2017年02月09日

●青い日記帳×オルセーのナビ派展 ブロガー特別内覧会

 三菱一号館美術館で開催中の『オルセーのナビ派展:美の預言者たち-ささめきとざわめき』。その一環である『青い日記帳×オルセーのナビ派展 ブロガー特別内覧会』に参加しました。

※会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□ギャラリーツアー
 高橋明也 三菱一号館美術館館長
 Tak こと 中村剛士 「青い日記帳」主宰

・ナビ派の展覧会は日本では初かも。知られているのはボナールくらい。フランスでも再評価されつつある段階。
・高橋館長はオルセー美術館開館準備室に1984~86年まで在籍。その時の同僚がコジュヴァル オルセー美術館館長。彼の専門はヴュイヤールで、オルセーのナビ派コレクションを1,000点規模で増やしてきた。昨年はナッシュビルのコレクションをフランスへ寄贈させた。
・高橋館長は国立西洋美術館勤務時にモーリス・ドニ展を企画。また松方コレクションにはドニの作品が多く含まれている。ただし、ナビ派としてというより、当時の現代作家として収集した。
・盟友コジュヴァル館長の任期最後の年に、本展が実現。フランスで開催しても、トップレベルの展覧会といえる内容。パステル画等、移動の難しい作品も持ってきた。
・フェルメール、レンブラントといった西洋画がテカテカしているのに対して、ナビ派の絵はマットな画面。浮世絵と共通しており、日本人と親和性が高い。
・ナビ派は3次元のイリュージョンを作らない。自然主義を捨てて好きなように描く。例えばフェリックス・ヴァロットン《化粧台の前のミシア》の変な手。不条理。
・かわいい。やさしい日常。裏にあるもの。ある種の不安。
・エデゥアール・ヴュイヤール《公園》は8枚のうち5枚がきている。オルセーでも実現できない平面的に並べる見せ方を実現。
・最後の部屋は見どころかも。

□特別鑑賞会
1 ゴーガンの革命
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 第一室はナビ派以前。『ナビ派に影響を与えた』という位置づけで、ゴーガンらの作品を紹介。
 ポール・ゴーガン《《黄色いキリスト》のある自画像》。いつもは主役のゴーガンの代表作が前説を勤めることからも、本展出品作の質の高さを感じます。
 第二室に移動して、ナビ派登場。
 エミール・ベルナール《収穫》。美しい黄色の色面に引き寄せられる。
 ポール・セリュジェ《タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川》  《「僕たちナビ派!」誕生ストーリー》によると、ナビ派結成の契機となった記念碑的作品。まるで暖炉の一部のようにさりげなく展示。

2 庭の女性たち
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 モーリス・ドニ《ミューズたち》。『オルセー美術館展2010「ポスト印象派」@国立新美術館』以来、7年目の再見。あの時は大空間の装飾壁のようだったけれども、今回は部屋の窓から外の景色を観るよう。落ち着いた装飾性が素敵。

3 親密さの詩情
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 小部屋を抜けて、大部屋へ。空間のスケールアップに合わせて、展示壁も青と赤の色彩を大胆に使ってパワーアップ。
 アリスティード・マイヨール《女性の横顔》。配置計画上、本展の顔的位置に、大きな黄色の色面が映える。後年は彫刻家に専念したそうで、立体を平面に押し込んだような密度を感じます。
 モーリス・ドニ《鳩のいる屏風》。本室の一つ目のランドマーク的位置には、ドニがアトリエで私的に使っていたという屏風。『精神と現実の融合が主題』という白い画面が、暗い展示室に浮かび上がる。

4 心のうちの言葉
 再び静かな小部屋の連続する空間へ。
 エドゥアール・ヴュイヤール《八角形の自画像》。ビビッドな色遣いがポップアートを思わせる。
 ピエール・ボナール《格子柄のブラウス》。格子柄のブラウスをユラユラと揺れる縦分割する構成が素敵。

5 子ども時代
 3階から2階へ。
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 フェリックス・ヴァロットン《ボール》。鳥瞰と水平、二つの視点が一見落ち着いた画面に疾走感を与えて、何とも不思議な印象を受ける。
 エドゥアール・ヴュイヤール《公園》の連作。部屋いっぱいに広がる公園の眺め。まるでその中に自分も紛れ込むような気になって楽しい。

6 裏側の世界
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 ジョルジュ・ラコンブ《イシス》。表現の強烈さと、呪術的にも思える造形。えっ、これもナビ派なの?

□感想
 ギャラリーツアー前に展示をぐるりと一周しました。前半は『平面性・豊かな色彩・装飾性』といった私が持っていたナビ派のイメージに沿った作品が多く、『魅力的な作品が多い展示』を楽しみました。後半は、「あれ、これもナビ派なの?」と思うものが色々と出てきて、最後の部屋に至っては呪術的にも見えて、「ナビ派って何だっけ?」となりました。
 ギャラリーツアーを聴いた後に、再度興味深く展示を観ました。
 分かったような、分からないような。でも、とても魅力ある作品が集まっている。そんな展示だと思います。

□展覧会概要
「オルセーのナビ派展:美の預言者たち ―ささやきとざわめき」

会期:2017年2月4日(土)~5月21日(日)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2) 
http://mimt.jp/
主催:三菱一号館美術館、読売新聞社、オルセー美術館
公式サイト:http://mimt.jp/nabis/

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2016年07月02日

●「メアリー・カサット展」夜間特別鑑賞会@横浜美術館

 横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」。その夜間特別鑑賞会に参加しました。

※会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□沼田学芸員のギャラリートーク
 メアリー・カサットは印象派を代表する女性画家。
 日本に所蔵作品が少なく、35年ぶりに開催される大回顧展。
 2010年のドガ展を担当した際に、カサット作品に興味を持った。
 1844年 裕福な家庭に生まれる。5人兄弟の4番目。
 1865年 画家になる意思を固めてパリに渡るも、当時のエコール・デ・ボザールは女性を受け入れていなかったので、画塾等で指導を受けた。
 1871年 再渡仏の際には、父より画家として自立することを求められたため、イタリアでの絵画模写の仕事を得て再渡欧。

□展示室での作品解説
I.画家としての出発
 《バルコニーにて》1937年、油彩、カンヴァス。奥行きの遠近法は難しいが、自分の技術の高さを見せるためにあえて採用したようにも見える。
 《刺繍するメアリー・エリソン》1877年、油彩、カンヴァス。この頃には肖像画の仕事が舞い込むように。刺繍を構図に入れることで、風俗画の要素も取り入れている。
 
II.印象派との出会い
 サロンに疑問を感じたころ、ドガと出会う。
II-I.風景の中の人物
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 《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年、油彩、カンヴァス(画面右)。カサットは人物、特に母子を多く描いた。風景要素を含む画は珍しい。とても慕っていたお姉さんが1882年に亡くなっているので、彼女を重ね合せて描いたのかも。

II-II.近代都市の女性たち
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 《桟敷席にて》1878年、油彩、カンヴァス(画面左)。コメディ・フランセーズと思われる。夜の劇場は社交場を兼ねており、女性は大胆に肌を露出したドレスを着用していた。この絵の女性は昼用の外出着を着ており、純粋に芝居を観に行ったのかも。彼女を覗き込む男性が描かれている。女性の視線の先は画面から切れており、女性が画面の中心。カサットの革新的な女性像が表現への意欲がうかがえる。

II-IV.家族と親しい人々
 普段は異なる所蔵元に収蔵されている「カサット家の人々」が横浜で集合。喜んでいるのでは。
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 《アレクサンダー・J・カサット》1880年頃、油彩、カンヴァス(画面左)。
 《眠たい子どもを沐浴させる母親》1880年、油彩、カンヴァス(画面右)。カサットの代表作「母子像」の最初期作。第5回印象派展出品。柔らかなタッチの中、右手にだけフォーカス。

III.新しい表現、新しい女性
III-I.ジャポニスム
 カサット旧蔵の屏風、浮世絵等を併設展示して、それらからの影響を提示。
 《ボートに乗る母と子》1894年、油彩、カンヴァス(画面右)。
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III-III.シカゴ万国博覧会と新しい女性像
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 《果実をとろうとする子ども》1893年、油彩、カンヴァス(画面右)。万国博の巨大壁画「現代の女性」と同じ構図。眠たげな母子像からカッチリとした表現に変化。
 《そよ風》メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズ、1895年、油彩、カンヴァス(画面中)。カサットの壁画と対峙する壁画「古代の女性」を描いたアカデミズムの画家。軽やか。

 白内障で視力が落ちたため、パステル画に移行。
 コレクターの作品収集の助言を行う。
 1917年 制作を止める。
 1926年 没

□感想
 メアリー・カサットは「○○印象派展」でいつも見かける画家で、特に愛情あふれる母子像のタッチと視線はとても印象に残ります。いったいどのような人だったのか?とても興味があり、待望の回顧展でした。
 各章を通して感じられる確かな技量。III章以降のカッチリとした表現と浮世絵等への飽くなき表現の探求。晩年の温かみのあるパステル画。実際に展覧会を観て、彼女は「印象派に属した時代もある、自分の絵画表現を追求した人であり成功した女性画家」だったということを強く感じました。それは本展の構成が現代の女性像を提示した画家というコンセプトで構成されている (と思える) ことから感じるのかもしれません。シカゴ万博壁画での新旧女性像対決が象徴的に思えます。
 同時に、併設展示されているドガ「踊りの稽古場にて パステル、紙」と見比べると、絵から伝わる強烈さにおいてやはり差があると感じられます。しかし、2007年の「ベルト・モリゾ展」で感じた失望感とは全く別物です。まずは観ることをお勧めします。

□展覧会概要
「メアリー・カサット展」
会期:2016年6月25日(土)~9月11日(日)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
※2016年9月2日(金)は20:30まで(入館は20:00まで)
休館日:木曜日 ※ただし2016年8月11日(木・祝)は開館
会場:横浜美術館
主催:横浜美術館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
後援:横浜市
助成:駐日アメリカ合衆国大使館、テラ・アメリカ美術基金
協賛:大日本印刷
協力:全日本空輸、日本貨物航空、横浜高速鉄道株式会社、横浜ケーブルビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社

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2015年02月24日

●青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ギャラリー展ブロガー特別内覧会@三菱一号館美術館

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 三菱一号館美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」。そのブロガー向けイベント青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ギャラリー展ブロガー特別内覧会に参加しました。

 注:展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

高橋明也館長挨拶
 今度の4月で開館5周年。本展で17本目の展覧会。充実感があった。ヘビーな展覧会も十数本開催。続けるのは大変。
 ワシントン・ナショナル・ギャラリー展は国際巡回展。日本では3回目の開催。巡回展は内容よりも開催することを優先されがちだけれども、本展は前々回、前回とは違う。
 作品サイズが小さく、統一されている。そのサイズが本館の大きさとあっている。
 印象派の特徴は親しみやすさ。今では当たり前だけれども、当時の絵画は権威、宗教のために描いていた。

ギャラリーツアー
 杉山菜穂子(本展担当学芸員)
 モデレーター:Tak(「青い日記帳」主宰)

 2章 友人とモデル
 左 エドガー・ドガ「競馬」、右 エドゥアール・マネ「競馬のレース」
 ドガとマネの見比べ。競馬は当時の流行の最先端。ドガはノルマンディの競馬場。遠景の教会はルーアン大聖堂。レース前のパドックののんびりした人々。マネはロンシャンの競馬場。シカゴにある大作のバリエーション。現場で描いたわけではないが、レース中の砂埃、臨場感。パリの上流階級が着飾った社交場。
 マネの絵は、実は図録の図版の方が大きい。土煙や着飾った貴婦人もくっきり。
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 右 ピエール=オーギュスト・ルノワール「花摘み」、左 「ブドウの収穫」
 右は、ルノワールが庭を気に入って買ったといわれている家。田舎っぽい、ワイルドな感じが気に入ったといわれている。同じ庭でも、右と左で随分と描き方が違う。細かい筆致で、ふるえる光の表現。女の子をナンパ中のような微笑ましい風景。
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 フィンセント・ヴァン・ゴッホ「オランダの花壇」
 振り返る、ゴッホ。パリに出る前の精神的に穏やかな時期。明るい穏やかな色遣い。いつも曇っているのがオランダらしい。

 左 オディロン・ルドン「ブルターニュの村」、 右 「ブルターニュの海沿いの村」
 右へ移動。本展はモネ、ピサロ、シスレーの風景画で始まり、屋外で描く先駆けであるブータンの作品が8点並びます。それに続くのが、印象派第二世代ともいえるルドン、スーラ。ルドンは黒の版画と並行して美しい風景画を描いており、色数少なく、完成されています。スーラの絵はアメリカマーケット向けに装飾的な枠に変えられている。元々はシンプルな枠だったので、画家は絵にそぐわないこの枠を嫌っていた。粗目のドットが抽象画のよう。
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 右 ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫を抱く女性」、中 「少女の頭部」、左 「アンリオ夫人」
 再び後ろを振り返って、ルノワールのきれいな女の子のコーナー。
 本展のメインビジュアルでもある「猫を抱く女性」は画家お気に入りのモデル。服装によって印象が全然違う。猫の手のフワフワとした触感が感じられる。本展には動物コーナーがあり、マネの描いた犬(タマ)も出展されている。
 「アンリオ夫人」。モデルは当時の人気女優。画家からモデルに贈られ、彼女の手元に最後まで残されていた。彼女を描いた絵が、クラークコレクション展にも出展されていた。背景表現が前出の風景画と比べて抽象的。画家がモネと交流していた時期に描かれた。
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 最後のナビ派の部屋「ボナールとヴュイヤール」がおススメ。
 食べ物を集めた部屋もある。http://www.mizdesign.com/mt/mt.cgi#
 本展は、所蔵元のワシントン・ナショナル・ギャラリーが改修の間に、世界巡回する展示の1つ。テキサス、日本、シアトル、ワシントンと巡回する。ギャラリーのスタッフが本館を下見して気に入ってくれた。
 絵の小ささを意識して、キャプションも小さい。作品リストも小さくなるよう工夫。
 日本展だけ特別に、コレクターに焦点をあてた作品解説を追加。

特別鑑賞会
 1時間ほどの自由鑑賞会へ。
 ギャラリーツアーで2章を堪能しましたが、他の章も見所満載。

 三菱一号館美術館のコレクション
 オディロン・ルドン「グラン・ブーケ」
 3章と4章の間に、三菱一号館美術館の所蔵品(寄託品含む)の展示。先ほどの色数抑えた風景画とは対照的に、華やかな色彩の巨大な花束。暗闇に浮かぶ様が美しい。
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 4章 静物画
 ポール・セザンヌ「牛乳入れと果物のある静物」
 個人的に一番印象に残ったのは、セザンヌの作品。額縁という窓を通して、絵の中に広がる世界に惹き込まれるような錯覚を感じました。小品でも物凄い吸引力。
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 5章 ボナールとヴュイヤール
 右 ピエール・ボナール「庭のテーブルセット」、左 「画家の庭の階段」
 緑のスクリーン越しに陽光を感じつつ、木陰のテーブルセットが気持ちよさそう。
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感想
 珠玉の印象派コレクション持つコレクターの邸宅にお邪魔しているような、作品と展示空間のスケール感が何より素晴らしいです。ただの白い箱ではない三菱一号館美術館だからこそできる、絵画との親密な距離感。どこを見ても見所ばかりの充実した作品ラインナップ。絵画を観る幸せにひたれるひと時でした。

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2015年01月04日

●ホイッスラー展@横浜美術館

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 横浜美術館で開催中の「ホイッスラー展」を観ました。
 「ホイッスラーって誰?」というくらい画家について知らないので、まずはチラシで予習。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(1834-1903)、アメリカ・マサチューセッツ州生まれ、パリ、ロンドンと移住。以降、英国とフランスを行き来して活躍。「唯美主義」を主導、ジャポニスムの画家としても知られる。
 さらにフリーマガジン「ミュージアムカフェ マガジン」でホイッスラーの人物像について予習。辛酸なめ子さんの描き下ろし漫画が、わずか4ページで画家の生涯をエピソード満載で描写。ダンディでモテ男かつ、気性が激しくトラブルの絶えない人物像をイメージしつつ展示へ。

注:展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

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 第1章 人物画
 「農夫」1855/58年、「煙草を吸う男」1859年頃。初期油彩画はクールベのレアリスムの影響がうかがえる。
 「12点の写生エッチング集」1858年。画家の最初の成功はエッチング集。
 「灰色と黒のアレンジメントNo.2:トーマス・カーライルの肖像」1872-73年。水平・垂直線を意識した構図と、灰色基調の落ち着いたトーン構成。
 幅広く取り組み、成功を収めていく過程が思い浮かびます。
 「トリクシー(ビクトリアス・ホイッスラー夫人)」1892/94年、「バルコニーの傍で」1896年。ドライポイント、リトグラフの高い技術、的確な輪郭線とラフな陰影描写が抒情性を高める。数多くの浮名を流した画家が54歳にして結婚。以降彼女の死まで続く幸せな時代。その終焉とともに彼の画業も完結。
 えっ、完結?随分ときれいにまとめられてる気が。。。

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 第2章 風景画
 時計の針を戻して、主題を風景画に切り替えて第2幕。
 「オールド・ウェストミンスター・ブリッジの最後」1862年。石橋から鉄橋への架け替えを舞台に、職人、船頭等の労働者を描いて、活況を呈するロンドンを活写。歴史の証人のような視点と、新たなパトロンを求めるしたたかさ。
 「16点のテムズ川の風景エッチング集」1859年。前景に労働者と船、中景に川、遠景に街。練られた構図と、シャープな線描。上手い。
 「肌色と緑色の黄昏:バルパライソ」1866年。閉塞的なロンドンから逃れて、チリへ。夕暮れの一瞬を捉えた色彩が美しい。予めパレット上に絵具を整え、のびのある絵具で日暮れ頃に一気に描いたというエピソードに感銘を受ける。
 「ヴェニス、12点のエッチング集」1879/80年。ラスキンとの裁判で勝訴するも破産、ヴェニスにて再起を期す。その思いが伝わるような見事な刷り。

 展示室を出て、共用部分に設置された仮設ブースへ。
 「青と金色のハーモニー:ピーコックルーム」1876-77年。画家がデザインした内装を、壁面3面を使った映像で再現。デザインよりも、「クライアント不在中に勝手にデザイン変更、制作した上に内覧会まで開催。クライアントとの仲は決裂」というエピソードの方が印象に残る。その経緯にもかかわらず、本空間を手を加えずに使い続けたクライアントは、寛容というか、1枚上手というか。

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 次の展示室へ。
 第3章 ジャポニスム
 風景画展示をひとまず中断して、人物画のメインビジュアルを展示。
 「白のシンフォニー No.2:小さなホワイト・ガール」1864年。本展のメインビジュアル。意外と小さい。モデルの横顔と、ガラスに映るななめ顔の表情の落差がすごい。なんというか、うんざりという心の声が聞こえてきそう。
 「白のシンフォニー No.3」1865-67年。本展のメインビジュアルその2。白いソファに身を横たえ、手を置くポーズをとる二人のモデル。「古典古代を思わせる装飾的セッティングの中に人物を描く」構図は、まさに唯美主義 。

