライプパターンなど、職人芸の極みのような微小細工。人物は分割せずに大面のまま螺鈿貼付して対比させる。
「枯木猿候図」長谷川等伯筆。枝、蔓の線描、猿のフサフサ体毛。
「龍虎図屏風」狩野山楽筆。大胆な斜め線と同心円の空、雲の合間から頭を出す龍の大きな眼、うねる幹。右斜め上を見上げる虎、縞模様に細筆で描かれた毛並。風が吹き荒れ雷鳴轟く豪壮かつ雄大な描画は、永徳の後継者の面目躍如!
「老梅図襖 旧天祥院障壁画」狩野山雪筆。巨樹が天を衝き、地を這い、画面狭しとのたうち回る。伝統という基盤をぶち抜くが如く突き出る木々、枝々。
驚くべき禅師の行動力、厚い帰依、江戸絵画の奇才の腕の冴え。そして素朴画のチャンピオン、白隠。ただの寺宝公開に留まらない、幅の広さと面白さ!前半を飛ばし気味に観ても、軽く2時間はかかります。

東博本館で「異端(踏絵)」小林古径筆、「形見の直垂(虫干図)」川村清雄筆を駆け足で観てお昼へ。

レストラン ラコールでお昼。ラコール風 牛鍋セット。熱々の鍋に、甘いシロップのかかったカステラが美味しかったです。
2009年01月24日
●日本の春 -華やぎと侘び-@畠山記念館
畠山記念館で開催中の平成二十一年冬季展「日本の春 -華やぎと侘び-」を観ました。チラシに紹介されている「銹絵富士山香炉」(野々村仁清作)の写真に「何だこれは?」と興味が湧き、楽しみにしていました。
畳展示スペースに展示されている「銹絵富士山香炉」(野々村仁清作)が本展の見所の一つ。富士山の容姿(?)を再現しようとした朝・昼・暮の三態が並びます。その巨大ハマグリのようなユニークな形態と、意外と大きなサイズに目が釘付け。山の後ろに三つ穴があり、そこから煙が立ち昇るさまはどんな感じでしょうか。また中身は一つしかないので、時間の経過と共に上物を取り替えるでしょう。なんとも好奇心をかきたてる香炉です。その背後に掛けられた「山水図」伝夏珪筆も、大き目の紙面に力強い筆致で描かれており、素晴らしい存在感。
そしてもう一つの見所が「赤楽茶碗 銘 雪峯」本阿弥光悦作。赤地に白釉をなだらかにかけた色彩、割れ目に金粉を流し込んだ意匠は見事の一言。割れ目は梅の枝のようにも見えて、偶然か作為か知る由もありませんが、稀代の名プロデューサーの成せる業と見惚れるばかり。
「銹絵染付笹紋茶碗」尾形乾山作など、他にも見所目白押しです。決して広くはありませんが、見所がキュッと詰まった密度の高い展示です。次回展は「開館四十五周年記念 畠山コレクション名品展」だそうで、こちらも今から楽しみです。
2009年01月19日
●珠玉のヨーロッパ油彩絵画展@静岡アートギャラリー

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その9。
名古屋で一泊して、名古屋駅地下の三省堂CAFEで朝食。美味しいコーヒー、駅地下という利便性、購入検討の書籍も持込可というサービス。夢のように便利なお店。東京にも是非!
帰路、静岡アートギャラリーで開催中の「珠玉のヨーロッパ油彩画展―バロック美術から十九世紀へ― 」を観ました。バロックから19世紀までのヨーロッパ絵画をカバーする個人コレクション「長坂コレクション」の巡回展です。
本展の特徴は大きく分けて二つ。一つ目は「伝統的な絵画手法によって描かれた正統派のヨーロッパ絵画」を、宗教画、世俗画、肖像画、風景画、風俗画に分けて紹介するところ。二つ目はルーベンスなどの巨匠周辺や美術アカデミーで技法を学び、それぞれの国の伝統を継承した画家たちの手による作品を集めているところ。その上で「今日のようにいつでも名画を鑑賞できる美術館や展覧会がなかった時代にあって、一般の人々が身近なところで楽しみ、生きる楽しみや喜びを感じたのは、時代を代表する巨匠たちの作品よりむしろその周辺で活動した作家たちの作品でした」と解説文は結びます。当時の売れ線作品を集めることで、当時の人々の視線、価値観が浮かび上がる展示は、なかなか見せます。章分けも明快で分かり易いです。A3用紙二つ折り、全8ページに及ぶ解説シートも親切。ただ照明が悪く、絵に光の反射や影が落ちるのはマイナス。
1 宗教画
ヘンドリック・ヴァン・バレン「紅海をわたるモーセ」。金の亡者を大きく、モーセを背景に描く。さらに奥に死せるエジプト軍。
ペーテル・ヴァン・リント「サロメ」。凄絶なシーン。
ダニエル・ザイター「キリストと姦婦」。キリストの赤い服に青いマント、女の黄色の衣装。
3 肖像画
ジョルジュ・ルフェーヴル「青いストッキングをはいた女流詩人」。黒を背景に横たわる、鮮烈なピンクのドレスと青いストッキングの女性。強い自己アピール。「ブルー・ストッキング」は18世紀半ばのロンドンの文学好きの社交婦人の間で流行し、そこから教養ある文学好きな女性を指す言葉となったそうです。平塚雷鳥を中心に結社された「青鞜社」はこれに由来。
ピョートル・クリロフ「赤い椅子に座る女性の肖像」。赤いソファに腰掛けた黒いドレスの女性。とても知的。
ルイ・ビルー「裸婦」。見られることを意識したポーズと赤いシーツ。
4 風景画
ロベルト・ナドラー「ヴェネツィア」。ピンクに染まる夕暮れ、ゴンドラの並ぶ運河。観光地の絵葉書。
アルフレッド・ゴトショー「ラ・ロシェルの港」。海から港を望む構図。青空、小船が動きを感じさせる。
ルートヴィヒ・ムンテ「収穫」。暗い右手前から明るい左奥への視線の誘導。空は反対に明から暗に変化してバランスをとる。
5 風俗画
ラインハルト・セバスチャン・ツィンマーマン「画廊のルートヴィヒ2世」。窓から射す光、図面をチェックする愛好家。
フィリップ・リンド「窓辺の子供達」。お澄ましした記念写真。富裕層の生活の楽しみを描く、受け入れられやすい画題。
ヴィルヘルム・アンベルク「教会のグレートヒェン」。オルガンに聴き入る女性。白無垢のコスプレが効果を高める。
エドウィン・トマス・ロバーツ「街頭の子供たち」。光に対する影。「ミュージカルの一場面を見るよう」と解説にあり。大衆受けを意識した視点。
ニコライ・アンドレヴィッチ・コシェーレフ「脱穀場の子供たち」。藁の山の前で、ポストカードのようにポーズをとる子供たち。「農民画」という商品。
フランチェスコ・パオロ・ディオダーティ「カプリ島の小さな中庭」。強い日差しと白壁、生活感。エキゾチックな絵。
時代を開く巨匠の作品と平行して、確かに息づく庶民の楽しみとしての絵画。その画題の変遷を辿りつつ、当時を俯瞰する視線。構成と解説が充実していて、思った以上に見応えがありました。
2009年01月18日
●狩野派と近世絵画(後期)@承天閣美術館

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その8。
樂美術館から今出川に戻り、「フルーツ&フルーツパーラー ヤオイソ 烏丸店」で果物尽くしのお昼。煩悩を満たして、承天閣美術館へ。「狩野派と近世絵画(後期) ~爛漫と枯淡と~」を観ました。併催は「名碗三十撰(後期)」。
第一展示室
「赤樂茶碗 加賀」本阿弥光悦造。切り立つ立面、厚みのある飲み口は木の切り株のよう。赤地に濃茶の縦線模様が山水画のようで、稀代の名プロデューサー光悦の甘美な世界に酔います。
展示室の壁面には、「列祖像 三十幅」狩野派筆がズラリと取り巻きます。等身大サイズの禅師の大群に、ちょっと気後れします。
第二展示室
「中商山四皓 左右山水図」狩野元信筆。商山に篭った四仙人を中心とした見事な三幅対。仙人の服の輪郭を波打つように描く描写が特徴的。木々、岩山の描き分け、グレーの濃淡使い分けが見事。先日東博で観た「商山四皓竹林七賢図屏風」伝狩野元信筆は、この絵の拡大コピーに見える。それが伝有無の差?
「百猿図」山本探山筆。ユーモア一杯に描かれる、猿のなる木!
「花下遊楽図屏風」。左に酒宴、右に各種娯楽に興じる人々を円状構図に収め、下部の水平画面に駕籠等の往来の人々を描く。
「詩歌図巻」狩野光信筆。バラバラになった「詩」「歌」のパーツを組み立てる、国芳のようなセンス、解説によると、おそらく町狩野作とのこと。
「蔦の細道図屏風」俵屋宗達筆。対決展以来の再会。道=空間の裂け目から、葉と蔓が覗くようにも見える。立体的な構成、図案。左上がりに拡大し、消失する空間。
「不動明王像」。赤みを帯びた眼が怖い。
「御室焼色絵桐波文茶碗」野々村仁清造、箱書金森宗和。綺麗で抑制の効いた文様美。
狩野派を軸に、承天閣が誇る茶碗、若冲、屏風絵等の収蔵品を交えて見せる展示。さすがと思わせる内容。次回展は「相国寺・金閣・銀閣名宝展 -パリからの帰国-」。プチパレ美術館で開催された展覧会の里帰り開催のようです。「毘沙門天図」雪舟等楊筆、「牡丹孔雀図」円山応挙筆が登場します。

最後は和風甘味をと考えて、紫野和久傳 堺町店へと足を伸ばしました。ちょっとノンビリしすぎて京都駅での乗り継ぎがピンチになりましたが、なんとか駆け込んで京都を後にしました。
2009年01月17日
●樂歴代 花のかんばせ@樂美術館

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その7。
やってきました樂美術館。「樂歴代 花のかんばせ とりどりの花の意匠をあつめて」を観ました。
1階展示室の中央に「二代常慶作 菊文赤樂茶碗」。菊紋が可愛らしい、色鮮やかな赤茶碗。その周りを歴代樂茶碗が並びます。
2階展示室奥に「田中宗慶作 香炉釉菊文阿古陀形水指」。首元をキュッと絞った優美なシルエット、クリーム地に無数の灰色のヒビワレ線が走る色味、華やかな菊紋。チラシだと巾着みたいで可愛らしいですが、実物はけっこう大きく貫禄があります。
「手にふれる樂茶碗鑑賞会」
毎月第一土曜・日曜日、一日四回開催されます。事前に電話で予約して、入館時に費用2,000円(入館料込み)を払います。今回の参加者は9名。定刻になるとロビーに集合して、茶室へと案内されます。打ち水された飛び石が美しい。躙口から上がると中はほの暗く、濃密な空間。学芸員の方が道具を並べ、簡単に解説。順番に間近に道具を観て、隣接した少し広い間に移動します。
そして「手でふれる鑑賞会」。今回登場するのは「七代長入作 若松檜赤樂茶碗」、「十代旦入作 吸江斎好島台茶碗」。後者は九代了入作の島代茶碗とセットでの登場、碗見込みに金銀箔を塗り、九代作の中に十代作を重ねて使う、正月に相応しい華やかな組み合わせ。
御茶碗を観るときは高く持ち上げず、隣の人に渡すときは手渡しでなく一度畳において渡す、指輪等のアクセサリーは外すといった取り扱いの注意を受けて、七代作から順に鑑賞。触ってみると、適度な湿り気と暖かさにビックリ。一瞬人肌を触っている気がしました。学芸員の方いわく、呈茶と同じ感覚を味わってもらうために碗をお湯で温めてあるとのこと。畳に顔を近づけて碗側面に描かれた若松、裏返して高台の形状や「樂」印を眺めてみる。茶を飲むつもりで両手で包み込むように持つと、七代作のやや大ぶりで荒々しい箆遣い、十代作の小ぶりな作り(幼い吸江斎(表千家十代目)の手に合うように作られた)が感じられる。障子越しに射す光の加減でも色合いが随分と異なる。
参加者は素人の方とお茶を嗜んでいる方が半々くらい。土探しも歴代の仕事のうちで、二代先のために土を探す。赤楽の土は大きく変わり、以前の鮮やかな色はもう出せないとか。行き交う専門的な話をBGMに、雰囲気を楽しんだ。手に取ることで、美術品から実用品へと楽しみ方が変わることが何より良かった。
2009年01月16日
●琳派展XI 花の協奏曲@細見美術館

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その6。
宿は蹴上近くにとりました。昨日までのハードスケジュールから一転して、まったりと迎える朝。散策路には、紅葉を敷き詰めた手水鉢、映り込む空。

客室からは京都市街が望めます。中ほどの緑地が岡崎公園。平安神宮の赤い鳥居、左手に京都国立近代美術館、右手に京都市美術館。その向こうの緑地が京都御所。
ゆっくりと朝ごはんを食べて、チェックアウト。歩いて岡崎公園へ。鳥居周辺には大量の消防車が集まり、空にはヘリの爆音が響いてビックリ。京都市消防出初式だそうです。午後からは全国都道府県対抗女子駅伝が開催されるので、その交通規制もあり、なんとも慌しい。身動きできないほどの人出をかきわけて、京都市美術館、京都市美術館別館を経て細見美術館へ。「琳派展XI 花の協奏曲」を観ました。
冒頭に伊年印「四季草花図屏風」が登場して期待感を高めます。王朝文化への憧れを叶える俵屋の意匠は素晴らしい!その後酒井抱一、鈴木其一も登場しますが、去年の東博「大琳派展」、MOA「所蔵琳派展」と比べると精彩を欠くように思えます。むしろ本阿弥光甫「梅に鶯図」のニョロリと縦長に伸びる枝、中村芳中「白梅小禽図屏風」のお絵かきのような小鳥といった、少しヘタウマ要素が入った作品が目に付きます。世の中傑作だけが存在するわけがなく、その真似、似ても似つかないけれど愛に溢れる作品等が大量に流通してこそ、幅広い愛好層の需要に答えるわけだよなあと、妙に納得。酒井道一、鈴木守一といった名前からして、その念が感じられます。琳派の裾野の広さを感じる展示でした。
2009年01月15日
●京都御所ゆかりの至宝@京都国立博物館

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その4。
東京駅から乗り継いだ電車、実に8本!やってきました京都駅。青空に浮かぶ白い雲、映りこむガラス壁が眩しい!

