2009年05月31日

●5月の鑑賞記録

 5月の鑑賞記録です。
 5/4
 「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(後期B)@府中市美術館
 前期の若冲、後期の蘆雪。通期で蕭白。見所満載、リピーター割引の配慮も嬉しい。図録完売の盛況で大成功では?

 5/5
 「熱狂の日」音楽祭2009 No.324ベルリン古楽アカデミー@東京国際フォーラム
 「ラ・フォル・ジュルネ」デビュー!平床のホール(普段は会議室?)で演奏会という雰囲気はあまりなし。

 「日本の美・発見I 水墨画の輝き-雪舟・等伯から鉄斎まで」@出光美術館
 作品は凄いが、構成はちょっと雑?

 5/6
 「大和し美し」@千葉市美術館
 全体を通して、二人の巨匠の交流を生き生きと描き出す。段違いの構成力。

 5/22
 「ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち」@国立新美術館
 ルーブル・アーカイブの魅力が詰まった展示。

 「20 Klein Dytham Architecture」@GALLERY MA
 カンバンとラウンジ。

 「手塚治虫 未来へのメッセージ」@江戸東京博物館
 ストーリーテラーであってこそ漫画家。

 5/23
 「パウルクレー東洋への旅」@千葉市美術館
 研究論文の発表会。
 雨の日に行ったら、巨大な室内置き除湿機が何台もうねりを上げていて、工場のようだった。

 「江戸浮世絵巻」@千葉市美術館
 広重の縦長の絵が良かった。
 北斎展いつかやって下さい!期待してます!

 「マークロスコ 瞑想する絵画」@川村記念美術館
 ロスコファンは狂喜し、そうでない人にとっては?
 絵よりも書簡が作家像を造形していた。

 5/29
 「neoteny japan」@上野の森美術館
 1階の池田さんと、2階の小林さん。超絶技巧と確かな世界観の確立。

 5/30
 「スタートレック」
 スピーディーで美しいジェットコースタームービー。
 カークとスポックの交流をしっかりと描いているところが秀逸。

 5/31
 「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」@Bunkamura ザ・ミュージアム
 イリヤ・レーピンにうっとり。一点の曇りのない幸せの形と、美青年。

 「畠山記念館名品展 –季節の書画と茶道具- 」(後期)@畠山記念館
 「林檎花図」伝趙昌。林檎シルエットに精緻な花。
 「銹絵染付笹紋茶碗」尾形乾山。堅実な印象のある乾山らしい落ち着いた色合いと造形。

 「三井家伝来 茶の湯の名品」(後期)@三井記念美術館
 楽焼、光悦、仁清。
 「六祖破経図」梁楷筆。何ともコミカルな、お経を破る老人の姿。締切に追われた漫画家が原稿と格闘しているようだ。

 「マティスの時代」@ブリヂストン美術館
 大好きなサロン型美術館。ブックレットが立派。

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●スター・トレック

劇場公開中の「スター・トレック」を観ました。スタイリッシュな予告編がとにかくカッコイイです。建造中のエンタープライズ号の雄姿、青春ドラマのようなエネルギー溢れる画面。これは大画面で観たい!と久々にシネコンへ。

 前半は青春映画。一方の主役はカーク。運命の誕生から、荒れた少年時代を経て「愛と青春の旅立ち」を突っ走る。もう一方の主役はスポック。優れた論理的思考力と自己の存在矛盾の間で揺れながら、幼年期から青年期まで一気にジャンプ。二人のエピソードが交差し、合間にクルー達との出会いを挟みながら、気がつけばピカピカのUSSエンタープライズ号が宇宙へ舞う。その美しさは、もう感涙モノ。

 中盤はスペースオペラ。スペースバトル、砂漠の浮きステージでの剣戟格闘戦、雪の惑星での怪物との追いかけっこ、星を破壊する超兵器。「スターウォーズ」を髣髴させながらも、怪物は「遊星からの怪物X」のようでもあり、本当にサービス精神旺盛な作り。ヨーダばりの登場をしたのは。。。