 風景画再開。
 「ノクターン:ソレント」1866年。薄く溶いた絵具で描かれた空と波、青トーン一色の静寂な世界。
 「青戸銀色のノクターン」1872-78年。陸と海と船の境界がさらに不明瞭になり、深い霧に閉ざされていく。
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 「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」1872-75年頃。構図の参考となったであろう歌川広重「名所江戸百景のうち「京橋竹がし」」も併せて展示。大きく橋をクローズアップして、橋脚と円弧を描く橋の一部で画面を切り取る。水面に船と船頭、橋に人影。遠景に街の灯り。
 ホイッスラー作品と浮世絵との構図の関連性を示す展示は他にも複数点。興味深い見せ方ではあるけれども、あまり多いと構図の相関性ばかりに気が行ってしまってかえって他の大切な点を見落としてしまう気もする。

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 ホイッスラー旧蔵品。アトリエのホイッスラーの写真はまさに、その男ダンディにつき。開き直りとも感じられる「敵をつくる優美な方法」の書名、愛用の蝶のサインが可愛い。

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 ミュージアムグッズは「髭押し」。中でもパパブブレキャンディは売れ行き好調で、1月中頃には売り切れそうとのことです。(再生産の予定なし)


 油彩、エッチング、ドライポイント、水彩、リトグラフ。リアリズム、唯美、海景、浮世絵。多才で研究熱心な画家の多岐に渡る足跡を、質の高い作品で辿ります。絵画系統、時系列が若干混乱しやすいので、ある程度予習してから観た方が、より楽しめる展示だと思います。年末年始休暇のリラックスした一週間の最後を飾るにふさわしい、素敵なひと時でした。
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□展示概要
 会期:2014年12月6日(土)~2015年3月1日(日)
 休館日:木曜日、2014年12月29日(月)~2015年1月2日(金) 
 開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)
 ※夜間開館:2014年12月22日(月)~12月24日(水)は20時まで開館
 (入館は19時30分まで)

 会場:横浜美術館
 http://yokohama.art.museum/

 主催:横浜美術館、NHK、NHKプロモーション
 協賛:あいおいニッセイ同和損保、テラ・アメリカ美術基金、日本写真印刷
 協力:FMヨコハマ、神奈川新聞社、首都高速道路株式会社、日本航空、みなとみ らい線、横浜ケーブルビジョン

 「ホイッスラー展」公式サイト
 http://www.jm-whistler.jp/

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2014年09月17日

●建築家ピエール・シャローとガラスの家 web内覧会@パナソニック汐留ミュージアム

 パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「建築家ピエール・シャローとガラスの家」展 web内覧会に参加しました。

※本エントリーに使用している写真は、美術館より特別に撮影の許可をいただいています。

□前説
 「ピエール・シャローのガラスの家」といえば、近代建築史において、鉄とガラスとコンクリートの黎明期に突如登場する、「ガラスブロック越しの柔らかな光が空間を満たす圧倒的な浮遊感」のビジュアルイメージ。そのシャローの展覧会ということで、がぜん興味が高まります。
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□大村学芸員のギャラリートーク
 シャローは建築分野ではガラスの家の設計者、工芸分野では家具作家として有名。本展はポンピドゥ・センターのコレクションを通して彼の生涯を紹介する。
 シャローの活躍した1920年代は、第一次大戦後の好景気、市民文化の基礎ができた時代。
 シャローは1883年ボルドー生まれ。父はワイン商人。家具会社に就職して家具デザイナーとして働き始め、出兵、復帰後に独立。裕福なユダヤ系フランス人を顧客に持つ。1940年にニューヨークに亡命。活動期が非常に短い。トピック毎に分けて展示。

□展示内覧
第1部 【活動初期、確立期、モデルニテ】

第一世代の家具
シャローとリュルサの協働作品

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金物職人ダルベとの出会い
前衛芸術家との交流から
アラバスタ―製の照明器具

<フロアスタンド>。金物職人ダルベとの協働。シャローは協働から生まれた作品が多い。アラバスタ―の輝きが美しい。小品が多い展示の中で一番印象的。
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近代的な生活のための家具
1925年アールデコ博
新しい時代の女性が住む空間
グラン・オテル・ド・トゥール
「木と金属」の時代
モダン・インテリアの到達点
金属平面を用いた家具

<マレ=ステヴァンスのための 事務机>(中央奥)。アールデコから始まり、そこから決別してモダンデザインへ。
会場構成はみかんぐみ。空間を縦に3分割。中央の黒い板のレベルを変えながら、通路・展示台の機能を組み込む。両端は壁面展示スペースとして活用。複合機能化を図ることで、コンパクトながら回遊性のある動線計画。
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第2部 【ガラスの家】
南フランスの建築作品
ガラスの家―装飾・家具・建築の融合

建築2作品を経て、ガラスの家へ。
右手壁面にガラスの家の映像を投影して紹介。
できれば4Kの超高精細映像で実空間に肉薄して欲しかった。AV機器のパナだけに。
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モダンな室内を装飾する品々
模型、写真、サンプル、申請図面の変遷を通して、ガラスの家のデザイン変遷、素材を紹介。貴重な原資料がズラリ。
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第3部 【苦難の時代、亡命時代】
苦難の時代、そして新天地を求めて

□感想
 学生のころに見た内観写真が記憶に残る「ガラスの家」。その設計者の展覧会が、日本で開催されることに驚きました。その強烈なビジュアルインパクトと、プッツリと絶えるその後。
 家具作家として活躍し、アールデコからモダンデザインへと変化し、そして新天地へ。建築家の足跡を、ポンピドゥ・センターコレクションの平面・立体を並べて辿ることで、彼の生きた時代が身近に感じられる気がしました。

□展覧会案内
「建築家ピエール・シャローとガラスの家」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:7月26日(土)~10月13日(月・祝)
休館:水曜日。夏期休館:8月11日(月)~15日(金)
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生200円、小学生以下無料。
 *65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。

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2014年04月26日

●「超絶技巧!明治工芸の粋」展web特別鑑賞会@三井記念美術館

 三井記念美術館で開催中の「超絶技巧!明治工芸の粋」。そのweb特別鑑賞会に参加しました。

注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□ギャラリートーク
 山下裕二氏(本展監修者、明治学院大学教授)
 村田理如氏(清水三年坂美術館館長) 飛び入り参加
 小林祐子氏(三井記念美術館学芸員)

山:村田さんのコレクションは、2006年に刊行された「世界を魅了した日本の技と美 幕末・明治の工芸」(淡交社)で知った。その後、銀座1丁目の宝満堂で明治工芸がウィンドウに飾ってあったのを眺めていた際に、店主に「お好きなんですか」と声をかけられたのがきっかけで村田さんとの縁を得た。村田コレクションの展示をいくつかの美術館に提案して、今回の展示が実現した。素晴らしい展示環境があるので、断然ここが良い。

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山:入ってすぐに独立した展示ケースがある。ここでやって良かった。ガラスに頭をぶつける人が続出。

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七宝 並河靖之「花文飾り壷」
山:宮様に仕える仕事をしていたが食えない。尾張七宝をさらに洗練して京七宝を興し、あっという間に凄い技術を身につけた。
村:ロンドンのマルコム・フェアリーで初めて並河の作品を観たが、あまりに高い。でも後に良さが分かってきた。
小:今回の展示から、照明をLEDに替えました。
山:掴みが大切。最高のクオリティを見せて、グッと掴む。

牙彫 山崎南海「自在海老」
山:象牙で作った自在。後の展示室で、実際に動かしている動画あり。展示室1では、いろんなジャンルの最高を、1点ずつじっくり観てもらう。

漆工 赤塚自得「四季草花蒔絵堤箪笥」
山:煌びやかなだけでなく、抑制が効いてる。帝室技芸院制度の存在も大きい。

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薩摩 錦光山「花見図花瓶」
山:1京薩摩。薩摩風の焼物。胴部の絵画的表現に対して、上部の透かし彫りはアール・ヌーヴォースタイルの逆輸入を思わせる。明治終わりから大正の作。

牙彫 石川光明「羊」
山:牙彫を得意とした。木彫で有名な高村光雲は教科書に載り、息子も有名。元々仏師。光明は忘れられてしまった。木彫は彫刻家、牙彫は職人という感じ。

金工 正阿弥勝義「蓮葉に蛙皿」
山:大名お抱え職人だったが、安定した身分を失う。蛙の飛び跳ねる一瞬を捉えている。

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金工 正阿弥勝義「古瓦鳩香炉」
山:古瓦の上に鳩、視線の先に蜘蛛。一瞬を捉える視線は、若冲に通じる。19歳で名門正阿弥家を継ぎ、後年単身京都に出てきた。晩年若冲の絵を見ているのではないか。

漆工 白山松哉「渦文蒔絵香炉」
山:曲面に均質な線を引く技術。器物の方を動かして描いた。

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薩摩 精巧山「雀蝶尽し茶碗」
山:外は雀尽くし、内は蝶尽し。肉眼ではほとんど分からない、本当に超絶技巧。彼についての研究はほとんど進んでいない。

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七宝 濤川惣助「藤図花瓶」
山:無線七宝。ぼかし、にじみの効果。有線と無線が一つの中に混在している。

展示室2
牙彫 安藤緑山「竹の子、梅」
山:衝撃の竹の子。どう見ても本物にしか見えない。スーパーリアルの超絶技巧。よくこんなものを象牙で彫ろうと思うな。後でパセリが出てくるが、輸送が怖い。
村:緑山との出会いは27年前、村田製作所の社員として海外出張した際。
山:緑山は謎の人。生没年すら不明、弟子もとらない。どう染めたのか?X線分析の結果を本展図録に収録。先端じゃないとできない、特筆すべきもの。

展示室3
刺繍絵画 「瀑布図」
村:虫食い、光に弱いので美品が少ない。マルコム・フェアリーから38枚まとめて購入。オックスフォードのアシュモレアン・ミュージアムで展示。
山:光に弱いので、刺繍絵画のみ展示替あり。

展示室4
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牙彫 安藤緑山「竹の子、豌豆、独活」、「玉蜀黍」、「蕪、パセリ」、等
山:ここからジャンル別展示。緑山作品と確認できているのは35点。段を変えて展示して欲しいと要望して、特注ケースを作ってもらった。まとめての展示は世界初では?茶室にも三井記念美術館所蔵の「仏手柑」を展示。パセリ、焼き栗等、よく彫ろうと思いますね。蜂の巣、蕪の髭も含めて、自立するようになっている。(「おー」と歓声)。この展覧会を機に、評価がグッと上がってくると思う。

七宝 粂野締太郎「菊蝶尽し花弁形鉢」
山:単眼鏡で見ないと分からない細密さの極致。

七宝 安藤七宝店(林喜兵衛)「花鳥図対大花瓶」
山:尾張七宝は今でも銀座に安藤七宝店がある。本作は大正天皇の結婚祝いに献上されたもの。皇室から出たものもけっこうある。

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金工 村上盛之「冬瓜大香炉」
山:東照宮作った職人。海野勝珉の兄弟弟子。虫は金ムクでずしりと思い。

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金工 伝海野勝珉「蘭陵王」
山:加納夏雄、海野勝珉、本阿弥勝義の三人が飛びぬけて上手。宮内庁所蔵「蘭陵王」の試作品として伝わったもの。銘が入っていないので、伝がついている。伝とろうか。
小:とりましょうか。

金工 正阿弥勝義「瓢箪に天道虫花瓶」
山:とまったばかりで羽が閉じきっていない。一瞬を捉える目が素晴らしい。

如庵(茶室)
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牙彫 安藤緑山「仏手柑」
山:神々しい。

展示室5
自在 高瀬好山「鯉」
山:蜂は尻尾の針を格納できる。蛇はクネクネ動かせる。鯉はヒレも動かせる。好山は石川県から京都に出てきた。商社のサラリーマンだったが、後に独立して海外に輸出した。

牙彫 石川光明「蓮根に蛙」
山:実の一つ一つが動く。根付研究家によると馬の骨らしい。

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牙彫 旭玉山「葛に蜘蛛の巣図文庫」
山:花は貝?色々な材料を組み合わせて使う。象牙でなくクジラの骨という説も。

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刀装具 海野勝珉「鳳凰花桐文銀装兵庫鎖太刀拵」
山:東照宮の職人。三井家の発注で作られ、完成まで15年かかった。

展示室7
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漆工 柴田是真「青海波塗棗」
山:江戸っ子ならではの粋。シンプルで粋でカッコイイ。黒に対する感覚が独特。

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漆工 白山松哉「日月烏鷺蒔絵額」
山:美の巨人たち(5/31)放送予定

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漆工 白山松哉、守屋松亭、吉川霊華「勿来関蒔絵硯箱」
山:よりデコラティブ。
村:フタ裏の桜蒔絵の素晴らしさ。

薩摩 錦光山「菊唐草文ティーセット」
山:ヨーロッパの需要を考えて作られた、緻密な絵付け。

山:カタログ買って下さい。日本美術史の中でも幕末・明治は書き換えられる可能性の大きな分野。国の代わりに村田さんがやってくれている。
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□感想
 三井記念美術館の重厚な空間+最新照明で観る「明治工芸の粋」は、本当に光り輝いて美しいです。わずか30年ほどで衰退し、忘れ去られた作品群が、現代を機に再発見されていく。まさにその瞬間に立ち会うような楽しさを感じながら、目に焼き付けるようにして観ました。
 技巧系の展示は「スゴイだろう」の力押しに頼りすぎると単調になると思いますが、今回は深く浅く観客の興味を惹きつけるナビゲーションが絶妙で、とても好奇心を刺激されました。その雰囲気が少しでも伝わればと、ギャラリートークの内容をメモ書きしておきます。

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□展覧会概要
「特別展 超絶技巧!明治工芸の粋 ―村田コレクション一挙公開―」

会期:2014年4月19日(土)ー7月13日(日)
会場:三井記念美術館
   東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
http://www.mitsui-museum.jp/

主催:三井記念美術館、朝日新聞社
協力:清水三年坂美術館
監修:山下裕二(明治学院大学教授)
企画協力:広瀬麻美(浅野研究所)

【巡回先】
佐野美術館(静岡県三島市)
2014年10月4日(土)~12月23日(火・祝)

山口県立美術館(山口県山口市)
2015年2月末~4月中旬

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2013年11月20日

●ターナー展「ブロガーイベントwith スペシャルトーク」@東京都美術館

 東京都美術館で開催中の「ターナー展」。その「ブロガーイベントwith スペシャルトーク」に参加しました。

トークショー
 スペシャルゲスト
鈴木芳雄さん (元BRUTUS副編集長 フリーランス編集者、美術ジャーナリスト 愛知県立芸術大学客員教授)
結城昌子さん (アートディレクター、エッセイスト)
・司会 朝日新聞 担当者の方

司:平日4千人、休日6千人、これまでに16万人の方に観ていただいた。

結:若い頃から晩年まで一気に観れる。目のご馳走。良い絵を観ると、目がニコニコする。初めてターナーを観たのはパリ。ものすごい大きなターナー展で満員電車状態の中、一つも見逃すまいと観た。観た後で気分が悪くなって、何でだろうと考えた。空気にも表情がある。動いている。ターナーの空気があまりにも動いていて、ターナー酔いしたと思った。

鈴:初めて観たのはロンドンのテートギャラリー。イギリス人が一番自慢する画家という印象。今回、彼の画業を通して観られるのは貴重。

結:「遊んでアーティスト」という連載でターナーを取り上げたら、一番多くの応募作があって驚いた。

鈴:本展の交通広告を担当させてもらった。作品トリミング自由、文字載せ自由でコピーライター冥利に尽きる。

司:今回はおそらく美術館で初めての「街コン」も開催。若い人にも美術館にきてもらいたい。

自由内覧

 注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影されたものです。

 展示はLBF、1F、2Fの3フロアに渡る全10章から成り、時系列順にターナーの画業を紹介します。
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 I.初期|BEGINNINGS
 「ターナーの自画像」。親の営む理髪店の店頭で数シリングで水彩画を販売されたといったエピソードを交えつつ、初期作品を紹介。

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 II.崇高の追求|IN PURSUIT OF THE SUBLIME
 「グリゾン州の雪崩」(左)。26歳でロイヤル・アカデミー正会員となり、早くも後世のターナーのイメージに連なる、絵になる構図、光の表現が登場。さらにあえてデフォルメすることで、自然の荒々しさ、恐怖感を追求する。

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 「トゥイード川と湖」スケッチブック。絵画だけでなく、ターナーが実際に使用したスケッチブック、絵具(VI章に展示)等を合わせて展示することで、絵画制作の臨場感が伝わります。

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 エスカレーターで1Fに上がると、作品のトーンが一段と華やかに。
 IV.イタリア|ITALY
 「レグルス」(左)。空間を満たし、画面を覆い尽さんばかりの光。危ういバランスを見事に制御して、大気と光の世界が広がる。

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 VI.色彩と雰囲気をめぐる実験|EXPERIMENTS WITH COLOUR AND MOOD
 画家の実験的試みを紹介。「えっ、これも公開するの?」という画家の苦笑いが見えるよう。
 「三つの海景」。前衛的な三つの景の重なり。研究に余念のない画家の視線。

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 2Fに上がると、いよいよ展示はクライマックス。
 X.晩年の作品|THE FINAL YEARS
 大気と光が溶け合い、色彩の鮮やかさ増す画面。
 「平和-水葬」(中)。色彩鮮やかな周辺作と対照的に、黒い船体を中心に据える異色作。当時は酷評に晒されたというアグレッシブさが、現代の目に映えます。

 見応えある大作がズラリと並び、創作の息遣いを感じられる絵の具、スケッチブック。実験的表現といった舞台裏も合わせて公開。ターナーの画業を初期から晩年まで通して通観できる、またとない機会です。

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2013年10月05日

●「横山大観展」夜間特別鑑賞会@横浜美術館

 横浜美術館で開催中の「横山大観展 良き師、良き友」。その夜間特別鑑賞会に参加しました。

 ※夜間特別鑑賞会の為、特別に撮影許可がおりました。

□ミニレクチャー +夜間特別鑑賞会
 講師:横浜美術館主任学芸員 八柳サエ
 大観=「近代日本画の巨匠」イメージだけれども、それは昭和以降の話。
 今回は大正期の大観に焦点を当てる。若い画家たちとの交流はユーモラスですらある。

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 会場入口の写真は41歳頃。いい男説を唱えたい。お孫さんに伺ったところ、「大観より春草がもてたんだよ。」とおっしゃっていた。

第一章 良き師との出会い:大観と天心
 明治期と大正期の大観の比較。あえて春草、寒山をクローズアップせず。

1-1 天心との出会い
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 大観が画家を目指すのは遅い。東大の受験が重願で失格になって東京英語学校に入学。卒業後に東京美術院に入学して天心と出会う。英語が堪能。
 「猿廻」。白背景に聖母子像の構図。お勉強の成果。
 「写生(風呂敷包み)」。図学をやっていたような絵。
 「村童観猿翁」。東京美術学校の卒業制作。教師橋本雅邦とクラスメートを描いた。

1-2 日本美術の理想に向けて
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 「屈原」。師天心とともに野に下る。なかなか貸してもらえない作品。いかに大正期の作品と違うか、よく観て下さい。
 「菜の花歌意」。朦朧体と揶揄される。

 第二章 良き友-紫紅、未醒、芋銭、渓仙:大正期のさらなる挑戦
 4人との比較をどうするか悩んだ。恣意的にカテゴライズした。

 2-1 水墨と色彩
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 「長江の巻」、「雲去来」。ほんわりした量感。
 「秋色」

 2-2 構図の革新とデフォルメ
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 「老子」。鼻がほんわか。色々な試みのあらわれ。
 「潮見坂」今村紫紅「汐見坂」横山大観。紫紅へのオマージュ?