そして市バスで京都国立博物館へ。特別展覧会 御即位二十年記念「京都御所ゆかりの至宝 -蘇る宮廷文化の美-」展を観ました。天皇陛下御即位二十年を寿ぎ、御所ゆかりのお宝をドッカンドッカン大公開!
1章 京都と天皇の遺宝
「正親町天皇像」。立体感薄く描かれた横顔。烏帽子がずれてるように見えて可笑しい。
「羅漢図」狩野孝信筆。保存状態良好な美品、初公開。孝信は永徳の次男であり、本展の主役的存在。
「日月蒔絵硯箱」。金梨地の蓋表に太陽、中には龍が描かれている。解説によると蓋裏には月が描かれているそうな。鏡を置いた展示にしてくれーと思ったら、ホームページに画像が出ていた。でもせっかく実物を見に来たのだから、展示に一工夫欲しい。
「金装三葉葵桐紋蒔絵飾太刀」。金工の極致。鞘を覆う凄まじく精巧な紋様は、人間業とは思えない。柄の鮫革も色味、質感ともに極まってる。あまりに凄くて、以降登場する工芸品が色褪せて見えて困った。
「銹絵木戸文水指 修学院焼」。大胆な紋。
「文琳茶入」。ちっちゃくて可愛い。
2章 桂宮家と桂離宮
「蔦細道蒔絵文台・硯箱」。平面立面共に等しく装飾を施した調度品が大好きです。
「青貝唐絵硯箱」。細かい螺鈿細工。
「青磁楼閣人物文杓立」。立体紋の器。
「桂離宮 引手・釘隠」。花手桶形引手の繊細な作りは、引いたら壊れないか心配なほど。
「源氏物語屏風」狩野探幽筆。探幽は孝信の息子。狩野派の系図がインプットされてゆきます。
3章 宮廷と仏教
「風天・水天像 十二像のうち」。妙にリアルで生々しい仏画。宮中の修法用なので色っぽいのか?微細な紋まで鮮明で、平安時代作とは信じられない状態の良さ。前期は水天、後期は風天。
「孔雀明王像」。こちらもなんだかエロイ。
「黒漆諸尊金銀泥絵八角宝珠箱」。八角形の小箱の側面が外れて、蓋(?)の内側に仏様が描かれている。内箱には泥の宝珠。蓋を広げれば、あっという間に仏様ワールド。携帯性良しなアイデア造形。展示の都合で外しているだけかも。
「普賢菩薩騎象像」。スラリとした美男子菩薩様。糸目のお顔も美しい。お乗りになっている象は、なぜかエロ目。こういう生き物だと思われてたんだろうなあ。
4章 宮廷の装束
「礼服 東山天皇御料」。寸胴の龍の刺繍が可愛い。前期のみの展示。
5章 御所の工芸
1章で観た太刀に圧倒されて、こちらはいまいち。
6章 紫宸殿の荘厳-賢聖障子絵-
ここから障子絵、障壁画がドッカンドッカン続きます。大物ばかりで観るスピードアップ、見応えもアップ。
「賢聖障子絵」狩野孝信筆。紫宸殿を飾った(そして仁和寺に下賜された)障子絵を部屋を囲むように再現展示。正面に獅子と狛犬、左右に32名もの中国賢聖名臣が等身大で並ぶ様は壮観。
7章 御所をかざった障壁画
不要になった旧御殿が門跡寺院などへ下賜される際に、ともにもたらされた障壁画群。
「牡丹麝香猫図襖」伝狩野永徳筆。解説によると、おそらく山楽筆。永徳の弟子にして、その豪壮な画風を継承した京狩野の中心人物。その門人が「奇想の系譜」山雪。妙心寺展の「老梅図襖」が今から楽しみ。話を戻してこの襖。4枚襖の左右端に牡丹と麝香猫を配し、中二枚は金雲が立ち込め、引手周辺は空=余白。そこを引き分けて出現するであろう空間への期待を高める構図。金箔をふんだんに使った絢爛華麗な世界観は、豪壮な画風と相まって桃山絵画の真骨頂。丸々フサフサした麝香猫が可愛らしい。本展イチオシのお気に入り。痛んでいるのが惜しい。
「枇杷雉子図襖」伝狩野永徳筆。こちらは永徳の長男、光信筆らしい。几帳面でちょっとおとなしめな画風。
「楼閣山水図舞良戸貼付」狩野貞信筆。光信の長男、貞信筆。
「特別展示 永徳の後継者たち」というサブタイトルを付けた方が良いと思います。
8章 御所の障屏画
こちらは現役御所・紫宸殿を飾る障壁画群。狩野派に替わり、土佐派が台頭。
全8章からなる展示は怒涛の如し。小規模な作品が密度濃く並ぶ前半は混みますが、障壁画がドッカンドッカンと並ぶ後半はスイスイ。見所多数ですので、時間に余裕を持って観ることをお勧めします。
2009年01月13日
●水の浄土・琵琶湖@安土城考古博物館

青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その2。
京都へ向かう道中、安土城考古博物館に寄り道。特別陳列「水の浄土・琵琶湖 -琵琶湖文化館の収蔵品を中心に-」を観ました。最寄駅は「安土」ですが、新快速停車駅「能登川」と「近江八幡」に挟まれた各停停車駅なので乗り継ぎに注意が必要です。さらに駅からも遠く、バスもなし。晴-雨-雪と激しく天候が変わる寒い日に、「どうしてこんなところに作ったんだ?」と疑問を抱きながら訪問。館内は半分貸切状態。
第1章 水への祈り
「紙本墨画叡山図」曽我蕭白筆。ペン画のような細く綺麗な線で描かれたモコモコした比叡山、湖水際の水田が琵琶湖景観の特徴を表す。上手い絵だと思ったら、蕭白筆。文句なく名作と思える。
「絹本着色猿候図」森狙仙筆。髪の毛の描写が際立つ「狙仙の猿」。猿が摑まる蔓の描写も写実的。
第2章 描かれた水の世界
「紙本墨画淡彩楼閣山水図屏風(右隻)」曽我蕭白筆。「奇想の系譜」に登場した蕭白の代表作!意外なところで遭遇。伝統的な岩山と、線を省略した現代的な建物との対比。セピアトーンを基調に、効果的に用いられる赤と白。赤は手摺、欄間、白は白梅、カーテンなど。左隻も観たい!
「絹本着色山水図」円山応挙筆。写生の応挙の確かな画力。横から伸びるように迫り出す岩山の描き方が印象的。
第3章 豊穣の海
「絹本淡彩鯉遊図」菊池容斎筆。墨の濃淡で描いた鯉。省略することで水の流れを感じさせる。
「金銀象嵌疏菜透彫蟷螂手箱」。透かし紋の中心に鎌を構えるカマキリ。放射状に広がるトウモロコシの紋。
タイトルにあるように、展示は休館中の琵琶湖文化館の所蔵品が中心です。構成は3章+プロローグ、エピローグですが、館内が手狭なため詰め込めるだけ詰め込んだ感じ。思いがけず蕭白の名品に出会えて、掘り出し物の展示でした。それにしても、東京だったら蕭白の作品だけでも人が入りそう。。。
2009年01月07日
●飛鳥の天人TNM&TOPPANミュージアムシアター
TNM&TOPPANミュージアムシアターで公開中の「法隆寺献納宝物 国宝 金銅灌頂幡 飛鳥の天人」を観ました。
今回のナビゲーターはこうのさん。「国宝 聖徳太子絵殿」、「マヤ文明 コパン遺跡」と同じ方でした。
映像は法隆寺西院伽藍から始まります。アングルがヌルヌルと移動するので、かろうじてCGと分かります。飛鳥時代の遺物にして、金工史上最高傑作といわれる灌頂幡の世界へ。精緻に再現された灌頂幡を映しながら、まずは外側の天蓋、蛇舌、垂飾を説明。説明が済むとその部分は消して、内側に吊られた大幡、小幡へ。CGならではの分かりやすさ。幡に刻まれた三尊像、飛天、雲の細工がじっくりと堪能できます。
その成立には特別な願いが込められているのでは?仏教普及を願い精力的に活動した聖徳太子一族。その多くが自害したといわれる法隆寺炎上。法隆寺再建の際に奉納されたと考えられる灌頂幡には、聖徳太子の娘である片岡御祖命(かたおかのみおやのみこと)の、「「私が仏教を伝えていきます」という願いが込められているのは?」。
映像は法隆寺西院に戻り、金色に輝く灌頂幡が金堂前に奉納されます。史実を踏まえつつロマンティックな話でした。映像的には、ディテールの再現度が凄かった反面、画面変化が乏しくやや退屈。データ量の兼ね合いでしょうか。
2009年01月06日
●博物館に初もうで@東京国立博物館

毎年恒例と化してきた「博物館に初もうで」@東京国立博物館。青天に和太鼓が響き、門松が彩りを添えます。人出も良好。

東洋館第8室「新春特集陳列 吉祥―歳寒三友」。「梅花双雀図」伝馬麟筆。梅の木に身を寄せ合う二羽のスズメが愛らしい。中国絵画のマイブーム継続中ー。

干支に因んだ展示を経て、本館 8室「書画の展開-安土桃山・江戸」へ。「羅浮仙」岩佐又兵衛筆。KAZARI展で観た「浄瑠璃物語絵巻」が鮮烈な又兵衛の肉筆画。あごが長いのは仙人の特徴なのだろうか。

「十友双雀図」渡辺崋山筆。細密描写が美しい。

「雪中老松図」円山応挙筆。「国宝 雪松図屏風」と同じ描法。あちらを描くための習作?

「松梅群鶏図屏風」伊藤若冲筆。松梅を左右端に追いやり、群鶏をズラリと並べる。点描の石灯籠まで登場して、サービス精神旺盛な2双。鶏がパターン化していて、ちょっと単調な気もする。お得意さんのリクエストに答えたのだろうか。

本館 10室「浮世絵と衣装 ―江戸」。「風流五節句・元旦」鳥文斎栄之筆。ピンク地に白い鶴紋様が綺麗。
さすが東博、新年に相応しい華やかさ。この後、新年会へ。楽しい一日でした。
2009年01月04日
●寿ぎと幽玄の美@三井記念美術館
新年最初に訪問したのは三井記念美術館。「寿ぎと幽玄の美 国宝雪松図と能面」を観ました。
展示室1 能楽にちなんだ茶道具1
「黄瀬戸立鼓花入」。シンプルで時代を感じさせない形状。解説がなかったら、ずっと古い時代の出土品といわれても信じそう。
「備前肩衝茶入 銘塩釜」。鉄のような表現、質感。もちろん焼き物。
「黒楽茶碗 銘面箱 (紀州御庭焼清寧軒窯)」。御庭焼って何?と思って調べると「藩主が他の先進地域より有名な陶工を招いて焼かせたもの」らしい。城の庭に窯を作って焼いたのかと思った。
「色絵鱗文茶碗」。しっとり落ち着いた黒に鱗文が映える。誰の作かと思ったら仁清、手広い。
展示室2 能楽にちなんだ茶道具2
「黒楽茶碗 銘俊寛」長次郎。丸い口の処理に内側の錆色。たまらん。
展示室3 茶室如庵=茶道具の取り合わせ
掛軸の字がちょっと、と思ったら徳川綱吉筆。。。。
展示室4 松竹梅の屏風と翁面
「日月松鶴図屏風」。金地と水辺に色鮮やかな鶴。右上に日と月。
「雪松図屏風」円山応挙。金地に白黒で描く雪と松。シンプルで美しい。
「梅花双鶴図小襖」円山応挙。梅のピンクが愛らしい。
「梅に小禽図風炉先屏風」呉春。枝と鳥の軽快なリズム。そして翁面の展示へ。
展示室5 能面(女・男)
「小面(花の小面)」「孫次郎(オモカゲ)」伝龍右衛門。面ごとにずいぶんと造形が異なり、見比べると面白い。小面はふっくら、孫次郎は細面の美人で人間っぽい。年老いた顔や、芦雪の絵に出てきそうな山姥など。
「蛇」。大きく顎が出ていて滑稽の域。室町時代の面が数多く並び、その状態の良さに感銘。能の知識がないので、もっぱら面の表情の見比べに専念。
展示室6 能面(尉・鬼神・女・男)
時代が下って江戸時代。この頃になると形式が整ってきた感じ。
展示室7 能面(尉・鬼神・男)
「癋見悪尉」洞白満喬。達磨大師のよう。
「大癋見」「小癋見」伝赤鶴。大きく横に結んだ口の両端が、前者は上に笑み、後者は下にへの字。
「牙癋見」伝赤鶴。ビール樽の様な顔型。
「獅子口」伝赤鶴。誇張の極み。目と口の周りに大きく盛り上がった頬肉。
「影清」出目満照。血管が浮き出る皺々の皮膚と細目。マンガみたい。
「痩男」伝日氷。頬がこけて骨が出張った造形、目の下の隈がコミカルですらある。
雪松図へと至る前半は期待通り、能面が並ぶ後半はどうかな?と思いましたが、思いのほか楽しめる展示でした。もっとも、それが能面を見る視点として正しいかと言われると困ってしまいます。
ミュージアムカフェを曲がったところにある書庫扉(モスラー社製)。巨大丁番とリベット、大仰なカンヌキとハンドルがレトロ感満載で良い感じ。

