2008年04月27日
●「国宝 法隆寺金堂展」前日招待 by asPara
奈良国立博物館で6/14から7/21まで「国宝 法隆寺金堂展」が開催されます。その前日招待申込がasParaで5/7まで受付中です(募集人数200組400人、応募多数の場合は抽選)。asParaは朝日新聞の無料会員サービスですが、購読、未購読に関わらず、誰でも会員登録をすれば申し込めるようです。当選する確立は宝くじみたいなものだと思いますが、個人的には絶対行くつもりの展示なので、申し込んでみました。
本展の見所は、普段は暗くて観えない金堂内部の仏像、天蓋、台座や、周囲を取り巻く再現壁画などが展示されることです。飛鳥時代の遺構が現存すること自体が奇跡ですが、その白眉たる法隆寺金堂の内陣の多くの部分をじっくりと観られるまたとない機会です。東では「国宝 薬師寺展」、それが終わるや否や西で「国宝 法隆寺展」。そして来年は阿修羅像を始め八部衆像が東に来られるとのことで、仏様もお忙しそうです。
2008年04月25日
●ウルビーノのヴィーナス@国立西洋美術館
上野の国立西洋美術館で開催中の「ウルビーノのヴィーナス」展を観ました。副題は「古代からルネサンス、美の女神の系譜」です。
展示は5章からなりますが、大きくは3段階で構成されていると思います。古代ギリシアから始まる彫刻美の世界から、ルネサンスへと至って官能美溢れる像へと変化し、さらに時代が下って物語の中の登場人物としてより普遍化されてゆく。その変遷を絵で辿ってゆきます。
展示のハイライトは、やはり「III 《ウルビーノのヴィーナス》と"横たわる裸婦"の図像」。ティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」。暗めの背景にくっきりと浮かび上がるヴィーナスの体、彼女を包む白いシーツの確かな質感、手からこぼれるに真紅の薔薇。その存在は溜息が出るほど美しいです。ミケランジェロの下絵にもとづくポンモルト「ヴィーナスとキューピッド」。ミケランジェロが描く男のようなヴィーナス。でも人気があったそうな。この部屋で満足してしまって、他の部屋の印象は薄くなってしまいました。
ウルビーノは学生の頃に6日間滞在しました。それだけに楽しみにしていたのですが、今回の展示はどこかとっつき難く気がしました。予習不足もありますが、彫刻が並ぶ前半がそう思わせるのか、もう少し興味を惹く解説があった方が良かったのか。いっそのこと第3章だけに絞って、観覧料を抑えてもらった方が良かったかもと思いました。

国立西洋美術館の地下にある免震装置。ゴムダンパーで建物を浮かせています。既存の建物の下を掘って、後付で取り付けてあります。ここにくる前に免震構造の話をしていたので、興味深く見ました。

その後は、なぜか「薬師寺展オフ」へ。展示を見たのは1週間前ですが、ちゃっかりと2次会から参加させてもらいました。色々な話が出来て、とても楽しかったです。どうもありがとうございました。
2008年04月22日
●応挙旅に出る。-波乗り篇

今朝の羽田空港にて。
そういえば、あの看板どうなったんだろうと思ってのぞいてみたら、こんなになっていました。

金刀比羅印の宝船に、花卉図を盛り付け、猫バス虎に、こんぴら狗に、若冲燕。その他大勢大集合。目指すは三重、そしてパリ。

空飛ぶ魚に驚くサーファー貴族。

そして宮司さんと田窪さん?もはやなんでもありです。
面白さでは一番。でも、「書院の美」からずいぶんと遠い所まで来た気もします。
これまでの看板:
「応挙旅に出る。-望郷篇」
「ワンワン!かわいいワン!こんぴら狗代参。」
2008年04月16日
●国宝 薬師寺展@東京国立博物館
東京国立博物館で開催中の「国宝 薬師寺展」を観ました。学生の頃に西塔、さらに金堂の再建が段階的に進む様を見たので、薬師寺伽藍はとても思い出深い場所です。その白鳳の再現たる鮮やかな色彩と装飾は、とても印象に残っています。
展示は薬師寺の伽藍の紹介から始まります。休ヶ岡八幡宮を再現したセットを背景に八幡三神坐像を配置し、聖観音菩薩立像を眺めながらスロープを登り、日光菩薩立像と月光菩薩立像の並ぶ会場へと降りていきます。全角度から観られるという謳い文句どおり、立体的に仏様を眺められます。仏様を幾重にも囲む観衆の輪は、少々異様な眺めです。展示室を移動して、草創期の薬師寺の出土品を経て、薬師寺と関わりの深い三蔵玄奘のコーナー。最後に国宝吉祥天像と対面します。
仏様に東京まで御足労願い、普段は見られない国宝を公開する文字通りの薬師寺展です。確かに前評判どおりの内容なのですが、あの荘厳にして妙に活気のある伽藍の印象があまりに強烈で、どこか物足りない気がします。仏様を様々な角度から観て思うのは、やはり御堂で光背を背負っておられる御姿が一番だということです。上から見るとお顔が大きすぎてアンバランスに見えますが、それは本来下から見上げる前提で作られた造形だからでしょう。水煙に彫られた天女様を間近で見られたことと、吉祥天像が見られたとことが収穫でした。個人的には、ちょっと大味に思える展示でした。