 そして二人がお互いを認め合うところから、物語が大きく転換します。ワープ中の宇宙船へ飛び乗るのは朝飯前で、不死身のカークが敵を討ち(主役は死なない)、美味しいところを一人占めのスポックがピュンピュンと空を翔る(その宇宙船って元はといえば。。。)。そして一斉射撃で大団円(ひでえ。。。)。かくしてUSSエンタープライズ号の冒険の旅が始まったのであった。

 新生「スタートレック」の最大の見所は、練りに練られたプロットでしょう。ものすごい勢いで名場面を矢継早に展開しつつも、ストーリーラインは常に明快。バラエティー豊かな画面作りで、新しい観客へのサービスたっぷり。マニアックな言い回しで、年季の入ったファンへの思いやりもたっぷり。劇中の伏線もキレイに回収して、後に残るのは爽快感と、次回作への期待感。最高にエンターテイメントな快作です。

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2009年05月29日

●neoteny japan@上野の森美術館

 上野の森美術館で開催中の「ネオテニージャパンー高橋コレクション」を観ました。「旬な現代アートの個人コレクションが、美術館を巡回する」ところがポイントです。現代アートが美術史の一部に変容するスピードと、新たなパトロン層としての個人の台頭。

 鴻池朋子さんの作品をイントロにして、名和晃平さん、奈良美智さんと続きます。奈良さんのブースから見返す名和さんの「Pixcell-Gazelle#2」の輝きが美しい。アクリルビーズ球でピクセル化された実体。全身吹出物で覆われるようで不気味でもある。奈良さんの「green mountain」は、不満げな顔した女の子の髪がフワフワと左右に広がり、山裾を形成する。山の精と化した女の子と、動きが感じられる画面が好き。

 会田誠さんの清楚で不気味で日本画な「大山椒魚」を再見し、ひっそりとたたずむ須田悦弘さんの「雑草」を探し出して、山口晃さん、池田学さん、町田久美さんと続く、「線が綺麗な美絵コーナー」へ。池田学さんの「興亡史」は、城に絡み付く巨樹をコアにした無数の人の合戦絵巻。枝に咲く花、流れる滝、空を走る電車等など。様々な要素が何重にも重なり合って、想像を絶する奥行きを作り出しています。壮大な構想力と、細やかなペンタッチが奏でるハーモニーは絶品!

 2階に上がると、小林孝宣さんの空間に溶け込む親和性の高さと、群を抜く存在感が目を引きます。「Dog」のプラスチック容器のようなシンプルな顔立ちにつぶらな瞳の犬。「Sunbather8」のきっちりと構築された、丸みを帯びた世界。

 現象の一部を肥大化させて新たな価値を作る上で、感覚や刺激に偏重した手法が効果的。その一方で、世界の確かさを合わせ持つことが作品の寿命を生み出す。「現象を楽しむ先に何を見据えるか」が分岐点になると思いました。

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2009年05月25日

●手塚治虫展 未来へのメッセージ@東京江戸博物館

 東京江戸博物館で開催中の「手塚治虫展 未来へのメッセージ」を観ました。「手塚治虫漫画全集」が今でも実家に眠るファンとしては、マストな展示。

 今回の展示の特徴は漫画だけでなく、手塚の人生に焦点を当てているところでしょう。学生の頃の緻密で美しいノート、私製の昆虫標本、クラスで評判になったという肉筆本。コマから人物が踊りだすような勢いある描写が、既に手塚治虫。息子の真さんが撮ったホームビデオは、温かな愛情に溢れていて特に素敵です。

 とはいえ、展示の中心はなんといっても生原稿。既読書が8割という感じでも、印刷と生原稿は全くの別物です。伸びやかな線とベッタリとした黒で描かれるアトムにサファイアにレオにブラック・ジャック。どれもとても魅力的です。火の鳥の美しさも格別。よくもこれだけのキャラクターを生み出したものだと驚嘆することしきりです。そしてキャラクター可愛らしさと好対照を示す、絶世のストーリーテラーの才能。