2008年12月31日
●キーワード 2008
今年のアート・街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。(2007年、2006年)
今年は大型展に恵まれ、豊作な年でした。その分、評価軸は細分化され、「自分にとってアートとは何か」を問うことになります。
『だって好きなんだもん』
想像を超える「何か」に接したときの、好奇心を刺激される感覚が何より好きです。
・「近代日本画の巨匠 速水御舟-新たなる魅力」@平塚市美術館
「琳派から日本画へ」@山種美術館
速水御舟の、現実を作り変えるような超絶技巧に激ラブ。
・「ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-」@国立西洋美術館
ハンマースホイの完成された描画と飽くことなき探求心。
・「KAZARI 日本美の情熱」@サントリー美術館
「日本美術の歴史」愛読者には、たまらない企画展示。
・「国宝 法隆寺金堂展」@奈良国立博物館
学生の頃から興味のあった法隆寺金堂内陣をようやく観ることが出来た。
・「塩田千春 精神の呼吸」@国立国際美術館
赤いレーザービーム!
・「三沢厚彦 アニマルズ'08 in YOKOHAMA」@横浜そごう美術館
アニマルズ可愛い。ライオンとは言わないが、ヤモリに家を守ってもらいたい。
・「鴻池朋子 私の作品は他者のもの」@高橋コレクション白金
リビングに狼が居る家って良いよねー。
・「井上雄彦 最後のマンガ展」@上野の森美術館
美術館で体験するマンガ。あっ、美術展じゃない!
『空間とアートの素敵な関係』
体験として提示してこそアート&アーキテクチャー!いつも胸に抱いていたい言葉。
・「CHANEL MOBILE ART in TOKYO」
現代アート専用の仮設パビリオンを準備して、文字通り世界中を飛び回る。その構想力、実現力、実体験。その終焉も含めて時代を体現し、歴史に名を刻んだ。
・「金刀比羅宮 書院の美」@金刀比羅宮
庭園の池と一体化した円山応挙「瀑布図」が観られて満足。まさか四国まで展覧会を見に行く日が来るとは思いませんでした。
・「Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ」@豊田市美術館
異文化とグローバリズムに焦点を当てる企画の中で、出色の出来。建築との流れるようなコラボレーションは絶品。
・「觀海庵」落成記念コレクション展-まなざしはときをこえて」@ハラミュージアムアーク
古今アートの流麗なダンス、その器としての真っ黒な箱。やはり建築は黒子でちょうど良いのでは?
・「風景ルルル」@静岡県立美術館
キュレーションの視点設定と、内海さんの空間センス。
『サヨナラ物量大作戦』
長く続いた好景気の恩恵を受けて物量大作戦に恵まれた今年。奈落へと落ちるかのような速度で進む景気悪化の中、幕を開ける来年。頭を切り替えて頑張りましょう!
・特別展「対決-巨匠たちの日本美術」@東京国立博物館
特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念座談会
特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
美術ファン垂涎、日本美術の至宝大集合。この物量大作戦に敵うものなし。
・「大琳派展 -継承と変奏-」@東京国立博物館
「大琳派展(後期)」@東京国立博物館
琳派の名品大集合。対決展と時期が連続したのはもったいないの一言。
・「室町将軍家の至宝を探る」@徳川美術館
東山御物、初遭遇。室町時代の遺物ってこんなにあったんだ。
●狩野派と近世絵画(前期)@承天閣美術館

秋の愛知-京都行きの記録その3。名古屋で一泊した後、京都へ。イノダコーヒー本店で朝食を食べたかったので、朝早く名古屋を発って三条を目指す。徳川美術館以降、かなり変な人。本店前にはすでにモーニングの行列が出来ているのを見てビックリ。幸いテラス席ならすぐ案内できるとのことで、それほど待たずに入店。ボリュームあるモーニングと「アラビアの真珠」で和むー。

樂美術館で「長谷川等伯・雲谷等益 山水花鳥図襖&樂美術館 吉左衞門セレクション」を観ました。初代から15代までの名碗が並ぶ。初代長次郎、田中宗慶の椀に惹かれる。2階には光悦の茶碗が2点。「黒樂茶碗 銘 村雲」、「飴樂茶碗 銘 立峯」。村雲のザックリとした切り口、ザラザラとした質感は大琳派展で観た雨雲を思い出させる。対決展の光悦vs長次郎も良かったですが、今回は落ち着いて観られて良かった。

1年半ぶりの再訪、相国寺承天閣美術館。思えばあの若沖展が、展示を追いかけて東奔西走する日々の幕開けでした。
「狩野派と近世絵画(前期)」を観ました。「-併催-名碗三十撰」。第一展示室に登場する国宝「玳玻盞散花文天目茶碗」に目が釘付け。台座の螺鈿細工と合わせて本当に食い入るように観ました。微細モザイク紋様とでもいうか、黄金に輝くような錯覚を覚えるインパクトは絶大。長谷川等伯筆「竹林猿猴図屏風」。狩野派といいながら等伯もカバーするところが懐が広い。
第二展示室。伊藤若冲「鹿苑寺大書院障壁画」。一年半ぶりの御対面。狩野探幽「探幽縮図」。探幽の名画スケッチ集。見ていて楽しい。狩野探幽「花鳥図座屏」。絵を催促されるくだりが人間味あって面白い。

俵屋吉富烏丸店隣の京菓子資料館で一服。

最後に京都国立博物館まで足を伸ばして常設展を観ました。「宝誌和尚立像」。顔面が真っ二つに割れて十一面観音が顔を覗かせる驚きの像。「阿弥陀二十五菩薩来迎図」。雲に乗って金色の阿弥陀様ご一行が行者のもとに来迎する。ビジュアル的にもとても魅力的な構図、色彩。小特集「あなたの知らない水墨画」。新発見を中心に、研究者でも知らないような作品を公開とのこと。元信印「四季花鳥図屏風」、光信筆「山水禽獣図屏風」等。野州の旧家から発見されたとのことですが、改まったお披露目は建替後になるのだろうか。長沢芦雪「茄子図」、「月下桜図」、「岩上猿図」。芦雪もバンバン出ます。「舞妓図屏風」。人物を大きく描く六曲一双の風俗画屏風。こんなのあったんだ。応挙「唐子遊図襖」と芦雪「白梅図」を並べて「クラッシックの応挙とロックの芦雪」という解説が楽しい。閉館間近で担当学芸員の口調も滑らかだったんだろうか。
●室町将軍家の至宝を探る@徳川美術館

秋の愛知-京都行きの記録その2。東京国立博物館東洋館で「特集陳列 中国書画精華」を観て中国絵画への興味が膨らんだ頃、徳川美術館で東山御物が公開されることを知りました。30年ぶりの御物公開とのことで、夜行バスを使って名古屋まで足を伸ばしました。素人に価値が分かるはずもありませんが、眼に叩き込んでおこうという魂胆。
「秋季特別展 室町将軍家の至宝を探る」。
I 室町殿の宝物と「東山御物」。伝銭選「宮女図」。一見男性にも見える、男装の女性の絵。足利義教の邸宅に飾られたという、歴史の中から抜け出してきたような存在。伝夏珪筆「山水図」。嬉しいことに畠山記念館蔵。いつの日か再会できるかも。伝牧谿筆「洞庭秋月図」。牧谿筆「柳燕図」。作品リストにチェックを入れたのは、いずれも牧谿筆。「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」。東博の名品。逸話と共に印象に残る。
III 能阿弥・芸阿弥・相阿弥と室町水墨画。相阿弥「瀟湘八景図」。
IV 「君台観左右帳記」の世界。灰被天目 銘虹。美しいグランデーション。陳容筆「龍図」。伝牧谿「虎図」。迫力ある龍、猫じゃない虎。解説によると、当時流行した絵の写しだろうとのことで、決して傑作という扱いではないのですが、この絵が当時の日本に来ていたとすれば、その影響は大きいと思える画。
本展出品作の所蔵元として徳川美術館の名が多数上がり、室町将軍家の名宝を徳川家が継承したことが実感できる展示でした。武家政治の継承者なので当然かもしれませんが、花の御所という華やかなイメージのある室町幕府と、江戸という未開の地に居城を築いた徳川幕府とでは文化面で隔たりを感じていました。ザクザクと並ぶ名宝に、あるところにはあるものだと圧倒されました。

徳川美術館で力尽きて、あとはひたすら食べました。シェ・シバタ名古屋店で遅い休憩。お寺の参道に面した、ちょっと意外な立地。中高層ビルが並ぶ大通りからちょっと入っただけで、いきなり縁日が立つ昔ながらの空間になってビックリ。美味しさは文句なし、お客の誘導に手間取るのが玉にきず。

1時間も経たずに、今度は的矢かき。生牡蠣、牡蠣フライ両方食べて満足。
2008年12月30日
●聖なる酒器 リュトン@MIHO MUSEUM
若冲の屏風発見の報に湧く年末。(詳しくは「弐代目・青い日記帳」さんのこちらの記事をどうぞ)。公開は来年の秋以降とのことですが、気になるのはどこで公開されるのか。鑑定したのが「MIHO MUSEUM」とのことで、まずはここからになるのでしょう。関東圏への巡回もあるのでしょうが、若冲ファンとしては少しでも早く観たいものです。そのMIHO MUSEUMの訪問メモです。

MIHO MUSEUMへ出かけたのは、夏の盛り。車の対面通行も困難なほどの細い道を経て山奥へと分け入り、広大な駐車場へと至ります。少し歩いてレセプション棟に到着し、レストラン「ピーチバレイ」で腹ごしらえ。自然の堆肥のみで栽培された食材を用いたオニギリや野菜は驚くほど美味しいです。レセプション棟からは電気バスで七色に輝くトンネルを抜けて美術館棟へ。写真はトンネルを抜けて、来た道を振り返ったところ。

正面にはミュージアムへの入口。建物の80%以上を地中に埋める計画なため、地上からその全貌をうかがうことはできません。

玄関ドアを潜って、ミュージアムへ。その先にはハイテクな作りと中国的な意匠が組み合わされ、自然光が降り注ぐ大空間が出現します。山奥にその姿を隠しつつ大きく広がる空間は、コンセプトである「桃源郷」を見事に実現しています。
2008年夏季特別展「聖なる酒器 リュトン」展を観ました。リュトンとは儀式などで液体を地や他の器に注ぐためのものだそうです。貯蔵や飲用といった用途でなく、注ぐという動作に基づく名前なのが浮世離れしていてロマンをかきたてます。展示は紀元前何千年から何百年という時代のリュトンの名品がズラリと並びます。展示点数は70点ほどですが、非常に状態の良いものばかりなので物凄い見応え。さらに展示背景、照明、解説等も細やかに配慮されており、全点の図版を載せた作品リスト、カラー図版をバンバン載せたPR誌等を含めて鑑賞者への配慮は完璧。陰影深いカラー写真を大胆に使ったポスター等のビジュアル面もカッコイイ。特別展に合わせた「日本における酒器」展、4大文明の名品を揃える常設展と廻り、その充実したコレクションに眩暈がしました。
屏風公開時にどういったイベントを仕掛けてくれるのか、今から楽しみです。
2008年12月24日
●雪舟と水墨画@千葉市美術館
千葉市美術館で開催中の「岡山県立美術館所蔵 雪舟と水墨画」展を観ました。2年前の浦上玉堂展の共同開催をきっかけに交流を深め、お互いのコレクションの粋を貸し出しあうことで実現した展示だそうです。
第一章 中国絵画-憧憬の中国-。伝馬遠「高士探梅図」。細かな描線、見事な枝ぶりの梅。海に月が浮かぶ。伝馬遠「採芝図」。枝から垂れ下がる房の描写。伝月壺「白衣観音図」。左上に天女、右下に龍、その周りに漫画チックな波の描画。愛嬌のある観音様のお顔立ち。こういった絵を後世の絵師たちは参考にしたのだろう。
第二章 日本の水墨画家たち-雪舟から武蔵まで-。「渡島天神図」。梅の枝、腰の袋の色彩が鮮やか。雪舟等楊「山水図(倣玉澗)」。水をたっぷりと含ませた淡い描画。ガタガタした独特の山水画の一方で、こういった画もあるのかと見入る。玉澗の元絵も見てみたい。雪舟等楊「渡島天神図」。梅に腰掛ける天神様。斜めを向く構図が前出作と差別化?承虎「山水図」。黒い枠線が漫画的。如水宗淵「山水図」。上に迫り出す岩山が緊張感をもたらす。楊月「蜆子和尚」。筆遣いの巧みな描画。「山水図(天澤座元送別詩画軸)」。左手前に巨木、右奥に松林の対比。雪村周継「瀟湘八景図屏風」。丸い山の描写が雲頭皴っぽい?普通に上手い。対決展の雪村「呂洞賓図」のゾクゾクするような興奮を思い出します。相手は雪舟「慧可断臂図」でした。やはりすごい展示だったと今更ながら思います。
時代はぐっと下がって江戸時代へ。雲谷等益「楼閣山水図屏風」。荒々しい岩山と建物の対比。宮本武蔵「布袋竹雀枯木翡翠図」。三幅対の空間を大胆に余白を取りながら構成。
第三章 岡山出身の四条派画家-柴田義董と岡本豊彦-。柴田義董「西園雅集図」。四条派得意の写実的で色彩豊かな世界と、手に手に筆を持つ人物たちが織り成すメルヘンな世界。岡本豊彦「林和靖図」。空間の捉え方が立体的。岡本豊彦「松鶴波濤図屏風」。西洋絵画のよう。
第四章 江戸時代の唐絵と富岡鉄斎-中国愛好の系譜-。浦上玉堂「琴写澗泉図」。モコモコ隆起する岩山、木々。浦上玉堂「山澗読易図」。竜巻のように巻き上がる山、木。浦上春琴「僊山清暁図」。玉堂絵を穏やかにして彩色したような画風。浦上春琴「名華鳥蟲図」。鮮やかな花鳥画+虫。水墨画からは外れますが美しい。
岡山ゆかりの画家たちを時代順に辿る展示は、思った以上に見応えがありました。
同時開催は「カラーズ・色彩のよろこび」。企画展に因んだテーマで所蔵品で展示する、千葉市美の得意技。
第2部「色いろいろ~近世・近代の版画より」。「-摺物の色」のコーナーに渓斎英泉の色紙判摺物が4点並びます。非売品ならではの贅を尽くした細やかさと美麗さは一見の価値あり。「-藍摺という発想」でも渓斎英泉「鯉滝登り裲襠の花魁」の着物の背を登る鯉の迫力が素晴らしい。
第3部「特別な色-たとえば赤」。横尾芳月「阿蘭陀土産」。大掛かりな舞台セットのような作り込んだ構図。
第4部「幕末明治の極彩色」。豊原国周「五代目尾上菊五郎の小間物屋才次郎」。大蛇を切り裂き、血塗れで立つ人物。その返り血の量がすごい。
11階講堂向かいのレストラン「かぼちゃわいん」でお昼。前菜、スープ、メインディッシュ、シャーベット、ドリンクで2,100円也。千葉市市街が一望できるロケーションです。