上野公園の八重桜。盛期は逃しましたが、桜を観られて良かったです。
2008年04月15日
●TNM&TOPPANミュージアムシアター「マヤ文明 コパン遺跡」
上野の東京国立博物館で上映中のTNM&TOPPANミュージアムシアター「マヤ文明 コパン遺跡」を観ました。「薬師寺展」を観に行ったのですが、「DNPの次はTOPPANだ!」と思いたって寄り道しました。
ここの特徴は、超高精細映像の中をナビゲーターのおねえさんがPS2のようなコントローラーを操作しつつ案内してくれるところです。鑑賞者は映画を観るように情報を受け取るだけですが、良く練られた構成と、リアルタイムなコントローラー操作と、圧倒的な映像美が観る者を惹き込みます。今回案内してくださったのは、前回と同じくこうのさんでした。
今回のテーマはマヤ文明コパン遺跡。コパン遺跡と聞いて、ああ、あれか!と思う人はあまりいないと思いますが、そんなことは心配御無用。空から見下ろし、俯瞰しつつ地上に降り立つ導入部から映像の世界に没入できます。適度に写実的で、適度に漫画チックな絵作りも、とても分かり易いです。現在の状態もわざわざCGで再現しているので、往時の再現映像への切り替えも非常にスムーズです。石剥き出しの現状から赤く彩色された往時の姿へと切り替わったときは驚きました。そして神殿の中に過去の王の神殿が埋まっているという驚きの事実。もはや実写かCGかわからないその映像。あっという間の20分でした。終了後のアンケートには、「安土桃山時代の建物を、永徳、等伯の絵と絡めて再現して下さい!」と熱烈希望しました。
人とアートのインターフェースの実験としてはDNPの方が可能性を秘めていて、エンターテイメントの完成度ではTOPPANの方が断然上という感じです。何はともあれどちらも無料(博物館の入館料は別途かかります)なので、体験する価値は大いにあります。
●ルーブル・DNPミュージアムラボ 第4回展「都市スーサとその陶器イスラム時代の創成期」
五反田のDNP五反田ビルで開催中のルーブル・DNPミュージアムラボ 第4回展「都市スーサとその陶器 イスラム時代の創成期」を体験しました。ラボという響きに惹かれて行こう行こうと思いつつ、予約制という壁に二の足を踏んでいましたが、ようやく腰を上げました。大日本印刷(DNP)とルーブルがタッグを組んで、どんな映像体験を見せてくれるか興味津々です。
観覧スタイルは3種類あります。音声ガイダンス端末を利用する方法、ARガイダンス端末を利用する方法、ガイダンス端末を利用しない方法です。今回から導入されるAR(オーグメンテッド・リアリティ=拡張現実)ガイダンス端末を使ってみたかったのですが予約が取れず、音声ガイダンス端末を使用するコースを申し込みました。骨伝導ヘッドフォンも初体験です。
カウンターで受付を済ませると、端末についての簡単な説明を受けて、ルーブル美術館のプロモーション映像を見て、観覧へGO。会場は「ホワイエ」、「シアター」、「展示室」の三つからなります。「ホワイエ」ではパネル展示で「イスラム帝国の誕生」と「様々な視点から見る都市スーサ」を解説します。端末が近づくと自動検知し、解説が始まります。パネルには液晶が仕込まれており、音声解説と連動して映像が切り替わります。次に「シアター」へ。大画面にルーブルの所蔵絵画を交えつつ、スーサ発掘の歴史が語られます。そして「展示室」へ。大きな自動扉を通り、廊下を抜けてようやく展示室へ。室内には5つのルーブルの美術品が並び、3つの陶器製作の技法が解説されています。中でもAR技術を搭載した携帯インターフェースを通して、展示作品に重ねて映像の解説が映し出される展示が興味深かったです。端末を動かすと、それに合わせて映像も角度を変えて投影されるあたり、3D感覚で面白いです。やはりARガイダンス端末を使ってみたかったです。
展示作品が小品5点という構成は、ルーブルのコレクションを「観る」という気持ちで行くとやや拍子抜けでした。解説に使う技術はどれも興味深いものの、展示と上手く噛み合っていない印象を受けます。それらはソフト面の練り込み不足が大きいと感じるので、ノウハウを蓄積することで良くなっていくと思います。これだけの内容を無料で鑑賞できることに感謝します。

目黒川沿いの桜。初夏を思わせる、少し暑い日でした。
追記:こちらのページに拠ると、ARガイダンス端末は準備が間に合わなかったそうです。
2008年02月05日
●四国の旅 その7 その後
今朝の羽田空港にて。こう来たか!御見事。
「応挙旅に出る。-望郷篇」はこちら。

2008年02月02日
●四国の旅 その5 「金刀比羅宮 書院の美」
丸亀から琴平に移動。金丸座近くの大浴場(露天風呂付)で寛いで1日目は終わり。夜の琴平の閑散さに驚きました。
そして2日目。宿から見る象頭山と、その中腹に点在する金刀比羅宮。芸大美術館での展示から半年。いざ、「金刀比羅宮 書院の美」へ!