 展示はさらに映像へと進みます。手塚が飽なき執念を燃やした映像への情熱。キャラクターに命が吹き込まれて画面狭しと動き回る様は、感涙もの。♪空を越えて♪は時代の代名詞だと思った。実験映像のジャンピングとかも観たかった。

 正直なところ、構成としてはそれほど良いとは思わないのですが、展示作品の魅力はそれを補って余りあります。漫画全集の後書きに出てくるドロドロとした憎悪の感情を漂白して、美味しいところだけを窓越しに並べたショーウィンドウのような展示だと思いました。

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●新シーズンへ向けて

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 先週からランニングコースを変更しました。以前の沼沿いのコースは一周20kmだったので、フルマラソンに向けて走るには短いという課題がありました。今回は川沿いです。芝生の整備されたコースはとても気持ち良いです。標識に拠ると、東京湾まで14kmほどらしい。反対方向は、崖沿い(?)へとコースが伸びます。まだ朝に8kmほど走るだけですが、そのうち長い距離も走ってみる予定です。
 目標の東京マラソンまで9ヶ月ほど。陸連登録も済ませて、新シーズンへ向けて準備が始まりました。最大の課題は抽選突破です。

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2009年05月24日

●マーク・ロスコ展@川村記念美術館

 川村記念美術館で開催中の「マーク・ロスコ展」を観ました。シーグラム壁画15点が一同に会する大型企画巡回展。

 常設はいつもと同じなので軽く流して、メインのロスコ展へ。小さく絞った入口を入ると、白壁に一点掛けられた「深紅に黒帯」が空間に緊張感をもたらします。裏手に回ると、画家とテート美術館館長との書簡。自分の作品のみが恒久的に展示される空間を切望する画家の心情が綴られます。傲慢で繊細。名声を手に入れ、投機の手段ではなく、自作の真の理解者を求める者の心の叫び。そしてメインの展示室へ。

 作品位置が意外と高い。そして作品間はピッチリと詰めて密な配置。レストランを想定していたからかなと思いながら、その深紅の壁面から浮かび上がる濃淡とその先に広がる世界を待ちます。けれども、待てど暮らせど没入していかない。ザワザワと話し声の絶えない場内は、体育館の片隅で井戸端話を聞いている気分。さっきまでの緊張感はどこに行ったんだろう?不思議に思って見回すと、床の色が妙に明るいことも気になりだします。床が明るいと焦点がぼけて、展示空間には向かないと思う。特にロスコのような、他者の介入を極度に嫌う場合は。前室の落ち着いた色から、わざわざ切り替えるメリットってあるのだろうか。

 これだけの鳴り物入り企画がこの有様では、あまりに口惜しい。人の少ない時間帯での再訪を期して、今回は早々に退散しました。

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●20 Klein Dytham Architecture@GALLERY MA

 ギャラリー間で開催中の「20 クライン ダイサム アーキテクツの建築」を観ました。売れっ子建築家ユニットの作品回顧展。

 展示は電飾サインに写真を嵌め込んだ看板が点在する3階と、光を落としたラウンジで黒いソファに身を沈めて二人でiPodを聴く4階の二層構成。看板群にはアスクリッド・クラインのインタビュー音声が流れ、ソファの縁には精巧な透明模型が並びます。「カンバン」と「iPod」だけで構成するところが、建築のライブ化を試み続ける彼等らしい。一番好きなのは「Bloomberg ICE」。

 建築をインテリア化する流れから分岐して、カンバン化を突き進む現在進行形の展示は以外と面白い。中身のなさを逆手にとった爽快感はさすが。時代の変調を受けて、次の20はどう変容するのだろうか。