●浮世絵の中の源氏絵@太田記念美術館
太田記念美術館で開催された「浮世絵の中の源氏絵」展を観ました。横浜美術館で開催された特別展「源氏物語の1000年」で浮世絵に描かれた見立て源氏絵は観たのでパスしようかと思っていたのですが、「抱一がある、又兵衛もある」という殺し文句を聞いて、急遽向かいました。横浜も、又兵衛の絵が一週間だけ出展されると聞いて急遽行ったのでした。
閉館30分前に滑り込んで、ぐるっと一巡。観る作品を「古典文学の世界を描いた肉筆画」と「浮世絵師たちが描く王朝世界」に絞ることにしました。まずは畳に上がって葛飾北斎「源氏物語図」。浮世絵でなく古典文学の世界をそのまま描く直球肉筆画。欄間に描かれた水辺に千鳥舞う細やかさ、美しく繊細な衣の紋、板戸の木目表現、襖の草花、外には松と桜。ホントになんでも描ける北斎の腕に惚れ惚れ。岩佐又兵衛「伊勢物語」。写実的な描写、夜明け前に女のもとから逃げ出す男。源氏物語ですらないのに違和感なく並ぶのは、モテ男という共通点があるからか。月岡芳年「月百姿 石山月」。斜め後方から紫式部の横顔を捉える構図の冴え。小林清親「古代模様 紫式部」。横長画面に広がる紫式部の卵型横顔と扇子。大胆でコミカルな画面。酒井抱一「源氏物語図」。水の青、空の金、野の緑を基調とし、松に桜に白い花が彩る彩色美の世界。扇の上広がりの紙面に合わせた斜め上から俯瞰する構図もピッタリ決まってます。建物奥には雪に鴛の襖、螺鈿細工の違い棚。細やかな描写と、のぞき見構図でない品の良さにウットリ。扇の形のままでの展示も、使う人の優雅さが偲ばれて素敵。
美術館を後にすると、すぐに表参道。ビルが壁面ごと光っていて、なかなかのインパクト。

2008年12月17日
●所蔵琳派展@MOA美術館

MOA美術館で開催中の「所蔵琳派展 -装飾美の世界-」を観ました。先日の東博「大琳派展」不出展の大物、尾形光琳「紅白梅図屏風」は残念ながら今回も不出展。それでも琳派イヤーの掉尾を飾る展示として見逃せません。館内に作品リストが準備されていないので、事前にWEBページの作品リストをプリントアウトすることをお勧めします。
入ってすぐに伝本阿弥光悦「樵夫蒔絵硯箱」。オニギリ山のような見事な盛り上がりと、黒漆と金蒔絵の大胆な面構成、そして大きく描かれた樵夫。尾形光琳「佐野渡図」。着物の細やかな金模様が美しい。俵屋宗達「龍虎図」。つぶらな瞳の虎は、「朝鮮王朝の絵画と日本」で観た許士寅「虎図」との共通点が感じられます。同展で観た宗達「犬図」と李厳「花下遊狗図」の関連性といい、宗達は朝鮮絵画を研究したのでは?と気になります。尾形光琳「虎図屏風」。ドラえもんのような虎が可愛い。酒井抱一「雪月花図」。松に積もった雪がサラーッと流れ落ちる描写が秀逸。真ん中の月だけを描く構図も大胆。その隣に「藤蓮楓図」。縦長画面を活かした藤の蔓、長い幹に紅葉が美しい。抱一の掛軸三幅揃が二点並ぶここが、マイベスト。
大琳派展に比べると小粒ながら、琳派の名品をこれだけ揃えるところは流石。
2008年12月03日
●琳派から日本画へ@山種美術館
会場に入って左手に福田平八郎「彩秋」。金属のような色味の葉、白地にグレーの穂の対比。同じく「筍」。黒い筍に緑の芽、線描の笹の葉を敷き詰めた地面。対象を絞り込み、写実的かつグラフィカルに仕上げるセンスは其一を思わせます。右に折れて前田青邨「大物浦」。紙を折り、絵具を染み込ませたような波と、それに翻弄される船と人物。大迫力。さらに右に折れて酒井抱一「月梅」。ほんのりとした緑青のような緑が作品に品を添えます。
次室に進んで、東山魁夷「満ち来る潮」。エメラルドグリーンの海、銀の波飛沫、岩の先端には金色がのる。波音が聞こえそうな荒々しくも美しい海。速水御舟「白芙蓉」。白い花弁に紫のおしべ(?)、モノトーンの茎と葉が妖しい美しさを放つ。荒木十畝「四季花鳥図」。美しい色彩で派手派手。
さらに奥の展示室へ。速水御舟「名樹散椿」。鮮明な金地に単純化された緑の丘とうねる幹。そして緻密に描かれた葉と花が、異様な密度で重なり合い美麗な全体を構成する。その左手に伝俵屋宗達「槙楓図」。くすんだ金地にうねる幹、重なり合う槙と楓。新旧のコントラスト、継承を思わせる相似性は、両者を並べた時点で勝負あったと思わせる素晴らしさ。ベンチに腰掛けて眺めていると、感動で涙が出た。御舟の脳裏に焼きついたであろう、記憶の中の名樹。その一瞬を画面に定着させたような画は、技巧を超えた祈りのようなものを感じさせます。来年の「速水御舟展」が楽しみです。
2008年11月23日
●朝鮮王朝の絵画と日本@栃木県立美術館

栃木県立美術館で開催中の「朝鮮王朝の絵画と日本」を観ました。副題は「宗達、大雅、若沖も学んだ隣国の美」。今年は江戸絵画のルーツを辿ることがブームなのか、「特集陳列 中国書画精華」@東京国立博物館東洋館」、「室町将軍家の至宝を探る」@徳川美術館と立て続けに中国絵画の名品を見る機会がありました。今回はそのおとなりの朝鮮絵画です。無料の音声ガイドを聞きながら観ました。
第1部「朝鮮絵画の精華」。第1章「朝鮮絵画の流れ:山水画を中心に」。「雪景山水図」のモコモコと山を描く描法(蟹爪樹という技法らしい)が印象的。崔名龍「山水図」。傍らに狩野探幽「和漢古画帖」が置かれており、本図の縮図が載っている。小さくって見やすい。ずっと後の章で展示されている李厳「花下遊狗図」の犬たちは、その愛らしさと江戸絵画への色濃い影響で、本展の顔。「紅梅図」の勢いある梅の描写もちょっと異質で印象的。李継祜「葡萄図」。墨で描かれた葡萄の葉と実が円弧を描くように配されていてとても美しい。「蘭図」。鉢と葉を大きく描く異色作。鄭散「冠岳夕嵐図」。保存状態良好の青い空。朝日かと思った。田琦「梅花草屋図」。素朴な表現によるホノボノ感。
第2章「仏画の美 高麗から朝鮮王朝へ」。「大方広仏華厳経巻第三十九」。背景で花が踊る、独特のセンス。
第3章「絵画と工芸、越境する花鳥の美」。伝呂紀「花鳥図」。中国絵画の影響を思わせる構図、図柄。伝呂紀の同名別作品は余白のない画面にスケールオーバーな鳥や虫が詰め込まれているので、手本を写したのだろう。「華角貼人物図箱」。華角貼とは、牛の角を火で炙って薄く伸ばして木箱に貼る技法だそうです。鮮やかな赤地に描かれた人物画像はとても鮮烈。
第4章「「民画」の誕生」。「虎図」。チラシにも載っている眼がグルグル回ってる虎。見たことのない捉え方。許士寅「虎図」。こちらは奈良美智を思わせるつぶらな瞳。「虎図屏風」。表情豊かなものぐさ虎が並ぶ。「九雲夢図」。ちびまるこちゃん顔の人物、平面的な描写。「紙織魁星点斗図」。点描を思わせる紙織図の中でも異彩を放つ、龍の頭を踏みつけながら北斗七星を描く鬼の図。
第2部「日本人のまなざし」。第5章「交流の形-朝鮮通信使の果たした役割」。李聖麟「仕女図」。近代日本画的な面持ちの美女。
第6章「日本画家のまなざし-日本絵画に与えた影響」。啓孫「虎渓三笑・山水図」。三人の仙人が笑いあう図。この題を聞くと、曽我蕭白「虎渓三笑図」の人を食った構図が思い浮かぶ。雪村周継「瀟湘八景図屏風」。うねり波打つ山。対決展でも異彩を放った雪村の中では穏やかな方?俵屋宗達「犬図」。本展のサブテーマ「犬」の継承として、李厳「花下遊狗図」と並べて展示。ちょっと奇をてらい気味で、可愛いというより不気味。
伊藤若冲「白象群獣図」。三つの枡目描の一つ、ようやく対面。思っていたよりも大きい。パオーンと振り上げた白象の鼻が煙のようでもあり、その背後にわさわさと湧き出る龍に栗鼠に黒豹に謎の丸い生命体。この題材、構図、技法でまとめられるところが、さすが若冲。奇想の根底に敬虔な仏教徒としての祈りがあってこそ。
本展の特徴は全326点に及ぶ展示作を通して、普段あまり目に触れる機会のない朝鮮絵画を通観し、日本に及ぼした影響を探るというものです。名品、異色作、そして最後の江戸絵画と見逃せない展示作が随所に登場します。その一方でヘタウマ系?と思う作品も多く含まれており、密度的には今一つ。
さらに、今回見られたのは150点ちょっと、リスト作の半分ほどです。栃木県立美術館だけで6回の展示替えがあり、さらに4会場を巡回する間にも入替があります。作品リストを確認して、目当ての作品と展示会場を絞り込むことをお薦めします。例えばリストに6作品(伝を含めれば8作品)登場する雪村は、今回は1作品しか展示されていません。
会場は栃木、静岡、仙台、岡山。まだ見ぬ「樹下鳥獣図屏風」を求めて、今度は静岡に行くことになりそうです。会期中いつ展示されるのか、またMOA美術館の「紅白梅図屏風」がいつ展示されるのかも気になるところです。
2008年11月10日
●ボストン美術館 浮世絵名品展@江戸東京博物館

平塚、鎌倉を経て最後は両国へ。江戸東京博物館で開催中の「ボストン美術館 浮世絵名品展」を観ました。前に来たのは2年前の「江戸の誘惑展」なので、私にとってはボストン美術館東京分館と化しています。じっくり観られるよう、閉館1時間と少し前に入館。
第1章 浮世絵初期の大家たち。驚異の保存状態がウリの展示にしては今一つの状態。スルー気味。
第2章 春信様式の時代。春信の描く美人画がつぼにきて、ガラスケースに顔を近づけて観る。やはり10cm以下に近づくと見えてくる紙の凸凹、質感が刷り物の醍醐味。今回の展示は見易い高さに作品を吊ってあり、照明も鑑賞者の影が作品に落ちないように配慮されています。「見立浦島」。凹凸で表現された波の紋が美しい。竿を持つ美人、龍のような亀。「座鋪八景 ぬり桶の暮雪」。凹凸で表現された白い綿=雪。壁の菱形紋様も鮮明。「座鋪八景 鏡台の秋月」。腰壁の薄い藍色、紋までくっきり。「女三の宮と猫」。猫に赤い布製の首輪、着物の白地部分の凹凸。「浮世美人寄花 南の方 松坂屋内 野風 藤」。屏風の黄土色、キラキラする紙面。
第3章 錦絵の黄金時代。喜多川歌麿(?)「月宮殿」。ピンクの雲に乗って佳人の待つ宮へ。「蚊帳」。網の目の刷りの名人芸。栄松斎長喜「涼舟五枚続」。画面いっぱいに美人が並ぶ賑やかな構図。
第4章 幕末のビッグネームたち。歌川国政「市川蝦蔵の暫」。今回のキービジュアル。大胆な横顔構図、迫力ある眼、朱の隈取。歌川国芳「鬼若丸の鯉退治」。赤い鯉と黒い流紋の対比がダイナミック。「讃岐院眷族をして為朝をすくふ図」。鮫の鱗、烏天狗の翼の書き込み、白い飛沫、海の藍と鮫の黒が溶け合うグランデーション。豪壮な構図と細かい仕上が組み合わさった迫力。
あっという間に時間が経って、気がつけば閉館時間。春信と国芳が見られて満足です。
2008年11月09日
●鎌倉アートツアー in Autumn