8:30少し前に書院前に到着。ほどなく開門。貼るカイロを背に、持つカイロをポケットに。防寒対策も万全です。

円山応挙「鶴の間」。降り立つ鶴、飛び立つ鶴。ここだけ中に入れず残念。
円山応挙「虎の間」。畳に上がって正座して一枚一枚観る。これが現地で観る醍醐味。見上げれば高い天井、見返せば大きく張り出した庇、その先に庭園。中の描かれた世界が流れるように、外の自然へと繋がっていきます。「七賢の間」側の欄間が開いて、天井が連続し、左右の部屋の関係性が異なります。「水呑みの虎」を左右に引き分けて使者が入ってくるところを想像してドキドキ。その水は、鶴たちが佇んでいる水な訳です。襖の特性を活かした、一瞬の場面転換。「八方睨みの虎」のズングリとした眼、豹を雌の虎と勘違いしていたという解説もフムフム。部屋の端のネコバスのような虎は相変わらず可愛い。
円山応挙「七賢の間」。塗りつぶされたという顔周りはやはり痛みが激しい。良くここまで復活させたものだ。
円山応挙「山水の間」「上段の間」。大名、公家を迎える上段の間、その奥に広がる「瀑布図」は絶景。画面右上から流れ落ちる滝。白糸のように線を引き、荒々しく踊る波頭。そして水流は外へと流れ出て、庭園の池へと至ります。応挙の絵に合わせて作庭したと言う解説におどろきました。去年観た「保津川図屏風」も良かったですが、空間と一体化したこちらもすごい。
邨田丹陵「富士一の間」「富士二の間」。一の間の裾野を長く取った富士。その景色を仰ぎつつ、二の間で巻狩に興じる武者たち。二部屋使った遠景と近景の演出が決まってます。
土産物コーナーを経て奥書院へ。
伊藤若冲「上段の間」。最大の見所「花丸図」は、襖は外して別に展示+解説。その先は作品と直に対面。空間と一体化する描画から一転して、植物の細密画が幾何学的に並びます。一つ一つ異なるオブジェを等質に並べ、壁を埋め尽くす。息が蒸せるような濃密な美。そのセンスはとても現代的。若冲の構成力はすごい。別当の邸宅だそうですが、ここで暮らせる人もすごい。光の加減か、金色に輝く奥面が特に強烈に印象に残ります。部屋の中に立ってみたい。
岸岱「菖蒲の間」。「群蝶図」のヒラヒラと舞う蝶の描写が可愛らしい。
岸岱「柳の間」。「水辺柳樹白鷺図」の部屋中に柳が茂る描写は見事。空間が円山派の流儀に戻ります。伝伊藤若冲「飛燕図断片」も展示中。どんな絵が描かれていたのでしょう。
白書院。未完なので特に何もなし。
これで朝の散歩は終わり。玄関でTakさん夫妻と合流して、再度書院を観ました。
御本宮まで御参りした帰り道、話題の新茶所「神椿」で休憩しました。雪が散らつく寒空の日に、オーダーしたのは神椿パフェ。一行のテンションはそんな感じでした。黄色いお盆、カラフルなパフェが、白地に青の陶版に映えます。とても美味しかったです。

2008年01月03日
●博物館に初もうで@東京国立博物館

新年最初に訪れるのは、東京国立博物館「博物館に初もうで」。行くのは3年連続、新年2日目に行くのは2年連続。すっかり新年の風物詩です。
まずは平成館で開催中の陽明文庫創立70周年記念特別展「宮廷のみやび―近衞家1000年の名宝」から。中臣鎌足を祖とする名家藤原氏の主要流派の一つ近衛家の名宝展。雅という言葉が良く似合います。
展示は全部で6章からなりますが、全てを観ると力尽きてしまうので、書は流し見程度にして、絵画、工芸を主に観ます。平成館の展示はコッテリ重量級なので、興味に応じてカスタマイズします。
第1章「宮廷貴族の生活」。去年京都国立博物館「藤原道長展」で観た「御堂関白記」、「金銅経筒」等と再会。「この世をば我が世とぞ」な道長が、吉野の山奥まで納経に出かけていった様を克明に伝える資料群。来世まで経を伝えんと作られた金銅の器は、現代にその信心深さを伝えます。それにしても驚くほどの保存状態の良さ。
「源氏物語54帖」。鎌倉時代の写本ですが、非常にコンパクト。これを袖の内に入れて持ち歩き、「あの話の続きは読みましたか?」と会話を交わす場面が思い浮かびます。持ち主に頼んで借り受け、書の達者な者に書き写させたのでしょうから、写本を持つこと自体が相当なステイタスだったのでしょう。
第5章「伝世の品 I」。御所人形のクリクリした目が可愛い。「銀細工雛道具」の精巧な作りも良いです。精巧なミニチュア、そして華やかな雰囲気。この章が一番好きです。
「近衛家熙遺愛茶杓箪笥」。「へうげもの」古田織部を含め31本の茶杓とそれを納める箪笥。さすが近衛家きっての才人、コレクションもすごいです。
酒井抱一「四季花鳥図屏風」。金地に活けられた花、舞う鳥、水平に流れる水流。金地が背景になり近景になって平面的で華やかな画面を作っています。
第6章-1「伝世の品 II-1」。伝空海「益田池碑銘断簡」。書は分からなくとも空海筆と聞くと観ずには居られぬミーハーな私です。
館内には書道の手本(?)を手に熱心に展示を観ている方が何人もおられました。書に興味のある方に垂涎の展示なのでしょう。個人的には、雅な生活の様子を再現するような展示方法を導入してもらえるとなお良かったと思いました。
本館に戻って常設展。「暮らしの調度 ―安土桃山・江戸」。「初音蒔絵源氏箪笥」。こちらは江戸時代の源氏物語写本とそれを納める箪笥。器は中身を表し、そして華やか。暮らしの中に美が溶け込む、そのバランスが好きです。

「源氏絵彩色貝桶」。貝殻に描いた絵合わせと、その入れ物。これも毎回観るお気に入りです。

新春特別展示「子年に長寿を祝う」。その解説を読んで、ネズミをスターに仕立てたディズニーは凄いなと変なところで感心しました。
「百鳥図」。若冲の「旭日鳳凰図」の元ネタ、意外なところで再会です。確かにめでたい図です。個人蔵なことに今回気づきました。