 2―3 主題の新たな探求
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 「瀟湘八景」
 「千ノ與四郎」

 第三章 円熟期に至る
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 「夜桜」(後期展示)。大正期の集大成。「祇園夜桜」冨田渓仙がヒントになっている。

□感想
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 「東海道五十三次絵巻」横山大観・下村寒山・今村紫紅・小杉未醒合作
 個人的に一番面白かったのは、大観と友人が資金稼ぎに作成したという「東海道五十三次」です。酒好きな4人が夜な夜な宴会をしている紀行文が当時の新聞に掲載され、「大観と愉快な仲間たち」の趣きです。添えられたイラストも良い味出しています。当人たちは楽しそう~。その一方で担当編集者はタイヘンだったろうな。

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 画家山口晃さんが本展の主役6人の肖像画を描いているのも、見所の一つです。会場には原画展示の他に、記念撮影コーナーも設けられています。冒頭の若き大観に負けず劣らず髭の似合う山口さんの風貌も、「現代の愉快な仲間たち」を連想させます。作品がなかなか仕上がらずに苦労したという担当者の方のコメントに、時代を超えた共通性を感じます。

 明快な章構成と人物像に焦点を当てる狙いがピタリとあって、若き日の大観と愉快な仲間たちとの日々が浮かび上がります。とても興味深い展示に仕上がっています。

□展覧会概要
岡倉天心生誕150年・没後100年/『國華』創刊125周年記念/朝日新聞創刊135周年記念
「横山大観展 良き師、良き友」

会期:2013(平成25)年10月5日(土)~ 11月24日(日)
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:木曜日
会場:横浜美術館
http://www.yaf.or.jp/

主催:横浜美術館、朝日新聞社、神奈川新聞社、tvk(テレビ神奈川)
後援:横浜市、NHK横浜放送局
協賛:大伸社、あいおいニッセイ同和損害保険
協力:公益財団法人 横山大観記念館、國華社、みなとみらい線、横浜ケーブルビジョン、FMヨコハマ、首都高速道路株式会社
公式サイト:http://www.taikan2013.jp/

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2013年02月13日

●青い日記帳×奇跡のクラーク・コレクション展“特別内覧会”@三菱一号館美術館

 三菱一号館美術館で開催中の「奇跡のクラーク・コレクション」。その関連イベントである「青い日記帳×奇跡のクラーク・コレクション展“ブロガー・特別内覧会”」に参加しました。青い日記帳のTakさん、いつも御世話になっております。

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 まずはお隣の「MARUNOUCHI CAFE 倶楽部21号館」にて、担当学芸員の阿佐美淑子さんから展覧会の解説。

 ボストンから車で4~6時間。あまりに遠くて日本人はほとんど行ったことのない、人口6千人の小さな町、ウィリアムズタウン。そこで個人宅のような雰囲気の中で鑑賞する宝石のようなコレクション。
 美術館の増改築工事を機に、そこからルノワール22点を始めとして、コロー、ミレー、バルビゾン派、ドガ、モネ等の珠玉のコレクション73点が来日する奇跡!これを観るだけでフランス絵画の歴史が学べてしまう!
 作品解説。続々登場する美しい絵画に、持ち時間20分はあっという間に過ぎて、トークが止まりません!

 そして展覧会会場へ。

 注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

 まずは3階から。コローがズラリと並びます。フローリングの上に絨毯を敷くことで靴音を消音し、鑑賞に集中できます。
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 そして「光の絵画」たちが続々登場。
 ピエール・オーギュスト・ルノワール「シャトゥーの橋」、「日没」。光に溶け込むような色合い、表現がとても美しい。とろけ具合がモネみたい。
 クロード・モネ「エトルタの断崖」。色彩豊かかつ硬質にクッキリと描かれた風景がとても美しい。確かな存在感がモネっぽくない。
 ギュスターヴ・カイユボット「アルジャントゥイユのセーヌ川」。三角構図でナミナミと水を湛えるセーヌ川の青が美しい。
 美しい色彩としっかりとした描線の作品が並び、コレクターの好みが強く反映されたコレクションであることが伺えます。
 その奥はルノワール部屋。
 「劇場の桟敷席(音楽会にて)」。右上に塗りこまれたと言う男性像を求めて、しゃがみこんで観る人続出。確かに男性の頭部と両手らしい輪郭が見えます。
 「タマネギ」。タマネギまでもが劇的なルノワールタッチで描かれます。
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 展示室を出ると、廊下の外にはブリックスクエアの夜景が広がります。
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 2階に下りて、ピサロとシスレーの部屋。なぜかこの先数室だけ、床がフローリングのまま。
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 壁の色は青、そして赤へ。
 アルフレッド・ステヴァンスの「公爵夫人(青いドレス)」。赤い壁に青いドレス、さらに暖炉の上という配置に青が映えます。
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 最後に再び「光の絵画」。
 ピエール=オーギュスト・ルノワール「鳥と少女(アルジェリアの民族衣装をつけたフルーリー嬢)」。非常に愛らしい少女の仕草と、色彩豊かな衣装と背景。とても美しい。
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 コレクター夫妻が自分たちの眼を信じて集めたコレクション。美しい色彩と明確な輪郭が印象に残る。空いてる時に絵と対話するように観ることをお薦めします。

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2012年11月08日

●美術にぶるっ!@東京国立近代美術館 夜間特別観覧会

 東京国立近代美術館で開催中の「日本美術にぶるっ!」。その夜間特別観覧会に参加しました。

※注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

ミニレクチャー/講師:鈴木勝雄主任研究員
・4F~1F全てを使って500点以上を展示。
・賛否両論
・「ぶるっ」と震えたことありますか?作品を観たときの「オッ!」という感じ、小さな違和感
・ギャラリーリニューアル
 ハイライトコーナー/眺めのよい部屋/スツール/小区切りの空間
・第I部 MOMAT コレクションスペシャル
 重文13点。
・第II部 実験場 1950s
 東近美が誕生した1952年を再現展示しつつ、2012年の日本に伝えたい。メッセージの込められた大きな企画展。
 「戦争の世紀に」→実験場1950s→「疑うことと信じること」。ジャンル横断的な場。

特別観覧会
 エレベーターで4Fに上がって、展覧会場へ。

第 I 部 MOMAT コレクションスペシャル
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 エレベーターで4Fに上がって、左に折れると、「ハイライトコーナー」。黒に近い濃紺の空間に、白い展示ケースが浮かび上がります。一番手前に狩野芳崖「仁王捉鬼図」のギョロリと愛嬌のある目。突き当りには原田直次郎「騎龍観音」のつぶらな瞳。見た目はステキですが、照明が反射して意外と観難いのが玉に瑕。

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 ハイライトコーナーの裏手に「眺めのいい部屋」。皇居は闇に沈み、オフィスビルの夜景が広がる。ドラマのワンシーンのよう。日中にノンビリと過ごしたい。

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 ハイライトコーナーの反対側に続く展示室。展示室を小分けにしたことで、1室ごとのテーマ性が明確に。高村光太郎「手」岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」など、教科書で見た名品がザックザック登場。

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 3Fに降りて、左手に広がる「日本画コーナー」。本展のキービジュアルになっている上村松園「母子」、個人的に一番ぶるっとくる福田平八郎「雨」等がズラリと並ぶ壁面の横を潜ると、円弧状に展示空間が広がります。中央の柱を囲むように散りばめられたスツールが、良い感じに空間の緊張感を和らげます。当初の構想にあった畳コーナーも体験してみたかった。今回のリニューアルで一番好きな空間です。

 2Fで第I部は終了で、続けて1Fに降りて第II部へ。

第II部 実験場1950s
 展示室入って正面の液晶スクリーンに映し出される朝日ニュース第363号「原爆犠牲第一号」。原爆の瓦礫の焼け野原の映像に、鑑賞気分が吹っ飛ぶ。先日出張で東北に行った際に見た、建物二階外壁に残る津波の跡が思い起こされて、言葉を失って見入る。
 亀井文夫「流血の記録 砂川」。測量を阻止せんとする農民たちと警官隊との衝突。警官隊の登場後も、フィルムは意外と朗らかに粘り強く続く。思わず長居。
 東山魁夷「道」。重く苦しいトーンの展示が続く中で、一服の清涼剤のよう。
 東近美が誕生した1952年を再現展示しつつ、2012年の現代へのメッセージを投げかける。その世相は暗く、混迷の中で、多様な表現が模索されたように見えます。構成はかなり刺激的。一見平和で繁栄を享受する現代もまた、頻発する地震や未曾有の津波と原発事故、領土問題等が影を落とします。1950年代から60年代へと続く道筋を辿ることは、これからの時代を考える上で重なる部分があると感じました。

 第I部、第II部ともに非常に見応えのある展示です。ただし、内容の連続性は希薄です。またそれぞれに非常にボリュームがあります。できれば、2回に分けて鑑賞することをお薦めします。

展覧会概要
東京国立近代美術館 60周年記念特別展
美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年
Art Will Thrill You! : The Essence of Modern Japanese Art
会場:東京国立近代美術館
会期:2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月)
開館時間:10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
※入館はそれぞれ閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(ただし12月24日と1月14日は開館)と、年末年始(12月28日~1月1日)。

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2012年08月22日

●青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』

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 青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』に参加しました。

 ※注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□座談会メモ
 山下裕二氏:美術史家(明治学院大学教授)
 籾山昌夫氏:レーピン研究家、美術史家(神奈川県立近代美術館 主任学芸員)
 ナビゲーター Tak氏:(「青い日記帳」主宰)

T:日本画の専門家がなぜロシア絵画の座談会に?
山:「忘れえぬロシア」展の女性像がたまらんかった。高ビーな視線にマゾッ気をくすぐられる。いくつかレーピンの作品もきてた。
 ザ・ミュージアムの一つ後の展覧会「白隠」展の企画をしているので、断れないと思った。

T:ロシア絵画の専門家は日本に何人くらい?
籾:十指に満たないくらい。ロシア絵画もカンディンスキー等は別にして、19世紀以前は国内に全然ない。レーピンは確実なのは横浜美術館に1点。あとは大倉男爵が所蔵していたとか、関西の企業が所蔵していたとか、画家辻永が所蔵していたらしいとか。
T:ずっとロシア絵画の研究を?
籾:卒論も修論もレーピン。
山:日本でのレーピン展は?
籾:1975or76年に月光荘画廊が日本橋三越で開催。30点ほど。1990年代に小樽でロシア美術館展。2007年に東京都美術館で「国立ロシア美術館展 ロシア絵画の神髄」。そのあと今回の展示。

籾:ロシアで一番ネームバリューのある画家。例えるなら大観、雪舟。

山:レーピンは1844年(天保15年)生まれの1930年(昭和5年)没。日本の画家で近い人というと富岡鉄斎(1837-1924)。高橋由一はだいぶ年上、河鍋暁斎はやや近い。横山大観はかなり年下。

山:同時代のトルストイ、ムソルグスキー等、文学、音楽は世界的に有名なのに、どうして美術のだけ知名度が低いのか?
籾:文学、音楽は複製できる。レーピンは上流階級に大もてだったため、作品が海外に出なかった。
山:写真による複製は?
籾:そこは少々複雑。米ソの対立が絡み、戦後のプロパガンダに利用されたこともある。
山:戦勝国の作った絵画の歴史にレーピンは埋没した面もある。

山:見れば分かるけれども、レーピンはめちゃくちゃ上手い。初めから上手いタイプ。現代だと山口晃は元々上手いタイプ。会田誠はそれほどでもない。近代だと鏑木清方はもともと上手い、上村松園は努力型。その一方で構成画には手間ひまかけてる。

 3氏による見所解説
 「皇女ソフィヤ」。おけるピョートル大帝への反乱、吊るされた処刑者、怒りの表情。
 「休息-妻ヴェーラ・レーピナの肖像」。奥さん若い。レーピンの弟と奥さんのお姉さんが結婚。腕に喪章を巻いているように見えることから、込められた意味があるかも。X線調査によると始めは目が開いていた。
 「思いがけなく」。思いがけず帰ってきた男。レーピン自身は図像解釈については語っていない。別バージョンには女性革命家が描かれているものもある。レーピンは皇帝も革命も描く。今回はモスクワのトレチャコフ美術館蔵品なので家族や庶民画が多いが、皇帝の街:サンクト・ペテルブルクには貴族・皇族の絵も多い。移動派美術展は皇帝も観るし、様々なテーマを許容することは皇帝の寛容さの宣伝にもなった。
 「作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像」。不遇の音楽家。支持者スターソフに捧げた「展覧会の絵」を聴きながら、展覧会で作曲者の絵を観るまたとない機会。

 好きな絵
山:「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」。高飛車目線。二の腕の厚塗り。「ワルワーラ・イスクル・フォン・ヒルデンバンド男爵夫人の肖像」。同じく高飛車。百済観音。「キャベツ」「自画像」。すごい薄塗り。キャンパスの目が見える。
T:「思いがけなく」
籾:「少女アダ」。白く残したハイライト。可愛い。「農家の中庭」。崩れたところから小鳥が飛び立っている。


□展覧会感想
 「高貴な白」と「落ち着いた赤」で構成された空間が、Bunkamura ザ・ミュージアムらしい優雅で美しい時間を作り出します。構成は以下の5章。

 1:美術アカデミーと「ヴォルガの船曳き」
 2:パリ留学:西欧絵画との出会い
 3:故郷チュグーエフとモスクワ
 4:「移動派」の旗手として:サンクト・ペテルブルク
 5:次世代の導き手として:美術アカデミーのレーピン

 見所はやはり「皇女ソフィヤ」「休息-妻ヴェーラ・レーピナの肖像」が相次いで登場する会場中盤でしょうか。その合間に挿入される小品、素描もどれもが超絶上手くて目を惹きます。その一方で、創作の背景となるロシアの文化、歴史については解説文を読んでもピンと来ないので、没入感は今一つ。優雅な空間を楽しみながら観るのが良いかと思いました。


□展覧会概要
 「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」
会期:2012年8月4日(土)~10月8日(月・祝) 開催期間中無休
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷・東急本店横) 
http://www.bunkamura.co.jp/
主催:Bunkamura
後援:ロシア連邦外務省、ロシア連邦文化省、在日ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁、ロシア文化フェスティバル組織委員会
協力:日本航空
企画協力:アートインプレッション

巡回先:
浜松市美術館 2012年10月16日(火)~12月24日(月・祝)
姫路市立美術館 2013年2月16日(土)~3月30日(土)
神奈川県立近代美術館 葉山 2013年4月6日(土)~5月26日(日)

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2012年04月20日

●セザンヌ -パリとプロヴァンス@国立新美術館

 「セザンヌ -パリとプロヴァンス」を観ました。「大回顧展モネ」で華々しく開館した国立新美術館の開館5周年展です。セザンヌといえば2008年に横浜美術館で「セザンヌ主義」が開催されていますが、内容は画家が後世に与えた影響の展覧会でした。今回は「100%セザンヌ」です。パリとプロヴァンスを軸に、セザンヌの創作の軌跡を辿ります。

 I 初期
 「四季」。「えっ、これがセザンヌ?」。古典的な装飾画と、若き日のセザンヌがこの絵をきっかけにパリでの美術学習を許されたというエピソードとの対比に、セザンヌも始めからセザンヌじゃなかったんだなあと納得。

 II 風景
 「首吊りの家」。前景の道路がV字形に沈み込み、遠景に山の水平線が広がる大胆な構図、細かく色面に再構築される画面。画面に漲る明るさが、印象派の影響を思わせます。
 「サンタンリ村から見たマルセイユ湾」。寒色系で再構成される海と空、その間に大きく食い込む土と緑。
 「マルヌの川岸」。水平に伸びる道と川、垂直に伸びる木、幾何学的な建物群。色面で再構築された画面の見事な統一感。
 「サント=ヴィクトワール山」。空間を意識して置かれた色面が、景色を再構築し、結晶のような美しさに至る。
 ただ、壁の緑色があまりに濃くて、目が疲れます。

 III 身体
 「3人の水浴の女たち」。単体で観るとあまりにドッシリとした女性のプロポーション。全体で観ると、色彩とタッチと構図の調和がとても美しい。

 IV 肖像
 「同じ姿勢をとり続ける」ことにモデルの価値を見い出すセザンヌ。モデルも大変そう。
 「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」。そんなセザンヌを見い出す敏腕画商の肖像画。サイズも一際大きく、100回以上もポーズを変えさせられたというエピソードもさすが。

 V 静物
 「りんごとオレンジ」。大判のカンヴァスに緻密に仕上げられたりんごとオレンジの見事な質感、背景のプリント生地の山のような形態、前景の白布の鋭角的な折れ曲がりとダイナミックなボリューム。吸い寄せられるように見入ってしまう大作。他の作品が本作のための布石に見えるほどに、飛び抜けた存在感を放つ。
 「青い花瓶」。背景の青と花瓶の青。縦に切られた瓶や斜めに横切る水平線が、眼を惹き付けて離さない。

 VI 晩年
  「5人の水浴の男たち」。こちらはスラリとした頭身を持つ、肉付きの良い5人の男たち。色面の溶け込むように解体気味の背景。ボリュームの捉え方が柔らかくなったような印象を受けます。
 「レ・ローヴのアトリエ」。アトリエを特徴付ける側面二方向からの自然光を体験したかったです。

 「100%セザンヌ」は看板に偽りなしですが、絵は小ぶりな物が多く、大回顧展というよりも「セザンヌの絵の変遷を辿る秀作展」の趣きです。正面から見ると反射で作品がとても見難い照明セッティングと、目を疲れさせる濃い緑の壁色選択という会場構成に疑問を感じました。

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2012年03月31日

●あなたに見せたい絵があります。@ブリヂストン美術館

 本日からブリヂストン美術館で開催される「あなたに見せたい絵があります。-ブリヂストン美術館開館60周年記念」ブロガー特別内覧会に参加しました。

□前説
 講堂にて島田館長の挨拶。
 続いて貝塚学芸員からスライドで見所を解説。
・ブリヂストン美術館が収蔵する西洋画、石橋美術館が収蔵する日本画から選び抜いた109作品が一堂に会する記念展。
・部屋ごとにテーマを設け、東西の名画を並列に展示。普段と異なる文脈から観る。
・6年ぶりに雪舟「四季山水図」も登場。
・11の展覧会が集まったような構成。
・各章の見所を、スライドで東西絵画を並置しながら説明。

 コレクション展なので観たことがある絵も多いのですが、普段と異なる位置関係で観ることで、改めて絵そのものの魅力を感じることが出来ると思いました。

 ※展覧会場内の写真は、内覧会の際に主催者の許可を得て撮影したものです。

□内覧会
 章順に簡単に感想を記していきます。

 1章 自画像
 赤色壁にセザンヌ、マネ、レンブラントが並びます。威厳タップリ、自信たっぷり。

 2章 肖像画
 薄黄色壁に岸田劉生「麗子像」の赤、ピエール・オーギュスト・ルノワール「少女」「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の青の対比が綺麗。特にシャルパンティエ嬢は、濃青色アクセントでさらに青を強調。
 麗子像の濃密に見えるタッチは、近づいて見るととても薄塗り。印刷物を参考にタッチを真似たから?
 藤田嗣治「横たわる女と猫」。本当に見事な細線の描写と乳白色の色面。
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 3章 ヌード