平塚から折り返して鎌倉へ。今回はホリデー・パスを利用しているので、寄り道しても料金は同じ。
鏑木清方記念美術館初訪問。小町通りの人出に驚きつつも左手の路地へ折れて到着。雪ノ下という地名が素敵。牛込矢来町の画室を模したという画室は創作意欲をかきたてそうで羨ましい。
特別展「清方の芝居絵」を観ました。清方生誕130年記念だそうです。展示スペースはこじんまりとしていていますが、引出式の展示箱があったりして面白いです。旧家にお邪魔して、コレクションを閲覧させてもらう気分です。チラシも見開きで展示作を紹介しており、とても親切。墨のぼかしを巧みに使った助六がカッコイイ。芝居を取材した「寺小屋画帖」のスケッチも巧みで、話の筋がとても分かり易くまとめてあります。
なかでも目を引くのが、「対牛楼の旦開野」。色彩美しい美人画なのですが、その正体は八犬士の一人、犬坂毛野。雑誌の折込みピンナップを引き出した形での展示で、当時の文化が偲ばれます。その美しさに魅惑されながらも、でも男だしと唸ったんでしょうか。
鶴岡八幡宮へ出て、鎌倉国宝館へ。特別展「鎌倉の精華」を観ました。
1 彫刻 I:開館当初の出陳彫刻。鎌倉国宝館開館八十周年を記念して、開館当時の展示を再現しているとのこと。「地蔵菩薩立像」。照明の当たり具合で、見下すような冷たい視線を感じます。一人一人に暖かい視線を送っていたんじゃキリがないし、自分で頑張れと天界から見守るのが本来の立ち位置だよなと妙に納得。「十大弟子立像」。お手ごろサイズな十体揃い。写実的な造形が人間ぽくて親しみが湧く、というよりそこらのおっさんが並んでいる感じ。アーナンダは若々しく威厳を保つ。「水月観音菩薩坐像」。これまたお手ごろサイズの寛いだ坐像。細部まで良くできています。先日の「スリランカ展」の金ピカ観音様を思い出します。
1 彫刻 II:鎌倉彫刻の至宝。「愛染明王坐像」。本展の一押し。怒髪天を突く髪型に憤怒の形相、手に持つ武具も迫力あり、悪を叩き潰しそうな威厳に満ちています。二重の牙(?)も怖い。「明庵栄西坐像」。写実を重んじる鎌倉彫刻の中で、頭が異様に大きい。ちょっと妖怪じみていてインパクト大。「上杉重房坐像」。大きく開いた足組みがすごい。教科書で見た気がしますが、本物と御対面。
以降、2 絵画、3 書跡、4 工芸と続きます。
さらに足を伸ばして、神奈川県立近代美術館へ。近代建築の名作ながら、外装アスベストに耐震問題、建物の老朽化と課題も多い。「岡村桂三郎展」を観ました。全く未知の方なのですが、「第4回 東山魁夷記念 日経日本画大賞」を受賞された方とのことで興味が湧きました。
展示室に入ると、天井ギリギリまで立ち上がる巨大な木の壁が館内を埋め尽くします。厚みは5cmほど。それらが丁番でつながれて屏風のように連続します。作品を置くのでなく、展示室=作品。その表層は鱗のような微細なパターンが彫り込まれ、茶色系で着色されています。全体を見通せない圧迫感と、圧倒的な存在感、暗く抑えた照明と相まって、怪物の胎内に迷い込んだよう。恐る恐る進んでいくと、双頭の怪物が睨み合いながら牙を剥いています。正確には複数の作品が連続して配置されているのですが、何のキャプションも示さない展示方法から推して、この胎内を彷徨う感じこそが作家の意図だと思います。これが日本画。。。しばし言葉を失います。日本画の新境地を開くに相応しい大作。でも展示できるところは限られる。。。そのうちにいくつかは高橋コレクションと知って、その守備範囲の広さに感嘆。展示するあてはあるんだろうか。。。
駅へ戻る途中、若宮大路にて。三河屋本店。この右手には運搬用のトロッコ軌道。歴史的建造物が現役で機能している姿に、歴史の厚みを感じます。

2008年11月08日
●大琳派展(後期)@東京国立博物館

東京国立博物館平成館で開催中の「大琳派展 -継承と変奏-」の後期展を観ました。混雑緩和を狙って金曜日夜に行きましたが、結構な人出でした。
第1章:本阿弥光悦・俵屋宗達。「月に兔図扇面」。大胆な画面分割と可愛らしい兔。遊び心と洒落っ気が効いたスマッシュヒット。「黒楽茶碗 銘 雨雲」、「赤楽茶碗 銘 峯雲」。観れば観るほど好きになる、ザックリ切った切り口と、艶やかな光沢、黒とオレンジのコンビネーション。よだれがでそう。「群鹿蒔絵笛筒」。金地に鹿が群れる細い円筒。素晴らしいセンス。「子日蒔絵棚」。立面、水平面に連続する装飾が素敵。気がつけば光悦ばかり。
第2章:尾形光琳・尾形乾山。「秋草図屏風」。胡粉テンコ盛り。「竹梅図屏風」。金地に滲みの全くない墨絵。腕?特殊処理?
第4章:酒井抱一・鈴木其一。「燕子花図屏風」。大きく円を描くような花の並びが美しい。抱一の優美さに酔う。「兔に秋草図襖」。板を斜めに張った襖。その斜め線が効果線のように効いていて動きが感じられる。「月夜楓図」。濃淡で表現された美。前期の「白蓮図」を思い出す。「波図屏風」。光琳の「波図屏風」に感動して描いたという抱一の傑作。光琳の夜の静けさに対して、強く強弱をつけた線で荒々しい海を描く。抱一本来の優美さから大きく離れた作風に、彼の感動の大きさを思う。後期一押しの名品。「蔓梅擬目白蒔絵軸盆」、「四季草花蒔絵茶箱」。抱一の優美さと蒔絵の豪華さが共鳴した傑作。欲しい。「夏秋渓流図屏風」。金線で描かれた水流、写実的な木々、異様に大きなユリ、二重楕円に幾何された笹の葉、金で塗られた地面。リアルとデフォルメが入り混じる画面と、美しい色彩。新しい表現に貪欲に取り組む其一ならではの意欲作。根津美術館でも見たけれども、相変わらずの迫力。「流水千鳥図」。幾何模様のような水パターンが美しい。「蔬菜群虫図」。パターン化して作り物っぽく描きながらも、画面から生き生きとした生命感が感じられる不思議な絵。若冲の絵との関連性が指摘されていて興味深い。
作品一つ一つに力があるので、見応えは十分。その一方で、全体を通したときのストーリー性は希薄。なんとももったいない、けれども行かずにはいられない展示です。
2008年11月06日
●「近世初期風俗画 躍動と快楽(前期)」@たばこと塩の博物館
たばこと塩の博物館で開催中の「近世初期風俗画 躍動と快楽」展の前期を観ました。今回の展示は屏風をバンバン並べる見ごたえのある内容、前期と後期で大幅な入れ替えありという話を聞いて、期待度大。
4階展示室に入ると、それほど広くない展示空間に目一杯屏風が並びます。「醍醐花見図」の腰が曲がりつつも1人で歩く秀吉を観たり、「洛中洛外図屏風(歴博D本)」の良好な保存状態に感心しながら名所巡り区分を味わったり。細かく書き込まれた屏風が多いので単眼鏡を持っていないことを残念がったり。
中でも出光美術館の「桜花弾弦図」には目が釘付けになりました。お互いに視線を交わし、非常に生き生きとしている人物たち。箱の中まで描く手抜かりのなさ。胡粉(?)テンコ盛りの花びら。長煙管の驚くべき長さと細さ。
後期も期待大です。
2008年11月02日
●「特集陳列 中国書画精華」@東京国立博物館東洋館

東京国立博物館東洋館で開催中の「特集陳列 中国書画精華」を観ました。
辻惟雄著「日本美術の歴史」においては、中国美術が唐様[南北朝美術]として定着してゆく意義を認め一つの画期として取り上げています。また、中国絵画を手本にして江戸絵画が花開いたことも記憶に新しいです。そういった手本としての中国絵画を見る絶好の機会です。
李迪「紅白芙蓉図」。ほんのりと色づく花弁の描画は繊細でとても美しい。保存状態も美麗で文句なしの優品。梁楷「李白吟行図」。単純な線で的確な描写。伝夏珪「山水図」。よく物語とかで「ほう、夏珪ですな」とかって物知り顔なおじさんがいうところの夏珪。こういう絵を指すのか。「葡萄垂架図」。葡萄に虫。曼殊院旧蔵だそうで、若冲はこの絵を見たのだろうかと気になるところ。文伯仁「四万山水図」。視点低く画面いっぱいに描くクローズアップ描写が現代絵画を思わせる。李氏「瀟湘臥遊図巻」。素晴らしいパノラマ風景画。清の乾隆帝愛蔵品だそうで、そんなものが日本にあって良いのかと思ってしまった。徐渭「花卉雑画巻」。墨の濃淡、滲みを巧みに使った花卉図。
優品だけを集めた豪華展覧会。会場は空いていて、じっくりと観ている方が多かったです。惜しむらくは、2階に上がって奥のエレベーターに乗るという会場案内が分かり難いこと。かなり迷いました。
2008年11月01日
●特別展「スリランカ-輝く島の美に出会う」@東京国立博物館表慶館
東京国立博物館表慶館で開催中の特別展「スリランカ-輝く島の美に出会う」を観ました。
スリランカって島だったんだ!と思うほど知識がないのですが、仏教という共通フォーマットを、日本とは違うディテールで造形した美術品群という捉え方で観て回りました。
入口にあるムーンストーン(模造)が異国情緒を醸していて、期待感が高まります。入ってすぐにある仏足石(模造)は薬師寺で観たものと似ていて、フォーマットを共有していることを感じさせます。
第1章 アヌラーダプラ時代[前3~後11世紀]。ヤクシニーのくの字に折れたポーズと抜群のプロポーションが官能的。金剛手菩薩立像の繊細な衣紋が美しい。観音菩薩立像の寛いだ姿勢と金ぴかな体が美しい。カーマとラティ立像の男女一体の造形が、マジンガーZの阿修羅男爵みたい。アプサラス像の豊穣なイメージ。アシュバイン騎馬像は西洋絵画に出てきそうな出来栄え。
第2章 ボロンナルワ時代から諸王国時代[11~16世紀]。シヴァ・ナタラージャ像の馬蹄形のフレームの中で踊るシヴァ神の楽しげで躍動感にあふれる美しさ。踏まれてピースをしている邪鬼(?)も印象的。興福寺の天燈鬼を思い浮かびます。パールヴァティー立像の目は飛鳥仏を思い起こさせる杏仁型。ガネーシャ坐像とヴァーナハは象の神様がネズミに乗れるのかと素朴な疑問。
第3章 キャンディ時代とそれ以降[16~20世紀]。如来立像は象牙製。なんと贅沢な。なぜか突然巨大な浣腸器が!なんじゃこりゃ?と思ったら象用と解説にあり。横には耳かき。この章は豪華な装飾を施した日用品の展示に重きが置かれています。その分、前2章との関連が希薄でかなり戸惑います。
官能的で躍動的な仏様の姿は日本では見られないもので、とても魅力的です。その一方でユーモアあるお姿や衣紋の彫り込み等は日本との共通項に思えます。でも、浣腸器にすべて持っていかれました。スリランカは紅茶の国から象の国に印象が変わりました。
2008年10月25日
●「八犬伝の世界」展@千葉市美術館
千葉市美術館で開催中の「八犬伝の世界」展を観ました。
現代に続くロングセラー文学の世界を、江戸時代の浮世絵を中心に紹介するという点では、横浜美術館で開催中の「源氏物語の1000年」展と着眼点が似ています。あちらがかなり派手なプロモーションと内容(狩野考信「紫式部図」、岩佐又兵衛、上村松園「焔(大下図)」は強烈)で集客を狙う(でもなぜ横浜?)のに対して、こちらはいわばご当地もの。その差異に、両館の特徴を感じます。
1.「南総里見八犬伝」の誕生と曲亭馬琴。曲亭馬琴作 柳川重信ほか画「南総里見八犬伝」の全106冊揃+貸本用の木箱。これが貸本屋の必須アイテムだったという解説に、妙に親近感が湧く。大きく絵がありその隙間に字を詰め込む構成は、マンガに本当に近い。それにしても足掛け29年、全106冊は本当に大長編。読者層は入れ替わったのだろうか?笠亭仙果作 三代目歌川豊国等画「雪梅芳譚 犬の草紙」。仮名書きダイジェスト版。八犬伝の普及に大いに役立ったそうで、なるほど。一過性のブームから、現代へと続くロングセラーへの第一歩。犬の意匠が可愛い。
2.錦絵「犬の草紙」にみる八犬伝の登場人物たち。登場人物たちのブロマイド集。ダイジェスト版+ブロマイドでキャラクター人気を確立。現代だとマンガとビジュアルムック本のメディアミックス戦略。
3.八犬伝の名シーン。3大名シーンがあるらしいですが、No.1は芳流閣の戦い。歌川国芳「八犬伝之内芳流閣」大判錦絵3枚続は迫力十分。月岡芳年「芳流閣両雄動」大判竪2枚続の縦長構図も動きと緊迫感があって良い。現代なら大人気長編伝奇ロマン待望のアニメ化!という感じ。
4.八剣士が揃う。ブロマイドパート2。八剣士揃いもの。
5.八犬伝を熱演する役者たち。ついに待望の舞台化!人気スター大量出演!浮世絵の題材も舞台に取材したものが多いそうなので、じっさいには順番が逆。
6.八犬伝に遊ぶ。河鍋暁斎「新板福神八犬傳之図」。楽しげな八福神、千鳥の代わりに鶴が飛ぶ。
7.八犬伝、現代に生きる-進化するイメージ-。菱田春草「伏姫」から、辻村ジュサブロー「新八犬伝」人形、碧也ぴんく漫画「八犬伝」、スーパー歌舞伎「南総里見八犬伝」まで。現代において各メディアで再構築される「八犬伝」の軌跡。八犬伝は少年漫画だと思っているので、碧也ぴんくさんの漫画はちょっと意外。読者層は女の子が多そう。新しいターゲット層を掘り起こしたところで幕。
美術館というよりも、漫画記念館に迷い込んだ気がする展示でした。
中央公園では「ちば YOSAKOI 2008」前夜祭が開催中。数十人単位で踊りを披露。次の登場チームは舞台裏の歩道で待機していて、ちょっと不思議な場所と化していました。