「十二神将立像 子神」。今回一番のお気に入りです。頭にネズミを乗せる武神。悪鬼をギョロリと睨みつけているのでしょうが、とてもコミカルに見えます。

最後に特5展示室で開催中の「仏像の道-インドから日本へ」。冒頭のガンダーラ仏の非常に写実的な表現に「あれっ!?」。後で飛鳥仏で御馴染みのアーモンド形の瞳を持ちアルカイックスマイルを浮かべる仏様(北魏)も登場するのですが、そうすると稚拙な表現=アルカイックスマイルではないということに今頃気づきました。写実的過ぎてもありがたみがないので、理想の姿を求めて時代時代の仏様が造形されたということでしょうか。最後は薬師寺聖観音菩薩立像(模造)。そのお腹から臀部にかけてのラインは非常に女性的。この時代は女性的な癒しが求められたのでしょうか。
館内はかなりの人の入りで、普段は閑散としている常設展も活気がありました。このあと飲み会へ。新しい一年の始まりに相応しいひと時でした。
2007年12月31日
●キーワード 2007
今年のアート、街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。去年のエントリーはこちら。
「大躍進、六本木トライアングル」
国立新美術館、サントリー美術館が大型企画展をズラリと並べて話題を呼ぶのは当然として、先行する森美術館が一年を通じて非常に充実していたのが印象的でした。展示に加えて講演会、会員向けイベントの充実で、一つの展覧会会期中に何度も足を運びました。「ル・コルビュジェ展 建築とアート、その創造の軌跡」に至っては、実に六度も訪れました。MAMCナイト、J-WAVE ART PICNIC、巨匠建築家によるレクチャーシリーズ(1回目、2回目、3回目、4回目)。正直なところ、展示単体では10年前のセゾン美術館での展覧会に及ばなかったと思います。そこを、原寸再現模型、コルビュジェ生誕120周年、世界文化遺産登録への動きといった話題作り、そして何より豊富なプログラムでもって非常に充実したものに仕上げたことは素晴らしかったです。その後の「六本木クロッシング」も面白く、こちらのMAMCナイトも参加しました。トライアングルが機能したのは、森美術館の健闘が大きかったと思います。もっとも、展望台まで含めて同一料金という反則技な立地でもあるのですが。。。
上記に対するカウンターが「反撃する上野」。東博の特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の肖像」(その1、その2)は実質1点の真筆で、ズラリと日本人好みの作品を揃えた国立新美術館「大回顧展 モネ」を動員面で上回り、西洋美術館「パルマ イタリア美術もう一つの都」では比較的知名度の低い作品群で観客を魅了します。東博平成館と東京都美術館はお得意の大型企画展を連発しますが、比較的空いている印象があったのは、やはり六本木トライアングル効果でしょう。もっとも、新しいモノに伸び代があるのは当たり前のことなので、勝負は来年以降です。
「現代アートを「買う」」
現代アートを「買う」というフレーズを頻繁に聞く一年でした。「アートフェア東京2007」のプレイベント「現代アートを買うために」で、三潴さんが非常にストレートに「買う」という話をされていて印象的でした。その際に話に出たシンワアートオークションのプレビューを見に行ったら、TさんとLさんは翌日の入札にも参加されたとのこと。見回せば、BTをはじめ各種雑誌で「アートを買う」というテーマで特集が組まれています。好きな作品と一緒に暮らす楽しみ。価値が定まっている代わりに伸び代も少ない古典に比べれば、現代アートは宝の山(と同時にゴミの山)。アートバブルがどういう結末を迎えるかは置いておいて、現代アートを観る視点が増えたことは確かです。
もう一つ現代アートの勢いを感じたのが、練馬区立美術館「山口晃展 今度は武者絵だ!」のアーティストトークの際に、観客で埋め尽くされた会場の様。驚異のトップランナー効果との合わせ技で、立錐の余地もない会場。その中でマイペースで淡々と話す山口さん。絵画の境界からはみだしそうな、ストーリー仕立ての展示作。一つの現象として、とても印象に残っています。
「京都限定」
質と量に物を言わせる大型企画展が相次ぐ中でも一線を画したのが、相国寺承天閣美術館「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」(その1、その2)と、京都国立博物館「特別展覧会 狩野永徳」。共通点は「京都限定」。
前者は延々と三の丸尚蔵館で前振りをした後に満を持しての開催、120年ぶりの再会、そして少なくとも今世紀最後。しかもブロガー対象のプレビューまで開催(しかも当選!)して至れり尽くせり。展示内容も出し惜しみなしの総力戦という感じで、この展示に懸ける相国寺の執念を感じました。そして、勢揃いした動植綵絵が作り出す仏画の空間は全くの別世界。荘厳ここに極まれり!奇想の画家である前に敬虔な仏教徒である若冲に、最も近づいた瞬間でした。
そして後者。日本史上最高の黄金時代でありながら、その存在感は非常に希薄な安土桃山時代。その核たる絵師の代表作が一堂に並ぶ様は、歴史の空白をタイムカプセルが満たすが如し。技と政治力に長けた永徳の凄さ、そして凄絶な末路を間近で感じました。同じ日に飛雲閣も観たので、安土桃山文化にドップリと浸った一日でした。
収蔵品の質と量で他を圧倒する東博でも、持って来れない展覧会があることを知りました。巡回先として、会場の広さ的にも最適だと思うのですが。。。
●世界を虜にしたRimpaと若冲
年末特番「世界を虜にしたRimpaと若冲 知られざる美の系譜を探る!」を見ました。近年再評価が著しい光琳と若冲とはいえ、江戸絵画を取り上げる番組が年末にあるとは驚きです。内容は二人の足跡を、小山力也ナレーション、内山里名ナビゲーションで彩り、間断なく響く音楽で全編を包み込むお祭り番組。年末らしく、豪華な映像美で見せます。
前半は光琳。狩野永徳「聚光院方丈障壁画」が登場したり、舞台がオランダに飛んだりと忙しい。宗達と光琳の「風神雷神図屏風」の揃い踏みは、去年の出光美術館での展示が記憶に新しいところ。宗達は源氏物語、光琳は伊勢物語に惹かれたという一節は、年明けの出光美術館「王朝の恋」の前振りか?と思ってしまいました。意味ありげに映した「燕子花図」の方にもエピソードがあれば良かったのに。
後半は若冲。現代アートとの関係性を前面に押し出しているところが新鮮。村上隆「スーパーフラット」の一節を引用して若冲の空間性について触れ、草間彌生の水玉ワールドを「増殖」というキーワードで若冲と並べます。先の永徳特番では山口晃、千住博が登場していましたが、過去と現代を関連付ける手法として興味深いです。
お祭り番組に相応しく、ホームページには「若冲流掛軸ジェネレーター」なるものが!大好きなハートのフワフワ、カブトムシの角等などを使ってこんなのを作ってみました。
2007年12月27日
●忘年会 その2
土曜日。東博に初詣した今年の締めは、西美。ここを1次会に、2、3次会と続きます。
光射すトップライト。見回せば、立方体の吹抜けボリュームに貫入するバルコニー。その面のとり方は、最近の建築家住宅でもよく目にします。コルビュジェの建築ボキャブラリーをゲーム化したのはニューヨーク・ファイブと先の講演会でお聞きしましたが、もはや定番。表層の時代な現代らしい。

