2017年04月30日

●2017年4月の鑑賞記録

 4/9
並河靖之 七宝展@東京都庭園美術館
 明治期超絶技巧系頂点の一つ、並河七宝の初回顧展@アール・デコ建築、旧朝香宮邸+庭園。物と場の組合せ自体が素晴らしい。購入したてのパピリオⅡ双眼鏡を持参して、じっくり鑑賞。館を出て、眼前に広がる桜までもが鑑賞体験の一部に思えて、満喫。

 4/10
藤本壮介『都市、姿、風景、パブリックスペース、多様なスケール、あり方、関わり方』@国際文化会館
 以前から話を聴いてみたかった建築家藤本壮介の講演会。生まれ育った北海道の自然と、学生時代を過ごした東京の街路空間。一見対極にある両者を、空間体験において意外と似ていると捉え、建築と社会との接点について語ることを試みる。サーペンタインパビリオンにおける建築を再定義する試み。東京の住宅における小ささを豊かさに転換する試み。パリのポリテクニクにおける止まり木のある空間。モンペリエの集合住宅のバルコニーをたくさん付けることによる生活の積層などなど。本当に楽しそうに話をする藤本さんと、パネリスト:小林正美さんと藤村龍至さんの鋭いツッコミも楽しかった。満開の桜の庭園、モダン建築の白眉 国際文化会館というロケーションも最高!

 4/12
 太田市美術館・図書館
 建築家平田晃久設計の話題作。ぐるぐるスロープの本の迷宮を巡り、テラスへと出て新しい丘から街を眺める。その空間体験はとても楽しい。TSUTAYA的な図書館をコアに、カフェ・美術館・屋上庭園をスロープでつなぐコンセプト。複数の箱を並べて街を作り、全体を里山的な外観にまとめる。太田駅前の歩行者アクティビティ再生の起点になるか。評価はこれから。

 4/21
 特別展「茶の湯」@東京国立博物館 夜間開館
 冒頭の牧谿《観音猿鶴図》に目を奪われ、後に続く名品オンパレードをひたすら鑑賞する。照明が画一的なせいか、モノによって映える映えないの差が感じられるのは残念だけれども、これだけの名品展観経験自体がとても貴重。光悦、仁清の艶やかさが素敵。

 4/22
絵巻マニア列伝@サントリー美術館
 横長書式に、絵と言葉で物語を紡ぐ絵巻。その名品の数々を、歴代有力マニアたちの視点と、収集と製作の記録から通観する展覧会。三条西実隆も感動した《玄奘三蔵絵》《春日権現験記絵》を同じく観、感動する。時空を超えた体験が何より素晴らしい。

ファッションとアート 麗しき東西の交流展 ミニ鑑賞会@横浜美術館
 衣装をまとったマネキンが闊歩する展示空間は、観て楽しかった。特に第3章のランプ・ソファと組み合わせたセット空間が素敵。

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●読書メモ 「パラレルキャリア」ナカムラクニオ 晶文社

 「働き方」のサードウェーブがやってきた!近い将来に訪れる「大副業時代」の新しい働き方。それが「パラレルキャリア」なのです。
 巻頭の文言は軽やかに甘く、魅惑的。私も何度かイベントに参加させてもらっている荻窪のブックカフェ「6次元」の店主ナカムラクニオさんの著書。

 ブログを10年以上も細々と書いていると、「何のためにやってるんだっけ?」とたまに思います。基本は「ただの備忘録」なわけですが、そのために費やす時間もそれなりなので、「ブログをなくした方が、より多くの展覧会に出かけられるし、より多くの本も読めるのでは?」となるわけです。そんな迷える子羊に光のごとく射し込むコトバ「パラレルキャリア」。「二足のわらじ」ではなく、「本業+α」。さすが、言葉選びが上手い。思わず手に取ります。

 本の内容は期待とちょっと違いました。期待したのは、パラレルキャリアを実践してきた著者の「経験録+その先のビジョン」に関するエッセイ集。実際には、ヒント10コ×10章のアイデア整理のネタ帳。通底するのは、軽く、めげず、粘り強く。本の出版自体がパラレルキャリアの成果なのだと考えると、凄いなあと思います。

 第1章 パラレルキャリアとは何か?
 「ライスワーク、ライフワーク、ライクワーク」。分類とネーミングが上手い。覚えておこう。

 第3章 新しい仕事の作り方
 「自分の得意を仕事化する」。ちょっと意識して、得意を磨こう。
 6Pの法則のうち、「誰が売るか?」、「どういうプロセスで売るか?」。自分が苦手なところなので、意識しよう。

