2008年06月24日

●勝間和代「お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践」

 勝間和代「お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践」を読みました。これまでの二冊に比べると、実践書としての色合いが非常に濃いです。
 「振込手数料無料」の売り文句に惹かれて、S銀行にお金を預けている身としては気になるタイトル。ついでに利率優遇という特典に惹かれて、そのほとんどは定期。ただし、振込手数料無料は回数制限があり、定期は1年で自動解約されて普通口座に移されます。口座を開設して、資金を移動して。囲い込み戦略にスッポリとはまっております。購入の決め手は、前書でのさりげない宣伝。

 リスク(risk)と危険(danger)。リスクは計量可能で、コントロール可能なもの。コントロールできないリスクは、単なる危険(ギャンブルなど)。
 迷う前に、株式や債券などのリスク資産の購入を決意することと、各資産をどのくらいの割合で持つかという判断になる。なるほどなるほど。
 「There is no such thing as a free lunch.」 (タダ飯なんてものはない)。金言。
 銀行は主に定期預金と住宅ローンで儲けていて、手間暇のかかる普通預金や決済サービスではさほど儲かっていない。定期預金の方が国債より利率が低いことを意外と知らない。おおーっ、そうなのか!
 不動産で特に問題となるのが、住宅ローンは銀行を始めとする数多くの企業の大きな儲け口になっているという点。金融資産という考え方からいうと、土地の値段が値上がりしにくいときは住宅ローンを組むべきでない。金融資産としてみた場合の、住宅ローンの位置付け。とても刺激的。自分にとっての「安全地帯」の考え方を練り直そう。
 「じゃんけん理論」。確かにあるが、現実的かは推して知るべし。
 各種金融商品を簡単に解説して、実践へ。分散投資、分散投資、分散投資。
 「金融リテラシーを身につけるための10のステップ」。ゴール設定が具体的で、読者の顔が見えてるなと思った。

 「金融を通じた社会責任の遂行」。前章でひとまず完結。最後は金融と世界の結びつき。確かに、生きて行く上で避けては通れない。
 そして、書を閉じたら始める第一歩。「タダ飯はない」を肝に銘じて踏み出しましょう。「おいしい家庭料理」を目指して頑張る日々。

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2008年06月21日

●勝間和代「勝間式「利益の方程式」」

 勝間和代「勝間式「利益の方程式」」を読みました。明快かつ丁寧に、「今」求められる課題への取り組み方を説く、勝間シリーズ二冊目。

 年をとるにつれて健康のありがたさを実感し、健康について急に管理をするようになるのと同じように、日本経済の中年期にさしかかり、予防対策と生活習慣の引き締めを説く。一冊目を読んでNike+iPODを購入し、ランニングの管理を始めた身としては、勝間ビジョンに興味津々。