今回は、西洋美術史の専門家池上英洋先生の解説を聴きながら、西美を歩くという趣向です。西美コレクションを教科書に、美術の歴史を紐解く語りは、立て板に水の如し。美術館が、絵を収める箱から、脈々と続く絵画の歴史を語る装置へと昇華するひと時でした。大切なのは、装置と語りのバランス。幹事のNさんとJさんのおかげさまで、素晴らしい会でした。

右にモネ、左に照明ギャラリー。かつてはトップライトから自然光が注いだ中2階空間。今はトップライトは塞がれ、人工照明で明るくしているそうです。美術品に対する考え方が変わったということなのでしょう。

雨に濡れた地面に映るイルミネーション。その向こうに前川國男設計の東京文化会館。コルビュジェの凄さは、世界中に弟子が散らばり、その教えを広めたところでしょう。建物は古くなり用途に即さなくなっても、彼をとりまく伝説は広く浸透し、建物に用途を超えた存在価値を与えます。

2007年11月27日
●フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展@国立新美術館
国立新美術館で開催中のフェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展を観ました。
展示の要はいうまでもなくフェルメール「牛乳を注ぐ女」。体と腕と瓶で形作る揺るぎない三角形構図、室内から主照明を当てつつ窓から印象的な補助光を入れて作り出す神秘性すら感じさせる光と影の世界。そして瓶から流れ出す牛乳が静寂の中に作り出す動き。非常に美しいフェルメールの青。厳格で研ぎ澄まされた世界は正に名画。照明の加減で反射光がキラキラし過ぎるのが残念ですが、何度も列に並んで見返しました。週末の夕方は思ったほどの混雑もなく、並べば数分で絵の前に辿り着けて良かったです。できることなら複数枚のフェルメールを並べて観てみたいです。
前後に来る風俗画と、黄金時代以降展示は、フェルメールとの関連が今一つ感じられずに、全部で三つの展示を観ているようでした。今回の展示を観る限りでは、フェルメールだけが光と構図に非常に厳格で突出していたように感じられますが、実際はどうだったのでしょうか。もっとフェルメールを観たくなりました。

その後はフェルメール・コミュのオフ会へ。主催はこちら。毎度毎度御世話になっております。40名を超える方が参加されて大盛況でした。知り合いの方も結構来られていて楽しいひと時でした。

2007年11月05日
●飛雲閣@西本願寺
桃山絵画を堪能した後は、西本願寺へ。ここには秀吉の邸宅「聚楽第」の移築と伝えられる国宝「飛雲閣」があります。今回は御一緒したTakさんが骨を折って下さって、なんと書院と飛雲閣を拝観する許可をいただきました。永徳、等伯と観て、桃山時代の遺構を体験する。ものすごく濃密な一日となりました。
金碧装飾画がそのまま残り、対面所から南能舞台を望む白書院も素晴らしかったですが、ゾクゾクしたのは天正9年造が確定している北能舞台。この当時は狩野永徳が安土城で腕を振るっていた時期にあたり、永徳とこの能舞台は確実に同時代に存在していたことになります。正に歴史の生き証人。
そして「飛雲閣」へ。一階全面に障子建具を回し、唐様と入母屋様の異なる破風を抱く棟。二階建具面には三十六歌仙が描かれた三層の楼閣。長く伸びる軒先が、日本家屋の大屋根を軽妙に見せる違和感。建具を開放すれば、全面開放となる1階。様式を自在に組み合わせて作り出された遊興の場は、まさしく桃山文化の空間。実物を目の当たりにする日が来るとは思いませんでした。少しだけ障子を開けて中を見せていただきましたが、綺麗に手入れされていて保存管理状態は良好。あの座敷に上がって遊びに興じる人々を思いました。

入口となる船着場。ここから入って、一層の座敷に上がったそうです。左は茶室。

国宝「唐門」。こちらは伏見城の遺構と伝えられています。黒地に金の金具、そして色鮮やかな彫刻。失われた桃山時代が、最高に色濃く蘇る一日でした。

京都行きの際して多大な骨を折って下さったTakさんに改めて感謝いたします。どうもありがとうございました!
2007年11月03日
●長谷川等伯「桜楓図」@智積院
「狩野永徳展」のコンセプトは「見比べる」。3年後に企画されている「長谷川等伯展」と見比べることで、本展の魅力はさらに深まること間違いなし。とはいえ3年も待つのはミーハーな我が身には長い。
というわけで、長谷川等伯の金碧障壁画が展示されている智積院へ。京博から歩いてすぐの絶好の立地。
まずは収蔵庫で長谷川等伯・久蔵父子作とされる「桜楓図」等をじっくりと鑑賞。永徳の「檜図屏風」のうねる巨木とのたうつ枝々を観ているので、等伯の巨幹を見せつつもその周囲を草花で飾るような明るい画風がとても興味深いです。両者の争いの果て、あの暗澹とした雰囲気を漂わせる絵が登場したのかと思うと、感慨もひとしお。
その後、レプリカが展示されている大書院と庭園へ。