 第4章 パラレルキャリアの達人たち
 「【衣食住+知】へワークシフト」。これはその通りと共感。
 「自分の【要る場所】を作る」。これはいつも仕事をする上で考えていること。パラレルキャリア上もそうなのね。そりゃそうか。

 第5章 パラレルキャリアの実践
 「ごはん、おかず、デザートのバランスを考える」。ちょっと紙に書いて整理しよう。ご飯に頼りすぎですかね。。。
 「できることは、いますぐやる。できないことは、やらない。」。これも仕事で意識していること。パラレルキャリアでも。。。(以下同文)

 第6章 パラレル思考の作法
 「【人生7年周期説】を考える」。あるかも。

 第7章 パラレルワーク計画
 「【グッドストック】でチャンスを引き寄せる」。心がけよう。
 「楽できる仕組みをつくる」。これもそうですね。
 「【やる気スイッチ】の場所を知る」。これはとても大切。

 第8章 新しい未来の歩き方
 「自分はどう失敗するのかを知る」。大切。
 「【やりたいこと】と【できること】は違う」。とても心に届くフレーズ。でも、題と文章がかみ合ってない気がする。

 第10章 パラレルキャリアの可能性
 8つの計画で考える。always, hourly, daily, weekly, monthly, yearly, life, never。整理してみよう。
 「目標と目的をはっきりさせる」。実行しよう。

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2017年04月22日

●ファッションとアート 麗しき東西の交流展 ミニ鑑賞会@横浜美術館

 横浜美術館で開催中の「ファッションとアート 麗しき東西の交流」展。そのミニ鑑賞会に参加しました。

 ※画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

坂本学芸員のギャラリートーク
 横浜美術館初のファッション展は主に、共催の京都服飾文化研究財団 (KCI) のコレクションをお借りして開催。
 自分にとっては、洋服を選ぶことと絵を観ることの線引きはない。そんなところから、アートをもっと身近に感じてもらえるかも。

展示室での作品解説
第1章 東西文化の交流点 YOKOHAMA
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 人が室内の中に立ち現れる展覧会をしたいと考えていた。
 布は驚くほど繊細で取り扱いが難しいが、KCIの協力を得て、ケースに入れない展示を実現。
 右2点《輸出用ティー・ガウン》はラファエル前派を思わせるハンギングスリーブだけれども、模様は菊。おそらくはリバティ商会の発注で、日本で製作された輸出品。
 桜の木に孔雀が止まる柄の《輸出用室内着》も、ゆったりとした作り。
 《芝山細工飾棚》《粉彩金彩扇面散図 カップ&ソーサ―》。当時の日本の人々の生活が西洋化されて、こういった品々が生まれたわけではない。工芸品も含めて、海外をターゲットに製作された。
 ここが本展のスタート。東西での受容を次の2章、3章で紹介。

第2章 日本 洋装の受容と広がり
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 西洋に追いつくことを国策とした、当時の華族が着用した衣装。

 月岡(大蘇)芳年《見立多似尽 洋行がしたい》。着物とチェック柄マフラー。
 楊州周延《真美人》。着物の下地にチェックシャツ。
 浮世絵ではありえない組合せ。上から入ってきたモノが染みて広がって、文化を作っていく。
 《束髪簪》。安い素材に置き換えて作る。べっ甲からセルロイドへ。カフェの女中さん等が使った。
 《帯留》。着物柄をいきなり西洋化するのはリスクがあるので、帯で西洋化。

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 上記のような「洋装の受容」を踏まえて、当時の絵画を観て欲しい。

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 《昭憲皇太后着用大礼服 (マント―・ド・クール)》
 上からの受容の頂点。ブロケードのドレスはバラ、ベルベットのマントは陰影のある菊。西洋の混合。

第3章 西洋 ジャポニスムの流行
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 ルネ・ラリック《ベッドサイドランプ「日本の林檎の木」》カミーユ・ゴーチェ《椅子セット「散形花序」》マリアノ・フォルチュイ二《室内着》オー・ミカド店《室内着「キモノ・サダヤッコ」》
 着物の後ろにプリーツを入れ、ドレスのように広がっていく形状の室内着「キモノ」が定着。

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 ルネ・ラリック《リュシアン・ルロン社 香水瓶「香水A (または香水N」》ベール《イヴニング・ドレス》
 「コルセットから解放されるべき緩やかに着られるドレス」の試みの中で、ベールのドレスが登場。青海波をモチーフにしている。また、ルネ・ラリックの香水瓶にも青海波モチーフが表れている。
 そしてこれらは現在の日本に影響を及ぼし、文化の融合としてフィードバックされている。

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 美術館前の広場では、《チームラボ「人と木々とクリスタル花火」》も開催中。

