2011年02月16日

●イメージの手ざわり展@横浜市民ギャラリーあざみ野

 横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「イメージの手ざわり展」を観ました。ちょうどアーティストトークの日だったので、田村友一郎、志村信裕、plaplaxの3組のトークを合わせて聴きました。

 1階はインスタレーション作品。
 田村友一郎「TAIL LIGHT」。タクシーをドーンと置き、その前面に3面スクリーンを広げる大掛かりな舞台装置。反対側の小さな机で新聞を読む、人待ち顔のタクシードライバー。タクシーに乗り込むと、大画面に映像が流れ、ロードムービーの世界へ。
 運転手「どこまで?」。客「千葉まで。」。ところが風景は、気がつけば英語の看板ばかり。客「???」。客「そういえば、今日のお昼はマクドナルドだったんですよ。」。運転手「あざみ野にはマクドナルドがないんですよ。」。客「へえー。」。やがてタクシーは元の場所へ。運転手「辿り着かなかったんで、別のタクシーを探して下さい。」。
 密室の中で繰り広げられる、どこか噛み合わない即興会話劇。一見スムーズで、たまにカクカクとした映像(グーグルマップをキャプチャーして作成!)が、リアルな作り物っぽさを増長する。

 志村信裕「pearl」「cloud」「mosaic」。ダイソーのクッションを敷き詰めたり、夜降る雪を下から照明をあてて撮ったり、アートサポーターの方たちと街のテクスチャーを写しとったり。身近な制作素材、手法を用いながら、ちょっと違ったモノに仕上げる。親しみの持てる手品師のような作風。エントランスに映し出された「pearl」の映像が夕暮れの街に溶け込んで、「晴れた雪の日」というさりげない非日常を作っているのが良かった。

 plaplax「Tool's Life」、「Glimmer Forest」。前者は白い丸テーブルに置かれた日用品。触れると影が飛び出したり、カラフルな波紋が広がったり。後者は森に手をかざすと、色々な動物?が飛び出してくる。その小気味良いレスポンスと、クスッと笑みが浮かぶセンスが何より素敵。童心に返って、何度も何度も試してしまう。かなり完成されていて、環境装置に近い。
 plaplax 近森基、久納鏡子のトーク。アート、コラボレーション、会社。プロジェクトごとにメンバーを選定して、様々な活動を行う。その活動段階を4段階に規定。Interractive(作品)→Workshop(テーマを共有)→Collaboration(共同制作)→Deeper?(さらに…)。作例紹介。文化庁メディア芸術祭での大賞受賞。香りに反応して色付く花。目的に合わせたセンサーの選定。ルーセントタワーでは、メディアアーティストに対して「絵を描いてくれ」と依頼されたこと。黒猫はNGと言われて、これは影ですと切り返したこと。
 近森さんがメインで話し、ときに久納さんがコメントをはさむ。機転が早く、息の合ったトークが本当に楽しい。「Deeper」と称した第四段階がどうなるのか興味津々。美術館から飛び出して公共空間へと活動領域を広げるところに期待満々。文字通り、生活の中のアート。
 質疑。Q:インタラクティブ作品が公共空間に進出することで、日常生活の情報量が増えるのではないか。それに対してどう捉えているのでしょうか。領域を拡張する?A:社会の仕組みをより分かりやすくしたいと思っている。例えば病院のサイン計画。

 2階は映像作品。
 松本力「山へ」。クレヨン絵のようなタッチのアニメーション。壁面を余白なく埋めるスクリーンと、塔状に椅子を置く鑑賞席。両者がマッチしていて、「観る」体験が面白かった。

 川戸由紀「無題」。テレビで見たイメージを再現したという、渋谷、新宿の連続風景。頭の中に定着したイメージを、作家の手を通して出力した感じ。とてもシンプルで、とても素直な感性。

 横溝静「Forever」。ピアノを弾く4人の年老いたピアニストの映像。それと並べて、視点を固定した風景の映像。時間の断片を並べることで、観るものに問いかけるような作品。