上座から、障壁画の並ぶ壁面を望む。片面に金地に雄渾な自然を描き、反対側には石庭。異なる人工の自然を対面させつつ、高天井のワンルーム空間。その空間を建具で自在に仕切る空間構成は贅沢の極み。

振り向けば庭園。「そうだ京都、行こう」な風景。

2007年10月28日
●特別展覧会 狩野永徳@京都国立博物館
京都国立博物館で開催中の「特別展覧会 狩野永徳」を観ました。豪華絢爛桃山時代の絵画シーンを作り上げた怪物絵師、狩野永徳。知名度の高さと相反して、現存する作品は少なく、実物を目にする機会はほとんどありません。その「永徳」の史上初の大回顧展です。代表作をズラリと並べて見比べる贅沢は、満足度200%の衝撃。万難を排して行く価値あり!

2007年10月26日
●そうだ京都、行こう
準備万端。後は寝て起きて飛び出すだけ。
そうだ京都、行こう!

2007年10月21日
●待ってろ永徳
「待ってろ永徳」。先月の山口晃展で、サインをいただく際にお願いしたお題です。
そしていただいたサインがこれ。その心は。。。
サービス精神旺盛な山口さんに感謝。

「特別展覧会 狩野永徳展」、京都国立博物館にて開催中。
待ってろ永徳!
●フィラデルフィア美術館展
東京都美術館で開催中の「フィラデルフィア美術館展」を観ました。「オルセー美術館展」、「大回顧展モネ」、「ベルト・モリゾ展」そして本展。今年は「大作家の顔見世展」と「個人を掘り下げる企画展」のバランスが良くて、印象派の世界が広がって楽しいです。今回もMさんの鑑賞会にお邪魔しての鑑賞。毎度御世話になっております。
「2.印象派とポスト印象派-光から造形へ」。光を捉える魔術師モネの視線が印象的。特に「マヌボルト、エトルタ」。龍が首を下ろして水を飲んでいるような奇岩。前章でブーダンを観せているのが効いています。そして本展の華、ルノワール「ルグラン嬢の肖像」。白地に黒の衣装、少し恥らう表情、一本一本描画された髪の毛。とても可愛らしいです。後期の「大きな浴女」と見比べると、前者の方が断然魅力的。画家の作風の変遷を見せる絵の選択も配慮が細かいです。
「3.キュビスムとエコール・ド・パリ-20世紀美術の展開」。本展のもう一つの華、アンリ・マティス「青いドレスの女」。赤と黒で大胆に分割され、黄で縁取りされた背景。画面に大きく青いドレス。こめかみに指を当てるポーズ。漫画チックな描線。パワーが凝縮されたような絵。
「4.シュルレアリスムと夢-不可視の風景」。ジョアン・ミロ「月に吠える犬」。一点しか出ていない大作家の顔見世展示は不思議系が多かったですが、中でもこれ。これが犬なのか!?
「5.アメリカ美術-大衆と個のイメージ」。モリゾのライバル、メアリーカサット「母の抱擁」。まとめて見てみたい。ジョージア・オキーフ「ピンクの地の上の2本のカラ・リリー」。ミクロな視線がエロティック。
屋台では「フィラデルフィアバケットサンド」と「スパイシーポテトフライ」が販売中。街っぽくて楽しい。

西洋美術館では「ムンク展」。世界遺産になれるか?

東京文化会館の輝く天井。前川國男とル・コルビュジェが並ぶ、近代建築の宝庫。

2007年10月09日
●応挙旅に出る-望郷篇
本日から出張です。早朝の羽田空港で見かけた看板「応挙旅に出る-望郷篇」。JR改札では「若冲はこんぴらさん」ですが、こちらは応挙です。しかも大きい!こんな楽しげな巡回展も珍しい。このままスイーッといきたいところですが、そうは問屋がおろさない。
「金刀比羅宮 書院の美」、奥書院に若冲ツバメを加えて、金毘羅さんにて公開中!

2007年09月24日
●ヴェネツィア絵画のきらめき@Bunkamura
Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ヴェネツィア絵画のきらめき」を観ました。三度訪れた「パルマ展」の興奮も冷めやらぬうちに、再びイタリアの都市を主題にした展示。ペルジーノ、パルミジャニーノ、そして本展に登場するヴェロネーゼと、都市名をニックネームに持つ画家達の存在。都市ごとに特色ある文化を形成するという点に興味が湧きます。
入口を入ると、ジュゼッペ・ペルナルディーノ・ビゾン「パラッツォ・デゥカーレに入るフランス大使ジェルジ伯、1726年11月4日」が出迎えてくれます。水辺と「内部化された外部」を併せ持つヴェネツィアの顔「サンマルコ広場」を舞台に、大使一行のカラフルな行列が行進し、観客の中にはカーニバルのマスクを付けた人たちも見られます。ヴェネツィア絵画華やかなりし時代のヴェデゥータ(風景画)を意識したであろう大作は、これから始まる過去への旅の絶好の導入になっています。
そして本展の華、ティツィアーノ・ヴェチェリオ「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」。白い肌にほんのり赤みさす美しい顔立ち、赤と青の衣装のコントラスト、その手には生首。スゴイ美人だけれども、何を考えているのか分からない冷酷さを湛えているところが怖い。ヨハネは画家の自画像という説があるそうですが、そうするとサロメに微笑みかける左側の人物は依頼主なのでしょうか。
さらにパオロ・ヴェロネーゼ「キリストと刑吏たち」。宗教画でありながら、その精緻な描画ゆえに非常に人間らしくも見えるキリスト。
ここでジャンバッティスタ・ディェポロ登場。少々グロテスクな描写の「カプチン修道士の死」に始まり、光に揺らぐ肌が産毛に見える「ゴリアテの首をもつダヴィデ」。特色ある描き方を色々と試す異色な画家なのかと思っていると、続々と作品が並びます。三人の統領絵の一翼を担い、最後には自らの肖像画が登場します。その自信溢れる表情からは、彼が時代の寵児だったことが伺えます。実に6点+肖像画が登場して、本展の隠れ主役といえそうです。
ヨーゼフ・ハインツ「アイソンを若返らせるメディア」はメカっぽい描画があったりして非常に異質の作品。錬金術と関係があるのでしょうか。文化の交流地ヴェネツィアのごった煮的土壌が生んだ怪作?
最後はヴェドゥータ(風景画)。カナレット「サン・ジョルジョ・マッジョーレ島と税関」は水都ヴェネツィアへの旅情かきたてる清々しさに満ちています。ガブリエラ・ベッラ「サンタ・マリア・デラ・サルーテ聖堂での婚礼」、「サン・ピエトロ・ディ・カステッロでの水上パレード」は水辺と都市空間を上手く活用した行事の様子を描いていて興味深いです。特に後者は、浮世絵の両国橋の風景を思い起こさせます。
サロメのはっとするような美しさは飛びぬけていますが、全体を通すと華やかさやきらめきといった印象は弱いです。その点は違和感が残りました。
それにしても、展示壁の色がピンクなのは何故なのでしょうか。ヴェネツィアのシンボルカラー?華やかな色彩を意識した演出?壁の色としては微妙。
午前中に行ったので、まだ人影のない中庭。ちょっと狭いですが、効果的な空間。