 4章 モデル
 カミーユ・コロー「森の中の若い女」。アトリエでプロのモデルにイタリア農婦の衣装を着せて描いたというエピソードに、ウーンさすがと妙に納得。

 5章 レジャー
 ウジェーヌ・ブーダン「トレーヴィル近郊の浜」。大きく広がる空、着飾った行楽客で賑わう浜辺。富裕層のリゾート風景。画面外には荷物運びやら医者といったスタッフ陣が待機しているのだろうか。
 パブロ・ピカソ「腕を組んですわるサルタンバンク」。いつもは壁一面を占有する看板作が、今回はレジャー・カテゴリーで登場。レジャーの舞台裏から観る視点がちょっと力技。
 この部屋は西洋画のみ。花見系の風俗図があると良かったのに。

 6章 物語
 ジョルジュ・ルオー「郊外のキリスト」。素朴で陰影に富んだ深みのある世界。
 青木繁「わだつみのいろこの宮」。古事記に材を取り、大胆な縦長三角構図と西洋画のような人物描写。意欲と混迷が入り混じった独特な世界。

 新収蔵作品
 ギュスターブ・カイユボット「ピアノを弾く若い男」。第二回印象派展に出品された作品。一見精緻に書き込まれているようで、近づくとかなりラフなタッチ。朱色壁+濃赤のアクセントカラーで、黒い画面が映えます。美術館コレクションの厚みをさらに増す名品。
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 7章 山
 東西名品が対峙する、本展の白眉。
 黄色の長手壁中央に、ギュスターブ・クールベ「雪の中を駆ける鹿」。凍てつく雪山を駆ける野鹿。画面に漲る緊張感が、会場を引き締めます。
 右手に目を移すと、ポール・セザンヌ「サント・ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」。硬質な空と山の独特のタッチ、黄色いシャトーの直線的なボリュームが映えます。
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 左手に目を移すと、壁地を青に変えて、雪舟「四季山水図」!保護パネルに反射光が映り込んで、作品が少々見辛いことが惜しい。
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 8章 川
 クロード・モネ「睡蓮の池」。爽やかな水色の壁を背に、大胆な水面のトリミング。映り込む空と木々と、浮かぶ睡蓮の対比。そして美しい色彩。色彩の魔術師の面目躍如。
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 9章 海
 パウル・クレー「島」。一見温かみのある空想画。それは海上に浮かぶ島と朝日(夕日?)が、画家の目を通して再構成された世界。近づくと、点と線になり、さらに近づくとザラついた面へと変容します。そのイメージの変化が、画家の手遣いに触れるようで興味深いです。実物を鑑賞する醍醐味。

 10章 静物

 11章 現代美術
 ジャン・フォートリエ「旋回する線」。撫で付けるように厚く盛られた絵具面、削り取るような彫り込み。チョコレートケーキを作るパティシエのよう。

 □感想
 今回10章、11章の展示スペースとなっている第2室は、6年前の「雪舟からポロックまで」展では日本画が展示されました。部屋に入ると円山応挙「牡丹孔雀図」が出迎え、奥には鈴木其一「富士筑波山図」が横たわり、そして最後に雪舟「四季山水図」が並びました。そのときの感動は、今でも深く覚えています。
 今回と前回の違いは、時空間軸の代わりにテーマ軸に沿った構成としていることと、展示空間に色彩計画を導入することで構成を明確かつ華やかにショーアップしていることでしょう。間口を広くして、多くの人に観てもらいたいという思いが伝わってきます。
 その一方で、観ることは最終的には観る者と作品との一対一の対話だと思います。今回の展覧会が前回同様、記憶に残るものになるかどうか。近いうちに再訪したいと思います。

 このような機会を設けて下さった美術館及び関係者の方々、「弐代目・青い日記帳」管理人Takさんに深く感謝いたします。

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2012年01月10日

●ザ・ペスト・オブ山種コレクション(後期)@山種美術館

 山種美術館で開催中の「ザ・ベスト・オブ山種コレクション」(後期)を観ました。今回はいつも御世話になっている「弐代目・青い日記帳」のTakさん企画による、山﨑館長ギャラリートークに参加しました。

 ギャラリートーク
 奥村土牛「醍醐」。ピンク色は、今では使われなくなった綿臙脂というカイガラムシをすり潰した絵具を使っている。御舟作品にも使われている。
 東山魁夷「満ち来る潮」。山種コレクション最大の作品。この作品が収まるように展示室の幅が決められている。フットライトで照らすのは魁夷の指示。岩の黒は絵具を焼いて使う。
 福田平八郎「牡丹」。裏面に金箔を貼り、裏彩色も施している。
 上村松篁「白孔雀」。庭に多くの鳥を飼っていて、動物園以上に種類が豊富。胡粉は薄く何度も塗り重ねて定着させる。
  平山郁夫「バビロン王城」。途中で色が変わってはいけないので、高価な青を一度に大量に購入する。薄く何度も塗り重ねるので剥落しない。
 速水御舟「炎舞」。種二は画家との付き合いを大切にしたが、御舟は早逝したため会う機会がなかった。もう一度描けといわれても描けない作品。背景の黒は良く観ると紫だけれども、印刷では出せない。裏彩色かと思うほどの薄塗り。炎は仏画の炎をモチーフにしている。御舟は様々な角度から蛾をスケッチしたが、この絵では全て正面構図。
 日本画の素材、塗りといった専門知識、祖父山﨑種二氏と画家との交流エピソードといった人との交流を交えることで、絵画が構成、線、色彩という視覚情報から抜け出てきて、とても立体的に見えてきます。

 ギャラリートークの後に、改めて館内を回ります。
 第1展示室を右に曲がると、まず洋画、そのあとに近現代日本画が登場します。右手に速水御舟「翠苔緑芝」、左手に奥村土牛「城」「醍醐」と色彩美に優れた作品が並びます。その奥に東山魁夷「満ち来る潮」の荒々しい海が展示室幅いっぱいに広がります。さらに左に曲がると川端龍子「鳴門」の豪快な青、振り返ると奥村土牛「鳴門」の緑地に渦巻く潮。見事な潮の競演は圧巻です。
 折り返して進むと、右手に福田平八郎「芙蓉」、「筍」の保守的な美しさと前衛的なデザインセンスの競演。さらに進むと東山魁夷「年暮る」、「秋彩」と淡いブルートーンの雪景と青赤黄の晴れやかなコントラストの対比が目を楽しませます。そして加山又造「満月光」の繊細な前景と雄大な後景が同居する大画面。
 第二展示室へ。速水御舟「紅梅・白梅」。老いた紅梅と若々しい白梅の見事な描き分け。速水御舟「炎舞」。平面的な仏画の炎、正面構図の蛾の群、薄塗りの発色の妙。明確な素材と対照的に、ボンヤリと光ながら渦を巻いて上昇する火炎。

 作品数44点+下絵4点と作品数を絞り込むことで、山種美術館本来の空間の豊かさが引き出され、近代日本画の名品をゆったりと鑑賞できるのが何より良かったです。

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2011年02月12日

●「日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館で開催中の「「日本画」の前衛 1938-1949」を観ました。

 I. 「日本画」前衛の登場
 山崎隆「象」。大胆な形態と色彩のコンポジション。
 山岡良文「シュパンヌンク・袋戸棚小襖」。前衛美術を自らの生活空間に用いた、興味深い作品。写真、CG、模型等で、山岡邸の様子をもう少し見たかった。

 II. 前衛集団「歴程美術協会」の軌跡
 船田玉樹「花の夕」。大画面に広がる写実的な樹形と荒々しいピンクのドット。まるで西洋から輸入したバウハウス的感覚と、日本で培われた琳派的感覚の融合のように見えて、ドキドキした。
 丸木位里「馬(部分)」。素材、描法といった根底から前衛にアプローチする。ものすごい説得力と地力を感じた。

 III. 「洋画」との交錯、「日本画と洋画」のはざまに
 靉光「ライオン」。靉光展以来、久しぶりに観る「あの眼」。独特の造型感覚が、本展の中でも異様な存在感を放つ。

 IV. 戦禍の記憶
 山崎隆「歴史」。ダイナミックで荒々しい自然と、直線的で無機的な人工物の対峙。ひるがえる旗の意図がよく分からなかったけれども、自由と対極にあるということなのだろう。

 V. 戦後の再生、「パンリアル」結成への道
 山崎隆「神仙」。前章に登場した同名作との相違から、時代の変化がうかがえる。強烈な赤い色彩と、エネルギーの奔流のような自然。

 バウハウスの輸入から始まり、琳派の影響が見え隠れしつつ、様々な試み、時代の変遷を紹介して戦後の新たな出発で〆。新たな異形世界への旅立ちは迫力がありますが、そこで物語が閉じている感もあります。個人的には、その因子が感じられる現代アート作品を最後に並べて、現代への継承を見たかったです。

 本展は1999年に京都国立近代美術館で開催された「日本の前衛 Art into Life  1900-1940」の続編だそうです。展覧会の構成力で定評のある京近美らしく、本展も非常に資料的価値が高くかつ、興味を喚起する内容でした。記憶に残る展覧会として、必見だと思います。

 東京展は2月13日で終了しますが、その後、広島県立美術館(2/22~3/27)へと巡回します。

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2010年04月20日

●小川芋銭と珊瑚会の画家たち(前期)@愛知県美術館

 愛知県美術館で開催中の「小川芋銭と珊瑚会の画家たち」(前期)を観ました。会期は4/9-5/23ですが、愛知県美術館がtwitter上で「小川芋銭展、4/25までが前期、4/27からが後期で、20点強が展示替えとなります。」とつぶやいているのを見て、急いで出かけました。

 章立ては【彰技堂】【漫画と挿絵】【珊瑚会】【水魅山妖】【自然と田園】【俳句と俳画】の全六章。愛知県美術館の木村定三コレクションと茨城県立美術館のコレクションを組み合わせて、小川芋銭と彼を取り巻く画家たちの作品を紹介します。前半は芋銭を取り巻く画家たちの紹介、後半は芋銭の幻想画がメイン。必ずしも章立てに沿って作品が並ぶわけではないので、一周目は予習のつもりでぐるりと周り、二周目は気になる作品をじっくりと観ました。

 【彰技堂】。芋銭が絵画を習った画塾。ここで芋銭は西洋画の素養を養いました。設立者「国沢新九郎」、後継者であり芋銭の指導も行った「本田綿吉郎」等の作品を紹介。

 【珊瑚会】。平福百穂を中心に、池田栄治、小川芋銭、小川千甕、川端龍子、鶴田吾郎、名取春仙、山村耕花の八名によって結成された日本画制作を中心とした小団体。また芋銭の友人である小杉未醒(放庵)も紹介。川端龍子は一点のみながら、土と麦(?)の茎を描いた生気溢れる画面に惹きつけられる。また小杉未醒のほのぼのかつ品のある線描も魅力的。河童に扮した芋銭が未醒に河童講釈する絵もユーモアがあって楽しい。

 【水魅山妖】。芋銭の代名詞、幻想妖怪画の代表作がズラリと並びます。
 「若葉に蒸さるる木精」。本展のメインビジュアル、頬杖をつく河童、人面鳥(?)、天狗などなど魑魅魍魎が淡い色調の画面を跋扈する。
 「水虎と其眷属」。水の渦から現れる長髪の河童、その周りで戯れる眷属たち。表情豊かな描写に、現代に通じるユーモアのセンスを感じる。
 「山彦の谷」。点々で描かれる林の奥深く、両手を挙げて仁王立ちする山の精、木に腰掛ける山の精。そのカエルのような頭部、三つ指の手に異世界を感じつつも妙に存在感がある印象に残る絵。

 カッパや妖怪たちを「人間と自然の媒体者」と捉える視点が、牛久沼のほとりで農業を営みながら絵を描いた芋銭の世界に奥行きと説得力を与えます。同時に淡々とガラスケースの中に作品を並べる展示構成は、やや単調に思えます。また作品リストがないのも残念。芋銭の魅力を現代において再発見する絶好の機会なので、見せ方にもう一工夫あればと感じました。

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2009年07月26日

●コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選―@東京藝術大学美術館

 東京藝術大学美術館で開催中の「コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選―」を観ました。こちらこちらで絶賛エントリーを読んで、楽しみにしていた展示です。

 「岩石」狩野芳崖。技の極みを追求するような岩と木のみの描写。右隣に並ぶ「悲母観音」の作り込まれた画面との対比で、異質感が映えます。掴みはバッチリ。

 「白雲紅樹」橋本雅邦。奥深い岩山に流れる水、紅樹、青樹の彩り。左隣の絶作「悲母観音」の仕上を託された雅邦の大作。この並び方が上手い。

 「伊香保の沼」松岡永丘。沼に足を浸し髪を振り乱して、悲しみの表情を浮かべる女性。情感豊かな描写に引き込まれる。

 「序の舞」上村松園。揺るぎない線描と、扇をくるりと返した刹那の美。帯の色彩も素晴らしい。松園の美学と、瞬間の緊張感が両立する名作。

 「一葉」鏑木清方。精緻に描きこまれた、淡く美しい画面。

 冒頭からここまで、名作が一気呵成に並ぶ様は圧巻。何度も往復しました。そして振り返ると。。。

 「群仙図屏風」曾我蕭白。妖しく微笑む西王母、怪鳥と化した鳳凰。背景の梅(?)といい、あきれるほど上手い。

 名作群と蕭白の間に「絵因果経」(国宝!)、「繍仏裂」を挟む展示は、至福の空間。時が経つのを忘れます。

 「百鬼夜行絵巻」。ユーモア溢れるタッチで描かれる、怪物たちの宴。

 「華炎」津田政廣。蓮の花に頭を寄せる天女。その形と赤い色彩が炎のようで見蕩れる。

 「金錯狩猟文銅筒」。細かな金細工が照明に浮かび上がる。古典と近代のコラボレーションにメロメロ。

 会場を移して西洋画コレクション。
 「靴屋の親爺」原田直次郎。先日見た「騎龍観音」が記憶に新しい画家の留学時代の作品。確かな画力と、背景にある試行の時代を思う。

 「黄泉比良坂」青木繁。頭を抱えて逃げるイザナギと、地の底へひきずりこまんと手を伸ばすイザナギ。緑のパステル地に塗り込められた女性群像が、神秘と怪奇の世界に誘う。

 「ティヴォリ、ヴィラ・デステの池」藤島武二。この絵も見覚えあり。近美で観たのか?両館コレクションが呼応するようで面白い。

 素晴らしい密度と美しさに圧倒されました。冒頭の展示は必見です!

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2009年07月19日

●所蔵作品展「近代日本の美術」@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館で開催中の所蔵名品展「近代日本の美術」を観ました。前期(6/13-8/9)と後期(8/11-9/23)で大幅に日本画を入れ替えるそうです。

 個人的にツボだったのは4階。
 原田直次郎「騎龍観音」。つぶらな瞳の龍に乗った白衣観音。日本に洋画手法を馴染ませる試みとして生まれた、空想画のような仏画(?)が魅力的。
 小林古径「加賀鳶」。炎上する江戸市街と、火消しに向かう加賀鳶たち。渦を巻く炎、線描の美しい建物、シルエットで捉えた人物群像。若き日の古径らしい精緻な描写。
 川合玉堂「小松内府図」。古径に続いて、玉堂の精緻な歴史画。主人公である平重盛の紺の上衣とその下に透けるオレンジ色び描写。鎧武者たちの細密な鎧描写。素晴らしい臨場感。
 菱田春草「四季山水」。長い巻物を全巻開いて見せているところが嬉しい。

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●ゴーギャン展@東京国立近代美術館

 7月に入ったと思っていたら、あっという間に三連休入り。どこへ行っても親子連れで混んでそうな雰囲気の中、東京国立近代美術館で開催中の「ゴーギャン展」へ出かけました。

 入口前に行列用の白テントを張り、東京駅への無料シャトルバスを運行し、金土は20:00までの夜間開館を実施。これから伸びるであろう人出に対して、万全の備え。プロモーションにも力を入れていて、「この夏一番の話題展」の自覚十分。幸い入場待ちの行列はなく、スムーズに入館。

 第1章 野性の開放
 「馬の頭部のある静物」。ブリヂストン美術館のお馴染みの名画。(当時から見た)過去と現在が併置される画面。
 「アルルカンの並木路、アルル」。損保ジャパン東郷青児美術館のお馴染みの名画。流れる滝のような落ち葉が印象的。
 「洗濯する女たち、アルル」。斜め構図に面的な色彩。
 「海辺に立つブルターニュの少女たち」。早くも登場するタヒチ風な顔立ちと足のボリューム。
 「二人のブルターニュ女のいる風景」。色に還元される背景、のたうつ異形の樹。野性的なファンタジー。
 「純潔の喪失」。横たわる少女と意味ありげによりそう狐。背景のピンク色が生肉のようでグロテスク。とても後味の悪いクライマックス。

 第2章 タヒチへ
 「タヒチの風景」。面的な色彩に空が加わって、動きを感じさせる画面。
 「小屋の前の犬、タヒチ」。強烈な存在感のあるオレンジ色の屋根。
 「パレットを持つ自画像」。画面を通して伝わる、強烈な自意識。
 「エ・ハレ・オエ・イ・ヒア(どこへ行くの?)」。豊穣な身体と色彩、不自然な角度に曲がる腕と犬。画面と張り付くように放散される、強烈な自意識。

 第3章 漂白のさだめ
 「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。液晶モニター二台で見所解説をした上で、最大の話題作の登場。さらに本作から派生する作品と晩年の作品。

 作品数は絵画29点+版画24点。「我々は・・・」を最大の焦点とする、ゴーギャンの絵の変遷を辿る企画展です。「我々は・・・」に没入できるかどうかで、展覧会の印象は大きく異なります。

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2009年06月28日

●MOTで見る夢@東京都現代美術館

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 東京都現代美術館で開催された「MOTコレクション−MOTで見る夢/MOT.Field of Dreams」展を観ました。評判を聞いて、最終日に駆け込みました。展示は1階と3階の二層に渡ります。

 1階
 ヤノベケンジ「ジャイアント・トらやん」。巨大なボリュームと、鉄を貼り合せた様なボディに光る眼がいい感じです。パフォーマンスが全くなかったのが残念。

 3階
 内海聖史「三千世界」。3階展示室に入ると、オシャレなモザイクタイル貼りの壁が二面登場します。「おーかっこいい!」と思ったら、内海さんの「三千世界」でした。天井の高い展示室と赤味かかった照明に映えます。
 小林孝亘「Dream, dreaming us」。涅槃のような、ただの昼寝のような。心地いい時間が流れている風景。前もこの位置(ずいぶんと高い位置)に展示していましたが、何か理由があるのでしょうか。
 奈良美智「White Night」。つぶらな瞳で見つめる女の子。可愛い。この絵と向かい合って、加藤美佳「カナリア」。こちらもつぶらな瞳で見つめます。大きな瞳に挟まれて、何か照れくさい。両者の間に名和晃平「PixCell-Deer #17」。キラキラ輝くアクリルビーズが綺麗。

