2006年09月17日

●国宝風神雷神図屏風

 出光美術館で開催中の「国宝風神雷神図屏風」展を鑑賞しました。テーマは明快、「宗達、光琳、抱一の風神雷神図が66年ぶりに一堂に会する」です。冒頭の解説文も「まずは三つの風神雷神図を、とくとその目でご覧あれ-----。」と結んであり、美術館側の自信が伝わってきます。

 展示は宗達の「風神雷神図屏風」から始まります。美術の教科書等であまりに有名な絵ですが、実物を観るのは今回が初めてです。印刷物で観ると風神雷神のキャラクター性が目立ちますが、実物で観ると全体で一つの絵を形成していることに目が行きます。金地の空を駆ける神々。片や遥か遠くを見据え、片や視線を斜め下に向けています。私たち鑑賞者は、はじめ正面から眺め、左右にずれ、ガラス面に近づいて細部を見入り、また全体を見える位置に戻り、そして少し前に出て腰を下ろし、雷神様を見上げてようやく落ち着きます。そしてこの絵には神が描かれていることを納得します。

 次が光琳の「風神雷神図屏風」です。光琳が宗達の図を忠実にトレースしていることが、パネル展示で解説されています。個人的に気になるのは目です。ここでは風神雷神はお互いを見つめ合っており、神の視点は消えています。光琳にとっては宗達の筆こそが神だったのでしょう。その横に抱一の「風神雷神図屏風」が並びます。こちらは光琳の模写だそうですが、サッパリとした線と擬人化の進んだ描写で、とても現代的なセンスを感じます。風神雷神にまつわる解説や、三枚の絵の比較も充実しているので、何度も何度も見返して興味は尽きません。

 展示は館蔵の琳派絵画による、「梅を愛でる」「秋草図の遺伝子」「燕子花図の変容」と続きます。酒井抱一の「紅白梅図屏風」の鮮烈な銀地、「燕子花図屏風」の詩的な構成、「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」の美しい濃淡と色彩。光琳を尊敬し、研究した抱一の足跡が印象に残ります。そして「受け継がれる琳派」。個人蔵の光琳画が5幅展示されています。トロンとした光琳カーブが美しい「梅図」、可愛らしい「大黒天図」と、光琳ファンのツボを押さえています。抱一の査定書や箱書きも展示されており、光琳を捜し求める抱一の姿が浮かびます。併設されている「仙崖展」は、数は少ないながらもインパクトあります。ヘタウマというと怒られそうですが、○△□といった深いテーマ性を持ちつつもユーモラスな絵柄に和みます。

 充実した作品群と解説、優れた照明配置で、とても観やすく見応えのある展示です。平日の夕方に出かけられたので、落ち着いて観られたのは幸運でした。

Posted by mizdesign at 2006年09月17日 08:52
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コメント

>平日の夕方に出かけられたので、落ち着いて観られたのは幸運でした。

これが一番重要ですよね。
ゆったり観られるのがなによりです。

Posted by Tak at 2006年09月17日 12:11

mizさん、こんにちは。お久しぶりです。

いつもブログを拝見していて思うのですが、mizさんて本当芸術鑑賞がお好きなんですね!
しかも、視点が鋭い!さすがだな~と、いつも感心してしまいます。
そして、あまり自由な時間がとれないわたしは、mizさんのブログを拝見して「行ったつもり、見たつもり」になっています(笑)。
これからもステキなレポート、よろしくお願いいたしますね☆

Posted by ふじりん at 2006年09月17日 19:22

Tak様>
こんばんは。
出光美術館は照明に気を遣っていて鑑賞条件は素晴らしいですが、それほど広くないのが欠点(?)ですね。
僕が行ったときは、宗達の「風神雷神図屏風」の前に数人しかいなかったので、行儀良く順番待ちして腰を下ろして見上げるなんていう鑑賞が可能でしたが、混むとそれどころではないですね。
堪能しました。