2007年09月01日
●狩野永徳展 両面チラシ登場
京都国立博物館で今秋開催される空前絶後の「特別展覧会 狩野永徳展」。その両面刷りのチラシがいよいよ登場しました。初夏の京博で片面チラシを見かけて以来、これほど待ち望んだチラシも珍しいです。その表面を飾るのは、出るかどうかと気を持たせていた「唐獅子図屏風」。巡回なしの30日限定、しかも会期は10/16-11/18と秋の観光シーズンど真ん中。
豪華絢爛な桃山文化の覇者として名を轟かせる一方で、現存する作品数は非常に少ないスーパースターの代表作をズラリと並べる世紀のイベント。永徳を観たくば、京都に行くしかない!

2007年08月26日
●市民美術講座2007「伊藤若冲 -若冲とその時代-」@千葉市美術館
千葉市美術館で開催された「コレクション理解のための市民美術講座「伊藤若冲 -若冲とその時代-」」を聴きました。講師は現在開催中の展覧会「若冲とその時代」の担当学芸員、伊藤紫織さん。時間ピッタリに行ったら、定員150名が満席とのことでビックリ。立ち見ということで入れていただき、後で椅子を追加していただきました。まさか満席とは。。。恐るべし若冲人気と、千葉市美術館の集客力。
話は概ね展覧会に沿った内容でした。近年人気を集める伊藤若冲が、突然現れたのではなく、南蘋派等の影響があり、蕭白、芦雪といった同時代の画家たちもそれぞれ腕を競っている中で登場したという視点が特徴です。
当時も人気を博した若冲ですが、昭和43年(1968)辻惟雄著「奇想の系譜」、昭和46年(1971)東京国立博物館「特別展観 若冲」(担当小林忠)で再発見され、平成12年(2000)京都国立博物館「特別展覧会 没後200年 若冲」でブームが始まり現在に至ります。辻さんは前館長、小林さんは現館長なので、千葉市美術館としても縁のある画家ということになります。
1.若冲の魅力。展覧会出品作を中心に、若冲の魅力を解説してゆきます。作品にまつわるサイドエピソードが講演会の楽しみ。「鸚鵡図」には千葉市美術館、ボストン美術館、草堂寺の他に個人蔵のものがあること。展覧会タイトルのハートマークは、動植綵絵「老松白鳳図」の尾羽からとったのと、2000年の若冲展でタイトルにエクスクラメーションマーク(!)がついていたので、それにのっかってchu=kiss=ハートマークをつけた。「鳥獣花木図」の作者に関して、美術の専門外の友人が若冲追悼の絵として別の人が描いたのでは?といっていたが、晩年のモチーフまで取り込んだ構成から見ても一理あると思う。「寿老人・孔雀・菊図」は菊に「菊花流水図」、孔雀に「老松白鳳図」との共通性が見られる。三幅並べると、孔雀の視線の先に菊がくる?「乗興舟」は複数あるが版ごとに少しずつ違い、黒地の墨を書き足したかも。「若冲画帖」は工芸図案としての需要も伺える。等々。
2.若冲は一日にしてならず。若冲と同時代の江戸絵画を紹介。
2-①若冲の時代 みやこの画家たち。展覧会の第1章の解説。円山応挙「鉄拐蝦蟇仙人図」。まだ応挙を名乗る前の作品、狩野派っぽい。口元に小さな分身まで描かれている。円山応挙「群鳥・別離・鯉図」。滝の塗り残しで鯉を表す手法、「青楓瀑布図」にも見られる滝の描画。出来は今一つ。長澤芦雪・曽道怡「花鳥蟲獣図巻」。芦雪は応挙を真似ているが、仔犬の後ろ姿を一筆描きする等独自性もある。文は皆川淇園。本展は淇園にも注目。松村景文「秋草四十雀図」。茎が折れそうなほど大きく描かれた雀は、応挙の教えと異なる。その一方で「鮎図」の鮎は応挙の絶筆にも登場するモチーフ。応挙の流れの中にいる。曽我蕭白「虎渓三笑図」「山水図(林和靖図)」。故事を知っていればいっそう楽しめる。
2-②ニューウェーブ 南蘋派大流行。2-③異国趣味・博物学・版の時代。時間がなくなって、ダイジェストに。南蘋派の画家をクローズアップした後で、博物図譜、南蘋画、浮世絵の入り混じる当時の美術界を浮かび上がらせた上で、その中を生きた若冲に話を戻して幕。
少々話題を広げすぎて、やや散漫な内容でした。裏を返せば、それだけ広範な内容を扱いつつコンパクトにまとまっている本展はなかなかの力作ということ?
講演会が終わるとシャッターが上がり、11階からの眺望が広がりました。城が見えるところが千葉市らしい。ついでに天守閣の存在が微妙なところも。。。

