2007年02月26日

●異邦人たちのパリ

 国立新美術館で開催中の「異邦人たちのパリ 1900-2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」を鑑賞しました。

 展示はパリゆかりの作家の作品を、近代の巨匠から現代作家まで一気に駆け抜けます。膨大なポンピドー・センターのコレクションがコンパクトにまとまって引っ越してきたような展示は華やかで、国内最大級の展示スペースを誇る新美術館をアピールする面でも効果的。

 「Section1 モンマルトルからモンパルナスへ」。入口すぐに藤田嗣治「カフェにて」があり、少し進んでマルク・シャガール「緑の自画像」、アルベルト・ジャコメッティ「デディーの肖像」と密度濃く並びます。特にシャガール「エッフェル塔の新郎新婦」が並ぶあたりが印象的。コンスタンティン・ブランクーシ「眠れるミューズ」は、これだけ作品が並ぶ中でも、確たる存在感を放っています。

 「Section2 外から来た抽象」。ヴァリシー・カンディンスキー「相互和音」はとても好きな作品。でもあまり目立っていません。ザオ・ウォーキー「青のコンポジション」の力強さ、アガム「ダブル・メタモルフォーゼIII」の動く騙し絵のような面白さと美しさが素敵。「ああ、美術館に来てるな」という充実感があります。

 「Section3 パリにおける具象革命」。理屈っぽい作品が多かったです。それだけ現代に近づいたということ?

 「Section4 マルチカルチャーの都・パリ」。現代アート展。最後のチェン・ゼン「ラウンド・テーブル」が印象に残りました。円卓を囲みながら座れない椅子。論旨を、机に椅子をめり込ませるという明快な造形で表現するところがスマート。

 この華やかな世界も5/7まで。「あそこに行けば何々が観られる」という常套手段を持たない箱が、どんな魅力的な世界を展開してくれるのか楽しみです。
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2007年02月25日

●国立新美術館

 晴天に恵まれた週末、国立新美術館に足を伸ばしました。日本で五つ目の国立美術館として、華々しくオープンした建物。連日メディアを賑わす設計者の方。とても旬なスポットです。

 巨大な吹抜空間。スケール的には東京国際フォーラムに匹敵しそうなバブリーな空間。波打つファサード越しに射す光が、逆円錐形の壁面に落とす影が美しい。光熱費が凄まじくかかりそう。
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 行きかう人々、カフェで寛ぐ一時。建築としては非常に大味に思えますが、新しい街路が出来たと思えばなかなか。夜間開館がないのが残念。
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 波打つガラスファサードに嵌め込まれた、円錐形の風除室。ダイナミックな造形は、子供の頃によく行った万博記念公園を思い出します。
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2007年02月22日

●日本美術が笑う

 森美術館で開催中の「日本美術が笑う」展を鑑賞しました。年の初めに相応しく、「笑い」をテーマに日本美術を通観する視点が面白いです。

 「1.土の中から~笑いのアーケオロジー」。展示は埴輪が円形に並んで始まります。個々をじっくりと眺めるにはとても見難いですが、展示を観ているうちに向こうの人の顔を覗き込んでしまうような偶然も含めて「笑い」と割り切れば、これはアリなんだなと思います。

 「2. 意味深な笑み」。ちょっと不気味な笑いの世界が並びます。円山応挙「三美人図」は三者三様の描き分けがさすが応挙。でも少々不気味。甲斐庄楠音「横櫛」は着物を用いた立体コラージュのような構成が面白い。が、薄ら笑いを浮かべる女性の表情が怖い。

 「3. 笑いのシーン」。河鍋暁斎「放屁合戦絵巻」の液晶モニター二面を使った作品紹介が良く出来ていました。映像だけで満腹。英一蝶「舞楽図屏風(裏絵・唐獅子図)」は、裏に回りこんで観る展示方法が親切でした。

 「4. いきものへの視線」。縦に長い構図に動物をユニークに切り取った絵が並びます。伊藤若冲「白象図」はお得意の白象を正面から捉えてギュウーッと詰め込んでいます。長沢芦雪「牛図」は対照的に黒牛をちょっと上方からキュッと締める感じ。神坂雪佳「金魚玉図」は金魚を正面から捉えてユラユラ揺れる日輪のように描画。どれもこれも個性的で面白い。でも一点挙げるなら、南天棒「雲水托鉢図」。裏と表が繋がるような構図に笑みが浮かびます。

 「5. 神仏が笑う~江戸の庶民信仰」。最後も円形展示。円空・木喰の仏像を表裏じっくりと眺めるための配慮かと思ったら、裏面はロープが張ってあって回れず。円形の展示台で始まり、円形の鑑賞スペースで終わる、「図と地」反転の仕掛け?

