2016年07月31日

●2016年7月の鑑賞記録

 7/10
S-HOUSE MUSEUM
 妹島事務所初の木造2階建て3世帯住宅を、20年を経て改修した美術館。1階に各世帯個室と浴室、2階に共用LDKを配し、その四周に吹抜け回廊を回して、半透明ポリカ波板で包んだ箱。
 アーティストを固定して毎年新作を加えながら変化していくとのことなので、まずは初訪問。白い空間にアートワークが映える。特に加藤泉さんの作品と木製ルーバーと窓からの風景の組合せがカッコイイ。
 この建物は、吹抜け回廊を半透明ポリカ波板の外皮と採光調節用木製ルーバーの内皮で包んだ環境装置。20年間家として使い、これからは美術館として使う。残したいと思う気持ちが名建築を生む。
 美術館への改修にあたり、変えたのは1階和室に面した部位。以前は老夫婦用のキッチンがあったところを鑑賞者の休憩スペースに。他は外装のポリカ波板が黄色味を帯びていたので新しくした程度。
 2階トイレはオープンスペースに白い筒状に配置(中にも作品展示あり)。2階のルーバー開閉が大変かと思いきや、基本的にこのままとのこと。写真映りは良いけれども、空調設計面は厳しい。

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2016年07月02日

●「メアリー・カサット展」夜間特別鑑賞会@横浜美術館

 横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」。その夜間特別鑑賞会に参加しました。

※会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□沼田学芸員のギャラリートーク
 メアリー・カサットは印象派を代表する女性画家。
 日本に所蔵作品が少なく、35年ぶりに開催される大回顧展。
 2010年のドガ展を担当した際に、カサット作品に興味を持った。
 1844年 裕福な家庭に生まれる。5人兄弟の4番目。
 1865年 画家になる意思を固めてパリに渡るも、当時のエコール・デ・ボザールは女性を受け入れていなかったので、画塾等で指導を受けた。
 1871年 再渡仏の際には、父より画家として自立することを求められたため、イタリアでの絵画模写の仕事を得て再渡欧。

□展示室での作品解説
I.画家としての出発
 《バルコニーにて》1937年、油彩、カンヴァス。奥行きの遠近法は難しいが、自分の技術の高さを見せるためにあえて採用したようにも見える。
 《刺繍するメアリー・エリソン》1877年、油彩、カンヴァス。この頃には肖像画の仕事が舞い込むように。刺繍を構図に入れることで、風俗画の要素も取り入れている。
 
II.印象派との出会い
 サロンに疑問を感じたころ、ドガと出会う。
II-I.風景の中の人物
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 《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年、油彩、カンヴァス(画面右)。カサットは人物、特に母子を多く描いた。風景要素を含む画は珍しい。とても慕っていたお姉さんが1882年に亡くなっているので、彼女を重ね合せて描いたのかも。

II-II.近代都市の女性たち
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 《桟敷席にて》1878年、油彩、カンヴァス(画面左)。コメディ・フランセーズと思われる。夜の劇場は社交場を兼ねており、女性は大胆に肌を露出したドレスを着用していた。この絵の女性は昼用の外出着を着ており、純粋に芝居を観に行ったのかも。彼女を覗き込む男性が描かれている。女性の視線の先は画面から切れており、女性が画面の中心。カサットの革新的な女性像が表現への意欲がうかがえる。

II-IV.家族と親しい人々
 普段は異なる所蔵元に収蔵されている「カサット家の人々」が横浜で集合。喜んでいるのでは。
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 《アレクサンダー・J・カサット》1880年頃、油彩、カンヴァス(画面左)。
 《眠たい子どもを沐浴させる母親》1880年、油彩、カンヴァス(画面右)。カサットの代表作「母子像」の最初期作。第5回印象派展出品。柔らかなタッチの中、右手にだけフォーカス。

III.新しい表現、新しい女性
III-I.ジャポニスム
 カサット旧蔵の屏風、浮世絵等を併設展示して、それらからの影響を提示。
 《ボートに乗る母と子》1894年、油彩、カンヴァス(画面右)。
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III-III.シカゴ万国博覧会と新しい女性像
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 《果実をとろうとする子ども》1893年、油彩、カンヴァス(画面右)。万国博の巨大壁画「現代の女性」と同じ構図。眠たげな母子像からカッチリとした表現に変化。
 《そよ風》メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズ、1895年、油彩、カンヴァス(画面中)。カサットの壁画と対峙する壁画「古代の女性」を描いたアカデミズムの画家。軽やか。

 白内障で視力が落ちたため、パステル画に移行。
 コレクターの作品収集の助言を行う。
 1917年 制作を止める。
 1926年 没

□感想
 メアリー・カサットは「○○印象派展」でいつも見かける画家で、特に愛情あふれる母子像のタッチと視線はとても印象に残ります。いったいどのような人だったのか?とても興味があり、待望の回顧展でした。
 各章を通して感じられる確かな技量。III章以降のカッチリとした表現と浮世絵等への飽くなき表現の探求。晩年の温かみのあるパステル画。実際に展覧会を観て、彼女は「印象派に属した時代もある、自分の絵画表現を追求した人であり成功した女性画家」だったということを強く感じました。それは本展の構成が現代の女性像を提示した画家というコンセプトで構成されている (と思える) ことから感じるのかもしれません。シカゴ万博壁画での新旧女性像対決が象徴的に思えます。
 同時に、併設展示されているドガ「踊りの稽古場にて パステル、紙」と見比べると、絵から伝わる強烈さにおいてやはり差があると感じられます。しかし、2007年の「ベルト・モリゾ展」で感じた失望感とは全く別物です。まずは観ることをお勧めします。

□展覧会概要
「メアリー・カサット展」
会期:2016年6月25日(土)~9月11日(日)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※2016年9月2日(金)は20:30まで(入館は20:00まで)
休館日:木曜日 ※ただし2016年8月11日(木・祝)は開館
会場:横浜美術館
主催:横浜美術館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
後援:横浜市
助成:駐日アメリカ合衆国大使館、テラ・アメリカ美術基金
協賛:大日本印刷
協力:全日本空輸、日本貨物航空、横浜高速鉄道株式会社、横浜ケーブルビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社

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