2008年10月21日
●森川如春庵の世界@三井記念美術館
三井記念美術館で開催中の「茶人のまなざし 森川如春庵の世界」を観ました。「16歳で光悦の茶碗を入手した」というエピソードに惹かれて、楽しみにしていました。
展示室1。本阿弥光悦「赤楽茶碗 銘 乙御前」。19歳で入手したというもう一つの光悦作茶碗。その女性的な形と色合いに見惚れてしまいます。
展示室2。本阿弥光悦「黒楽茶碗 銘 時雨」。如春庵の世界の要。昭和42年から昨年まで公開できなかったそうですが、先日の「対決展」から間を置かず再見。大型展が競い合う中、大人気。残念なのは「乙御前」と別室での展示なこと。やはりこの2点は並べて観たかったです。
展示室3(如庵)。狩野常信「稲之図」(模本)を掛け、「青磁笋花入」を置く。「如春庵の世界」がもっとも垣間見えるひと時。
展示室4。伝藤原公任「石山切「をちへゆき・・・・・」伊勢集断簡」。料紙の継ぎの美しさにうっとり。「乙御前」とともに用いられたという解説に、さもありなんと納得。ここでいう茶会は、碗と書画をセットで楽しむ優雅な遊びと理解しました。佐竹本三十六歌仙切「斎宮女御」。かの有名な佐竹本断簡でも一番人気を誇る名品。2年前に「小野小町」を観て以来の佐竹本なので、超面食い鑑賞。鈍翁所持品を特別出品だそうですが、現在は個人蔵となっています。三井家が個人で所持しているのか、さらに流転したのか。如春庵が引き当てた「柿本人麻呂」は現在出光美術館の所蔵。
展示室5。「志野茶碗 銘 卯花墻」が、展示スペースの片隅に登場。国宝をあんまりな扱い。今回の展示内容に対して、この会場は狭すぎると思います。
展示室7。バーナード・リーチ「森川如春庵画像」。仙人のような風貌に驚き、納得。
「乙御前」、「時雨」が登場する冒頭は期待通り。けれどもその後が意外と希薄。一巡して、えっ、これで終わり?という感じです。「生涯数千回の茶会を催した稀代の数寄者の大コレクションを観るぞ!」と意気揚々と来て、肩透かし気味。会場が手狭気味なのと、展示替えが多いことが原因なのでしょう。最近流行の大量展示替えは、印象が分断されるので苦手です。碗と書画の組合せが醸し出す茶会の醍醐味をもっと感じたかったです。
三井タワー1階「千疋屋総本店」で腹ごしらえ。牡蠣フライカレ-とマロンシェイク。マロンの強烈な甘さが良かったです。

2008年10月19日
●大琳派展@東京国立博物館
東京国立博物館平成館で開催中の「大琳派展 -継承と変奏-」を観ました。
以下、素人感想メモです。
第1章:本阿弥光悦・俵屋宗達。「黒楽茶碗 銘 雨雲」。厚さをそのまま表す切り口、その大胆さに惚れ惚れ。「赤楽茶碗 銘 峯雲」。艶かしい輝きにウットリ。茶道のさの字も知らないくせに見惚れてしまう。「舟橋蒔絵硯箱」。黄金の海苔巻きオニギリ。大胆華麗、意匠の美。「子日蒔絵棚」。華麗な作りにウットリ。「白象図・唐獅子図杉戸」。画面いっぱいに描かれた図柄、意匠屋宗達の面目躍如。「槇楓図屏風」。光琳と並べると光琳のヘニョヘニョカーブが引き立つ。これらが引っ込んで、「風神雷神図屏風」4品揃いが実現するらしい(現在は光琳と其一の2品のみ)。出光美術館で3枚揃いはじっくりと鑑賞しましたが、鈴木其一「風神雷神図襖」は初見なので見られて嬉しいです。意外と大きいことにびっくり。そりゃ襖だし。漫画チックな描写にアレンジされている気がしましたが、後期に入ってからの観比べが楽しみです。
第2章:尾形光琳・尾形乾山。「燕子花図屏風」。門外不出の屏風、遂に登場。金、緑、藍の大胆な画面構成が鮮烈。でも根津美術館での展覧会の要としての展示の方が華やかさが引き立つ気がしました。「波図屏風」。メトロポリタン美術館から里帰りの名品。静かで重い夜の波?「竹に虎図」。目が点で可愛い。尾形乾山「立葵図屏風」。立体を並べたような絵。
第3章:光琳意匠と光琳顕彰。酒井抱一「瓶平図」。抱一の品の良さが感じられる。
第4章:酒井抱一・鈴木其一。「青面金剛像」。踊る金剛様。「松風村雨図」。抱一が描く浮世絵。「夏秋草図屏風」。光琳「風神雷神図屏風」の裏面。光琳ラブが高じて描いてしまったのだろうか?「紅白梅図屏風」。銀地に映える老若の対比。「柿図屏風」。右の余白の静けさと柿の鮮やかな赤。「四季花鳥図巻」。繊細な美。「柿に目白図」。赤い柿がポンポンと咲き、ボンボリのような軽やかさ。「百蓮図」。色を抑えてひきたつ美しさ。ここまで抱一、以降其一。「歳首の図」。上下の青、二重の構図。「四季花木図屏風」。四季、水辺オールスター。「朴に尾長鳥図」。たらしこみの独特の質感。「雨中桜花楓葉図」。要素を絞り込んだ、近代的な描画。「雪中竹梅雀図」。サーッと落ちる雪。
対決展との重複もあり、既に見た作品も多いのですが、それでもこれだけ揃うとお腹いっぱい楽しめます。金曜の午後は人出も大目。やはり琳派は人気があると実感します。
非常に独創性のある意匠集としての光悦、宗達。それを一大モードに仕立て上げる光琳。その薫陶を受けつつウットリとさせる世界を作る抱一、要素を絞り込み近代との橋渡しをする其一。副題にあるとおり、琳派の継承と変奏を体感する絶好の機会だと思います。特に後半の抱一、其一の作品を多く観られたのが収穫でした。
さらに本館でも琳派の名品を公開中。こちらは空いているので、じっくり観られます。