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2009年05月23日

●ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち@国立新美術館

 国立新美術館で開催中の「ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち」を観ました。

 第2章 子どもの日常生活
 《台車にのったハリネズミ》。背中の細かい四角の切れ込みがイカの切り身みたい。台車にのった白いハリネズミが超ラブリー。
 《関節が動く人形》。腕が回る単純なギミックと、ヘレニズムという時間の合わせが歴史の奥行きを感じさせる。やたらに男前な女の子?もう一体は頭に蛇をのせていて、八部衆みたい。

 第3章 死をめぐって
 《少女のミイラと棺》。生前の姿を写し、神に祝福される様子で装飾する棺。そして網に包まれた小柄なミイラ。若さと死の取り合わせが痛ましい。

 第4章 子どもの肖像と家族の生活
 《夫婦と子どもの像》。杏仁形の目に微笑む口元。仲良く寄り添う二人。無印の広告みたい。その間にとっても小さな、でもプロポーションは大人な子供。
 ルイ・ル・ナン《幸福な家族》。農民に粉して凛々しくポーズをとる貴族一家?コスプレブームだったのだろうか。
 ジョシュア・レノルズ《マスター・ヘア》。女のコに粉して育てられる上流階級の男のコ。とても愛らしい。
 アントワーヌ・コワズヴォ《9歳のルイ15世の胸像》。ライオンのように逆立つ髪型、凛々しい小顔の美青年。なんと9歳!
 ペーテル・パウル・ルーベンス《少女の顔》。上手い。どこかで観た。

 第6章 キリスト教美術の中の子ども
 《聖母子の小像》。象牙に細い線刻。アダムとエヴァの生まれ変わりという解説を読んで、新しいエヴァシリーズの結末もそんな感じかもと思った。
 フランソワ・ブーシェ《幼子イエスを抱えて座る聖母》。大人びた子供ばかりな中で、子供っぽい愛らしさに癒される。

 第7章 空想の子ども
 ペーテル・パウル・ルーベンス《レベックを弾く小天使》。上手ーい!欲しーい!
 フランソワ・ブーシェ《アモールの標的》。キューピッドといえば、マークと矢!マークのお皿の真ん中を射ぬく矢と、月桂冠を両手に掲げて「大当り」のジェスチャーをする天使。ベタベタだけれども、そこが狙いの本展にピッタリなフィナーレ。

 普遍的な「こどもたち」というテーマに沿って、古代と中世(特にオランダ)を軽やかに行き来する時空跳躍は、美の宝庫「ルーブル」アーカイブならではの楽しみ。

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2009年05月08日

●大和し美し@千葉市美術館

 千葉市美術館で開催中の「大和し美し」を観ました。

 展示は8階から。冒頭は川端康成の人生を紹介します。
 三字「要忍耐」川端万邦(祖父・三八郎)。若くして天涯孤独の身となる康成の行く末を暗示するかのような書。
 「するめ」とあだ名された容貌を、土門拳の写真が如実に伝える。
 ノーベル文学賞賞状・箱。「日本を世界に発信する」という活動が認められた栄光の証。千羽鶴舞う箱が美しい。
 屏風「秋の野に」(表)川端康成・書、(裏)東山魁夷・画。受賞の心境を表す書と、黄金のススキが風になびく絵。作家と画家の交流の証。
 書「美しい日本」川端康成・書。記念講演「美しい日本の私 その序説」で切々と語られる日本の美。全文をじっくりと読んだ。「心の根本が違う」と結ぶところに、強い自負と覚悟を感じる。
 「火炎木」ジェムマニック。「キャナル・グランデ ベニス」村上肥出夫。自裁直前に購入した絵画。栄光から突然の終幕。
 コンパクトに凝縮された展示は濃密で劇的。

 続いて書斎の再現。
 「拭漆栃手箱」黒田辰秋。木目が美しい箱。箱である以前に塊に見える。
 「耀貝螺鈿茶器」黒田辰秋。ガラスケース奥の飾り棚中央に飾られていて、遠目にしか観られないのが恨めしい。群を抜く輝き。
 「赤漆六稜棗」黒田辰秋。ガラスケース一番奥。もっとよく観たい。
 「赤楽茶碗」黒田辰秋。上品な赤味の楽茶碗。本当に手広い。ガラスケース手前に置いてあって観やすい。
 「志野茶碗」加藤唐九郎。楽茶碗に並んで志野。豪華。
 お気に入りの品々で埋め尽くした空間は、ヨダレが出るほど気持ち良さそう。凄すぎてグウの音も出ません。出来れば、書斎を覆うガラスケースはなしが良かった。

