2007年12月31日

●キーワード 2007

 今年のアート、街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。去年のエントリーはこちら

 「大躍進、六本木トライアングル」
 国立新美術館、サントリー美術館が大型企画展をズラリと並べて話題を呼ぶのは当然として、先行する森美術館が一年を通じて非常に充実していたのが印象的でした。展示に加えて講演会、会員向けイベントの充実で、一つの展覧会会期中に何度も足を運びました。「ル・コルビュジェ展 建築とアート、その創造の軌跡」に至っては、実に六度も訪れました。MAMCナイト、J-WAVE ART PICNIC、巨匠建築家によるレクチャーシリーズ(1回目2回目3回目4回目)。正直なところ、展示単体では10年前のセゾン美術館での展覧会に及ばなかったと思います。そこを、原寸再現模型、コルビュジェ生誕120周年、世界文化遺産登録への動きといった話題作り、そして何より豊富なプログラムでもって非常に充実したものに仕上げたことは素晴らしかったです。その後の「六本木クロッシング」も面白く、こちらのMAMCナイトも参加しました。トライアングルが機能したのは、森美術館の健闘が大きかったと思います。もっとも、展望台まで含めて同一料金という反則技な立地でもあるのですが。。。
 上記に対するカウンターが「反撃する上野」。東博の特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の肖像」(その1その2)は実質1点の真筆で、ズラリと日本人好みの作品を揃えた国立新美術館「大回顧展 モネ」を動員面で上回り、西洋美術館「パルマ イタリア美術もう一つの都」では比較的知名度の低い作品群で観客を魅了します。東博平成館と東京都美術館はお得意の大型企画展を連発しますが、比較的空いている印象があったのは、やはり六本木トライアングル効果でしょう。もっとも、新しいモノに伸び代があるのは当たり前のことなので、勝負は来年以降です。

 「現代アートを「買う」」
 現代アートを「買う」というフレーズを頻繁に聞く一年でした。「アートフェア東京2007」のプレイベント「現代アートを買うために」で、三潴さんが非常にストレートに「買う」という話をされていて印象的でした。その際に話に出たシンワアートオークションのプレビューを見に行ったら、TさんとLさんは翌日の入札にも参加されたとのこと。見回せば、BTをはじめ各種雑誌で「アートを買う」というテーマで特集が組まれています。好きな作品と一緒に暮らす楽しみ。価値が定まっている代わりに伸び代も少ない古典に比べれば、現代アートは宝の山(と同時にゴミの山)。アートバブルがどういう結末を迎えるかは置いておいて、現代アートを観る視点が増えたことは確かです。
 もう一つ現代アートの勢いを感じたのが、練馬区立美術館「山口晃展 今度は武者絵だ!」のアーティストトークの際に、観客で埋め尽くされた会場の様。驚異のトップランナー効果との合わせ技で、立錐の余地もない会場。その中でマイペースで淡々と話す山口さん。絵画の境界からはみだしそうな、ストーリー仕立ての展示作。一つの現象として、とても印象に残っています。

 「京都限定」
 質と量に物を言わせる大型企画展が相次ぐ中でも一線を画したのが、相国寺承天閣美術館「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」(その1その2)と、京都国立博物館「特別展覧会 狩野永徳」。共通点は「京都限定」。
 前者は延々と三の丸尚蔵館で前振りをした後に満を持しての開催、120年ぶりの再会、そして少なくとも今世紀最後。しかもブロガー対象のプレビューまで開催(しかも当選!)して至れり尽くせり。展示内容も出し惜しみなしの総力戦という感じで、この展示に懸ける相国寺の執念を感じました。そして、勢揃いした動植綵絵が作り出す仏画の空間は全くの別世界。荘厳ここに極まれり!奇想の画家である前に敬虔な仏教徒である若冲に、最も近づいた瞬間でした。
 そして後者。日本史上最高の黄金時代でありながら、その存在感は非常に希薄な安土桃山時代。その核たる絵師の代表作が一堂に並ぶ様は、歴史の空白をタイムカプセルが満たすが如し。技と政治力に長けた永徳の凄さ、そして凄絶な末路を間近で感じました。同じ日に飛雲閣も観たので、安土桃山文化にドップリと浸った一日でした。
 収蔵品の質と量で他を圧倒する東博でも、持って来れない展覧会があることを知りました。巡回先として、会場の広さ的にも最適だと思うのですが。。。

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●世界を虜にしたRimpaと若冲

 年末特番「世界を虜にしたRimpaと若冲 知られざる美の系譜を探る!」を見ました。近年再評価が著しい光琳と若冲とはいえ、江戸絵画を取り上げる番組が年末にあるとは驚きです。内容は二人の足跡を、小山力也ナレーション、内山里名ナビゲーションで彩り、間断なく響く音楽で全編を包み込むお祭り番組。年末らしく、豪華な映像美で見せます。