 日本人が意外と利益を上げていないことを例証する項で、生産性がアメリカの半分以下しかない産業として「小売、建設、食品加工業など」とあるのを見て、ああやっぱりねと納得。朝から深夜まで仕事してるもんなあ。。。
 適切なワークライフバランスを説く際に、「儲からない仕事を辞めること」といわれるとドキッとする。そのあとで利益の作り方を料理に例えて、「これらの基礎知識と手法を学べば、プロ級の料理とはいかなくても、おいしい家庭料理であれば、誰でも作れるようになります。」と本書の位置付けをするバランス感覚が旬だなあと思う。
 そして本題「勝間式「万能利益の方程式」」。「利益=(顧客当たり単価-顧客当たり獲得コスト-顧客当たり原価)x顧客数」。以下、懇切丁寧に変数の一つ一つを解説してゆきます。
 一円単位の単価を上げる工夫、コストを下げる大切さ。「良い商品・サービスなら売れる」という思い込みの指摘。ブランド=体験の大切さ。顧客が魅力を感じる部分を、細かに抽出する必要性。ミシュランの本が売れる理由を、「これまでミシュランに載ったレストランに行けなかった人が、その憧れから眺めて、レストランに行った気になるために買う」というのは、なるほどと思う。BRUTUSもそうだもんなあ。顧客単価に応じて、マーケットの大きさは決まっていると説き、「Willful Thinking (こうなったらいいな)」を戒める。顧客単価と顧客数は相反する。この視点はシビアに持つ必要あり。
 顧客に気持ちよくお金を払ってもらう仕組「松・竹・梅」のプライシング。そういうことね。「ヒューリスティック」判断プロセス。未知のものに触れた時、詳細な比較検討はごくまれにしか行なわない。経験則や学習内容に応じて、瞬時に決断してしまう。この視点はプレゼン時に大切。
 「粉モノ屋は儲かる」。なぜなら「小麦粉は世界中の中で、カロリー単価が最も安い商品の一つだから」。2008年に入っての小麦粉の30%値上げも盛り込んで、それでもまたまだ米に比べるとカロリー単価が安いとフォロー。他の例として新書ブームを取り上げる。さりげなく自著「お金は銀行に預けるな-金融リテラシーの基本と実践」を紹介。気になって買ってしまった。
 結局は地道なベンチマーク。コピー用紙の裏を使うより、人をなるべく少なくする。つまり本当に鍵となる原価要素だけを管理する。オーバースペックはコツコツ退治。肝に銘じよう。
 「S字カーブの法則」。イノベーター2.5%、オピニオンリーダー(13.5%)、アーリーマジョリティ(34%)、レイトマジョリティ(34%)、ラガード(16%)。オピニオンリーダーとアーリーマジョリティの間にキャズム(溝)がある。ブログはキャズムを超えたとして、その細分化の一つである美術ブログはキャズムを超えられるか?

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2008年06月17日

●大阪雑記

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 宿泊先は大阪。考えてみれば、大阪に立ち寄るのも10年ぶりくらい。ケーキセットを食べて一休みして、宿舎へ戻る。
 小学校、中学校と同級生だった友人と、25年ぶりくらいに会いました。博士号をとったという近況に驚いたり、メタボな体形に会社員だねーと思ったり。大学の同級生と同じ職場、同じプロジェクトに参加したことがあると聞いてビックリしたり。

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 朝のホテルからの眺め。梅田スカイビルが朝陽に輝く。思ってたよりずっと格好良い。

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 バイキング形式の朝食。窓際の席に座ったら、自転車が植え込みに投げ込んであった。泥酔した人が植え込みに突っ込んだんだろうか。

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●国宝 法隆寺金堂展@奈良国立博物館、法隆寺

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 愛知の次は奈良へ。待ちに待った「国宝 法隆寺金堂展」開幕。
 一時間ほど早めに現地入りして、東大寺裏参道辺りを散策。

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 南大門の金剛力士立像。やはり運慶、快慶といえば、この像。その筋骨隆々の威容は、質実剛健な鎌倉彫刻の傑作として申し分なし。

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 そして奈良博へ。開館後10分ほど経った様子。特に列もなく、スムーズに入館。
 1,300年を超える歴史を持つ法隆寺金堂の中に納められた仏様たち。その尊顔を明るい照明の下で観られる、今世紀最後の機会。一連の再現壁画を一点と数えれば、展示数わずかに17点。うち国宝、重文14点。混雑というほどの状態でもなく、一時間くらいで観終わるかと入場。その異様に濃密な展示品の数々に、足が全く進まなくなりました。