 続いて画家との交流。
 「不知火」草間弥生。今も精力的に活動されている草間さんの初期作品。川端康成の先見の明、草間さんの息の長さ。
 「マリアの壁 エッツ・オーストリア」東山魁夷。大胆にトリミングされた白い壁面。窓が並び、画面右中にマリアの壁画。わざと焦点をずらした画面構成が好き。
 「紅彩」牧進。椿で埋まる水面。息苦しいほどの赤と、その下の深い紺。
 「女の手」オーギュスト・ロダン。画商から借りてきて、一日中あちらこちらから眺めていたそうな。変態性が良く伝わるエピソード。

 そしてもう一人の主役、安田靫彦登場。
 画壇の大御所として君臨する姿と、病弱でほとんど旅行をしなかったという解説にギャップがあって、長生きは最大の才能だと思う。
 「遣唐使」。16歳の作品。上手い!
 「唐傭」。出土品から想を膨らませるお得意の手法。モデルになった傭も並んでいるので、安田ワールドの跳躍に思いを巡らせると楽しい。
 「飛鳥の春の額田王」。お団子二つの髪型に、赤地に金刺繍紋の衣装。「茜指す・・・」の歌とはちょっとイメージが違う?

 7階に下りて、安田靫彦が「発見」した良寛の世界へ。子供たちと一緒に手毬で遊ぶ良寛和尚のイメージが、安田フィルターを通して拡張される。
 「自画像」良寛。行灯の元で書を読む好々爺。あごの尖った三角形の顔型が特徴的。
 「良寛乾漆像」。平櫛田中が参考に借りていったというエピソードに興味津々。
 「手毬」伝良寛。トレードマークの手毬。状態が良好すぎて良寛作ではなかろうと思いつつも、可愛らしい柄が子供と良く遊んだというイメージにピッタリ。

 そして、川端、安田コレクションの対峙。
 「川端康成と安田靫彦 大磯の安田邸にて1950年6月22日」撮影/林忠彦。二人の交流を写したこの写真が本展の要。そして右手に川端、左手に安田コレクションが並ぶ。
 「聖徳太子立像」。病床の川端康成の元に画商が持ってきたという像。一緒に帰って、以降毎日眺めたそうな。幼子の出で立ちと、自信たっぷりな顔立ちのギャップは、確かに御利益ありそう。
 コレクションを通して、二人の交流が伝わってくる。

 最後に「大和し美し」と題して、安田作品を並べて〆。
 「木花之佐久夜毘売」。霊峰富士を背に腰掛ける、オニギリ顔の女性。農耕神らしいふくよかな感じ。

 川端康成の世界を掘り下げていき、その交流からもう一人の主役を導入。さらにそのコレクションから「良寛」を通して精神性を見せつつ、二人のコレクションが対峙する本題へと繋げる。そして最後は主題をリフレイン。単に名品を並べるのではなく、それを通して二人の巨匠の交流を生気溢れて伝える。練りこまれた構成が、本展最大の見所でしょう。

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2009年05月04日

●「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(後期B)@府中市美術館

 桜の陽気が過ぎて、爽やかな初夏へと移るこの頃。府中市美術館で開催中の「山水に遊ぶ-江戸絵画の250年」(後期B)展を観ました。前回の観覧券半券持参で、入場料半額!図録も完売だそうです。前期の感想はこちら