 前半は光琳。狩野永徳「聚光院方丈障壁画」が登場したり、舞台がオランダに飛んだりと忙しい。宗達と光琳の「風神雷神図屏風」の揃い踏みは、去年の出光美術館での展示が記憶に新しいところ。宗達は源氏物語、光琳は伊勢物語に惹かれたという一節は、年明けの出光美術館「王朝の恋」の前振りか?と思ってしまいました。意味ありげに映した「燕子花図」の方にもエピソードがあれば良かったのに。

 後半は若冲。現代アートとの関係性を前面に押し出しているところが新鮮。村上隆「スーパーフラット」の一節を引用して若冲の空間性について触れ、草間彌生の水玉ワールドを「増殖」というキーワードで若冲と並べます。先の永徳特番では山口晃、千住博が登場していましたが、過去と現代を関連付ける手法として興味深いです。

 お祭り番組に相応しく、ホームページには「若冲流掛軸ジェネレーター」なるものが!大好きなハートのフワフワ、カブトムシの角等などを使ってこんなのを作ってみました。

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2007年12月27日

●忘年会 その2

 土曜日。東博に初詣した今年の締めは、西美。ここを1次会に、2、3次会と続きます。

 光射すトップライト。見回せば、立方体の吹抜けボリュームに貫入するバルコニー。その面のとり方は、最近の建築家住宅でもよく目にします。コルビュジェの建築ボキャブラリーをゲーム化したのはニューヨーク・ファイブと先の講演会でお聞きしましたが、もはや定番。表層の時代な現代らしい。
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 今回は、西洋美術史の専門家池上英洋先生の解説を聴きながら、西美を歩くという趣向です。西美コレクションを教科書に、美術の歴史を紐解く語りは、立て板に水の如し。美術館が、絵を収める箱から、脈々と続く絵画の歴史を語る装置へと昇華するひと時でした。大切なのは、装置と語りのバランス。幹事のNさんとJさんのおかげさまで、素晴らしい会でした。
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 右にモネ、左に照明ギャラリー。かつてはトップライトから自然光が注いだ中2階空間。今はトップライトは塞がれ、人工照明で明るくしているそうです。美術品に対する考え方が変わったということなのでしょう。
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 雨に濡れた地面に映るイルミネーション。その向こうに前川國男設計の東京文化会館。コルビュジェの凄さは、世界中に弟子が散らばり、その教えを広めたところでしょう。建物は古くなり用途に即さなくなっても、彼をとりまく伝説は広く浸透し、建物に用途を超えた存在価値を与えます。
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2007年12月20日

●TNM&TOPPANミュージアムシアター@東京国立博物館

 東京国立博物館で開催されている「TNM&TOPPANミュージアムシアター」を観ました。印刷会社が誇るVR技術のデモンストレーションを兼ねて、アートワークを体験するイベントの凸版印刷版です。比較的脚を伸ばしやすい上野での開催だったので、初めて体験しました。申し込み及び集合は表慶館。一時間前に申し込みに行ったら、二番目でした。試験段階ということで、まだまだ空いているようです。
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 シアターは少し歩いた建物の中に設置されています。出し物は「国宝 聖徳太子絵伝」。法隆寺東院伽藍、夢殿の後方左側にある絵殿に納められている壁画絵です。映像は全編CGで、東院伽藍をゆっくりと廻って絵殿へと入って行きます。高密度で映される映像は、CG独特のノッペリとした質感をかなり克服しています。わずかに夢殿屋根に載る宝珠の反射表現や、木材の凸凹感を表現しないといった箇所に嘘っぽさが残ります。後者は建物に入ると表現されるようになるので、演算処理能力の問題なのでしょうか。

 建物に入ると、その壁面に「聖徳太子絵伝」が浮かび上がり、本編スタート。かなり損失の激しい場面になると、江戸時代の模写を重ねて映して鑑賞を助けてくれます。お馴染みの10人の話を一度に聞く逸話から、驚異のジャンプ力や弓の腕前を披露する場面等々。伝説の数々が非常に分かりやすく解説されて行きます。ナビゲーターの方がゲーム機のようなコントローラーで画面内を自在に移動し、適度に場面解説が入る体験は、非常に臨場感がありかつ理解しやすいです。VR分野も技術のデモから、技術を使いこなす段階に入ったことを実感しました。

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2007年12月19日

●東京藝術大学 大学院美術科博士審査展@東京藝術大学美術館

 東京藝術大学美術館で開催された「東京藝術大学 大学院美術研究科博士審査展」を観ました。こちらで知ってチェックしておりました。博士審査が展示になるとは、さすが藝大!というミーハーな興味で観に行ったのですが、内容もバリエーションに富んでいます。学科名と展示作品のギャップを眺めながら歩くのが楽しいです。