 はじめに飛天。かろうじて焼損を免れた、飛鳥の至宝。七星剣の彫りを眺めて、再現壁画へ。印刷ながら見ごたえ充分。ガンダーラ仏の影響が強いのか、とても写実的な描画、鮮やかな色彩。こんな壁画が金堂を荘厳していたかと思うと、もう悶絶。焼損は本当に残念無念の極み。でも想像するに足る再現画と会場構成に感謝。
 そして四天王の一つ、多聞天。玉虫の羽を敷いたとある杖の透かし飾りはよく分かりませんが、金堂にいよいよ踏み込んだという興奮。うっすらと残る色彩。平坦なつくりの顔立ちに大陸からの影響を感じ、壁画の写実性との違いに文化交流盛んな飛鳥の往時を思う。ボリュームのとり方は素朴なのに、目が離せない。
 その後ろに控える、阿弥陀三尊像。天蓋、台座、仏様が揃っての展示はこの像のみ。天蓋を見上げ、双眼鏡で細部を観ていくと首が痛くなりますが、それでも目が離せない。見上げすぎにご注意。後で出てくるもう一つの天蓋が低い位置に展示されているので、細部はそちらで観ることをお勧めします。台座の彩色はうっすらと分かる程度。他の台座の方が保存状態良いです。三点揃った迫力が最大の見所。
 その左右に前記のみの展示、毘沙門天・吉祥天像が控えます。特筆すべきは、吉祥天の彩色の保存状態。とても鮮やかな赤い色彩は本当に綺麗で、他の展示品の三倍は長く観ていたと思います。後期の四天王だけで良いと思っていると、このお二人には永遠に会えません(今世紀最後の公開だし)。髪飾り、冠に嵌めこまれたガラス玉(?)等の細部もお見逃しなく。
 左手にもう一体の四天王、広目天。赤外線(?)撮影による、往時のお髭のあるお顔と見比べられます。今の、ボリュームが明快に分かる状態もなかなか良いです。
 中の間の釈迦三尊像の台座と天蓋が分けて展示されており、その御本尊は法隆寺上御堂に仮安置中です。揃って観たいという気持ちは当然ありますが、お宝の展示を巡る綱引きを想像しても詮無いこと。単体でも見応えあるので、じっくりと観ます。天蓋の上に乗っている飛天の楽器を見比べ、鏡に写る天蓋裏の彩色を眺め、天蓋の裾に吊ってある装飾品の細部を間近に観る。
 展示の照明は東博にならったのか、ずいぶんと垢抜けています。ガラス等の隔ての全くない展示方法も大胆。決して広くない室内で、混雑時に観客がぶつかったりしないかと心配になるほど。

 一巡する頃には、精も根も尽き果てました。双眼鏡必須、充分な体調でのご鑑賞を強くお勧めします。前期、後期どちらがお薦めかは後期未見につき分かりかねますが、吉祥天の色彩美にこだわるか、四天王勢揃いにこだわるかで分かれるかと思います。まず前期に行って、興味が湧けば後期も行くのがベストでしょう。

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 公園向かいの「志津香」で釜飯を食べて一休み。
 再度奈良博に戻って、特別陳列「建築を表現する―弥生時代から平安時代―」、平常展「仏教美術の名品」を観ました。残念ながら午前中の消耗と眠気で、集中力は散漫。信貴山縁起絵巻、一遍聖絵、六道絵、天寿国繍帳といった名品をかろうじて目に焼き付けました。

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 そして法隆寺へ。金堂展の半券で割引があります。
 バスで移動したのが失敗。奈良公園から法隆寺まで1時間ほどですが、渋滞があってさらに30分かかりました。途中、運転手さんが「法隆寺へ行く方は、JR奈良駅からJRで行かれた方が早いです」とアナウンスをして下さったのですが、疲れていたので乗り換えなしのこちらを選びました。帰りはJRを利用しましたが、その速さと快適さにビックリしました。移動は絶対にJRをお薦めします。

 拝観時間終了が迫る法隆寺で、金堂釈迦三尊像を観るべく一目散に西院へ。講堂の裏手にある上御堂でようやく御対面。奈良博で観た天蓋と台座を思い浮かべつつ、平坦な顔立ちが特徴の三尊像をじっくりと観ました。衣の表現も平坦ながら、それがかえって印象を深める。聖徳太子と現代を直接つなぐお姿に感無量。その右には薬師如来像。こちらの方が顔立ちが上下に若干締まっていて好印象。御名前は違えど、両手に結ぶ印は同じ。次から次へと舞い込む注文に答えるべく、事前に仏様の造立を進め、注文主の要望に応じて名前をつけ、顔立ちを整える当時の生産体制を想像しました。
 大宝蔵院でズラリと並ぶ名宝に後ろ髪を惹かれながら、見所だけをとばしとばし観ていきます。有名な夢違観音、奈良博に展示されていた複製よりも状態が良く見える玉虫厨子、橘婦人厨子、金堂壁画の小片。そして何より百済観音。横から見ると、スラリと流れるような体の線が本当に美しい。
 時間切れで東院は行けませんでしたが、それでもとても濃密で充実した一日でした。