 三者が作り出す空間は、オシャレでとても魅力的です。改装MOTは上々の滑り出しだと思いました。

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2009年06月16日

●上村松園/美人画の粋@山種美術館

 山種美術館で開催中の「没後60年記念 上村松園/美人画の粋」を観ました。

 始めに上村松園「つれづれ」。口元に手を当てる仕草が奥ゆかしい美人。しばらく他の作家による舞妓が続き、ハッと目が止まります。上村松園「砧」。ボリュームのある上半身に、円を描くように組まれた両手。スラリとした美人画とは明らかに異なるプロポーション。解説に仏様を意識したとあり、さもありなん。

 部屋を移ると上村松園「牡丹雪」。傘を境にして真っ白な雪の上面と、動きを感じさせる人物描写が冴える下面のコントラストが美しい。整った美人に囲まれて、小倉遊亀「舞う」の少女っぽいプロポーションと生気溢れる表情が引き立つ。伊藤深水「吉野太夫」の美男子っぷりに見蕩れていたら、女性と知ってビックリ。宝塚みたいなモノ?上村松園「桜可里」の解説に「交野の桜」とあり、小中高と12年間住んだ故郷の登場にビックリ。でも桜の名所って記憶にない。部屋中央の展示ケースには浮世絵が並ぶ。鳥居清長の頭身の高い美人を見て、「江戸のヴィーナス」というのは上手いネーミングだと改めて思う。

 さらに奥へ。上村松園「蛍」。完成された美人が多い中で、溌剌とした若さが引き立ちます。本展のマイベスト。

 全59作品のうち松園作品は1/3弱。しかし要所要所で目に止まるのはやはり松園。千鳥ヶ淵の最後の展覧会に相応しい、華やかで美しい展示です。

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2009年06月13日

●日本の美術館名品展(後期)@東京都美術館

 東京都美術館で開催中の「日本の美術館名品展」(後期)を観ました。前期との入替作も多く、新鮮な気持ちで楽しめます(前期の感想はこちら

 1 西洋絵画、彫刻
 ウンベルト・ボッチョーニ「カフェの男の習作」。前回は見逃していましたが、未来派のボッチョーニと気付いて俄然興味が湧きました。彫刻「空間における壜の展開」における明快な第4次元=時間の表現は今でも衝撃的。分析的手法で描かれたであろう男の姿を追って、画面に釘付け。でも分解されすぎて良く分からない。
 ヴァシリー・カンディンスキー「E.R.キャンベルのための壁画 No.4」の習作(カーニバル・冬)。未来派に続いてバウハウス。空間デザインの夢が渦巻くこの時代はやはり魅力的!今回のマイベスト。
 エゴン・シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」。闇に浮かび上がる眼、手、体。荒々しいタッチが存在を生み出す。さすが豊田市美!
 パブロ・ピカソ「青い肩かけの女」。静溢の中に悲しみをたたえ、淡々とこちらを見る。
 パブロ・ピカソ「ドラ・マールの肖像」。暖かなトーンの才女。
 五枚の作品が並ぶことで生まれる、時代への野望、挫折、回復のシークエンス。タッチの荒さと平坦さ、色彩の暗さと明るさ。それらから感じられる20世紀初頭の息吹こそが、本展の面目躍如なところだと思います。

 アンディ・ウォーホル「ダイヤモンド・ダスト・シューズ」。巨大化し、無造作に並ぶ靴。きらめくガラスの破片。抽象絵画のような画面から発散される、繊細で暴力的な美。後期のベスト。
 イブ・クライン「人体測定 ANT66」。モデルに直接スプレーで吹き付けて描いたという青。製作現場はさぞ壮絶だったろう。ウォーホルと向かい合う展示は迫力十分。

 2 日本近・現代洋画、日本画、版画、彫刻
 竹内栖鳳「散華」。楽しげに楽器を奏で、空を舞う天女。どうして悲しいタイトルなのかと思ったら、花をまくという意味らしい。
 高島北海「果蔬図」。楽しい絵。
 小茂田青樹「秋意」。月に葡萄。粒の陰影が房の重みを感じさせる。墨画のモノトーンの画面が美しい。
 小松均「雪壁」。確かに雪壁だ。
 岩橋英遠「彩雲」。空飛ぶマンボウ。

 「アーツ&クラフツ展」の時も感じましたが、関連性の薄い西洋と日本の作品を一つの展示を押し込むのは、全体構成として成功しているとは思えません。一度現代まで辿りついた物語を、頭の中で過去へと巻き戻す作業は疲れます。部分部分は素晴らしいのに、全体としての印象が希薄な展示だと思いました。

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2009年05月08日

●大和し美し@千葉市美術館

 千葉市美術館で開催中の「大和し美し」を観ました。

 展示は8階から。冒頭は川端康成の人生を紹介します。
 三字「要忍耐」川端万邦(祖父・三八郎)。若くして天涯孤独の身となる康成の行く末を暗示するかのような書。
 「するめ」とあだ名された容貌を、土門拳の写真が如実に伝える。
 ノーベル文学賞賞状・箱。「日本を世界に発信する」という活動が認められた栄光の証。千羽鶴舞う箱が美しい。
 屏風「秋の野に」(表)川端康成・書、(裏)東山魁夷・画。受賞の心境を表す書と、黄金のススキが風になびく絵。作家と画家の交流の証。
 書「美しい日本」川端康成・書。記念講演「美しい日本の私 その序説」で切々と語られる日本の美。全文をじっくりと読んだ。「心の根本が違う」と結ぶところに、強い自負と覚悟を感じる。
 「火炎木」ジェムマニック。「キャナル・グランデ ベニス」村上肥出夫。自裁直前に購入した絵画。栄光から突然の終幕。
 コンパクトに凝縮された展示は濃密で劇的。

 続いて書斎の再現。
 「拭漆栃手箱」黒田辰秋。木目が美しい箱。箱である以前に塊に見える。
 「耀貝螺鈿茶器」黒田辰秋。ガラスケース奥の飾り棚中央に飾られていて、遠目にしか観られないのが恨めしい。群を抜く輝き。
 「赤漆六稜棗」黒田辰秋。ガラスケース一番奥。もっとよく観たい。
 「赤楽茶碗」黒田辰秋。上品な赤味の楽茶碗。本当に手広い。ガラスケース手前に置いてあって観やすい。
 「志野茶碗」加藤唐九郎。楽茶碗に並んで志野。豪華。
 お気に入りの品々で埋め尽くした空間は、ヨダレが出るほど気持ち良さそう。凄すぎてグウの音も出ません。出来れば、書斎を覆うガラスケースはなしが良かった。

 続いて画家との交流。
 「不知火」草間弥生。今も精力的に活動されている草間さんの初期作品。川端康成の先見の明、草間さんの息の長さ。
 「マリアの壁 エッツ・オーストリア」東山魁夷。大胆にトリミングされた白い壁面。窓が並び、画面右中にマリアの壁画。わざと焦点をずらした画面構成が好き。
 「紅彩」牧進。椿で埋まる水面。息苦しいほどの赤と、その下の深い紺。
 「女の手」オーギュスト・ロダン。画商から借りてきて、一日中あちらこちらから眺めていたそうな。変態性が良く伝わるエピソード。

 そしてもう一人の主役、安田靫彦登場。
 画壇の大御所として君臨する姿と、病弱でほとんど旅行をしなかったという解説にギャップがあって、長生きは最大の才能だと思う。
 「遣唐使」。16歳の作品。上手い!
 「唐傭」。出土品から想を膨らませるお得意の手法。モデルになった傭も並んでいるので、安田ワールドの跳躍に思いを巡らせると楽しい。
 「飛鳥の春の額田王」。お団子二つの髪型に、赤地に金刺繍紋の衣装。「茜指す・・・」の歌とはちょっとイメージが違う?

 7階に下りて、安田靫彦が「発見」した良寛の世界へ。子供たちと一緒に手毬で遊ぶ良寛和尚のイメージが、安田フィルターを通して拡張される。
 「自画像」良寛。行灯の元で書を読む好々爺。あごの尖った三角形の顔型が特徴的。
 「良寛乾漆像」。平櫛田中が参考に借りていったというエピソードに興味津々。
 「手毬」伝良寛。トレードマークの手毬。状態が良好すぎて良寛作ではなかろうと思いつつも、可愛らしい柄が子供と良く遊んだというイメージにピッタリ。

 そして、川端、安田コレクションの対峙。
 「川端康成と安田靫彦 大磯の安田邸にて1950年6月22日」撮影/林忠彦。二人の交流を写したこの写真が本展の要。そして右手に川端、左手に安田コレクションが並ぶ。
 「聖徳太子立像」。病床の川端康成の元に画商が持ってきたという像。一緒に帰って、以降毎日眺めたそうな。幼子の出で立ちと、自信たっぷりな顔立ちのギャップは、確かに御利益ありそう。
 コレクションを通して、二人の交流が伝わってくる。

 最後に「大和し美し」と題して、安田作品を並べて〆。
 「木花之佐久夜毘売」。霊峰富士を背に腰掛ける、オニギリ顔の女性。農耕神らしいふくよかな感じ。

 川端康成の世界を掘り下げていき、その交流からもう一人の主役を導入。さらにそのコレクションから「良寛」を通して精神性を見せつつ、二人のコレクションが対峙する本題へと繋げる。そして最後は主題をリフレイン。単に名品を並べるのではなく、それを通して二人の巨匠の交流を生気溢れて伝える。練りこまれた構成が、本展最大の見所でしょう。

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2009年04月27日

●日本の美術館名品展@東京都美術館

 東京都美術館で開催中の「日本の美術館名品展」を観ました。副題は「MUSEUM ISLANDS」。美術品の連鎖が日本列島を形作る、とても美しいネーミング。おらが名品を持ち寄った、全国公立美術館アピール大会ともいいます。

 1 西洋絵画、彫刻
 地下1階は西洋絵画、彫刻。
 ジャン=フランソワ・ミレー「ポーリーヌ・V・オノの肖像」。布のようなサラサラな黒髪が印象的。山梨県立美術館
 サー・エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ「フローラ」。鮮烈な赤の衣装の花の精。横の添えられた美術館のメッセージに「看板娘」とあり、所蔵美術館の愛情を感じます。郡山市立美術館
 ピエール=オーギュスト・ルノワール「庭で犬を膝に抱いて読書する少女」。美しい光の満ちる濃密な空間。吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)。
 カミーユ・ピサロ「エラニーの楽園」。パッと広がる田園風景。ファーストインプレッション勝負になってくると、印象派が有利。福島県立美術館
 クロード・モネ「ポール=ドモワの洞窟」。明るく深い青が美しい。印象派のチャンピオン。茨城県近代美術館
 ポール・セザンヌ「水の反映」。静溢なイメージ。日本画のよう。愛媛県美術館
 オディロン・ルドン「ペガサスにのるミューズ」。幻惑のイメージ。1913年アーモリー・ショー(!)に出品。そんなに昔からあったんだ。群馬県立近代美術館
 ジェームズ・アンソール「キリストの誘惑」。光のストライプがポップアートのよう。伊丹市立美術館
 ピエール・ボナール「アンドレ・ボナール嬢の肖像 画家の妹」。ピンクのストライプシャツ、赤地に黒紋様のスカート、左手から二頭の犬が動きを与える。斜めに流れる画面構成が美しい名品。愛媛県美術館
 アンドレ・ドラン「マルティーグ」。蛍光ペンでキュッキュッキュッ。淡く深みがある。島根県立美術館
 ヴァリシー・カンディンスキー「「E.R.キャンベルのための壁画No.4」の習作(カーニバル・冬)」。大好きなカンディンスキーの油彩画。絵に力を感じる。宮城県美術館
 エゴン・シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」。闇に浮かぶ目、赤い唇、組んだ手。夢に出てきそう。豊田市美術館
 パブロ・ピカソ「青い肩かけの女」。力のある目と青いトーン。上手い。シーレの隣に並べる配慮が、配置の妙を感じさせる。愛知県美術館(東海銀行寄贈)。
 モーリス・ド・ブラマンク「雪」。スピード感ある厚塗りによる荒々しさ。北九州市美術館
 ジョルジュ・ルオー「道化師」。ブラマンクの隣に同じ「厚塗り」のルオーを並べるセンスが素敵。言葉は同じでも、その描く世界は全く異なる。最後の宗教画家の重厚な世界。北九州市美術館
 ルーチョ・フォンタナ「空間概念」。遠くからでも目を惹く鮮烈なピンク。そして穿たれた亀裂。強烈かつエロティック。豊田市美術館
 エミール=アントワーヌ・ブールデル「両手のベートーヴェン」。石詰めのベートーヴェン?謎が記憶に残る。愛知県美術館
 フランソワ・ボンボン「シロクマ」。大きな手足とスベスベの肌がマンガキャラのよう。可愛い。群馬県立館林美術館
 コンスタンティン・ブランクーシ「空間の鳥」。立体作品が並ぶ吹抜け空間にスッと立ち、照明の反射で輝く。存在感ある展示が、配置の妙を感じさせる。滋賀県立近代美術館

 2 日本近・現代洋画、日本画、版画、彫刻
 1階に上がると、一転して濃紺の背景に日本洋画が並びます。
 岸田劉生「冬枯れの道路(原宿附近写生)」。生命感溢れる土の道。こんなに生き生きと「土」を描いた絵を他に知らない。再会できて嬉しい。新潟県近代美術館万代島美術館
 髙島屋十郎「蝋燭」。これも再会作品。三鷹市美術ギャラリーでの感動が蘇ります。じっと見る光。福岡県立美術館
 藤田嗣治「私の夢」。生真面目な雰囲気の日本洋画の中で、軽やかに躍動する藤田の存在感が際立つ。「素晴らしき乳白色」を猫たちが囲む。新潟県近代美術館万代島美術館
 松本俊介「橋(東京駅裏)」。重厚なモノトーンの画面に描かれる八重洲橋。大気汚染された工業地帯のよう。神奈川県立近代美術館
 小磯良平「着物の女」。鮮やかな縦ストライプの着物柄と、動きのあるポーズ。モダンで明るい人物画。「橋」の次にこの作品を並べる、静動のコントラストが素敵!神戸市立小磯記念美術館
 小杉放菴「金太郎遊行」。おじいちゃんが孫を見つめる暖かい視点。まさかり担いだきんたろう♪栃木県立美術館
 牛島憲之「邨」。ブリジストン所蔵の「タンクの道」と並んで好きな作品。形の捉え方が好きです。府中市美術館。出かける理由が増えた。
 香月泰男「涅槃」。弟子たちの骸骨のような頭と合掌したが手が闇に並び、その中に横たわるモアイのような釈迦。強烈な黒。黒、グレー、赤、青と続く展示作品の並べ方も丁寧。山口県立美術館
 
 2階に上がって、日本画、版画、彫刻。
 狩野芳崖「伏龍羅漢図」。子猫のようにスヤスヤと眠る龍。福井県立美術館。又兵衛+芳崖の美術館と認識をあらたに。
 菱田春草「鹿」。クリッとした眼が愛らしい。飯田市美術博物館
 菱田春草「夕の森」。大きく円を描く鳥たちの軌跡、霞む木々。開放シャッターで捉えた星空のよう。構築する意識と感性が共存する様が、建築のよう。御舟にも言えるけれども。飯田市美術博物館
 高島北海「果蔬図」。色とりどりの野菜が並ぶ掛軸。題材と色彩の取り合わせが面白い。下関市立美術館
 小川芋銭「涼気流」。霞ヶ浦の漁村風景。この前霞ヶ浦まで行ったので親近感が増す。茨城県近代美術館
 近藤浩一郎「雨期」。水の入った田んぼの風景。写真のような水墨画!山梨県立美術館
 山口蓬春「紫陽花」。蓬春記念館に行って以来、蓬春に興味津々。キラリとした質感、器の釉薬の表現の妙。北海道立近代美術館
 恩地孝四郎「『氷島』の著者 萩原朔太郎像」。皺が印象的な作品。千葉市美術館。意外な選択。
 平櫛田中「酔吟行」。声が聞こえてきそうな像。呉市美術館
 中原悌二郎「若きカフカス人」。東京国立近代美術館の同名作品を観たことがあるので同じかと思ったら、美術館のメッセージに「カフカス人が同じだと思わないで下さい」とあってビックリ。北海道立近代美術館
 向井良吉「蟻の城」。世田谷美術館。これまた意外な選択。
 佐藤忠良「帽子・夏」。帽子で隠れた顔、庇からのぞく口元が想像力をかきたてる。ブロンズなのに軽やかで清清しい。宮城県美術館

 名品が揃っているので、どの作品にも力があります。また初見の作品が多く、新鮮な驚きがいくつもありました。旅行気分で、自分のお気に入りの一枚を探すと楽しいです。

 その一方で、全体の印象はかなり地味。「ルーブル」や「阿修羅」といったビッグブランドと並ぶと埋没しそうです。全国美術館周遊パスとか、上野ミュージーアムパスといった、巡回する工夫があると良いのにと思います。

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2009年02月28日

●ルーブル美術館展@国立西洋美術館

 国立西洋美術館で開催中の「ルーブル美術館展-17世紀ヨーロッパ絵画」を観ました。会場への特設入口+入場待ち用テント庇が用意されていることから、主催者の自信の程がうかがえます。公開初日の15:00頃で、入館待ちはないもののコインロッカーの空きがない状態。絵の前には5-6層の人垣。これは持久戦だと、オーディオガイドを借りて重点鑑賞。17:00前になると空いてきたので、通しでじっくりと観ました。

 I. 「黄金の世紀」とその陰の領域
 栄華を極めるルイ王朝と、その陰にある貧困層(に扮した人々)を描く作品群。これらの絵画が装飾する宮殿を想像しながら観ると、一層興味深い。
 レンブラント・ファン・レイン「縁なし帽を被り、金の鎖を付けた自画像」。黒の生地と金の鎖の質感を見事に描き分ける、売れっ子画家としての自信と宮廷画家への憧れに満ちた自画像。
 ヨハネス・フェルメール「レースを編む女」。明暗の描写が巧みな手先に視線が集まる。小品ながら、日本でのフェルメール人気を意識してか図録の表紙に大抜擢。

 II. 旅行と「科学革命」
 大航海時代を迎えて拡大する世界。
 ペーテル・パウル・ルーベンス「トロイアを逃れる人々を導くアイネイアス」。左手に炎上するトロイア。英雄アイネイアスが祖父と子を連れて非難している人々の下へやってくる。右手に停泊している船に乗って、新天地を目指す。この中から、後にローマ建国を建国する人々が生まれたと言われる。壮大な叙事詩の一場面。
 クロード・ロラン「クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス」。波光煌めく港の美しい風景に、「イリアス」の一場面を重ねる。左手階段の上にいるというクリュセイスを探したが、小さすぎて分からなかった。
 ルドルフ・バックハイゼン「アムステルダム港」。海運拠点アムステルダムの黄金時代。
 アドリアーン・コールテ「5つの貝殻」。主題の貝が隅々まで見えるよう重ならない構図をとりつつも、意味ありげな石台のひび割れ等で単調にならずに見せる。小品ながら緻密な描画で、コレクションを自慢する写真的な役割も果たしたのだろう。
 ヨアヒム・ウテワール「アンドロメダを救うペルセウス」。画面左手一杯に、鎖で囚われたアンドロメダの美しいS字ポーズと青味がかった白い肌。右手に小さく海獣と戦うペルセウスとペガサス。足元には人骨が転がり、危険な場面であることを伝える。その手前には美しい貝殻が並べられ、絵であると同時に装飾品としての性格を兼ね備える。