 3階の展示。田口和奈「その中にある写真」。人物写真が並んでいて、ここ油絵学科?というギャップと、引き込まれるような表情に見入ってしまいます。張利「RESEPTUREシリーズ」。外面と内面を極端に切替えたファニチャーデザイン(?)にも見えます。触りたい欲求に駆られる、感覚に訴えるサーフェス。石川直樹「ARCHIPELAGO 群島」。南の島に行って、溶け込んで、島々を巡る巡礼記?。こちらは先端。仕事の都合で南に通っているので興味深いです。

 B1階の展示。保存修復のブースが妙に楽しい。鈴鴨富士子「油絵修復における補彩絵具の保存性に関する研究」のズラリと並ぶ色サンプル。菊池正敏「「秋篠寺乾漆心木」現状模刻及び復元考察」の仏様の製作過程の再現。古代の謎を解き明かすような研究の数々は、これも藝術だなと改めて納得。

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2007年12月18日

●山口晃トークライブ「年忘れ!山愚痴屋感謝祭!!」

 山口晃トークライブ「年忘れ!山愚痴屋感謝祭!!」に行きました。上野の森美術館の「アートで候。会田誠 山口晃 展」、練馬区立美術館の「山口晃展 今度は武者絵だ!」と二つの展示、そしてトップランナーとの相乗効果で立錐の余地もないトークショー。さらにはNHK BS ハイビジョン特集 シリーズ天才画家の肖像「美で乱世を制した絵師 狩野永徳」で洛中洛外図屏風に飛び込んで絵画の中の案内まで。今年いろいろと楽しませていただいた山口晃さんが、ホールを借りて行う年末トークライブ。えっ、日本画家だよね!?

 第一部。舞台には、白い縦長の二本の紙。筆にたっぷりと墨を吸わせて、トップランナーの時のように景気づけの「えいっ」といくのか!と思ったら、出てきたのは今年のキーワード。その後もキーワードを織り込んだ駄洒落のような絵が続きます。ちょっと期待を逸らせつつ、謙虚な応対で観客を引き込み、そして笑いをとっていく進行は、山口さんの画力と人柄の成せる業。一人舞台の静けさも、いろいろとあった一年の締めに相応しく思えます。さりげなく、コンセプトを説明するという課題に対して、絵で全てを描くので説明する必要が理解できなかったというエピソードをはさんだりして途中でピリッと一味はさみます。マイヒットは栗スピー栗ームッ!でした。

 第二部は、山口流絵画論10分コース年末バージョン。地続きの先に目標を据えたかったという一節が心に残りました。

 第三部は、質疑。選りすぐりの9つの質問に答えて行きます。好きな日本画家を聞かれて、竹内栖鳳の上手くて何が悪いという態度、リューベンスの軽い感じの上手さ、鏑木清方の嫌味な上手さを挙げておられました。最後に来年12月に京都の大山崎山荘美術館で個展を開催する旨を発表して、締めに「新館は安藤忠雄さんの設計で、見事な自然破壊」とボソッと毒を吐いて終了。

 そのあとは、会場で画集を購入された方へのサイン会。100人ほどの方が並ばれていました。うち、9割5分は女性。山口さんの人気はすごいなあと思いました。
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 12月も後半、街はクリスマスイルミネーション一色。中でもユニークなのが、このペンギンたち。お腹が光って楽しい。
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2007年12月17日

●薄久保香 “Wandering season”@TARO NASU GALLERY

 TARO NASU GALLEYで開催中の薄久保香 “Wandering season”を観ました。こちらで知った展示です。一目見て、「観たい!」と思わせるビジュアルに惹かれました。

 実際に観ると、「ノッペリ(?)」という印象。コッテリとした面があると思っていたのですが、実際にはノッペリ。この違和感は何かと考えてみると、「模型を並べて構図を作った上で、輪郭ぼかし気味に写真に撮ったように見える描法」からくる錯覚かなと思い当たりました。言葉にするとまわりくどいですが、感覚的にはピンと来るモノがあります。

 人物が大きく描かれた作品が何点かありますが、どれもリアルに感じられつつも、肉感的というよりは人形に近いツルリとした質感を漂わせています。水辺に鳥型の紙飛行機(?)が着陸した絵も同じレベルでリアルです。リアルなんだけれども作り物っぽい。一体何を見ているんだろうと、絵の前から目を離せなくなります。とても明快で、とても不明瞭。その両端をこんなにあっさりと内包できるものか。その混乱具合がとても今っぽくて素敵。

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