 「イメージの手ざわり」をキーワードに、6組の作家の作品を展示。アートワークの展示だけでなく、作家とアートサポーターとのワークショップにも力を入れている。さらに展示室だけでなく、建物エントランスや階段にも作品が溢れ出ている。そういった手作り感、共有感、日常感を大切にした展示。

 plaplaxのワークショップ作品が増殖する、階段とエントランスホール。育児スペース、フィットネス、展示スペース。これらの機能を媒体として、オシャレな公民館的な空間が形成されています。これが市の施設というから驚き。
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2011年02月15日

●酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界@出光美術館

 先週末から出光美術館で始まった「琳派芸術 第2部 転生する美の世界」。評判が良いので早速出かけました。

 1章 琳派の系譜
 鈴木其一「三十六歌仙図」。時空を超えて、35人の歌仙が大集合!華やかで目出度い雰囲気が何より楽しい。黒の束帯姿の歌仙をS字に配置した縦構図が、流れるように視線を誘導する。緻密な描表装にもビックリ。

 俵屋宗達「伊勢物語 武蔵野草子、若草図色紙」。後期展でも、俵屋工房と宗達が脇を固める。追っ手に追いつかれてどうしようと歌ったり、妹を恋しいと歌ったり。色男業平、大人気なのだなあ。

 酒井抱一「八ツ橋図屏風」。私淑した光琳の八ツ橋を更に洗練させた燕子花の配置。雨に濡れるがごとく緑を滲ませた木橋。ジグザグに折られた紙面が、雨の中を歩くような不思議な時間感覚を生み出す。ここからが開幕といわんばかりに、抱一登場。

 2章 薄明の世界
 酒井抱一「紅白梅図屏風」。銀地の凍える世界に、凛と立つ紅梅。柔らかに枝を伸ばす白梅。屏風の中の世界に自生するような梅の存在感が圧巻。その美しさに涙が出た。

 酒井抱一「四季花鳥図屏風(裏・波濤図屏風)」。机上に飾れそうな、お手軽サイズの屏風。持って帰りたいと、みんなが思ったはず。

 3章 抱一の美
 酒井抱一「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」。華やかな花、彩色美しい小鳥、うっすらと漂う抱一グリーン。抱一の品良く柔らかな感性が画面を満たす。その美しさに溜息。

 4章 其一の美
 鈴木其一「桜・楓図屏風」。右下に満開の桜花、左上に緑の紅葉。季節を統一し、花のみで桜、幹を強調した紅葉と対比性を強調する構図。抱一の下で磨いた技巧+多少「奇」を含ませた世界観。

 鈴木其一「四季花木図屏風」。風にそよぐ牡丹が妙に生々しい。色彩も派手で、まるで熱帯のよう。

 とにかく「八ツ橋図屏風」と「紅白梅図屏風」のダブル大作が圧巻。酒井抱一生誕250年と銘打つだけあって、主役は抱一。抑制の効いた展示空間と相まって、とても魅力的です。「第1部 煌めく金の世界」の3倍はパワーアップしたと思います。

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2011年02月12日

●立体曼荼羅@東寺講堂

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 金沢文庫で開催中の「運慶展」は、運慶一門による東寺講堂立体曼荼羅の修復から始まります。その過程で、仏舎利が出現する奇跡が起こって運慶の名が上がり、平安密教の諸尊像はその後の運慶仏の手本となったとか。私は運慶=鎌倉時代という認識でいたので、平安時代の作例が手本という捉え方は意外であり、新鮮でした。

 というわけで、東寺講堂立体曼荼羅を観に行きました。京都生まれの大阪育ちのくせに、東寺を訪れるのは実は今回が初めてです。かの有名な五重塔の軒先の下がったシルエットに、「技巧に走って本質を見失った」という先入観があってあまり好きでなかったのです。でも今回はそんなこと関係なし。

 修学旅行生で賑わう境内を抜けて、講堂へ。菩薩、大日如来、明王。それぞれ5体の尊像で形成された3つの領域が並び、その左右を四天王と梵天、帝釈天が固めます。合計21体の仏像が並ぶ様は壮観です。中でも興味を惹くのが、X線撮影で頭部に仏舎利が確認されたという不動明王。そのお顔立ちはずいぶんと細部が失われているように見えますが、逆に運慶の時代からの生き証人(?)として説得力があります。まさにあの頭部に鑿を当てたところ、仏舎利が顕現したわけです。さらにその左手に少し離れて座する帝釈天。こちらは体内に古いお顔が埋め込まれているそうです。修理に際して、痛んだお顔を外して新しいお顔を制作する運慶一門の姿が思い浮かびます。言われて見れば、確かに愛知・滝山寺 帝釈天立像と似ているような。