感想
 衣装をまとったマネキンが闊歩する展示空間は、「人が室内の中に立ち現れる展覧会」というコンセプトが伝わってきて、観て楽しかったです。特に第3章の大きな写真パネル前でランプ・ソファと組み合わせたセット空間が素敵でした。
 「東西文化の交流点横浜、日本での西洋の受容、西洋での日本の受容」の3章構成も、分かり易かったです。

 毎回感じることですが、1989年の開館から30年近くを経てなお、まったく古さを感じさせない建築空間も素晴らしいです。展示室を小分けして、展示室⇒共用部⇒展示室と移動する独特の空間構成と、その一方で展示室の大きさにメリハリをつけることで様々な企画展に対応するというスケール感覚。これらの設計コンセプトが成功していると感じます。同時に、メンテナンスにとても手間と費用のかかりそうなこの空間を、きっちり維持している横浜市もすごいなと思います。

 そんなに素晴らしい展示、空間ですが、「アピールポイント」が今一つ絞り切れていない感じで、大型展目白押しの今期、うっかりすると埋没しそうな気もちょっとしました。

展覧会概要
「ファッションとアート 麗しき東西交流」
会期:2017年4月15日(土)~6月25日(日)
開館時間:10:00~18:00 (入館は17:30まで)
※夜間開館:5月17日(水)は20:30まで(入館は20:00まで)
休館日:木曜日、5月8日(月)
※ただし5月4日(木・祝)は開館
会場:横浜美術館
主催:横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
    公益財団法人京都服飾文化研究財団
    日本経済新聞社
後援: 横浜市
特別協力:株式会社ワコール、三菱一号館美術館
協力:日本宝飾クラフト学院、公益社団法人服飾文化研究会、みなとみらい線、横浜ケーブルビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社

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2017年04月09日

●並河靖之七宝展@東京都庭園美術館

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 東京都庭園美術館で開催された「並河靖之七宝展」の最終日に滑り込みました。
 2014年に三井記念美術館で開催された「超絶技巧!明治工芸の粋」展でも抜群の存在感を放った並河靖之七宝の名品の数々を、アールデコ建築の白眉「旧朝香宮邸+庭園」で鑑賞!モノと場の組合せの魅力に期待が高まります。

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 週末の雨で、桜は満開から葉桜へ。東京都庭園美術館は、本展を最後に11月中旬まで全面休館になるので、7か月間のお別れです。

 購入したてのパピリオⅡ双眼鏡を持参して、準備万端。
 本館 1階
 大広間
 《舞楽図花活》とその下図。発注者の要望にいかに答えるか。どのような意匠、色彩。そして、いかに作るか。それらの意図が込められた下図自体が美しい。

 大客室
 《藤花菊唐草紋飾壺》。超絶技巧展以来、3年ぶりの再見。黒地に白藤が美しい。《桜蝶図平皿》。水彩画のような緑地を縁取る桜と舞う蝶。七宝とは思えない美しさ。

 大食堂
 《菊唐草文細首小花瓶》。細いシルエットが美しい。転倒防止に半透明ワイヤーで留める展示方法に、所有者は地震が来るたびに小瓶が割れないか心を悩ませるであろうと察する。

 喫煙室
 年表。並河靖之七宝の歴史を淡々と記述。青蓮院宮近侍として仕えつつもその俸禄だけでは食べられず、1873年に七宝製造を開始。1875年の京都博覧会にて銅賞を受賞。1876年にストロン商会と5年契約を結ぶも、品質の悪さから契約破棄。その後再起して成功をおさめ、国内外の博覧会で受賞を重ね、1996年に帝室技芸員に。販売高の9割を占める外国人向け需要の落ち込みを受けて、1923年に工房を閉鎖。その技術習得、開発の早さは驚異的で、どのような背景、才覚に優れていたのか興味は湧くものの、そういった面の解説はなし。

 2階
 《松に鶴図花瓶》。ガラス質の釉薬に厚みがあり、その奥に黄土色の粒子、手前に鶴等の図案が描かれているように見える。
 《蝶に花丸唐草文飾壺》。面ごとに色を変えるカラフルな美しさ。よくもこれだけ色が出せると感嘆。
 《菊紋付蝶松唐店模様花瓶》。先ほどの小花瓶に比べれば安定感のあるプロポーション。

 新館 ギャラリー1
 《菊御紋章藤文大花瓶》。青地に浮かぶ白藤。濃淡のある白表現が、闇夜に浮かぶようで美しい。展開図のように描かれた下図も幻想的で美しい。
 《楼閣山水図香炉》。水墨画のぼかしのような表現。並河靖之七宝の到達点。

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 館を出て、眼前に広がる桜までもが鑑賞体験の一部に思えます。満喫。

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