 追記:四天王残りの二体は、法隆寺で公開中とのこと。そうすると、毘沙門天・吉祥天像も後期は法隆寺で公開するかも(未確認)。もしそうなら、四天王を揃えて観られる後期の方がお薦めでしょう。ただし、人出も多いと予想します。

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2008年06月16日

●愛知アートツアー (豊田編その2)

 豊田市美術館で開催中の「綯交 フジイフランソワ、一体こやつのアートはいかに。」展を観ました。今回の豊田行きを決定付けた展示ですが、実は特別常設展。企画展ではありません。
 この展示の特徴は「とらやき」に集約されています。どらやきの姿に、表皮は蘆雪や応挙を髣髴させる虎皮パターン。内側は白毛がフサフサと。それが、何もおかしいところはありませんと澄まして置いてあります。ここでクスリと笑った方は、この展示にはまります。画材がお茶と聞いてさらにズブズブ。若冲タッチの鶏頭が生える草を見せられては、もう行くしかない。過去10年から最新作まで、底なし沼の綯い交ぜワールドへようこそ!そんな感じの展示です。
 近作「にわにわにわにわとり」の大胆な若冲鶏のクローズアップと切り取り方、「やなぎにかえる」の飛びつく蛙と風になびく柳のしなやかさを結びつける視点は、綯い交ぜワールドがさらに発展してゆく様を予想させてくれます。
 図録表紙は黒地にピンクの綴じ代が覗くオシャレなつくり。構成にも装丁にも異様に力が入っています。常設展のはずなのに、飛ぶような売れ行き。上野の会田さんと山口さんの二人展を思い出しました。上野に対抗意識を燃やした名古屋(豊田?)が総力を挙げて作り出した、壮大な洒落に思えました。

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●愛知アートツアー (豊田編その1)

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 名古屋の次は豊田。絶対行きたい(というかとっとと行け)美術館ベストスリーの一つ、豊田市美術館。ようやく訪問。設計は谷口建築設計研究所。
 水盤を前に、薄く細く長いフレームでリズムをとり、乳白ガラスの行灯を背後に控える構成は、雑誌で何度も見たとおり。端正なことこの上ない、ミスター・パーフェクトの面目躍如。香川県立東山魁夷せとうち美術館でも使用されていた緑色の米国産スレートが壁も床も多用されていて、相当なお気に入り素材らしい。

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 エントランスを振り返ると、外の景色を水平に切り取る横長の開口。

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 大階段を上って、光の行灯の中へ。柔らかに満ちる光、壁面にリズミカルに展開するアートワーク、天井から吊られた細い棒状のアートワーク。建築とアートが融合する理想郷のような空間。

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 そして展示室。上部を切り取り、壁と天井を分離する構成、ガラスで光の面と化す天井。浮遊感に満ちた白い空間。「せとうち」はこの空間をスケールダウンして、細い柱を隅部に建てた構成に思える。

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 谷口建築に必須の、美味しいレストラン。外の景色を取り込む店内には、なぜかカーペンターズが流れる。ランチメニューはパンにドリンクにデザートまでついて950円と驚きの安さ。豊田市が財政補助しているのかと思ってしまった。

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 外構はピーター・ウォーカー。大池をはさんで、建物の反対側にあるストライプ状の田んぼ(?)。

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 茶室へ足を伸ばせど、ちょうど閉館。外側をぐるりと回って、美術館側へ折り返した眺め。歴史を踏まえた石垣、大池、フレーム、ガラス張りのあずまやのようなインスタレーション、そして行灯。どこから見ても絵になる隙のない構成。
 この施設は意外と多様な用途を持っていて、細いフレームは、ともすれば雑然となりそうなそれらの集合体としての性格を視覚的な造形として表していると感じました。この点が、他の谷口作品とは少し異なった性格を帯びる一因だと思います。

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●愛知アートツアー (名古屋編)

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 10年ぶりに名古屋へでかけました。新幹線から見るモード学園ビルもインパクトありましたが、今回の目的地は愛知県美術館です。
 目的地のお向かいにあるオアシス21でしばし足が止まる。ギラギラの階段腰壁、水を張った水盤の屋根。ぶっとい骨組。はっでー!