講演会の後、再度展示を観て回りました。個人的には本展のベストは「花鳥蟲獣図巻」だと思います。絵の密度、墨の竹と活き活きとした花鳥のコラボ、仔犬の愛らしさ、4-50回も酒を飲みつつ描いたというエピソード。若冲や師応挙にも全くひけをとらない見事な力量。何かきっかけがあれば、芦雪ブームが始まっても全然不思議ではありません。
2007年08月22日
●若冲とその時代@千葉市美術館
千葉県立美術館の次は千葉市美術館で「若冲とその時代」を観ました。モノレールで3駅と、意外と移動はスムーズ。
所蔵品展の扱いなので、観覧料は200円(企画展とセットだと800円)という驚きの安さ。展示は南蘋派が京画壇に及ぼした影響を辿ることで、独自性を出しています。イントロダクションに伊藤若冲「鸚鵡図」を置いて本展へ。
第1部 若冲の時代 みやこの画家たち応挙・芦雪・景文・蕭白。応挙、芦雪をはじめビッグネームが並びますが、南蘋派からの影響に焦点を当てているので、模写的な側面が強め。いわゆる彼ららしい作風に比べると地味めに思えます。でも長澤芦雪・曽道怡「花鳥蟲獣図巻」は見応えあります。曽道怡の描く竹の掠れ具合と、芦雪が描く愛らしい花鳥たちの競演は絶品。芦雪が道怡の元に何度も通い、酒を飲みつつ書き上げたというエピソードも豪胆な芦雪らしい。曾我蕭白「虎渓三笑図」も主役の三人を小さく描いて、風景の輪郭をサインペンのような描線で描くところが面白い。マンガみたい。
第2部 若冲の時代のハイカラ趣味 南蘋派の画家たち。若冲に多大な影響を与えた南蘋派ですが、こんなに揃ってみるのは初めてです。摘水軒記念文化振興財団所蔵の絵画をこんなに揃って観るのも初めて。本拠の寺島文化会館は9月で閉館、その後はどうなるんでしょう?
第3部 そして若冲 色に酔い墨に浸る。素晴らしく状態の良い「乗興舟」が見どころ。白と黒の反転と、船で川を下る様を巻物で再現する構成が上手い。そこに漂うノンビリとした風情も好きです。それと「雷神図」。人をくった構図はいかにも若冲らしい。
会場内のソファにはピンクのファイルが置いてありますが、これは図録代わりの解説文集です。展示を観てからこれを読むと、理解が深まります。特にカラーチラシの文章が良いです。本展の意義、位置付けを述べた上で、そうはいっても詰まるところ、若冲が好きで企画したと結んで清々しい。章題のハートマークも、鳳凰の尾羽に舞う様が思い出されて若冲好きをアピールしています。
すっかり千葉市美術館のリピーターになりましたが、所蔵品展でこれだけ魅せるのは流石だと思います。
暑い一日の終わりは、中央公園でカキ氷。

2007年08月14日
●千總コレクション「京の優雅~小袖と屏風」@五浦美術館
お盆休み一日目は、茨城県天心記念五浦美術館で開催中の千總コレクション「京の優雅~小袖と屏風」を観ました。こちらで円山応挙の絶筆「保津川図屏風」が展示中と知り、「夏だ、清涼だ、海だ!」というわけで出かけることに。保津川といえば鮎、ちょうど昨日京都綾部の天然鮎(残念ながら保津川産ではありません)をいただいたばかりで、タイミングは二重にバッチリ。
最寄駅は、柏と同じ常磐線沿線の大津港。さらにタクシーで10分ほど行くと、夏の青空!潮騒の音!

その先には太平洋!ここからは見えませんが、右手に地名にもなっている五つの浦が続きます。

そして展示へ。展示は京友禅の老舗「千總」が収集した小袖や友禅染の見本裂、下絵等着物関係と、屏風の二本立てです。着物関係は、本来着るものという意識が先立つことと、タイトルが長い(解説を読まないとその意味が分からない)こととで、アートとして観ることが苦手です。色彩や図柄、織りの特徴等を流し気味に観て、終盤の絵画部門へ。
まず「江戸風俗図屏風」で当時の様子を追体験し、長澤芦雪「花鳥図屏風」の墨絵のような木の枝と、しっかりと描かれた鳥、動物のコントラストに芦雪らしさを感じつつ江戸絵画の世界へ。その横には応挙の眼鏡絵、振り返ると左手に応挙の写生図巻(乙巻)。彼の修行時代の仕事、優れた写生力を如実に示します。そして展示室一杯に広がる「保津川図屏風」。彼の死の1月前に描かれたとされる絶筆。描き込みは少々荒い気もしますが、少し離れて観ると清流の流れる音が聞こえてきそうな描写力は迫力満点。波頭は小さく、白糸を張り巡らせるように清流を捉える手法は、北斎の超高速シャッターで波頭が砕ける一瞬をダイナミックに切り取る手法と好対照。左双には川を上る鮎も描かれていて、密かに満足度アップ。
森祖仙をはさんで岸派へ。岸竹堂「大津唐崎図屏風」の左双の唐崎の松は、広重の「近江八景 唐崎夜雨」を思い起こさせ