 『山水に暮らす』
 「自然とともにある」
 作者不詳「農耕図屏風」。金色の雲と大地、濃紺の水流、ボリュームのある山々。琳派?と思わせる構図と派手さで描かれた農村風景。後期
 鈴木其一「魚楽図」。エメラルドグリーンと青で彩られた岩と松、畳のようなパターンの水面。こちらは正真正銘琳派の系譜。上手い。後期
 明堂宗宣「居初邸天然図亭真景図」。琵琶湖を借景にした庭園。小島が浮かぶ琵琶湖の様が新鮮。後期

 「神の国のすがた」
 小泉斐「男山伝説図」。今回もこの絵が目にとまる。やっぱり龍の山登りは面白い。全期間
 岸駒「芙蓉峰図」。雲海よりのぞく富士の山姿。かっこいい。全期間

 『絵をつくること』
 「中世の残像」
 狩野栄信「雪月花図」。霧に霞む雪月花。人物や建物にピンポイントに施された着彩が効果的。後期B

 「実景と絵すがた」
 狩野栄信・養信「富士山江の島図」。画面手前から伸びる砂の道、舟、江の島。遥か彼方に富士山。奥行の出し方が面白い。後期のみ
 平井顕斎「白糸瀑布真景図」。相変わらずインパクトのある構図。奇想な感じが大好き。全期間

 『奇のかたち』
 曾我蕭白「比叡山図」。5ヶ月ぶりの再会。会場が変わって、見栄えも格段に良し。山のモコモコした感じを描く独特のタッチ、ふもとに立ち込める霧のぼかし。圧倒的な描画技術。後期
 曾我蕭白「月夜山水図屏風」。真打ち登場!黄昏時の山水に、細やかな花、家の中のカーテンといった小物がアクセントを添える。緻密に描かれた山々と、省略の効いたモダニズムのような家々が絡み合う画面は、圧倒的な蕭白ワールド。特に左隻中央の、山に包まれるように建物が建つ描写は、自然と建築がとろけるように一体化していて必見。大きな画面に良好な保存状態、なぜこれが国宝でないのかが不思議に思える。後期
 東東洋「夏冬山水図」。画面を大きく占める雪山、小さくのぞく建物。大胆な構図と画面に漂う詩情が「蒲原夜之雪」を思わせる。

 『ロマンティシズムの風景』
 「物語る山水」
 住吉弘定「四季之段図」。山野を俯瞰する構図に散りばめられた、梅、山桜、藤、躑躅、山吹、柳、萩、紅葉。遠景にには田植えの景。ロマンティックに四季を綴る。後期

 「憧憬」
 池大雅「西湖勝覧図屏風」。ボリュームの取り方と淡い色彩がセザンヌっぽい?全期間
 鈴木芙蓉「鼈背蓬莱図」。亀の背に乗る切り立った山。下端の水辺に眼光鋭い亀の横顔。険しい山の山頂近くに鶴が佇むステージ。縦長の画面を活かして、異なる様相を一つの画面に納めた構図が面白い。後期
 谷文晁「秋渓対話図」。聳える山の緑と、そのふもとの木のピンクの対比が美しい。滝の上に建つ建物は、江戸版「落水荘」だねえ。
 長澤蘆雪「赤壁図」。流れるように上へと伸び上がる岩の描写!視線も一気に上へと向かい、岩間の月を仰ぎ見る。動きを感じさせない水辺、緻密な船上の人物描写と対照的。本来の静動が逆転した演出に魅了され、蘆雪のしてやったりな表情が思い浮かぶ。後期
 長澤蘆雪「蓬莱山図」。三角形の浜、右下に奇岩、その上を亀の一行が歩く。奥には鶴の編隊が舞い、仙人が乗る。白砂と海の緻密さ、奥の岩山の墨ぼかし、松並木のやっつけ具合。緩急つきすぎなタッチも含めて、画面全体でダイナミックな世界観を構築する。勢いをそのまま画面に定着させる技量は抜きん出て凄い。後期

 前半は若冲が抜けてトーンダウンした感じがありましたが、後半に進むに従ってヒートアップ。結局二時間近く観ていました。「風景画」を切り口に、江戸時代の多彩な感性を現代の目で見返す試みは大成功だと思います。

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