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 水盤の屋根面にはエレベーターでアクセス。水面には入れませんが、触れます。子供たちが楽しげに遊んでいます。でも夏は暑くて人っ子一人いなさそう。。。
 水盤の向こうに、空へと伸びるテレビ塔。名古屋の顔?

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 通路を通って、愛知芸術文化センターへ。ここは地下の吹抜け。天井面は蛍光灯で光っています。この建物の上層部が愛知県美術館です。
 本日より公開の「誌上のユートピア」展を観ました。
 副題は「近代日本の絵画と美術雑誌 1889-1915」。雑誌の表紙を飾った絵画と、その画家の絵画を合わせて並べるという、構成に一工夫ある展示。
 近代日本の16年間がメインなのですが、冒頭のヨーロッパの美術雑誌に眼を奪われました。『ユーゲント』の多様な表紙絵の数々に、歴史的な表紙絵の変遷という時間軸(例えば技術の発展に沿って色味が豊かになる、描画が細かくなるといった)が消失してしまった。はじめからゴールを見た気分。
 全体構成がボケてしまったので、視覚的に楽しい作品を見て回る。橋口五葉の一連の装丁は、手触り感を想像させてとても美しい。杉浦非水の三越の広告シリーズもバリエーション豊かで見ていて楽しい。三越は度々登場していたので、当時のメディアを意欲的に取り入れている様が想像できた。神坂雪佳の「百々世草」シリーズもまとまって登場。凶悪に可愛い「狗児」を初めて観ました。お馴染みの「金魚玉図」も登場。グラフィックアートとの相性の良い雪佳の作品は観て楽しいですが、本展との結びつきは今ひとつ弱かった気もします。黒田清輝が随所に登場して、当時の彼の影響力の大きさを感じました。誌上に展開される「ユートピア」の読み込みをサボってしまいましたが、それでも圧倒的な物量と視覚的な美しさに満ちた構成で十二分に楽しめました。
 続いて常設展。現代アート多数。デヴィッド・シャピロの細かいパターンの組み合わせで構成された作品が眼を惹きました。自画像を集めたコーナーも多彩で興味深い。野田哲也「日記1987年5月30日柏市亀甲台2-12-4」は思いっきりうちの近所でビックリ。

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2008年06月14日

●「井上雄彦 最後のマンガ展」@上野の森美術館

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 上野の森美術館で開催中の「井上雄彦 最後のマンガ展」を観ました。入場締切15分前にたまたま通りかかったら、当日券ありとのこと。即チケットを購入、10分ほど並んでほどなく入館。

 入るといきなり「武蔵」。そして物語のプロローグへ。
 「SLAMDUNK」、「バガボンド」でお馴染みの超絶技巧の描画、構成力。さらに全編新作。紙が並ぶ展示がこんなにも臨場感を生み出すものかと、目を奪われ、心を掴まれ、そして明暗の演出に感動します。クライマックスの邂逅には涙が出ました。うわさの木刀もじっくりと観た。
 「あなたが、最後に帰る場所は、どこですか。」。このコピーが物語を的確に表しています。そして全編を通して伝わってくるのは、読者への感謝の気持ち。技術と思いが重なることで、マンガの世界が紙からあふれ出し、美術館をのっとります。
 一期一会のマンガ展。観ることでしか伝わらないモノがあります。

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 出口には携帯用バーコード。ちょちょっと描かれた絵とメッセージがうれしい。