 これら諸尊像は、東京国立博物館で開催される「空海と密教美術」展(2011/7/20-9/25)に出展されるそうです。最新の照明設備で浮かび上がる立体曼荼羅!もう楽しみでなりません。

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●「日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館で開催中の「「日本画」の前衛 1938-1949」を観ました。

 I. 「日本画」前衛の登場
 山崎隆「象」。大胆な形態と色彩のコンポジション。
 山岡良文「シュパンヌンク・袋戸棚小襖」。前衛美術を自らの生活空間に用いた、興味深い作品。写真、CG、模型等で、山岡邸の様子をもう少し見たかった。

 II. 前衛集団「歴程美術協会」の軌跡
 船田玉樹「花の夕」。大画面に広がる写実的な樹形と荒々しいピンクのドット。まるで西洋から輸入したバウハウス的感覚と、日本で培われた琳派的感覚の融合のように見えて、ドキドキした。
 丸木位里「馬(部分)」。素材、描法といった根底から前衛にアプローチする。ものすごい説得力と地力を感じた。

 III. 「洋画」との交錯、「日本画と洋画」のはざまに
 靉光「ライオン」。靉光展以来、久しぶりに観る「あの眼」。独特の造型感覚が、本展の中でも異様な存在感を放つ。

 IV. 戦禍の記憶
 山崎隆「歴史」。ダイナミックで荒々しい自然と、直線的で無機的な人工物の対峙。ひるがえる旗の意図がよく分からなかったけれども、自由と対極にあるということなのだろう。

 V. 戦後の再生、「パンリアル」結成への道
 山崎隆「神仙」。前章に登場した同名作との相違から、時代の変化がうかがえる。強烈な赤い色彩と、エネルギーの奔流のような自然。

 バウハウスの輸入から始まり、琳派の影響が見え隠れしつつ、様々な試み、時代の変遷を紹介して戦後の新たな出発で〆。新たな異形世界への旅立ちは迫力がありますが、そこで物語が閉じている感もあります。個人的には、その因子が感じられる現代アート作品を最後に並べて、現代への継承を見たかったです。

 本展は1999年に京都国立近代美術館で開催された「日本の前衛 Art into Life  1900-1940」の続編だそうです。展覧会の構成力で定評のある京近美らしく、本展も非常に資料的価値が高くかつ、興味を喚起する内容でした。記憶に残る展覧会として、必見だと思います。

 東京展は2月13日で終了しますが、その後、広島県立美術館(2/22~3/27)へと巡回します。

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2011年02月11日

●酒井抱一生誕250年 琳派芸術@出光美術館、琳派の華@畠山記念館

 今年は酒井抱一生誕250年。それを記念して、琳派の展覧会が続々と開催されます。大胆なデザイン性と華やかな装飾性を合わせ持つその美しさはとても魅力的。

 琳派芸術 第1部 煌めく金の世界@出光美術館
 1章 美麗の世界
 「宗達」という伝説でなく、俵屋という工房に焦点を当てる構成。1人の天才が時代を創るという見せ方よりも、時代背景をきちんと捉えて、その集大成としての天才の活躍という見せ方の方が腑に落ちます。

 2章 金屏風の世界
 伝俵屋宗達「月に秋草図屏風」。静かな夜、月光が満ちて金色に輝く草原。水平線を用いずに奥行を演出する構成力にゾクゾクしました。

 3章 光琳の絵画
 光琳は2年半前の大琳派展のときと作品が重複しているので、今回は脇役に見えました。

 4章 琳派の水墨画
 伝俵屋宗達「龍虎図」。一転してゆるい画風。しかもドラえもん顔の虎。硬軟使い分ける宗達の才気が光りました。あれ、結局主役は宗達か。

 第1部最終日直前に行ったので、けっこうな人出でしたが、それでもかなり満足できました。抱一がメインになる第2部も楽しみです。ポスターのカッコ良さは感動的。

 生誕250年 酒井抱一 -琳派の華- (前期)@畠山記念館
 酒井抱一「四季花木図屏風」。前景に四季の花、右奥に桜、左奥は余白。華やかな構図と彩り、地色を活かした桜の幹の描写に見蕩れました。
 酒井抱一「十二ヶ月花鳥図」。美しい花と鳥の取合せにウットリ。前期6点、後期6点の展示なので、後期も必見。