 III. 「聖人の世紀」、古代の継承者?
 プロテスタントへの対抗上、分かりやすさを重視する宗教画の数々。
 カルロ・ドルチ「受胎告知」。茶色の巻き毛と白い肌が美しい、天使と聖母の美少女コンビ。
 ジョルジュ・ド・トゥール「大工ヨセフ」。蝋燭の光に透けるキリストの手。キリストが聖徳太子のようで、聖人のイメージは東西を問わず重なるものかと思う。
 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「6人の人物の前に現れる無原罪の聖母」。柔らかに手を合わせ、銀の三日月に乗って現れる聖母。甘く美しい聖なる世界。

 質、量ともに充実し、会期も長く今年の西洋美術展ナンバーワンになることは間違いなしと思える内容。抜群のブランド力を誇る「ルーブル」効果で、会場内はカップルでいっぱい。観客数の100万人越えも時間の問題と思えます。

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2009年02月26日

●名画と出会う@ブリヂストン美術館

 ブリヂストン美術館で開催中の「名画と出会う -印象派から抽象絵画まで」を観ました。

 I. 印象派の誕生と印象派以降の動き
 Room 1
 カミーユ・コロー「森の中の若い女」。森の中に浮かび上がる、アースカラーな色彩。最近美人画ばかりに目がいっている気がする。
 ギュスターブ・クールベ「雪の中を駆ける鹿」。雪原の美しさと厳しさ。野生の力強さ。

 Room 4
 クロード・モネ「雨のりベール」。斜め降りの雨。荒れる海、岩までもが、風雨に身を任せるよう。
 クロード・モネ「霧のテームズ河」。紙にパステル。簡潔に、的確に。光を捉えるモネの真骨頂。
 クロード・モネ「睡蓮の池」。空に浮かぶ雲のような、大胆な画面。

 Room 5
 ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」。山の美しいラインと建物の幾何学的なボリュームの対比。平坦な面への解体を予感させる画面。
 ポール・ゴーガン「馬の頭部のある静物」。点描の穏やかなトーン、光線に浮かび上がる、オリエンタル趣味。ライトブルー基調の背景が美しい。
 II. 20世紀美術の台頭
 Room 6
 アンリ・マティス「画室の裸婦」。青、緑、黄、赤が乱舞する空(?)。新しい時代への変化が始まる。
 モーリス・ド・ブラマンク「運河船」。明るいブラマンク。ビビッドなトーン。
 ラウル・デュフィ「オーケストラ」。線と化す人、絵自体が踊るよう。

 Room 7
 ジョルジュ・ルオー「ピエロ」。圧倒的な存在感。岩のような質感。

 Room 8
 ピカソとキリコ

 III. 抽象絵画の発生と展開
 Room 9 
 パウル・クレー「島」。夕暮れ時の島と海?
 フェルナンド・レジェ「抽象的コンポジション」。白い余白が美しい。ロゴのよう。
 Room 10
 ザオ・ウーキー「07.03.76」。ストーリー性を感じさせる深遠な青。
 白髭一郎「観音普陀落浄土」。絵具チューブで直接描くような力強い描画。色彩が布と化して画面を流れる。

 IV. 日本近代洋画のあゆみ
 Room 2
 山下新太郎「供物」。美人。
 藤田嗣治「猫のいる静物」。猫、海老、蟹、魚。視点の連鎖が楽しい。
 牛島憲之「タンクの道」。焼物のような白の構成。
 鳥海青児「川沿いの家」。左官壁のような質感。確かに日本の絵。

 コレクション展ですが、質の高さと、ぐるっとパス加盟というお得さで、満足度はダントツに高し。心がホカホカする展示でした。

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2009年02月11日

●安田靫彦展@茨城県近代美術館

 茨城県近代美術館で開催中の「没後30年 安田靫彦展」を観ました。

 I章 萌芽と胎動
 「田村将軍」。19歳の作、元々上手い。
 「静訣別之図」。右手に義経の立姿、左手に形見の鼓を受けて下を向く静。緊張感ある斜め構図。
 「両雄遥望江戸図」。家康に江戸移転を薦める秀吉。地味ながら見せる。
 「紅葉の賀」。オレンジのシルエットの紅葉、白地にグレーの波線の川。簡略化された、情緒豊かな表現。
 「花の酔」。切れ長の目、枝垂桜の美女。
 「羅浮仙」。吹き上げるような白梅の生命感溢れる美、それを背に立つ女性像。

 II章 展開と開花
 「風神雷神」。若い2人の男子がコスプレして跳ねる。宗達の名作を軽快にアレンジして自分のモノにする。
 「伊勢物語 あまのかわ」。秋草に人待ち顔の男性の後姿。天の河に来た業平が、織姫主題の和歌を詠んだ。
 「源氏若紫」。源氏視点からみた若紫。垂らし込みの庭園に面した縁側でたたずむ黒色長髪のふくよかな顔立ちの少女。
 「羅浮仙」。年を経て、大きく変わった仙女。ふくよかな顔立ち、足元の暗がり。画面上に白梅。
 「花づと」。クリーム地に色とりどりの紅葉を散らし、手に百合の花束、帯に牡丹(?)、手に持つ傘に木地模様。象徴化された美人。
 「兔」。赤黄緑の葉、白ウサギ。
 「新蔬」。ユーモアある写実性で描かれた、茄子とピーマン。御舟を思わせる。
 「わびすけ」。垂らし込みが冴える!
 「豊太閤」。金地に梅花、手前に白服の秀吉。

 III章 深花と円熟
 「伏見の茶亭」。茶室の柔らかな光の中に佇む茶人秀吉。その実はどうだったのだろう?史実を映した先に独自の世界を築く、靫彦ワールドの深化。
 「大観先生」。細部のスケッチと絵。イメージを固め、画面に定着させるプロセス。
 「紅梅」。暗い金地に枝垂梅のシルエット。ピンクの花が輝く。
 「梅花定窯瓶」。赤地に紅白梅挿す白瓶、床に十字模様。色面構成が可愛らしい。
 「卑弥呼」。幾重にもかんざしを挿し、鳳凰花鳥飾りを抱く。衣に大胆な魚紋様。威厳に溢れる女王。想像力で描く古代史。
 「酔胡王随従」。歴史の遺品から想を膨らませて描く、幻想的な古代世界。
 「出陣の舞」。一目で信長と分かる。
 「飛鳥大仏と止利仏師」。大仏の搬入。想像の産物。

 安田靫彦の特徴は、速水御舟に多大な影響を与えた今村紫紅と盟友関係にありつつ、30年前まで存命だったという長寿。そして美しい線描で紡がれる、歴史上の名場面=物語を明快に示しつつ、大胆にアレンジする靫彦ワールド。前半の明るく精気漲る描写から、後半のふくよかな造形と陰のある構図までを一気に通観できる展示です。また、広々とした茨城県立美術館の展示室は、とても観やすいです。

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2009年02月07日

●生活と芸術-アーツ&クラフツ展@東京都美術館

 東京都美術館で開催中の「生活と芸術-アーツ&クラフツ展」を観ました。副題は「ウィリアムモリスから民芸まで」。産業革命に端を発する工業化大量生産品の横溢に異を唱え、手仕事による芸術と生活の復興を目指す「アーツ&クラフツ運動」。その軌跡を、発祥地イギリスからヨーロッパ各国への伝播、さらには日本への影響までも含めて辿ります。ヴィクトリア&アルバート美術館との共同企画で、美しい工芸品が多数並びます。

 I イギリス/Britain
 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「聖ゲオルギウス伝ステンドグラス」。ロセッティの甘美な画面と、黒い輪郭線と光面の美しい色彩のコントラストが奏でるドラゴン退治の物語。
 ケイト・フォークナー「皿 スター・フラワー」。無地陶器に手描き!で描かれたツブツブ、小花、中花。
 ウィリアム・モリス「壁紙見本 「果実」あるいは「柘榴」」。果実の点描のトーン、枝の線描、葉の彩色が奏でるポップな世界。
 ウィリアム・モリス「内装用ファブリック 「いちご泥棒」」。イチゴをついばむ小鳥たちがとても可愛い。タイトルも可愛い。
 ウィリアム・モリス「別珍プリントの見本帳」。魅力がギッシリ詰まったサンプル帳。購買意欲を刺激する!

 展示は2階に続きます。
 アレクサンダー・フィッシャー「燭台 「孔雀」」。金地に透明感ある青と緑。蝋燭の光に浮かぶであろう、艶かしい世界。
 エドワード・バーン=ジョーンズ「原画 「生命の木」」。うねる幹と稲、繁茂を極める金の縁取りの葉。生活というより、王侯貴族のための豪華品という感じに変わってきた。
 リンゼイ・P・バターフィールド「原画 染織図案「林檎」」。逆さまリンゴが白抜きのふちどりで可愛い。
 チャールズ・レニー・マッキントッシュ「酒宴」。2人1組で図案化された構成が美しい。
 フィービー・アンナ・トラケア「聖餐杯 「天使」」。アワビ貝殻をそのまま使う大胆さ。
 ウィリアム・ハウソン・テイラー「壺」。イチゴを思わせる赤。
 クリストファー・ウォール「ステンドグラス 「聖アグネス」」。モノトーン基調にグレーの陰影が美しい。わずかに用いられる緑、青、黄色の色彩も効果的。墨絵のようなステンドグラス。
 J.&W.ベガースタッフ兄弟[ウィリアム・ニコルソン、ジェイムズ・プライド]「ポスター原画 「ハムレット」」。黒衣の人物が白いどくろを手に持つ。中心軸を意識した横向き構図が効果的。
 M.H.ベイリー・スコット「ピアノ 「マンクスマン」」。表面は中心に小さく装飾、裏面は全面に装飾。その対比が、扉を開くことで空間が変化する様を予感させる。

 II ヨーロッパ/Europe
 ヨーロッパ編はウィーン分離派から始まります。
 ウィーン工房の封筒、はがき。シャープでカッコイイ。
 ヨーゼフ・ホフマン「テーブル・クロス」。直線的な構成の中、ソロバンの珠のような円形、矢印のような三角形端部が楽しげ。

 続いてドイツ工作連盟。
 ペーター・ベーレンス「蓋物」。ベーレンスらしい重量感。同「電気湯沸かし器」。角々した面取り。彼の事務所からグロピウスが登場し、バウハウスへと話は続くが、それはまた別の話。

 III 日本/Japan
 「鉄瓶」。黒い質感が鋳造!という感じでとても魅力的。
 「泥絵 富士登山参詣曼荼羅」。泥絵は初見。日本民藝館に行ってこよう。
 「塩釉ビールマグ」。ビールが美味しそう!
 バーナード・リーチ「ガレナ釉筒描ペリカン図大皿」。ユーモアと大胆さ。伝統を受け継ぎ、新しく創造するバランスが秀逸。
 バーナード・リーチ「楽焼皿 兔」。耳が長いと同時に、胴が長く、手足が細いプロポーション。霊獣を描いた?
 富本憲吉「白磁八角蓋付壺」。ひたすら美しい。
 圧巻は「三国荘」の再現セット。工芸品に囲まれた暮らしは垂涎の的。同時に、資産家の余興と思わせられる。

 「工芸品で辿る、アーツ&クラフツの歴史」として、観て楽しいです。同時に、「生活と芸術」というフレーズは縁遠く感じられます。手間を考えれば当然かもしれませんが、王侯貴族及び資産家の余興という側面も強く感じます。「歴史に影響を及ぼす思想」、あるいは「ブランド化したキーワード」という点に価値があるのでしょう。日本の部には大山崎山荘美術館所蔵品が多数出展され、あの建物自体が「地中の宝石箱」を含めて時代を体現していると思いました。

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 美術館2階のレストラン「ラ・ミューズ」でお昼。「アーツ&クラフツ展」特別メニューを頼んでみました。

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 ハンバーグと海老、パン(orライス)、スープ、コーヒー(or紅茶)、デザートで2,000円也。どこがアーツ&クラフツかはよく分かりませんでしたが、眺めも良く満足感があります。東京都関連の美術館(現美とか)の会員の方は、5%割引があるそうです。

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2009年01月30日

●加山又造展@国立新美術館

 国立新美術館で開催中の「加山又造展」を観ました。

 エントランス
 「雪」の貼紙細工、「月」の銀の波紋、「花」の焚火の火に染まる夜桜。巨大な三部作で開演。

 第1章 動物たち、あるいは生きる悲しみ-様式化の試み
 「悲しき猫」。平面的な木彫り表現。
 「冬」。肉を削ぎ、紙が残る。絵というよりも工芸のよう。
 「木枯」。赤味かかった金世界。茫漠とした寂寥感。
 「キリン」。足を大きく開いて首を下げる意欲的なポーズ。鋭面で構成された彫刻。

 第2章 時間と空間を超えて-無限の宇宙を求めて
 「春秋波濤」。天地創造、山となって隆起する世界。
 「七夕屏風」。引き裂かれる世界、砕ける画面。銀の波、金地の笹。
 「千羽鶴」。別世界より飛来する金色の鶴が、銀世界の空を舞う。白くしぶく波頭。

 第4章 花鳥画の世界-「いのち」のかたち
 「牡丹」。巨大な黒と白に紫の花の饗宴。グロの一歩手前。花の形をした巨大な妄想、すごい!
 「夜桜」。焔に浮かぶ桜の花、異様に太い幹。息を呑む美しさ。

 第5章 水墨画-色彩を超えた「色」
 「水墨山水画」。霧に霞む松、ドドドと轟音を立てる巨大な滝。
 「月光波濤」。暗夜に輝く月と砕ける波濤。SF的。
 「龍図」。子犬のような愛嬌のある龍。
 「倣北宋水墨山水雪景」。白地絞り物のような岩山。

 第6章 生活の中に生きる「美」
 「銀色摺箔波文振袖」。着物であることすら忘れるほどの、強力な波紋構成美。

 冒頭の巨大な三部作から観る者を圧倒し、そのハイテンションのまま会場を駆け抜ける一気呵成な構成は驚きです。新美のだだっ広い空間を狭いと思わせるほどの密度と巨大さは、観る価値十二分にあります。

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2009年01月21日

●ピカソとクレーの生きた時代@Bunkamura ザ・ミュージアム

 Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展を観ました。副題は「ドイツ、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館所蔵」展。所蔵元美術館が改修に伴う休館を期に、そのコレクションを日本で公開。

 第1章 表現主義傾向の展開
 冒頭にアンリ・マティス「午後の休息(サン=トロペ湾)」。暖かなタッチ。
 アウグスト・マッケ「フリブール大聖堂、スイス」。赤い旗が印象的。

 第2章 キュビスム的傾向の展開
 パブロ・ピカソ「瓶とグラスのある静物」。構成美。
 ジョルジュ・モランディ「静物(青い瓶)」。落ち着いた水彩画。
 ピカソは顔見世程度だけれども、見応えあり。

 第3章 シュルレアリスム的傾向の展開
 三枚続くマグリットがどれも未見で面白い。
 ルネ・マグリット「庶民的なパノラマ」。何層もの殻を縦に積む構図が新鮮。
 マン・レイ「詩人、ダヴィデ王」。ジョジョの元ネタかと思った。
 ジョアン・ミロ「リズミカルな人々」。なんとも不思議な形態と色彩。

 第4章 カンディンスキーとクレーの展開
 ヴァリシー・カンディンスキーの抽象画が3枚続く。どれも魅力的で、一気にテンションが上がります。
 ヴァリシー・カンディンスキー「エドウィン・R・キャンベルの壁画No.3のための習作」。線と色彩が魅力的、絵に力がある。
 ロベール・ドローネー「窓」。セザンヌを思わせる透明感。
 クライマックスはパウル・クレー。線と色彩で構成された、物語性を感じさせる画風はとても魅力的。
 「リズミカルな森のラクダ」。ギリギリ原形を保ちつつ、色彩の森を往くラクダ。
 「矩形と半円」。微細に分割された色面の上に、矩形と半円の淡色トーン掛け。シワシワの紙のような温かみ。
 「婦人と流行」。線がうねり、人が踊り、街の雑踏が聞こえてきそう。

 前半のピカソ、後半のクレー。見所がちゃんとあって面白かったです。

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2009年01月20日

●小林古径展@佐野美術館

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 青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その10。
 三島で下車して最後の目的地、佐野美術館を目指します。電車(伊豆箱根鉄道)でもバス(沼津登山東海バス)でも行けますが、駅南口を出ると丁度バスが停まっていたので飛び乗りました。寒いので、屋外での待ち時間を極力避ける狙い。

 回遊式庭園「隆泉苑」を眺めながらアプローチ、高まる期待!と思ったら、素っ気ない四角い箱が登場してガッカリ。「いのちを線に描く- 日本画家 小林古径」展を観ました。

 展示は初期のものから。
 15歳作「少女」、16歳作「村上義光」と非常に早熟な才能が感じられます。
 「竹取物語」は複製ながら、天女の大群が描かれた巻が美しい。
 「琴」。チラシ表紙になっている、本展の華。赤と薄緑の着物が美しい。琴を前に緊張した面持ちの少女は画家の娘さんだそうです。会場には家族との写真も飾られ、家族を愛する古径の視線が感じられます。
 「猫」。ヒョウタンに首を載せたような、特徴あるプロポーションの白猫が愛らしい。
 「犬と柘榴」。フサフサ毛の犬は、家族写真にも登場する愛犬。
 「猫(猫と唐蜀黍)」。白地にたらし込みのような、猫の黒紋。
 「菓子」。どこか平面的な、古径流静物画。
 「くろ兔」。豆に首を載せたような、不思議なバランス。

 展示のある2階ロビーは、ビデオを観る人で満席。展示スペースもけっこうな人の入りで、古径人気のほどがうかがえます。ただ、御舟と並ぶ細密画の美しさに浸りたいと足を伸ばしたので、個人的には少々物足りなかったです。

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2009年01月15日

●浮世絵 ベルギーロイヤルコレクション展@京都髙島屋

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 青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その5。
 といっても、この区間は18切符の出番なし。京博から七条駅まで歩いて、京阪電車で祇園四条駅、さらに歩いて河原町四条まで移動。虎屋菓寮であんみつを食べて一服。

 甘味でエネルギーを補給して、再度寒風吹きすさぶ街へ。100mほど移動して、京都髙島屋到着。「浮世絵 ベルギーロイヤルコレクション展」を観ました。20時までやってるから(しかも18時以降はトワイライト割引で半額)という軽い理由だったのですが、観てビックリ。太田記念美術館で観た時と展示がゴッソリ入れ替わっています。太田の目玉だった歌川国貞「大当狂言之内 菅丞相」が引っ込む代わりに、春信、歌麿を始め、状態の良い物ばかりがズラリと並びます。国貞も別の役者絵が出展されています。作品リストが用意されていないため確認できませんが、過半数が重複するのは写楽くらいでは?確認方法は図録を購入して、巻末(?)の作品リストと首っ引きで出展作をチェックするのみ。そんな御無体な。。。