 常に複数の進路を示す動線計画、白と黒で構成された展示台と通路、部分的に抜けを作って鑑賞の合間に観客が視界に入る仕掛け、アルミ引き抜き材とアクリルパネルを用いた展示ケース。随分と建築的な仕掛けだと思ったら、会場構成は建築家の千葉学さんが担当されたそうです。東京シティビューとのセット販売といい、付加価値作りに熱心な森ビルらしい工夫だと思いました。
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 国立新美術館も楽しみです。
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2007年02月20日

●ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展

 太田記念美術館で開催中の「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」を鑑賞しました。キャッチフレーズは「北斎晩年の傑作「龍虎」100年ぶりに出会う」。平日にもかかわらずけっこうな人の入りで、普段の下駄箱は使わずに土足のまま展示室に入るようになっていました。

 印象に残るのはやはり葛飾北斎「雨中の虎」と「龍図」のペア。ビゲローコレクションの「李白観瀑図」を思い起こさせる垂直に流れ落ちる雨に打たれ、右上を見上げて唸る虎。黒雲の中から姿を現し、爪を立てて睨みを効かせる龍。絵の間に漲る静寂と緊張感を、畳に座して観る一時。他所では味わえない愉しみがあります。

 北斎は他にも、流れる水が木の根のような「諸国瀧廻り 下野黒髪山きりふりの滝」、妖艶な鳳凰の元ネタのような「雉子と蛇」といったアクの強い作品が並び、楽しませてくれます。「千絵の海」が展示替えで観られなかったのは残念ですが、またの機会を待つことにします。

 広重も印象的な絵が並びます。月を背景にとてもバランスよく三羽の雁が舞う「月に雁」、輪郭線を描かず凹凸で表現された「太蘭に白鷺」。木曾街道六十九次から特に叙情性の高い「須原」、「洗馬」。中でも「月に雁」がダントツに良かったです。

 会場を一周して島状の石庭で休憩。少々混んでいましたが、ゆとりある舞台装置は抜群に良いです。
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2007年02月18日

●オルセー美術館展

 東京都美術館で開催中の「オルセー美術館展」を鑑賞しました。平日の午後に出かけて、ちょっと混んでいる感じ。入口にある「混雑しております」、「大変混雑しております」、「入場規制をしております」の三段階表示では、「混雑しております」になっていました。

 人の入りとしてはまだまだ余裕があるものの、展示室入口や、小品が角部を集まるところでは、幾層もの人垣が出来て鑑賞という雰囲気ではありません。大作、話題作を中心に、ちょっと離れて観て回りました。

 「I 親密な時間」。最後に展示してある大作、アルベール・バルトロメ「温室の中で」が素晴らしかったです。建具による光と影のコントラスト、その中に浮き立つ白と紺の衣装を着た婦人、そして奥に広がる庭園。モデルを務めた奥様が亡くなると筆を折って彫刻へ移ったという解説を読んで印象がさらに深まりました。

 「II 特別な場所」。クロード・モネ「ルーアン大聖堂」の光の表現が印象的でした。巨大な建築物を、陰影に頼り過ぎず、光に同化もしくは溶け込むように描画する観察眼と技術と執念。ちょっと近寄り難い北斎のような画だと思いました。

 「III はるか彼方へ」。フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのゴッホの寝室」は、AOKITで構図も舞台装置も予習バッチリで本家と御対面。床のハゲチョロ具合や、壁のペンキ塗り重ね感が本家の方がリアル(?)で、意外と健康的な絵という印象でした。

 「IV 芸術家の生活」。エドゥアール・マネ「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」に目が釘付け。マネの黒の魅力は宿題として持ち帰るとして、その黒を引き立たせる背後の光の表現が素晴らしい。それほど大きくない作品ながら、遠くからもその光り輝く様が美しい。間近で観る意外と荒いタッチとのコントラストは、まさに印象派という魔術。

 「V 幻想の世界へ」。ヴィルヘルム・ハンマースホイ「室内、ストランゲーデ30番地」に流れる静謐な時間。開け放たれた扉の白と、奥に垂れ下がるテーブルクロスの白の対位。両者をつなぐカーペットの縦線模様。壁に小さく飾られた絵画による視線の小休止。奥のソファと横手から射す光が、右手へと広がる空間を予感させる。とても読み易い構図だけれども、それは舞台装置に過ぎない。普遍性を与えるモノはなんだろうか。