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2008年06月05日

●羽生善治「決断力」

 羽生善治「決断力」を読みました。現代最強棋士のお一人、梅田さんの本に登場する「高速道路」論、コンピューターを駆使した分析を行なう柔軟な姿勢。というわけで購入。

 KISSアプローチ。"Keep it simple, stupid."。ごちゃごちゃ考えない。
 早い段階で定跡や前例から離れて、相手も自分もまったくわからない世界で、自分の頭で考えて決断してゆく局面にしたい思いがある。
 「仕事にゆき詰まったときは整理整頓」。
 直感の七割は正しい。
 リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい。
 これまで、誰もが怖くて「できなかった」分野で画期的な何かが起こる可能性がある。
 自分の形に逃げない。
 「道」や「芸」の世界に走ると言い逃れができる。だが、それは甘えだ。
 コンピューターの強さはどういうものか。おそらく人間の強さとは異質なものだろう。
 さほどシャープに感じられないが同じスタンスで将棋に取り組んでいる確実にステップを上げていく若い人のほうが、結果として上に来ている印象がある。
 自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になってしまう。今はいいが、将来を考えると「良くないな」と気づいた。

 印象に残るフレーズをメモすると上記な感じ。謙虚に他人の声に耳を傾け、己に厳しく勝負に向かい合い、リスクを恐れず新しいことに取り組んでゆく。切れ味鋭い刀のごとき内容。

 だけれども、書物としては物足りない。ビジネス書を意識したのか、各章ごとにビジネスにも通じる一言で締めるのがいかにも蛇足。高い山の頂からわざわざ降りてきて、いっしょに見上げて一言述べる感じ。編集の人が欲張って焦点を絞り込めなかったのだろうか。「高速道路」だけを繰り返し述べる梅田さんは、そこがしっかりしているなと思いました。

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●東京アートツアー_0531 (六本木編)

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 代々木乃木坂、そして六本木へ。
 サントリー美術館「KAZARI 日本美の情熱」。監修は辻惟雄さん。「日本美術の歴史」に綴られた史観とサントリー美術館のコレクションのコラボレーション。
 「第一章 かざるDNA」。縄文土器から始まる「かざり」の遺伝子。教科書で見た国宝火焔土器は始祖に相応しい。舎利容器の細微に渡る作りこみは見応えたっぷり。そして何より伝岩佐又兵衛筆「浄瑠璃物語絵巻」。荘厳華麗なる描画に密度。そしてあの「血染め」の又兵衛。辻節全開のハイテンション展示。さらに「春日龍珠箱」の手乗りならぬ頭乗り竜の凶悪な可愛さで駄目押し。
 「第二章 場をかざる」。座敷飾りの教科書と実物再現展示を並べる懇切丁寧な構成。よくこれだけ集めたものだ。ポスターになっている「色絵葡萄鳥文瓢形酒注」も確かに良いが、もっと良いものがズラリ。メインビジュアルはサントリー美術館の所蔵品という制約があったのだろうと勝手に邪推。
 「第三章 身をかざる」。色物兜の大行進。中でも「黒漆塗執金剛杵形兜」は、一瞬何か分かりませんでした。「蝶形兜」のミ○キーマウスのようなシルエットも可愛い。
 階が変わって着物が登場。着物は苦手なのですが、「舞踊図」で絵画の中の着物への興味を喚起して、実際の着物へと視野を広げる展示のおかげでスムーズに入っていけました。ずっとハイテンションだった展示が落ち着いてほっと一息。
 「第四章 動きをかざる」。祇園祭の山鉾の「かざり」まで並んでおなか一杯です。
  幕間(?)の平田一式飾の陶器による造形も楽しい。レゴブロックの陶器版。
 辻美術史のキーワード「かざり」が全編を覆い尽くす、夢の企画展。これほどの展示がさりげなく始まってしまうあたり、東京の脅威のスピードを実感しました。

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 お腹が減ったので一休み。お店の方が「いかにでも取り分けいたしましょう」とか、「このチキンはとても美味しいよ」と親指立てたりでちょっと気障。ちょっと気取った夜景とあわせて、ミッドタウンな感じ。