ふじりん様>
こんばんは、お久しぶりです。
僕もよく「行ったつもり、見たつもり」になってます(笑)。ブログは便利ですね。
出先での寄り道記録のような鑑賞記ですが、またお立ち寄り下さい。

Posted by mizdesign at 2006年09月18日 01:19

こんにちは。
TBありがとうございました。
良かったですね、展覧会。なんと言っても宗達の風神雷神!
宗達に光琳とぐぐっときた後に、抱一のほのぼの感(ご本人はいたって真剣だったんでしょうが)も良かったです。後半の展示の予想外の展開にもくらくらしました。
平日の夕刻、私もラッキーでした。

Posted by tsukinoha at 2006年09月18日 06:18

こんばんわ。
土曜日に行ってきました。なかなか見応えのある展示でしたね。
やはり、絵としてみた時には宗達のが一番よかったです。
それぞれの違いを確かめたくって何度往復したことか。頭のなかもぐるぐるになってしまいました。

Posted by あおひー at 2006年09月18日 22:53

tsukinoha様>
こんばんは。
始まりは宗達!
宗達を昇華して光琳!
足跡を慕いて抱一!
という感じの展示に思えました(笑)。
宗達の実物が観られて良かったです。

あおひー様>
こんばんは。
僕も何度も回りました。
見比べが出来るのは面白いですね。
三人の巨匠それぞれに見せ場を用意しているのも良かったです。

Posted by mizdesign at 2006年09月20日 02:10

mizdesignさん、こんにちは。雪月花です。拙記事を見ていただいた上、丁寧なコメントとTBを残していただきまして、ほんとうに有難うございました。
設計事務所を経営されるプロの方のレビューを参考にさせていただきました。「風神雷神図」だけでなく、企画展全体の構成にもたしかに意図があって、光琳と抱一の面目もどうやら保たれた感がありますが、わたしはどうも所蔵品のみでお茶を濁されたような気がして、つい「紅白梅図」「夏秋草図」(下絵でなく本図)を所望してしまいました。でも、本邦初公開の光琳画に出合えましたことは幸せでした。

Posted by 雪月花 at 2006年09月23日 16:47

雪月花様>
こんばんは。TBとコメントありがとうございます。
光琳の「紅白梅図」が写真パネルだけというのは確かに寂しかったですね。門外不出のお宝なので、貸し出しは難しいのでしょう。
抱一の「夏秋草図」は東博で時期を合わせて公開していたので、貸し出せないまでも気を利かせたのかと思いました。
素晴らしい企画展だっただけに、欲も出ますね。

Posted by mizdesign at 2006年09月23日 21:46

mizさん,こんばんは.

イイ展覧会でしたね.
風神雷神図屏風は琳派諸作品のなかでも好きな作品です.

秋夏草図屏風の下絵を見られたことも収穫でした.

Posted by おけはざま at 2006年09月23日 22:13

こんばんは。コメントとTBをありがとうございました。

確かにこの美術館は照明がお上手ですよね。
ビルが古いせいか、天井が低くどうも圧迫感があるのですが、
今回もまた照明の美しい演出で器用に見せていたと思います。
抱一の白銀も映えていましたよね!
拙ブログでは難癖を付けてしまいましたが、
もう一回行こうかななんて思っています…。

Posted by はろるど at 2006年09月23日 23:01

おけはざま様>
こんばんは。
風神雷神図もさることながら、
光琳の屏風の裏側に絵を描いてしまう抱一はすごいですね。
しかも下書きまでして。
琳派はサイドエピソードも豊富ですね。

はろるど様>
こんばんは。
ここはエレベーターから美術館へと至る動線が苦しいですよね。
混んでしまうと道路にはみ出しそうです。
でも、古い建物を手間かけて使う姿勢は好きです。
なんだかんだいっても、風神雷神図を揃いで観られるなんて凄いことです。
抱一の「紅白梅図」は、抱一得意の銀地にトロンとした光琳カーブがのっていて、抱一の想いが極まって観えました。抱一は光琳の「紅白梅図屏風」を観たのでしょうか。。。

Posted by mizdesign at 2006年09月24日 19:48
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