 オルセーにまた行きたいなという気持ちでいっぱいになる、素敵な一時でした。
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2007年02月05日

●虎ノ門の休日

 昨日は午後から虎ノ門に出かけました。休日のビジネス街は人影が消えて、ひっそり。廃墟に迷い込んだような楽しさがあります。

 金毘羅さんにお参り。オフィスビルの下を参道が通る構成は、過去と現代を紐結びするようで面白い。切貼合成のような虚っぽさを漂わせながら、空間として成功していて素敵。
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 JTビル。日建設計のソツなく上手い、優等生空間。人影がないと、やや冷たい感じ。
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 その一角にあるレストランが目的地。暖かい料理がお待ちかね。
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 そして「モナ・リザ」がお出迎え。「偉大なるレオナルドの作品の来日を祝して。祝福あれ!」
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 というわけで、「池上先生「西洋美術の巨匠 レオナルド・ダ・ヴィンチ」出版記念パーティー」に参加しました。
 企画されたTakさんをはじめとする方々の行動力と、池上先生の人徳で、華やかで朗らかな3時間半でした。素晴らしい時間を、どうもありがとうございました。

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2007年02月03日

●ダ・ヴィンチの遺言

 3月20日から東京国立博物館で開催される特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ――天才の実像」に向けて予習をしよう!というわけで、日本側作品監修者の池上英洋さんの著作を2点読みました。

 1冊目は「ダ・ヴィンチの遺言」(河出書房新社)。ダ・ヴィンチの生涯を、淡々とエピソードを並べつつ浮き上がらせていきます。ポイントは、先人の尊敬と情熱と誤解で作り上げられた天才像を、最新の研究に基づく合理的な判断と著者の見解でもって、等身大の人間へと塗り替えていくところ。「東方三博士の礼拝」の中断の訳、二枚ある「岩窟の聖母」の相違、「モナ・リザ」のモデル等、読みどころ満載です。平坦で読みやすい文体と、さりげなく述べられる大胆な仮説の組み合わせも油断ならなくて面白いです。ダ・ヴィンチの画集を眺めつつ読む副読本としてオススメな1冊です。
 惜しむらくは、やたら派手な見出しと素朴な本文がちぐはぐなことと、全体構成が少々雑に感じられること。とってつけたようなダ・ヴィンチ・コード解説(?)章を読むにつけ、ブームに乗じた出版事情による制約が色々とあったんだろうなあという感じ。

 2冊目は「西洋絵画の巨匠8 レオナルド・ダ・ヴィンチ」(小学館)。帯には「「万能の天才」の真実 すべてがわかる決定版画集-名画の感動と臨場感を、世界最高水準の印刷で再現」とあります。実際にはけっこうテキスト量があるので、贅沢に図版を盛り込んだダ・ヴィンチ絵画の解説本に近いと思います。テキストは9割がた「ダ・ヴィンチの遺言」と重複する感じですが、こちらの方が推論部分はおとなしめ。こうやって池上版ダ・ヴィンチ像が世に広まって行くのでしょう。
 印象的なのは最後の2章。「さまよえる万能人」では、ダ・ヴィンチ工房の作品として何点か解説されています。この視点の導入で、これまでの唯一絶対の天才ダ・ヴィンチという世界から、彼の生きた時代へと世界が広がったと思います。「世界-Globe-の探求」では、東洋と西洋の世界観の共有を絡めることで、当時の日本の図版をはさんでいます。ダ・ヴィンチが思索した人間-地球-宇宙の世界は東洋も巻き込んで物語を紡ぐのか?今後のダ・ヴィンチ像の展開が楽しみです。

 手元にあるダ・ヴィンチ本です。右から「知られざるレオナルド」、「絵とき美術館 レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「カンヴァス世界の大画家5 レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「西洋絵画の巨匠8 レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「図説レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「ダ・ヴィンチの遺言」。置場の都合でずいぶんと処分しましたが、また増えていきそうです。
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●A Beautiful Day in 表参道

 金物メーカーのショールームを見に、表参道に行きました。
 地下鉄の階段を上がると、ガラス屋根の向こうに広がるケヤキの樹形と青い空。
 表参道が一番美しい季節。
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 TOD'Sの樹形を模したコンクリートパターンとの対比も美しい。
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 ショールームからの眺め。
 樹形越しに眺める表参道ヒルズ。
 半分地下に埋めることで守られた街路空間。
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 表参道サイコー!とても美しい一時でした。

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