俵屋宗雪「秋草図屏風」。琳派の王道的構成。

尾形乾山「紅葉に菊流水図」。琳派展に一点、こちらにも一点。乾山の絵が見られます。

そして卑怯なまでに可愛い円山応挙「朝顔狗子図杉戸」。江戸絵画のスーパースターとして文句なし。

国立博物館を後にして、その後5時間の宴会が続いたのでした。
2008年10月11日
●北斎展記念講演会 小林忠「私の好きな北斎」@板橋区立美術館
板橋区立美術館で開催中の「北斎DNAのゆくえ」。その関連イベント北斎展記念講演会の第三回目「私の好きな北斎 -肉筆画を中心に-」を聴きました。講師は学習院大学教授であり千葉市美術館館長でもある小林忠さん。定員100名の会場に丸椅子を多数追加し、さらに立見まででる大盛況。130名くらい入ったのではないでしょうか。小林先生が理事を勤めておられる国際浮世絵学会の研究会を兼ね、学習院大学からも教え子の方たちが来られているとのことで、半ば小林先生を囲む会と化しておりました。
安村館長の軽い挨拶の後に、小林先生登場。
日本で最も有名な画家といえば「北斎」。「赤富士」は特に有名。北斎は1760年生まれ。2010年に生誕250年紀を迎える。1年遅れの1761年には酒井抱一が生まれている。2011年に千葉市美術館で「酒井抱一と江戸琳派展」を開催します。北斎漫画は名古屋で出版された(小林先生は一時期名古屋大学で教えられたそうです)。
北斎の生まれは葛飾郡本所割下水、割下水というのは道の真ん中に下水溝があるという意味。江戸東京博物館のすぐ近く。葛飾の(田舎者の)北斎という意味。「己(おのれ)六歳より物の形状(かたち)を写(うつす)の癖(くせ)あり」。1794年に勝川春章に入門。100回を目標に引越しを繰り返し、93回引っ越した。
誰にでも絵を教え、啓蒙という結果にもつながった。元祖マンガ家だった。「己痴群夢多宇画尽(おのがばかむらむだじえづくし)」。教師でもあった。老いて増々盛ん。臨終の床で「天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得べし」。88歳頃から手が震えるようになり、細い線が引けなくなる。短い線を慎重に繋いで描いている。
以降スライドを写しながら解説。口のすべりも絶好調。
葛飾北斎伝の裏表紙に載っている肖像画。弟子が描いたもので耳、鼻が立派。「八十三歳自画像」。本人が描くとだいぶ違う。
「冨嶽三十六景・凱風快晴」。赤富士。売れに売れた。版木が消耗して、最後は輪郭線がなくなった。浮世絵師は稀代のデザイナー。山の中腹の板目は版木が写ったもの。これがあるものが古い証。
歌川広重「東海道五十三次・庄野白雨」。北斎と広重は37歳離れているが、交友関係があった。
「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」。こちらは赤富士以上に有名かも。
歌川広重「東海道五十三次・蒲原夜之雪」。「対決展」で「北斎vs広重」をどうして出さないのかと言われたが、私が抑えた。13の対決に浮世絵から二つ出るのはおこがましい。年中観られるし。
広重は北斎を「画面構成、デフォルメが面白い」と評し、「私の絵はシーンを写している」と写生の大切さを説いている。しかし海外の研究者には、広重は写生っぽく描くのが上手く、観察に基づいて描くのは北斎と評す人もいる。広重は文化的、北斎は理科的。
ボストン美術館スポールディング・コレクションをデータ化するお手伝いをしているが、そのチェックの際に見つけたこと。歌川広重「桶作りの図」は「冨嶽三十六景・尾州不二見原」の人物と桶をそのまま写している。そこからは見えないはずの富士山も、北斎の例に倣って描いている。広重は正直に「葛飾翁の図にならいて」と書いている。そうとはいえ、背景の田圃を水辺に変えているあたりに意地が感じられる。
「夜鷹図」(細見美術館)。宗理期初期の傑作。上手。
「横たわる花魁図」(グリリ・コレクション)。対角線に分割された画面右下に花魁、左上に京伝の賛。宗理期の特徴である繊細で柔らかい描画。コレクターのピーター・グリンさんは、松坂をボストンに呼んだ人。ボストンの素晴らしいプロモーションフィルムを作って送った。
「鏡面美人図」(ボストン美術館ビゲロー・コレクション)。ほおずきを咥えた美人画。
「夏の朝」。男の着物を架けた裏で、髪を直す女。足元に金魚。日本にはこんな奥ゆかしい文化がありました。
「酔余美人図」。氏家コレクション。こんな風に女性を酔わせてみたいものです。私はそんな世界知りませんが。
「二美人図」。最高の美人画。花魁と地女?三つ葉葵の紋から将軍のために描かれたと分かる。内藤正人「浮世絵再発見」において、小林忠が最初に指摘したと書いてある。彼は師を敬う良き教え子。
「大原女図」(ボストン美術館ビゲロー・コレクション)。北斎のチリチリ!
肉筆画の工房制作。魚屋北渓「月に吠える虎」と北斎「雪中猛虎図」。北渓は北斎門下で一番上手い。北斎DNA90%。それでも北斎の肉感溢れる皮膚表現が、北渓画では表層の紋様に変化してしまっている。固いこと言わずに大らかに見て欲しい。葛飾応為「吉原格子先の図」。抜群に上手い。光と影の描写。
「西瓜図」。画中に應需、北斗七星が描かれている。天皇のために描かれたと思われる。こちらも教え子の発見。
「対決展」の「放談」では抑えた語り口でしたが、今回は非常に滑らかな口調で小林節全開。とても面白い講演会でした。
2008年09月23日
●狩野芳崖 悲母観音への軌跡@東京藝術大学美術館
上野の東京藝術大学美術館で開催中の「狩野芳崖 悲母観音への軌跡」を観ました。行こうと思いつつ気がつけば最終日。ギリギリ滑り込みました。「近代日本画の祖」と称される画家の代表作を芯に据えての回顧展。辻惟雄著「日本美術の歴史」で知って以来、観たいと思っていた「悲母観音」、「仁王捉鬼図」とようやく御対面です、
展示は回顧展らしく、若き日の作品から始まります。「山水図」における雪舟に学んだ自然描画を踏まえつつ螺旋の塔のように描く空間性、「八臂弁才天図」における雲や雷で空間ニッチを作り出す構成力。後の代表作へと続く萌芽が見られます。でも全体的にはけっこう地味な感じです。上手いけれども突出する感じはありません。
それがフェロノサとの出会いを機に一気に花開きます。「仁王捉鬼図」のコミカルな表情と躍動感あるポーズ、豊かな色彩は現代的なセンスに満ちています。特に掴まれてジタバタする子鬼が可愛い。「大鷲」の意表をつく巨大さは北斎を髣髴させます。
そして室を変えて、「悲母観音」へ。その前身となる「観音」の構想が、実はフェロノサと出会う前という意外な指摘。孫の誕生が影響を及ぼしているという指摘。下絵段階では羽を持った天女の構想もあったという事実。サイドストーリーが積み重なって、絵の奥行きが形成されて行きます。そして厨子状の囲いの中に「悲母観音」。手に持つ水瓶から流れ出る水が赤子を包む水球へと流れ込む独特の構図、観音の優しげな表情、彼らを包み込む雲。その優しく儚い美しさは、芸大初代教授に任命されながらその誕生を待たずに亡くなった画家の薄倖の人生が重なるようです。最後に非母観音の影響が伺える絵画の数々を紹介して終了です。
個人的に「当たり外れが大きい美術館」の企画展の中で、上位にランクインする内容でした。
2008年09月16日
●ベルギーロイヤルコレクション展(前期)@太田記念美術館
太田記念美術館で開催中の「ベルギーロイヤルコレクション展(前期)」を観ました。評判が良いので気になっていましたが、なんとか滑り込みました。
ダントツにインパクトがあったのはチラシ表紙にもなっている歌川国貞「大当狂言之内 菅丞相」。赤い隈取の顔に手を組み、口に梅を咥えながら眼光鋭く睨み付ける道真の躍動感と迫力は、自信と野心に満ち満ちた国貞が重なっているようです。鑑賞の絵というよりも魔除けに近いです。
色彩の美しさでは鈴木春信「五常 義」が素晴らしいです。格子のピンク、襖の朱、着物の裾からのぞく朱と縞模様の対比。雲母摺りが綺麗に残る作品が多く並び、往時の浮世絵の美を華やかに伝えてくれます。
ユーモアという点では歌川国芳「金魚づくし」シリーズ。色鮮やかな金魚たちが、ヒレを手足に見立てて擬人化されています。立ち上がり、傘を手に持ち、踊りだす。空からは雨の代わりにアメンボウが降ってくる。舌なめずりしながら様子を伺う猫にハラハラ。色彩豊かで軽やかで楽しい。
前期後期を通して出展されるのはわずかに8点(太田記念美術館蔵は除く)。それ以外の70点以上が全て入れ替わるという、なんとも悩ましい展覧会です。
2008年08月09日
●町田久美-日本画の線描@高崎市タワー美術館
高崎市タワー美術館で開催中の企画展「町田久美-日本画の線描」を観ました。
第1部 日本画の線描。小川芋銭「山村春遍・秋浦魚楽」。すっかりお馴染みの河童の芋銭が描く、のどかな田園風景。北関東には欠かせない画家。吉川霊華「王仁」。渡来人「王仁博士」!子供の頃、王仁公園によく泳ぎに行きました。吉川霊華「不盡神霊」。左右の人物が精度良く縮小されていてコピーのよう。蔦谷龍岬「御堂の朝」。大きくて見応えあり。中村岳陵「童謡」。マイルドな蕭白。安田鞭彦「かちかち山」。安田版鳥獣戯画。絵物語。
第2部 町田久美。近代日本画から現代へとつなぐ構成は秀逸。スタッフの方もとても親切で好印象。細い線を重ねて生み出す強い線。単純で力強い構成に見えて、繊細で不気味。その明るくザラザラした感触が絵に唯一性をもたらす。他方、絵の価値が一緒に暮らせるかどうかだとすると、この絵は私にとって対象外。心地良さだけが価値ではないと思いつつ、どうにも入りこめないもどかしさが残りました。
2008年08月05日
●特別展「対決 ―巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
特別展「対決 -巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決を聞きました。「奇想」ブームの仕掛人、辻惟雄先生登場!
内容が決まっていなかったので、曖昧なタイトルにした。12組24人分話すと一人3分ほどになってしまうので、1組に絞って話すことに。取り上げるのは伊藤若冲と曽我蕭白。
伊藤若冲。光琳が亡くなった年に生まれる。新興商人階級。京都錦小路の青物問屋枡源の跡取り。新しい層にも芸術を楽しむ人が出てきた。23歳で家業を継ぎ、40歳で隠居。女性が苦手か、生涯独身。相国寺大典禅師によると、売られるスズメが可哀想と全羽買って庭に放す。芸者遊びをしない。ただ、絵が好きだった。人間嫌いか、人物画は上手くない。花鳥画に絞る。中国では写生が流行っていると聞き、庭に鶏を放って写生。40で家督を譲ってデビュー。
「虎図」。正伝寺の伝毛益筆虎図を模写。見事にデザイン化していて、元絵よりも良い。
「旭日鳳凰図」。尾羽のハート。
「動植綵絵」。去年公開したこともあって、借りられず。「梅花小禽図」。若冲独特の淡いイメージ。「南天雄鶏図」。火の粉が背中から落ちてくる怖いイメージ。「棕櫚雄鶏図」。画面左上に穴が開いている。向こうからこちらを見ている気になる。「群鶏図」。山下清。「老松鸚鵡図」。ドラッグ?サイケデリック。
以降、「野菜涅槃図」、「仙人掌群鶏図襖」、「菜蟲図巻」、「石灯籠図屏風」を経て、「石峰寺本堂天井花卉図」へ。現在は信行寺蔵。非公開だが、複製を作って公開するという話もある。水仙のダンス。
曽我蕭白。蝦蟇仙人に見られる、水木しげるのようなユーモア。二人が並ぶと、残念ながら蕭白の筆に若冲が押される。蕭白は下品で字も下手。こういう人が登場できる時代になった。
30歳の作「久米仙人図屏風」。蕭白の作品は、ボストン美術館が大量に購入した。日本での知名度の低さの一因かも。
「寒山拾得図屏風」。エキセントリック。「寒山拾得図双幅」。妖怪仕立て。「達磨図」。白隠の影響?村上隆「目を見開けど実景は見えず。ただ、己、心、凝視するばかり也」は本作の現代的再生と思える。なかなかの迫力。「雲龍図」。クローズアップによる怪獣出現に似た迫力。
「群仙図屏風」。これは面白い。怪作。まともな神経で描いたとは思えない、ギリギリのところで成立する面白さ。「唐獅子図」。壁から剥がした際に墨が薄くなったのが残念。筆使いの荒々しさは残っている。酒の力を借りた滅茶苦茶な絵。堂々とした構成力。「商山四皓図屏風」。何年かして、大ボストン展で来ると思う。期待して下さい。「月夜山水図屏風」。気味が悪い。「石橋図」。谷に落ちる犬、崖を登る犬の群れ。無数の犬。上手く描けている。
蕭白の絵は偽物が多い。人気があった証拠。若冲「朱衣達磨図」は蕭白の絵を若冲がからかって描いた絵か?両者の交友を示すかも。
質疑。「蕭白は鬼才だと思いますが、後世に与える影響といったことを考えると巨匠といえるのでしょうか?」
蕭白、そして若冲もどちらかというとインディペンデント。巨匠というのは言葉のあやの部分もある。はじめは「巨匠名匠 対決展」としようと思ったが、「巨匠」だけにした。どうしたらお客さんがたくさん来てくれるかを考えて、対決形式にした。蕭白の場合、「成り上がってきた大物」といった方が正しいかも。ごちそう山盛りの展示になった。
上記は私の質問です。前回の講演会で気になったことを、そのままお聞きしました。辻先生の蕭白好きがヒシヒシと伝わって来ました。
2008年07月31日
●特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念座談会
「対決展」を俄然面白くするイベントの一つ、「記念座談会」を聴きました。第一部「巨匠対決のみどころ」、第二部「放談 巨匠対決」の二部構成ですが、目当ては当然二部。
第2部 「放談 巨匠対決」
司会:松原茂(東京国立博物館上席研究員)
パネリスト:河野元昭(『國華』主幹)、水尾比呂志(『國華』名誉顧問)、小林忠(『國華』編集委員)
対決というタイトルについて
河野:明治20年の創刊以来2008年で119年、数えで120年。学術雑誌として研究の蓄積を活かした展覧会であるべきという一方で、日本美術への関心の高まりを踏まえて、観て楽しい展覧会であるべきと考えた。その結果、「対決」に決まった。
対決の選択について
水尾:(せっかくの機会なので)無名の大家を作ったらどうかと思った。しかしそこまで対象を広げるのは不可能なので、巨匠、名匠に限った。
実現しなかった対決
小林:北斎vs広重。日本美術を振り返るには、浮世絵から二つは差し出がましい。空海vs最澄。展示が平安時代まで遡れて好都合。だが二人を巨匠と呼ぶのは差し出がましいと思った。
注目の対決 (各先生が担当された対決)
水尾:永徳vs等伯。永徳の細かい描写の代表作、洛中洛外図屏風。信長から上杉へ渡った作品。祇園祭の山鉾巡行も登場。等伯の楓図。以前はお堂に飾られていたが、今は収蔵庫に納められている。ともに残念ながら借りられず。長次郎vs光悦。名椀を一堂に見られる機会。長次郎「黒楽茶碗 銘あやめ」、光悦「白楽茶碗 銘不二山」があれば完璧。残念ながら借りられず。長次郎は侘び茶の精神の体現、光悦の造形能力。
河野:宗達vs光琳。風神雷神図屏風は最後の一週間のみ登場。是非もう一度来て下さい。宗達は町絵師。レディーメイドの絵を売っていた。扇屋だったという説もある。その才能が認められて、法橋まで上り詰めた。水尾先生の名作「扇面構図論」。ユーモアの宗達vsシニカルな光琳の美の対決。光琳は風神雷神図の表面に法橋光琳と書いた。新しい時代が来ていることを体現している。
若冲vs蕭白。辻惟雄「奇想の系譜」、昭和43年著、出版は45年。新しい時代への欲望が開いた時期に書いた。蕭白は縄文、若冲は弥生。寒山は火焔土器、石灯籠は弥生。
小林:國華の前の主幹は辻先生。最近、河野先生と歩くのが恥ずかしいといっておられる。辻先生の紹介で東博にいたとき、群仙図屏風を買う機会があった。上司の「あんな下品なもの」という一言で、一瞬にして逃した。大雅vs蕪村。それほど親しくなかった。ある収集家(?)の企画で十便帖十宜帖が実現した。全部を展示できないので毎週入替。歌麿vs写楽。ポッピンを吹く娘。
最後に一言
河野:応挙vs芦雪。師弟対決。写生vs個性。虎対決。ずっと出ているので、今日観れば充分?でも、また来て下さい。
水尾:対決が蔓延しすぎ。対決は河野先生の発想。対決をもっと広い意味(弟子、全く知らない同士等)で捉えて欲しい。
河野:チラシを見て下さい。対決が一目で分かるよう名前を並べました。相撲の星取表を付ける感覚で見て欲しい。
小林:鉄斎vs大観。雲中の富士に祝福されて会場を出て欲しい。組み合わせを変えて見ても面白い。
始終ニコニコと活発に発言される河野先生、重みのある雰囲気で國華の威厳を体現する水尾先生、丁寧な言葉遣いで良識を司る小林先生。三者三様の明確なキャラ立てで、とても楽しい座談会でした。惜しむらくは二部構成としたことで時間がとても限られたこと。でもライブ感覚で面白かったです。
●東京アートツアー 乃木坂
東京アートツアー二日目のラスト。日本の夏に浸った後は、西洋絵画。国立新美術館で開催中の「ウィーン美術史美術館蔵 静物画の秘宝展」を観ました。日本絵画は空間に溶け込み、西洋絵画はとても大切な装飾の要素という気がします。
西洋絵画を見る際に気になるのが、依頼主の存在と絵のモチーフ。王侯貴族から裕福な商人、そして庶民へと依頼主層が変化してゆくにつれて絵のモチーフも変化してゆきます。そして約束事で縛られていた画面が解放されてゆきます。絵の知識がないので、そこをパラメーターにして観るのが最近のパターン。もちろん専門知識はないので、今回は展示ホームページ上の解説「静物画の秘密を読み解く」で軽く予習をしました。今回はコレクターの方と一緒に観たので、その視点も興味深かったです。
「第1章 市場・台所・虚栄の静物」。どうして解体された牛といった画題を選んだのだろう?という疑問に、台所に飾るからでは?といわれ、ちょっと目からウロコ。家中に絵を飾るとすると、色々な題材の絵が必要になるわけですね。アントニオ・デ・ペレダ・イ・サルガド「静物:虚栄」。細やかにリアルに描き込まれた華やかな装飾品と死の暗示対比。天使の羽も美しい。描き手の技量によってこうも絵が変わるものかと驚く。
「第2章 狩猟・果実・豪華な品々・花の静物」。コルネーリス・デ・フェーム「朝食図」。とても瑞々しい果物の描写。オイスターのリアルさもすごい。やはりダイニングに飾ったのだろうなあとその情景を思い浮かべる。ヤン・ブリューゲル「青い花瓶の花束」。細密、バランス、鮮やかさ。花卉図の定番。彼とその前に並ぶアンブロシウス・ボスハールト「花束」が花卉図を完成させた二大画家と聞いてフムフムと見入ってみた。
「第3章 宗教・季節・自然と静物」。ヤン・ブリューゲル、ヘンドリク・ファン・バーレン「大地女神ケレスと四大元素」。女神を囲んで四大元素を描いた本作、でも一つ欠けている。解説とは少し違う解釈の謎解きに、しばし迷い込む。
「第4章 風俗・肖像と静物」。ペーテル・パウル・ルーベンス「チモーネとエフィジェニア」。豊穣で美しい色彩に漂う怠惰な情感。やっぱりリビングに飾ったんだろうなあ。大胆だこと。ヤン・スーテン「農民の婚礼(欺かれた花婿)」、ヘーラルト・ダウ「医師」。ともに上手い!
最後に満を持して、ディエゴ・ロドリゲス・シルバ・イ・ベラスケス「薔薇色の衣装のマルガリータ王女」。細密画を観てきた後だけに、意外と粗い筆遣いにちょっと戸惑う。定期報告用に描かれた肖像画という解説を読んでビックリ。どうにも入り込めず。
見応えのある絵が何枚かあって、「絵を観た」という心地よい満足感に浸りました。WEB上での丁寧な解説や、ミッドタウンでの割引サービスと、イベントとしてのバランスが良いです。
2008年07月30日
●東京アートツアー 日本橋、原宿