 冒頭の春信の浮世絵の状態の良さに驚き、歌麿は十二段続き物が2種類フルセットで展示。国芳も出世作「水滸伝」シリーズがズラリと並び、似顔絵のような「荷宝蔵壁のむだ書」は2点、さらに「猫の当字」、人が集まって人型を形作るシリーズ、絵中に字を大きく書き込んだ「忠義は重く命は軽く(うろ覚え)」といったようなタイトルの絵もあります。漫画的センスがユニーク。

 この後日本橋高島屋に巡回しますが、展示内容はどうなるのでしょうか。図録収録点数が260点程度だったと思うので、本展とかなり被るのでしょうか?でも、ひょっとして。。。気になります。

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2009年01月12日

●モネ「印象 日の出」展@名古屋市美術館

 青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その1。
 きっかけは大山崎山荘美術館さて、大山崎 ~山口晃展」。いつ行こうかと考えていた頃に、モネ「印象 日の出」が名古屋に来ていることを知りました。年初めに日の出を観ようと思い立った頃に、今度は樂美術館樂歴代 花のかんばせ」展のチラシが目に入る。「田中宗慶作 香炉釉菊文阿古陀形水指」の可愛らしい造形に、もう目が釘付け。京都まで行くなら、京都国立博物館京都御所ゆかりの至宝 -蘇る宮廷文化の美-」展と承天閣美術館狩野派と近世絵画 後期」展は必須でしょう。ダメ押しに樂美術館「手にふれる樂茶碗観賞会」も申し込んだ。かくして「青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅」と相成りました。

 東京を発って7時間弱で名古屋着。真っ先に向かったのは名古屋市美術館モネ「印象 日の出」を観ました。

 展示はモネを中心に、印象派の画家たちの作品を数点ずつ紹介します。青い仮設壁に作品が並びます。
 ブータン「ダウラスの海岸と船」。解説に「空の王者」とある通りの見事な空。
 ピサロ「エヌリー街道の眺め」。芝生、木立の緑で画面を大きく覆い、小さく1人の農夫。
 シスレー「舟遊び」。小波立つ水辺、大きく描かれた木々と青空。静かで穏やかな時間の流れを感じさせる。
 シスレー「サン=マメスのロワン運河」。前作と打って変わってテカテカした画面、生気が感じられる。

 そして赤い特設スペースにモネ「印象 日の出」。背面には大きな解説パネル群。揺れる水面に映る日の出。その脇に小舟と人影。離れて観ると、とても自然な描写に感じられます。思ったよりも小さな絵ですが、意外なほど良かった。本展で唯一海外からやってきた作品。

 2階に上がってルノワール「パリ郊外、セーヌ川の洗濯船」。ルノワールらしからぬ硬質なタッチ、暗い曇天ながら、生き生きとした人々。
 ギヨマン「ロバンソンの散歩」。宝くじに当選して絵に没頭できた幸運な人。
 そしてモネの作品が並ぶ。
 「海辺の船」。勢いある青空と斜めに傾いた船のコントラスト。
 「ヴェルノンの教会の眺め」。穏やかな日差し、さざ波立つ水辺に映る教会。
 「チャリング・クロス橋」(メナード美術館)。霧と光を捉えるモネの眼!バラ色のトーン、輝く水面が美しい。
 「睡蓮」(個人蔵)。トーンのような水面と蓮。大作のための習作のよう。

 ビデオ「水の旅人」。モネの絵のモチーフとなった景色を映像で辿る。エトルタの岩、ポプラ並木、ジヴェルニーの池。実景の中の光を捉える眼、大胆で繊細な絵へと再構成する腕は素晴らしい。全35点と作品数は少な目ながら、見応えあります。特に「印象 日の出」は、さすがの存在感。

 常設展 名品コレクションII
 エコール・ド・パリ。アメデオ・モディリアーニ「おさげ髪の少女」。ピンクのセーターを着たおさげ髪の可愛らしい少女。こんな絵があったんだ。
 岡鹿之助「魚」。点描のようなパステルタッチの描画。海老と魚を盛り、カーテンを引き分けた向こうに海が見える。ユニークな構図。

 現代の美術
 アンディ・ゴールズワージー「楓の紅葉による色彩線/大内山村」、「割れた小石の線/紀伊長島町」。黄色が混じった紅葉、割れ目のある小石など、少し特徴ある自然物を収集。注意深く並べることで、色彩のグランデーション、連続する線等を浮かび上がらせる。
 アニッシュ・カプーア「虚空 No.3」。白壁を背に、漆黒の球が浮いている?間近で観ても不思議。

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2009年01月05日

●レオナール・フジタ展@上野の森美術館

 上野の森美術館で開催中の「没後40年 レオナール・フジタ展」を観ました。

 第1章 スタイルの確立 「素晴らしき乳白色の地」の誕生。「断崖の若いカップル」、「家族」。モディリアーニの影響を感じさせる人物画。「風景」。たらし込みのような描画。そして「素晴らしき乳白色の地」へ。細い輪郭線、乳白地、淡い影。「アトリエでの自画像」。面相筆を持ち、猫が居る、藤田をイメージづける構図。

 第2章 群像表現への挑戦 幻の大作とその周辺。群像表現に挑む大作「ライオンのいる構図」、「犬のいる構図」、「争闘I」、「争闘II」。本展のハイライト。「猫」。前脚を広げて蟹を威嚇する猫、魚に跳びかかる猫。輪郭のない白黒表現が水墨画のよう。

 第3章 ラ・メゾン=アトリエ・フジタ エソンヌでの晩年。再現アトリエと自作の木箱等。えっ、もう晩年?とちょっと戸惑った。

 第4章 シャペル・フジタ キリスト教への改宗と宗教画。フジタが心血を注いだ「平和の聖母礼拝堂」の映像が良かった。群像画の修復過程を辿る映像も良かった。

 2005年に東京国立近代美術館で開催された「藤田嗣治展」と並ぶ回顧展を観るつもりで出かけたので、少々戸惑いました。本展は大きく分けて、大作4点への道のりを辿る前半と、晩年を紹介する後半の2部構成です。4枚の大作が観られる、またとない機会です。(近美感想その1その2

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 日本橋から移動して、「過門香」上野バンブーガーデン店でお昼。フジタ展の後、東博へ。

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2008年12月12日

●巨匠ピカソ 魂のポートレート/愛と創造の軌跡@六本木

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 六本木で開催中の二つのピカソ展を観ました。パリの国立ピカソ美術館改装によって実現した鳴り物入りの回顧展も、あっという間に会期終了目前。二回目の訪問はオーディオガイドを借りて、ピカソの絵の変遷を辿ることにひたすら集中。

 サントリー美術館巨匠ピカソ 魂のポートレート」。
 青の時代の精緻で凍りつくような「自画像」から始まり、古典の原始的な力強さに満ちた普遍的な「自画像」、さらにオリガとの出会いの頃の自信に満ちた線描の「自画像」。そして彼をめぐる女性との愛憎の渦の中をモンスターのように歩む「ヴェールをかざす娘に対して、洞窟の前のミノタウロスと死んだ牝馬」。狂おしいほどの愛情を芸術に昇華する「接吻」。最後は「若い画家」できれいにまとめて終了。貪欲な創作欲とそれを昇華する才能。奔放な愛情と強靭な身体。

 国立新美術館愛と創造の軌跡」。「ラ・セレスティーナ」。こちらも凍てつく青の時代から始まる。「二人の兄弟」。温かみの射す薔薇の時代へ。「肘掛け椅子にすわるオルガの肖像」。華やかな社交界へと進出してゆく時代に相応しい気品と美しさ。「画家とモデル」。そして愛憎の渦を歩むモンスターの登場。「女の頭部」。キュビスムの分析的手法を立体化したような造形は驚き。「ドラ・マールの肖像」。隣の愛らしいマリー・テレーズと対照的な知的な美しさ。二人が争う様すら芸術に昇華する意欲と才能は凄絶。「泣く女」。その才女が涙にくれる絵をはさんでゲルニカの時代。「雌ヤギ」。愛する女性の遍歴を重ねる中で得た、安らぎを感じさせる童心に満ちた造形。会場は女性が多く、とても熱心に魅入っているのが印象的。

 ピカソの作品が発する、ものすごいパワーと才気に圧倒されました。

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2008年12月06日

●さよならハンマースホイ展@上野

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 上野の国立西洋美術館で開催された「ヴィルヘルム・ハンマースホイ展」も今日が最終日。先日、見納めに夜間鑑賞に行ってきました。

 クライマックスの「誰もいない室内」がとても印象に残っていたのですが、改めて観ると人物画も魅力的です。雪のクレスチャンスボー宮殿も良い。観ていくにつれて、次第に彼の世界に引き込まれていくところが本展の良いところだと思います。鳴り物入りの展示が乱立する中で地味さを心配する向きもあったと思いますが、人もけっこう入っていました。西洋美術のファンが増えたのではないでしょうか。

 内覧会の際の感想はこちら

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2008年12月01日

●セザンヌ主義@横浜美術館

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 横浜美術館で開催中の「セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛」を観ました。

 「プロローグ」。エミール・ベルナール「セザンヌ礼賛」。ラ・トゥール「聖トマス」?と思わず呟いてしまうほどに似ている。大きなおでこ、伏した構図、長髭。ひょっとしてベルナールは「聖トマス」を知っていて、セザンヌへの敬意をこの名作に重ねて描いたのかと思いました。モーリス・ドニ「セザンヌ訪問」。セザンヌの言葉を世に伝えたドニが描いたセザンヌ訪問記念画。二人にとってセザンヌは、新しい絵画を指し示す神の如き存在だったことがヒシヒシと伝わってきます。

 「I 人物画」。「青い衣装のセザンヌ婦人」、「帽子をかぶった自画像」等、セザンヌの名作も並びますが、展示の焦点は後生の画家達に与えた影響。セザンヌが描いた上半身肖像画と、後生の画家たちが描いた肖像画を並べて、その影響を浮かび上がらせます。なるほどと思うものもあれば、?なモノもあり、玉石混交な気もします。章後半は裸婦と水浴画。セザンヌの水浴画の大作が出展されず、説得力を欠いたのが残念。

 「II 風景画」。「ガルダンヌ」。セザンヌ絵画からキュビスムの分析的手法への橋渡しを予感させる幾何学的な構成。「ガルダンヌの村」。前作と同じ風景を別アングル、別アプローチで描き、セザンヌの試行錯誤が伺えます。「ガルダンヌからサント=ヴィクトワール山」。セザンヌ独特の分割と黄色を多用する色彩。ブリジストンの名作が頭に思い浮かびます。小野竹喬「郷土風景」。セザンヌの影響が日本画にまで。当時の最先端だったのでしょう。

 「III 静物画」。「りんごとナプキン」、「ラム酒の瓶のある静物」と、美術の教科書でお馴染みの画が並びます。対象を色彩のボリュームで捉える独特のタッチ!岸田劉生「静物」。ガラス瓶の透明感、茶碗の艶。居並ぶ後継作の中でも抜きん出た存在感。
 
 本展は「実物で辿る、セザンヌを中心とした、セザンヌ以降の美術史」としてとても成功していると思います。物量大作戦が幅を効かす今期にあって、構成力で見せます。この構成で観ると、人物、風景、静物の全てにおいて、セザンヌが源流と思えてきます。その一方で、セザンヌからフォービズムへの飛躍は、やはりマティスたちの才能に負うところが大きいと思うので、持ち上げすぎと思える部分もありますが。

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 美術館に隣接した住宅展示場で開催された「横浜アート&ホーム コレクション展」。17軒のモデルハウスのそれぞれで、ギャラリーが美術品を展示販売します。わずか二日間の展示に手の込んだホームページを準備した意欲的な企画。チケットは引換時間を1日に3回設定した(ただし引換以降の滞在時間は制限なし)多人数の来客にも安心のシステム。しかも入場料は1,000円ですが、セザンヌ展の入場者はなんと無料の大盤振る舞い!

 だったらしい。そんな案内どこにも出てなかったし、誰も教えてくれなかったし、知るわけないやん。17回靴を脱いでは履き、2時間かけて観て回りました。

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2008年11月08日

●近代日本画の巨匠 速水御舟-新たなる魅力@平塚市美術館

 平塚市美術館で開催中の「近代日本画の巨匠 速水御舟-新たなる魅力」を観ました。平塚市美を目指すのは実は二度目。一度目は人身事故で電車が大船で止まってしまい、時間切れ。泣く泣くUターンしました。会期終了前日にすべり込み。

 展示は御舟の修行時代から始まります。「荒海」の海を菱形に紋様化するセンス、セザンヌを思わせる岩肌の質感。その早熟な天才っぷりは驚くばかり。
 そして御舟の代名詞ともいえる、超細密描写へと突き進みます。「京の舞妓」。着物の布、壷の硬質感、団扇の紙貼り、畳の細かい目。その凄絶なまでの細密描写と、異様に顔色の悪い舞妓。ものすごいインパクト。そして不気味。「猫(春眠)」。こちらは可愛くてホッとする。「遊魚」。美味しそう。鮎の塩焼きが食べたい。「鍋島の皿に柘榴」。実物をこの目で見ても信じられないほどの描写力。絵のモデルになった皿と柘榴を見たとしても、絵の方を本物と思うであろうほどの確かな存在感と美しさ。ゾクゾクと鳥肌が立った。「秋茄子に黒茶碗」。色彩に頼らない黒と黒の組み合わせ。それでなお、目の前に茄子と茶碗があると思えてならない描写力。まさに神業。「樹木」。木に蔦が絡みつく構図。目を凝らすと、樹表の皮の一枚一枚が人肌のように見えてくる。起伏に富む幹は女体で、絡みつく蔦は男。画集では絶対に伝わらないであろう、御舟の目と手を通して再構成されたエロティックで深遠な世界。
 風景画へ。「赤穂塩屋之景」。グラフィックな構成が決まっている。「京の家・奈良の家」。白、黄土、赤。壁を大胆な色彩構成に還元する。「晩秋の桜」。金地に桜紅葉、キツツキのワンポイントが決まっている。
 外遊を経て、写生から解き放たれた新しい描画を模索するところで、突然の絶筆。その先に現れたであろう第二の成熟期を求めて、目は宙を彷徨ってしまう。

 驚異的な観察眼と描写力、新しいモノに次々と取り組んでゆく意欲は間違いなく天才の域。ピカソや北斎が持ちえた強靭な肉体があれば、彼らと並ぶ画業をものにしただろう。逆に、才能と強靭な肉体が揃ってこそ天才と呼べるのかもしれない。
 目の前にある世界を超えた世界を垣間見せる、アートの魅力を満喫しました。山種以外の御舟大集合で、見応え200%。来年山種で開催される「速水御舟展」と合わせてみれば、満足度は500%くらい行きそう。そういう面でも、必見の展覧会。

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2008年10月05日

●Akasaka Art Flower 08

 赤坂サカスを中心に開催されている回遊型アートイベント「Akasaka Art Flower 08」を観ました。全会場を廻れるパスポートは赤坂サカス、島崎(料亭)、旧赤坂小学校の3会場で販売されています。スタンプラリーも開催されており、全会場分を集めて赤坂サカスチケットセンターに持っていくと、草間彌生さんの特製クリアファイルがもらえます。

 今回は夕方遅くからの鑑賞だったので、全7会場のうち4会場を観ました。スタートは赤坂サカス。チケットセンターに隣接して草間彌生「Dots Obsession」。お馴染み黄色地に黒のドット、反転して黒地に黄色のドット。少し離れて大津達「奇跡の泉」。天井のシェリーで強烈な印象を残した西野達さんの最新作。作品ごとに名前まで変えてしまう、驚きの作家さん。さらに少し離れて椿昇「PollyZeus」。6年前の横浜トリエンナーレで巨大バッタを登場させたビッグパフォーマー。正直なところ、どれも今一つ。名の通った作家さんを集めたがる最近のアートイベントの弊害を見る気分。

 次いで旧赤坂小学校へ。フラッシュを焚かなければ撮影OKとのことで、写真を撮らせてもらいました。
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 池田光宏「by the window 旧赤坂バージョン」。ガラス面に映るテーブルと椅子、人影、急成長する植物、カラフルに変化する色彩。暗くなってから行ったこともあり、温かみある影絵の動きと、シャープな色彩変化の演出がとても印象的。

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 エントランスホールに入って、淺井裕介「泥絵・昨日の半分と明日の半分」。壁及び床を埋める壁画が、密実な空間を生み出しています。

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 2階に上がって体育館へ。小沢剛「あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き」2006-2008。座布団を積み上げた富士山を、子供たちが嬉々として転がり落ちる様がとても楽しげ。山の中には列車が停まっており、30分おきに定時運行。ボランティアの方が手押しで動かす列車も大人気。パラモデル「パラモデリック・グラフィティ」。会場内を縦横無尽に覆い尽くすプラレールアート。描き出されるパターンの美しさに見惚れてしまいます。幼い頃に遊んだ玩具でこんな世界が作り出されるなんて驚き。小学校の体育館という場所と、富士山、列車といったアートワークの最高の組み合わせ。

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 体育館に面した小部屋でいくつか展示があります。その一つ、スサイタカコ「月夜のスカートめくり」。手作りの可愛い系小物で埋め尽くされた小さな宇宙。絵に動画に立体と空間を埋め尽くす密度が気持ち良い。密度って大切。

 島崎(元料亭)へ。トーチカ「IKEBANA 2008」「PIKAPIKA」「PIKAPIKA 2007」。お座敷に静かに流れる映像を、窓辺の風を感じながら観る。料亭という場を活かした展示。実物の壷に位置を合わせて漫画チックに植物の成長を描く「IKEBANA 2008」等、どれも一工夫あって楽しい。
 青山悟「Chain」「Whire horse in the studio」。廊下の奥に浮かび上がる小品。あっさり見流したら、なんと刺繍だったことを後で知る。何ですとー!再訪せねば。
 2階に上がって、志村信裕「pierce」。畳の間に待ち針をびっしりと敷き詰めて、上から映像を投影する敷き詰め系アート。針の頭が光って綺麗。
 最後に松宮硝子「Duquheapure」。ガラスを砕いて結晶化させたような、非常に繊細なオブジェで満たされた空間。奥の座敷は生け花のような、カキ氷のような白い塊で満たされています。手前の部屋では、壁の裂け目、部屋の隅、照明器具の陰などからガラス繊維が増殖中。カビのような増え方と、サンゴのような美しさが独自の世界律を生みます。中央の机で、作家さんがピンセットを使いながらまさにオブジェを増殖中なのが楽しい。ハンドメイドワールド!