 壁一面を抱一で固め、対面は琳派大家の顔見せ。間に工芸をはさむ、手堅い構成。抱一、萌え燃え展示でした。

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2011年02月04日

●春への誘い プーシキン美術館展

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 この春期待の大型展「プーシキン美術館展」@横浜美術館。会期前にも関わらず、主催の朝日新聞社がすでに2回記事にしていることからも、その力の入りようがうかがえます。

 その中でアピールされているのが、ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」を用いたピンクの駅貼りポスターです。1月1日-31日まで首都圏主要駅約100駅に掲出と書かれていたので、そのうち見かけるだろうと思っていたら、意外と見かけない。見かけないと逆に気になり、1月も後半になってわざわざ探しに行きました。

 首都圏主要駅といえば、東京駅。京葉線ホームから地上(?)に上がって、中央線、東海道線と見てみるがない。やっぱりアピールするなら山手線か?と思って行ったら、ようやくありました。ポスターを記念撮影する変な人。

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 翌日、船橋駅で何気なく眺めていたら、再びポスター発見。ああ、ホントに首都圏約100駅に掲出してるんだなあ。と一人納得する、再び変な人。

 プーシキン美術館展といえば、前回は2005年に上野の東京都美術館で開催されました。そのときのブログを読むと、けっこう充実した展示だったことが思い出されます。マティスの金魚は良かったなあ。今回もそれに負けない内容を期待してます!

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2011年02月01日

●運慶 中世密教と鎌倉幕府@神奈川県立金沢文庫

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 神奈川県立金沢文庫で開催中の特別展「運慶 中世密教と鎌倉幕府」を観ました。見所はなんといっても、運慶仏大集合。

 私は京都で生まれて大阪で育ったので、運慶といえば東大寺南大門の金剛力士立像。遠足や親戚の家に遊びに行く度に観ていたので、筋肉粒々で躍動感のある運慶仏が日本中にあるものだと思っていました。一昨年の興福寺での阿修羅凱旋展示の際に初めて北円堂の無著菩薩・世親菩薩立像を観て、その写実的で神々しい美しさに驚きました。運慶の真作(と確認されたモノ)が実はとても数少ないということは、ほんの数年前に知りました。というわけで、待ちに待っていた展覧会。

 イントロダクションは、慶派による東寺講堂の立体曼荼羅の修復について。運慶=鎌倉文化というイメージだったので、その造形に平安密教が多大な影響を及ぼすという指摘は新鮮。

 奈良・円成寺「国宝 大日如来坐像」。間近で観る、運慶最初期の大作。静かなポーズとモチモチした体躯が、平安から鎌倉への過渡期を思わせます。黒目の周りが朱で彩られているところまで、じっくりと観ました。

 愛知・滝山寺「帝釈天立像」。名前はよく聞く、滝山寺の彩色運慶仏。彩色は後年のモノだそうですが、躍動感ある天衣の造形と相まって、往時の生気ある様を観られるのが嬉しい。華やかな世界だったのだなあ。

 神奈川・浄楽寺「毘沙門天立像」「不動明王立像」。浄楽寺運慶仏5体のうち、阿弥陀三尊像は以前に鎌倉国宝館で観たと思います。今回は嬉しいことに、残り二体が揃ってお出まし。表情豊かなお顔立ちとぷっくりとした腕。ずいぶんと可愛らしい。

 神奈川・称名寺光明院「大威徳明王像」。今回の展覧会のきっかけとなった、最晩期の作品。いつも大伸ばしした写真で観ていたので、その小ささに驚く。額の玉眼が生気を感じさせます。

 最初期から晩年まで、コンパクトかつ充実した展覧会。必見の展示だと思います。

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 金沢文庫は称名寺の境内奥に位置します。トンネル一つくぐると、そこは野鳥たちの楽園。鴨たちが水辺で羽根を休め、水色の美しいカワセミが舞います。

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