日本橋に移動して、三井記念美術館へ。ここに来ると、三井ブランドの肝は、表層デザインに一手間かけるところだと感じます。呉服屋のDNAなのでしょうか。そして「ぐるっとパス」デビュー!「特別展 美術の遊びとこころIII NIPPONの夏」を観ました。美術品で辿るNIPPONの夏の楽しみ方。
I. 朝の章 ~朝顔と涼の粧い~。冒頭に鈴木其一「朝顔図」。当日朝の日曜美術館で何故に其一?と首を捻りながら其一特集を見ていたので、「おお!」と思いました。放送中にここで公開中と一言入れてくれればいいのに。たらしこみの葉、朝顔の青が美しいです。葛飾北斎「夏の朝」。足元に朝顔、金魚の細かい描写。蒸し暑い日本の夏を涼やかに感じる感性。
II. 日盛の章 ~涼を求めて水辺へ~。円山応挙「青楓瀑布図」。サントリーで見逃した滝に、こちらで初対面。昨日は「保津川図屏風」、今日は「瀑布」と応挙大人気。縦長構図の画面に青楓が涼を誘います。もっとも、個人的には縦構図の滝はプールみたいで今一つ。庭園へと流れ出る、金刀比羅宮表書院の滝が思い出されます。
~夏のデザイン~。「櫛・簪・紙挟み・楊枝入」。リアルで動きのある動物たち。蟹がチョッコリのった櫛(だったかな)が可愛い。「色ガラス棒虫籠」。オシャレなガラス棒製の虫かご。見ているだけで涼やか。
~涼のうつわ~。「ぽっぴん」。対決展で見た、歌麿の美人画を思い出します。放談で小林先生が触れておられて印象に残っていました。
III. 夕暮の章 ~夕立と夕涼み~。喜多川歌麿「寒泉浴図」。背中のピンクが色っぽい。さすが歌麿。祗園井特「納涼美人図」。濃いめの顔つきと細かい描写が印象的。歌川国貞「両国川開図」。人でいっぱいの橋、待ちに待った川開き!といった風情。実際の人ごみは苦手ですが、絵で見る風景はとても楽しげ。
IV. 夜の章 ~夏夜の楽しみ方-舟遊び、花火、蛍狩~。蹄斎北馬「納涼二美人図」。優雅に船で寝そべる二人。
江戸の夏にまぎれこむ一時。肩が凝らずに楽しめます。千疋屋総本店 日本橋本店で食べたマンゴーソフトクリームも美味しかった。東京メトロ一日乗車券で割引あり。
その一日乗車券で足を伸ばして、太田記念美術館へ。「江戸の祈りと呪い」展を観ました。浮世絵を題材に、祈り、呪いの道具、風景を紹介します。名所江戸百景等は以前の展示解説の使いまわしですが、夏の日に浮世絵は相性が良いです。まったりと鑑賞、おみくじも引いて、ちょっとした縁日気分を味わいました。ちなみに運勢は末吉。
2008年07月29日
●東京アートツアー 竹橋

週末東京アートツアー二日目は、竹橋から。
東京国立近代美術館で開催中の展覧会をハシゴ。
「カルロ・ザウリ展」。イタリア現代陶芸の巨匠の回顧展。視覚的なインパクトを優先しているのか、展示作品が時系列に沿っていないことに戸惑う(作品リストは時系列順)。
I 1951-1956。マジョリカ陶器の美しい青。III 1962-1967。壷、皿といった名称をボリュームとしてのみ残しつつ、釉薬、表層、形態を追及してゆく変化。陶芸という言葉にこういう世界が含まれていたことを知る。光悦みたいだ。IV 1968-1980。ボリュームの捉え方に建築的な要素が垣間見える。「地中海の形態」とか。ひたすら実験を繰り返し、結果としての形態に名を与える。琳派に似てる?V 1981-1991。更に変化を続けるその先。「歪められた欲望」のぺしゃんこの形態が印象的。VI グラフィックタイル。ミクロなパターンでマクロな空間を覆うダイナミズムへのツール。最近流行ってる。並べるとどういった効果を生むのか観てみたかった。
「建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳」。青森県美への予習のつもりで観る。それにしても何故に二人展?
青木淳はスタディ模型に自身のコメントを添える形で、プロジェクトの検討過程を綴る。「カメラ」といった、本来のプランニングとは関係ないキーワードを巡って繰り返される思索の軌跡は、確かに興味深い。そして始まりも成果も示さず、スタディ模型で始まりスタディ模型で終わる構成からは、「過程の一部を取り出した」感が強く現れている。
ペーター・メルクリは実在のプロジェクトとは直接関係ないというドローイングの数々が並ぶ。それに学芸員のかたのコメントが添えられています。どういうわけか、これがどうにも馴染めず興味を失った。
クイーンアリス・アクアで早めにお昼。テラス席から見える皇居の緑、青いグラスとペットボトル、美味しい食事。近美の迷走と対照的な、計算し尽くされた演出。
2008年07月28日
●東京アートツアー 東博

先々週末は一日、東京国立博物館三昧でした。
待ちに待った特別展「対決-巨匠たちの日本美術」展初鑑賞。

12組の対決という掴み易いキャッチコピーに合わせて展開される、豪華絢爛日本美術通観展。キャラ的にはやはり永徳vs等伯がいちばんしっくり来ます。
運慶vs快慶。出品作の都合で地蔵菩薩対決。このジャンルに絞れば、赤く唇さし、薄手の着衣を纏い、波型台座に乗る快慶仏に軍配を上げます。質実剛健な鎌倉彫刻の覇者、運慶の造形ももっと観たかったですが、そちらは大日如来でどうぞという趣向。運慶像も展示中。
雪舟vs雪村。ともにこれが室町?という驚きに満ちた絵画。雪舟「梅花寿老図」で梅の冠を抱くような構成、濃い老人の顔立ちで軽くジャブ。雪舟「慧可断臂図」の濃厚でリアルな表情、赤く塗った唇。慧可の胡麻塩頭も撫でてみたくなる出来。風景画に通じる洞窟の描画と、達磨の輪郭を薄墨でなぞる描法。今観ても古さを全く感じさせない不思議な絵。雪村「呂洞賓図」。大きく腕を開き、全身で龍と向かい会う仙人。頭からは龍が立ち上る。見得きりポーズがピシッと決まる。カッコイイ。こちらもとても現代的。これで山水図があれば完璧と思ったら、後期に出展とのこと。雪舟あっての雪村という理由で、雪舟に軍配。
永徳vs等伯。あっという間に安土桃山時代。永徳「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」。新発見!若き天才の筆裁きの見事さ。永徳「花鳥図襖」軽やかにリズミカルに咲く梅の見事さ。「洛外名所遊楽図屏風」。緻密に書き込まれた細部からは、絵画大好き青年永徳の面影が伺えます。一気に下って最晩期「檜図屏風」。ねじくれのたうつ幹と枝。相変わらずの迫力と狂気。この絵を持って新しい時代の幕開けという音声解説はどうかと思った。等伯「松林図屏風」。巨匠同士の文字通りの対決。ともに悲しみを秘めた大作なところが、少々寂しくもあり。今回は永徳に軍配。2年後(?)に京博で開催される「等伯展」に期待を持ち越し。
長次郎vs光悦。利休の目指す茶道のために実直に製作する長次郎と、才気の閃きのままに釉薬を操る光悦。光悦「黒楽茶碗 銘時雨」の内側だけ施された釉薬の艶かしさ。光悦「赤楽茶碗 銘加賀光悦」の刷毛目遣いによる掠れ、微細なひび割れ。光悦「舟橋蒔絵硯箱」の大きく盛り上がった形態に海苔巻きのように太い帯。光悦筆宗達下絵「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」の流れるような絵と書のコラボレーション。光悦の才気にメロメロ。
宗達vs光琳。宗達「松図襖」。新しいモードを作り出す明確な意思。宗達「蔦の細道図屏風」。噂の名画と遂に対面。大胆な画面構成と色彩、どこから道でどこからが蔦かと迷う不思議な構成。光琳「白楽天図屏風」の緑の山うねうねな構図と三角形の波。光琳「菊図屏風」の胡粉テンコ盛りの表現。常に新しい技法に取り組む貪欲な姿勢は互角、天賦の才は(今回の展示に関しては)圧倒的に宗達。
応挙vs芦雪。芦雪「虎図襖」。どう見ても猫なのに、目が離せない虎。その大きすぎる前足、つぶらな瞳。応挙「保津川図屏風」。白糸の滝が美しい絶筆に、一年を置かずに再会。写生に重きを置き、真摯な姿勢で絵画に取り組む姿勢は応挙。写生だけでは踏み込めない領域に踏み込む勢いでは芦雪。キャラ愛好の現代を反映して、わずかに芦雪。
若冲vs蕭白。今をときめく奇想対決。若冲「仙人掌群鶏図襖」。一年に一度しか公開されない襖をありがたく鑑賞。異形のサボテン、お得意の群鶏。これだけでも観る価値あり。蕭白「群仙図屏風」。辻ワールドの代名詞、遂に登場。コッテリかつ色鮮やかな画面。美醜の境界が揺らぐ、俗っぽく濃密な仙人たち。その異形の世界を描き切る技巧と執念はすごい。蕭白「唐獅子図」。墨の描画も巧み。そのしかめっ面は脳裏に焼き付く。今回の展示作だと、その濃厚なインパクトで蕭白。でも蕭白は一代限りの鬼才に思えるので、後世への影響も含めて評価されるべき「巨匠」という位置付けは疑問。時代と共に移ろう「美の評価軸」が、キャラモノに振れた証と捉えるべき?
「「国宝展」に比肩する展示」との評判に違わぬ内容に満足です。

東洋館前のオープンカフェで一息入れて、記念座談会「放談 巨匠対決」を聞く。キャンセル待ちの列が出来る盛況に、日本美術ファンの層を感じる。内容については別エントリーにまとめます。ちなみに8/2の記念講演会「美と個性の対決」は落選。残念無念。
「レストラン ラコール」で一休み。お昼も東博、おやつも東博。

表慶館「特別展 フランスが夢見た日本―陶器に写した北斎、広重」。絵付テーブルウェアと、その元絵の浮世絵等との並列展示で観るジャポニスムの影響。丸皿に広重の浮世絵を上手く取り込んだ作品が良かった。暁斎の作品を元にしたものが多数あったのが印象的。
本館「特集陳列 六波羅蜜寺の仏像」。冒頭の「僧形坐像(伝平清盛)」の写実的な表現に目を奪われる。これが清盛か。手に持つのは厳島の奉納した写経だろうか。「地蔵菩薩立像」の前垂れの細やかな細工、彩色、優美な造形。さすがにお美しい。「薬師如来坐像」のちょっとお顔の大きめなプロポーション、部分的に残る金色の彩色も、高貴でありながら親しみが湧きます。「伝運慶坐像」は、勇壮な造形とはちょっとイメージが違った。息子の「伝湛慶坐像」の方が良い男。どちらもパワフルそう。「閻魔王坐像」の首が胴に埋まったボリュームのとり方が迫力あり。
おとなりの部屋で、話題の大日如来像の横に鎮座する「十二神将立像 巳神」。柔和な仏様と対照的に、恐ろしい表情。特に目が怖い。最後に観たこともあって、本日のイチオシ。

帰り道。不忍池の弁天堂参堂に夜店が並ぶ。日本の夏!
2008年06月17日
●国宝 法隆寺金堂展@奈良国立博物館、法隆寺

愛知の次は奈良へ。待ちに待った「国宝 法隆寺金堂展」開幕。
一時間ほど早めに現地入りして、東大寺裏参道辺りを散策。

南大門の金剛力士立像。やはり運慶、快慶といえば、この像。その筋骨隆々の威容は、質実剛健な鎌倉彫刻の傑作として申し分なし。

そして奈良博へ。開館後10分ほど経った様子。特に列もなく、スムーズに入館。
1,300年を超える歴史を持つ法隆寺金堂の中に納められた仏様たち。その尊顔を明るい照明の下で観られる、今世紀最後の機会。一連の再現壁画を一点と数えれば、展示数わずかに17点。うち国宝、重文14点。混雑というほどの状態でもなく、一時間くらいで観終わるかと入場。その異様に濃密な展示品の数々に、足が全く進まなくなりました。
はじめに飛天。かろうじて焼損を免れた、飛鳥の至宝。七星剣の彫りを眺めて、再現壁画へ。印刷ながら見ごたえ充分。ガンダーラ仏の影響が強いのか、とても写実的な描画、鮮やかな色彩。こんな壁画が金堂を荘厳していたかと思うと、もう悶絶。焼損は本当に残念無念の極み。でも想像するに足る再現画と会場構成に感謝。
そして四天王の一つ、多聞天。玉虫の羽を敷いたとある杖の透かし飾りはよく分かりませんが、金堂にいよい