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 最後は森美術館に滑り込みました。
 「英国美術の歴史:ターナー賞の歩み展」。濃密な日本美を堪能した後だったので、少々食い合わせが悪かったです。デミアン・ハースト《母と子、分断されて》。その分断された間を歩いてみた。ゾクゾクと悪寒が走った。
 「サスキア・オルドウォーバース」は1本のみ鑑賞。ドンドン変化する画面が飽きさせない。出直します。
 そして「TOKYO CITY VIEW」。夜景は24:00まで鑑賞可。

 代々木、乃木坂、六本木。バラエティ豊かで充実したプログラム群、夜間開館、夜景。東京ってすごいなと思った一日でした。個人的番付は「モバイルアート」、「KAZARI」が双璧、次いで「エミリー・ウングワレー」。

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2008年06月03日

●東京アートツアー_0531 (乃木坂編)

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 代々木の次は乃木坂へ。
 まずは国立新美術館。「アボリジニが生んだ天才画家 エミリー・ウングワレー展」を観ました。副題は「赤い大地の奇跡-5万年の夢に導かれ、彼女は絵筆をとった。」。およそ美術界の動向と縁遠いオーストラリア中部、ユートピアと名づけられた地域に生まれ、ほぼ生涯をその地で過ごしたアボリジニの女性「エミリー・ウングワレー」の回顧展。彼女がカンバスに描き始めるのは70代後半。そして亡くなるまでの8年間に、3千点とも4千点ともいわれる数の作品を残したそうです。
 バティック(ろうけつ染め)の線的な要素の上に、箔押しするような点々。その独特のリズムと明るい色彩から始まり、線を埋め尽くすほどに密実な点描へ。
 《カーメ-夏のアウェリェ》。全面を覆う点描は、抽象にも見え、具象にも見え、和風にも見え。
 《大地の創造》。故郷の景色を大胆な画面構成と色彩で描く大作。一見抽象的な線や点が、実は彼女にとってかけがえのない景色を表している。その素朴さと飛躍のアンバランスさがなにより魅力。
 《ビッグ・ヤム・ドリーミング》。縦横無尽に伸び絡み合うヤムイモの根。シンプルで明快な白と黒。そして複雑で入り組んだ線。
 全編を通して感じるのは、溢れるイマジネーションをただキャンパスに転写してゆく天性の眼と技。それを西洋絵画の概念で定義しようと、解説が必死に追いかけていきます。会場構成もシンプルにまとまっており、新美術館で観た中で白眉な仕上り。

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 お次は「虎屋ギャラリー」へ。こちらで知った「源氏物語と和菓子展」を観ました。物語未読了の未熟者なので、興味はもっぱらお菓子へ。「若紫」の伏籠が抜群に良かったです。「波」の表現もなかなか。
 「虎屋菓寮」であんみつ+抹茶グラッセをいただきました。写真は黒蜜ですが、頼んだのは白蜜です。このあと取り替えてもらいました。まったり濃厚で美味しかったです。和菓子はやっぱりこうでなくっちゃと勝手に納得。

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 そして「ギャラリー間」へ。「杉本貴志展 水の茶室・鉄の茶室」を観ました。ハイアットリージェンシー京都のラウンジ改装で、紙細工のような空間を創出。建築誌、デザイン誌等を賑わせたスーパーポテトの手がける茶室とのことで興味が湧きました。本日最終日で、けっこうな人の入り。ほとんどが建築を学ぶ学生っぽいのは昔と同じ。残念ながら、水の茶室は撮影不可。最終日は混むから?
 鉄の茶室。廃鉄を組み合わせて貼り混ぜな感じを出したしつらえ。ムシロ敷きの床が良い感じ。茶室という「形式」を守りつつ、そのハコの崩して楽しむ「遊び」と読んでみた。重い鉄を薄くペラペラに見せ、貼り混ぜのランダムさがそれを助長する。
 水の茶室。暗闇に水滴の滴るスクリーン。水滴の一本一本に光源を仕込んで、闇に浮かび上がる。幽玄で視覚的に美しい。茶室を自然との対話と考えると、暗幕で囲まれた密室に引き篭もるような構成に、個人的には?。
 流行の商業デザインで作った茶室に見えました。伝統の打破という理解で良いのでしょうか。茶道については課題として持ち越し。

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 中庭にあったオブジェ。鉄と苔と青紅葉とコンクリートの壁。そして雨。

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2008年06月01日

●CHANEL MOBILE ART in TOKYO

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 「CHANEL MOBILE ART in TOKYO」を体験しました。
 副題は「CHANEL CONTEMPORARY ART CONTAINER BY ZAHA HADID」。世界的な建築家であり稀代のスーパービジュアリスト「ザハ・ハディド」。アンビルトから現実へと次元を超えて疾走する、彼女の流れるようなラインと空間が実体化し世界を巡回し、東京に降り立つ!という作りのプロモーションで期待を一身に集めていよいよ開幕。場所は代々木競技場オリンピックプラザ、天候は小雨。

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 予約制なので、混雑も特になくスムーズに入場。入ってすぐのベンチで鑑賞インターフェースのZEN Playerを首に架けてもらって、簡単な説明。ヘッドフォンから流れるちょっとダミ声の女性ガイダンス(館の主?)に導かれて、一人ずつ物語の中へと旅立ってゆきます。
 ロリス・チェッキーニ「Floating Crystals」とマイケル・リン「Untitled」による天と地の菱形の世界で軽くウォーミングアップ。階段を登って束芋「at the bottom」へ。底なし沼を覗き込みつつ、飛来し去ってゆく虫たちの羽音に意識が深層へと惹かれてゆきます。館の主が帰ってくるのを待って、移動。ダニエル・ビュレンのストライプゲートを潜ると、一転して暗闇。右手にレアンドロ・エルリッヒの箱庭が浮かび上がります。雪見障子のように視野を下部に限定して、水辺に映るアパート群。その窓辺に住人の動きが小さく写ります。窓に下にさりげなくCCロゴ。
 再びビュレンのゲートを抜けて白い世界へ。楊福東「My Heart was Touched Last Year」の微細に変化する二つの映像。ブルー・ノージズのビックリ・段ボール箱x6。「8数えるうちに観てね」というガイダンスに慌てたら、実はものすごく間を開けたカウント。館の主も展示に合わせて茶目っ気たっぷり。その先に荒木経惟のスライド作品。映像は初見かも。
 振り返るとコンテナの扉が少し開いています。その隙間から覗くとファブリス・イベール「Comfortable」。「私の部屋へようこそ」。えっ、熊さんだったんですか!?さらにイ・ブル「Light Years」。「頭の中へようこそ」。ついに頭の中まで。。。お邪魔します。。。
 通路際の展示を経て、トップライトから光射す「パティオ」へ。巨大シャネルバッグに、3枚のポストカードに、ピンクの祭壇に、シャネルバッグの製作風景写真。40分に渡る「サウンドウォーク」の、見事なグランドフィナーレ。

 「観る」から「体験」へ。会場全体を一つの大きな物語として構成し、それを解説ではなく「サウンドウォーク」で補助線を示しつつ体験する。これが最大の魅力。ハードウェア的に可能という次元でなく、ストレスなくその世界に没入できるところまで仕上げてくるところが流石。フォーマットは一つ、それが鑑賞者の中で無限に分岐、変容する。
 ZAHAとサウンドウォークの二枚看板。プロモーションではビジュアルインパクトのあるZAHAを全面に出し、展示はサウンドウォークできっちりと仕上げる。実体験ではZAHAデザインは行き止まりのない流れるような動線として機能するものの、ビジュアルインパクトはそれほどでもない。サウンドウォークは実体験に特化した一期一会的なシステムなので、プロモーションはし難い。両者の特性を上手く組み合わせて、プロモーション、実体験とも非常に魅力的なモノに仕上げているところが巧み。
 常に変化を求められるスーパーブランドのアンテナはすごい。機会ある限り、何度でも行こう。

Posted by mizdesign at 13:49 | Comments [6] | Trackbacks [6]