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 サカスに戻って、ベルギービールの店「デリリウムカフェ レゼルブ」で一休み。冷製チーズフォンデュが美味しい!有機野菜も美味しい!冷たいのにクリーム状なその訳は、生クリームを加えているからとか。

 思った以上に楽しいイベントでした。とにかく富士山とプラレール、そしてガラス生命体(?)がおすすめです!残りも廻ってみたいです。

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2008年09月30日

●ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-@国立西洋美術館

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 上野の国立西洋美術館で「ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-」展が始まりました。ハンマースホイといえば、去年の「オルセー展」に出品された「室内、ストランゲーゼ30番地」。絵に漲る静謐なる詩情は、強く心に残っています。そのハンマースホイの回顧展が、日本でまさかの開催です。嬉しいことこの上ありません。いつも御世話になっているこちらさまのおかげで、今回は内覧会に参加させていただきました。どうもありがとうございます。
(以下の画像は主催者の許可を得て使用しています。)

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「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」
1885年 ヒアシュプロング美術館
Photo © The Hirschsprung Collection, Copenhagen / DOWIC Fotografi

 「第I章 ある芸術家の誕生」。ハンマースホイ21歳、実質デビュー作。当初からモノトーンの抑えた色彩と、輪郭が曖昧で背景に溶け込むような描法が登場することに驚かされます。アカデミー展に応募するも落選、しかしその評価を巡って論争が起こったそうです。

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「クレスチャンスボー宮殿、晩秋」
1890-92年 コペンハーゲン国立美術館 
Photo © SMK Foto, Copenhagen

 「第II章 建築と風景」。ハンマースホイはロンドン、パリ、ローマを訪問する機会に恵まれます。しかし、パリでは景色を全く描かず、ローマでは建物内観を一枚のみ。ロンドンの住宅街は何枚も描いています。霧に煙る景色が、画家の創作意欲を刺激したのでしょうか。クレスチャンスボー宮殿もその往来の人影は全く描かれず、建物を霧に塗り込める如く平坦に描くことで静謐感溢れる世界を創出しています。この絵の左側にある雪景色は額縁まで白くしてあり、静溢感が極まっています。

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「休息」
1905年 オルセー美術館  
Photo © RMN / Michèle Bellot / distributed by DNPAC

 「第III章 肖像」。ハンマースホイの絵に度々登場する「女性のうなじ」。その美しさに何度も見惚れます。「休息」といいつつも不自然に背を反らせた本図も、「いかにうなじを美しく見せるか」という彼の探究心の表れと捉えると合点がいきます。そんな彼につきあってモデルを務めた奥様あってのハンマースホイ作品ともいえそうです。

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「室内、ストランゲーゼ30番地」
1901年 ハノーファー、ニーダーザクセン州博物館
Photo © Ursula Bohnhorst

 「第IV章 人のいる室内」。ピアノの足、奥の女性の足。ハンマースホイは構図を優先して不要なものを消してゆきます。そして残るのは、窓から射し、床・壁・天井を反射しつつ空間に満ちる光。その痕跡が家具の足から複数方向へと伸びる影に現れます。

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「陽光習作」
1906年 デーヴィズ・コレクション B312
Photo © Pernille Klemp

 「第VI章 誰もいない室内」。そして人もいなくなり、ドアノブも丁番もなく、光だけが残る。静かに移ろいゆく、その一瞬を切り取ろうとする眼と腕が辿り着いた終着点?

 デビューから絶筆まで、ハンマースホイの絵から受ける印象はほぼ一貫しています。生涯を通じて「何か」を描こうと探求を続ける姿は求道者のようです。彼の人となりを示す資料が少ないこともその印象を強めているのかもしれません。
 絵を大きく描いてトリミングしてゆく技法、人や家具を構図の要素と捉える視線、立体を平面的に描こうとする志向等、写真的なアプローチを多用している(むしろ理想の写真を撮るために描いている?)点も非常に興味深いです。
 少し肌寒い秋に、思索に耽りながら観るのにピッタリの展示です。

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2008年09月27日

●アート散策@代官山

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 打合せで代官山へ。モノトーンに装いを一変した「TKG Daikanyama」の前で足が停まる。中へ入ると、アダム・シルヴァーマン展「Nature Morte」を開催中。LAで活動する陶芸家の方だそうです。四角いフレームの中に納められた焼き物たちが可愛らしい。焼き物というと茶碗や湯呑といった実用品という意識があるので、オブジェのような焼き物たちをどう捉えたものか戸惑います。街の表層にアートが溢れ出ている感じが何より素敵。

 足を伸ばしてミヅマアートギャラリーへ。会田誠展「ワイはミヅマの岩鬼じゃーい!!」を観ました。まずは2階へ。入ってすぐに「モコモコ」。モコモコした犬のような、原爆のキノコ雲のような。続いて巻物「日本語」。美しい料紙と内容のギャップを楽しむのか?その上に「ドーハ」。座り込むラモスが印象的。その左手に二点展示されている「犬」は、四肢を切断されていると観るとひたすら痛い。さらに左手壁面いっぱいに並ぶ「判断力批判批判」。「判断力批判」の批判というお題はパスして、会田作品でモザイクタイルのように埋め尽くす趣向が楽しい。5階へ上がって、武蔵野美術大学の学生とのコラボレーション作品。ダンボールとガムテープで制作中の「現代ゴシック」。完成率50%くらい?悪ふざけとアートの境界を探るような展示の数々。個人的にはファーボール押し出しでした。

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2008年09月24日

●近代日本の巨匠たち@出光美術館

 出光美術館で開催中の「近代日本の巨匠たち」を観ました。観易さに配慮した会場構成と練りこまれた照明計画、そして何より優れたコレクション。私的リピーターランキング上位にランクインするお気に入りの場所です。

 「1.近代のめざめ」。会場入ってすぐに平櫛田中「張果像」。そのリアルな造形もさることながら、木彫りの地に超精密な透かし彫りのように書き込まれた着物柄に目が釘付け。本展の顔、上村松園「灯」。髪飾りの鮮やかな色彩、透ける髪留め、首まわりの刺繍模様の書き込み、袖口からのぞく白地に桜の花びらの描写。もうたまりません。富岡鉄斎「陽羨名壺図巻」。色味豊かで楽しい。坂本繁二郎「水指」。淡い虹色の光が満ちる美しさ。本展の主役の一人、小杉放庵「泰山木」。朱を背に、輪郭のない淡く確かな存在。同じく「金時遊行」。踊る孫と、それを目を細めて見守る放庵の姿が目に浮かびます。

 「2.茶のいろどり」。本展の主役の2人目、板谷波山「彩磁桔梗文水差」。白地の切れ間から桔梗がのぞくパターンと色彩の美しさ。

 「併設 仙崖展」。なぜか唐突に仙崖。指月布袋様の楽しげなお姿に、見る側も癒されます。「老人六歌仙画賛」。白雪姫の七人の小人みたい。「西都府懐古画賛」。染井、大宰府と九州の景色が続きます。観世音寺に行きたい。

 「3.和のモダニズム」、「4.近代陶芸のパイオニア」を経て、展示は「1.近代のめざめ」に戻ります。小杉放庵「銀鶏春光」。思わせぶりに翼を持ち上げるポーズ、間のとり方。同じく「山中秋意」。グラフィカルな美しさに満ちた構成美、点描のような紅葉の赤が効果的。最後に「さんたくろす」。日本画に迷い込んだサンタクロース。微笑ましいファンタジーワールド!

 松園の灯も素晴らしいですが、個人的には本展の主役は放庵でした。王道的な「山中秋意」からユーモアたっぷりな「さんたくろす」まで、幅広い活動と日本画の継承者としての腕前が遺憾なく発揮されています。

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2008年09月10日

●ジョン・エヴァレット・ミレイ展@Bunkamura ザ・ミュージアム

 Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」を観ました。水辺に横たわる「オフィーリア」のビジュアルで非常に印象に残る宣伝を展開しており、これは観ねばとチェックしていた展覧会です。金土は21:00まで開館している配慮も嬉しいです。

 展示は全7章からなり、ミレイの絵の変遷を辿ります。「オフィーリア」が非常に強烈に印象に残るためにラファエル前派の画家と思われがちですが、実は非常に幅広い画風の変遷があります。今回の展示は彼の人生を辿る回顧展として構成されています。

 とはいえ、印象に残るのはやはり「I ラファエル前派」。「両親の家のキリスト(大工の仕事場)」の描かれた木が本物の木を貼り付けたように見える描写力に目が釘付けです。「ジェイムズ・ワイアット・ジュニア夫人と娘のサラ」の人形のような愛らしさとプラスチックのような髪の毛の描写も印象的。「聖アグネス祭前夜」の超細密描画はもはや人間技とは思えないレベル。どうやって描いたのだろう。そして究極の一枚、「マリアナ」。その青い衣装の美しさと驚異的な質感、ベルトの超細密描写、ステンドグラスの透過光の描画、床の木の表現。もはやこれが絵とは思えないレベルの密度と完成度。さらに「オフィーリア」。その超細密な植物の表現は、糸を織るように線を紡いでいくことで新しい世界を生み出しています。そのリアルさゆえ、横たわる人物がマネキンに見えてきて不気味さも倍増。

 これ以降の章は超絶細密描写は影を潜め、やや大味なタッチに移行します。「姉妹」の華やかな美しさ、「霧にぬれたハリエニシダ」の霧に霞む描画等見応えのある絵も多いです。実物以上にリアルに描くときもあれば、マネキンのように作り物っぽく描くときもあり、それがなぜかと想像するのも楽しい。でもやはり冒頭の強烈な絵画の数々が、私にとってのミレイだと再認識しました。

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2008年08月04日

●ルオー大回顧展@出光美術館

 出光美術館で開催中の「ルオー大回顧展」を観ました。

 I 初期のグワッシュ・パステル・水彩画・油彩画(1897-1919)。「サロンにてI または 劇場にて」。「作品そっちのけでしゃべりに夢中な婦人たち」という解説文が、お隣でお喋りに夢中なご婦人たちの一行にぴったりで可笑しかった。サロンってこんな感じなんだ。数点の水彩画を経て、あっという間にルオー独特の、太い輪郭線で色彩を縁取る世界へ。素人目には、以降画風は変わらないように見えます。専属画商との出会いと合わせて、絵画制作に没頭する人生だったのかと思います。

 II 中期の油彩画(1920-1934)。「磔刑」。単純化され太く描かれたパーツ群がネオンみたい。「アニタ」。黒く太い輪郭、青いバック、煉瓦のような色彩。濃厚で雑然、心に残る絵画世界。

 III 銅版画集《ミセレーレ》と版画集。《ユビュおやじの再生》。ミセレーレの出版と引き換えに引き受けた仕事。薄く積層した透明感あるマチエール。銅版画集《ミセレーレ》。後期は第2部が展示中。「法は過酷、されど法」。モノクロの塑像のよう。

 IV 連作油彩画《受難》と色刷版画集。連作油彩画《受難》。「受難」、「聖顔」。透明感ある積層から、絵具を盛り上げた立体的な世界へ。黒が沈んで谷のよう。黒く隈取られ、ホッペが膨らんだ顔。「燃ゆる灯火の芯のごとく…」。人のきらめき。奥に引き込まれる。「ここに、一つの世界が幕を下ろして消え失せ、別の世界が生まれる」。三つの十字架。劇場版エヴァンゲリオンのラストシーンを思い出す。そういえば、新劇場版の第2作はどうなったんだろう。「マリアよ、あなたの息子は十字架の上で殺されるのです」。こちらもエヴァ。「出現」(墓からでるキリスト)。復活!手を広げるキリスト、歓喜する人々。「聖顔」。正方形の画布。

 V 後期の油彩画(1935-1956)。「バッカス祭」。セザンヌを髣髴させる画面。前期にも水浴が2枚あったので、生涯ゼザンヌを敬愛していたのだろう。「キリスト(とパリサイ人たち)」。目を伏せるキリスト。左に目を見開く兵士。「受難(うつむいた)」。黒い涙を流すキリスト。「たそがれ または 鐘楼」。ムンクの街。「聖書の風景」。絵具の盛り上がりが藁積みのよう。

 黒く太い輪郭線と立体作品の如き色彩の盛り上がりが作り出す、圧倒的かつ原始的なパワーを感じる一時でした。

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2008年03月31日

●生誕100年 東山魁夷展@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館で開催中の「生誕100年 東山魁夷展」。そのプレビューイベントに参加しました。先日訪れた香川県立東山魁夷せとうち美術館」での興奮冷めやらぬうちにプレビュー参加者の募集を知り、即応募しました。絶大な人気を誇る画家の過去最大規模の回顧展ということで、主催者側もやる気満々です。(会場内の撮影は主催者の方の許可を得ています)

 「第1章 模索の時代」「特集1 ドイツ留学」を経て、「第2章 東山芸術の確立」へ。早々に彼の代表作「道」が登場します。手前から画面中央上部へと伸びる道。その先は緩やかに下りながら右手へとフェードアウトしてゆきます。一度見たら忘れない、シンプルな構成と奥深い世界。「せとうち美術館」の白いアプローチはこの絵の建築的再現、会田誠「あぜ道」は本歌取り。さらに進むと、色彩も豊かに東山芸術が全開です。中でも「萬緑新」の美しさにうっとり。
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 奥に進むと「特集2 〈自然と形象〉と《たにま》」。「たにま」の創作過程を、元絵となる写真から、完成形へと至る過程スケッチを並べて見せます。一見単純に思える構成が、実は厳格な推敲の末に生まれたものであることを雄弁に物語ります。さらに同じく水辺を描いた「自然と形象 雪の谷間」と並べることで、両者の間の12年間の変化を見せます。留学先がパリでなくドイツであることも、この厳格さと関係あると思えて東山絵画の世界が深まります。

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 「第3章 ヨーロッパの風景」。自然の描写がより写実的に、細密的に変化する中で、「冬華」に目が惹かれます。手前に大きく団扇のように枝を広げる大木。絵の具を盛り上げて質感も強調されています。その奥に林。画面下端ギリギリに水平線を設定して構図を大きくトリミング、広く開いた上方には満月が浮かびます。超近景と遠景のメリハリの強い構成、異様に下にある視点、意味ありげに伸びる林の中の道。それらがモノトーンの白い画面の中に凝縮されています。不安定な要素を幾つも組み合わせつつ、全体として静的な印象を与える不思議な世界。
 「特集3 白馬のいる風景」。画面に登場する白馬は、美しくも何かバランスを崩した存在のように思えます。画家の心に起こった変化が投影されているのでしょうか。
 「第4章 日本の風景」。さらに深化した東山風景画の数々。ここで風景画は一段落です。

 「第5章 町・建物」、「特集4 窓」と建物をテーマにした展示が続きます。窓を中心にクローズアップした壁面が、不思議な表情を見せます。
 「第6章 モノクロームと墨」、「特集5 唐招提寺の障壁画」、「第7章 おわりなき旅」で1階の展示は終了です。絶筆「夕星」の空に輝く星が、画家の長い旅路の終わり、空へと帰る回帰を思わせます。

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 そして2階へ。唐招提寺障壁画群の実物が展示されています。「濤声」のスケール、瑞々しさ、躍動感は圧倒的。絵画の世界に入って、その波濤を聞いている錯覚を覚えます。建物の再現も非常に良くできています。畳に上がって正座して観られればベストですが、それだと人の流れが悪くなるのでしょう。

 作品の並べ方にも気が使われていて、決して詰め込みすぎず、適度な間が空けてあります。ゆったりとした気持ちで、東山絵画の美しさを堪能しつつ、彼の画業が回顧できる構成は素晴らしいです。本展を準備された方々、プレビューを企画された方々どうもありがとうございました。

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2008年03月26日

●モディリアーニ展@国立新美術館

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 数ヶ月ぶりに国立新美術館へ。吹き抜けにはオレンジのヘチマ(?)が浮いています。

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 その下ではアーティストの方が似顔絵描き。にこやかに話しながら、サッ、サッ、と鉛筆を走らせます。

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 テーブルにはTORAYA CAFEの軽食と飲み物。春の陽気も合わさって、なんとも和やかなひととき。一年経って、空間が柔らかくなった気がします。

 いつもお世話になっているこちらにお誘いいただいて、「モディリアーニ展」を観ました。
 展示はモディリアーニの絵画、スケッチのみを時系列に沿って淡々と並べます。章の合間には、ゆかりの人々の実物大写真が挟まれます。シンプルに、オールアバウトモディリアーニ。個人的には、第II章のカリアティッドの仏像を思わせる描画(特に「大きな赤い胸像」)と、第IV章のモディリアーニ美男美女の連続で、彼独特の陶酔感に酔いました。
 その一方で、スケッチに顕著なフォルムの省略とデフォルメは、モデルが気を悪くしないのだろうかと思うほどに大胆です。非常に端正な彼の容姿あっての絵画な気もします。同時に、この線でこそ捉えられる美があるのだと思います。好き嫌いが分かれそうですが、彼の絵画が好きな人には絶好の機会です。

 追記:描いていただいた似顔絵です。アーティストの方いわく「スーチンみたいになりそう」とのことでしたが、どうでしょう。顔の形が角ばっているところは本人似。それ以外はモディリアーニ風アレンジだと思って下さい。
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2008年03月01日

●ルノワール+ルノワール展@Bunkamura ザ・ミュージアム

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 金曜日の夜のBunkamuraは、ムードがあります。一週間が終わって、余暇の時間の幕が開く感じ。

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 エスカレーターを降りて中庭へ。ザ・ミュージアムにて「ルノワール+ルノワール展」が開催中。副題は「画家の父、映画監督の息子 2人の巨匠が日本初共演」。

 第1章「家族の肖像」。家族を描いた絵画に焦点を当てた内容。ピエール=オーギュスト・ルノワール「アリーヌ・シャリゴ」は、後の妻を明るい色彩、はっきりとした輪郭で描いていて印象的。「ジャン・ルノワールの肖像」は長髪にリボンを結んでいる。女装趣味?「狩姿のジャン」とジャン・ルノワール「ゲームの規則」は父の絵画と息子の映画を並べて展示。だからルノワール+ルノワール。
 第2章「モデル」。画家のモデルになった女性を展示。テーマ設定が明快で、冗長感が漂ういつもの構成とは一味違います。「コロナ・ロマノ、バラの若い女」は豊穣な表情と青が効いた色彩構成なルノワール美人。「読書する少女」は愛らしい。
 第3章「自然」。父「風景、ブーシヴァル」子「ピクニック」の舟遊びの様子。父「陽光のなかの裸婦(試作、裸婦・光の効果)」子「草の上の朝食」の木漏れ日の光の中で水浴する女性の描写。相互の表現がオーバーラップする様は、子の目を通して父の世界が再現されるようです。企画の意図にピタリと焦点を当てる展示。
 第4章「娯楽と社会生活」。父「ぶらんこ」子「ピクニック」は、動くメディアの利点を活かして子の表現が勝る感じ。溌剌とした表情のアップは特に素敵。父「田舎のダンス」子「恋多き女」。輪郭をぼかしつつもはっきりと感じさせる描写、男性の青い衣装と女性の赤い帽子、女性の手の扇子、打ち解けた表情。空間を凝縮したような描写は本展随一。やはりルノワールといえばピエール=オーギュスト・ルノワール。子「フレンチ・カンカン」。乱舞する色彩。

 とても良くできたエンターテイメントでした。Bunkamura ザ・ミュージアムで観た中でベスト。

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2008年02月19日

●白金-恵比寿-神楽坂-銀座

 先週の土曜日は、現代アート巡り+飲み。

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 まずは先日オープンした白金高輪のギャラリービル。
 最初にエレベーターで3階まで上がって山本現代「Dream of the Skull」へ。エレベーターを出るといきなり三点並ぶ巨大な顔。その迫力にタジタジ。
 エレベーターとギャラリーが直結した素晴らしい演出。でも竪穴区画(遮煙、遮炎)は大丈夫か?
 階段を降りて高橋コレクション白金「鴻池朋子 私の作品は他者のもの」へ。展示作品三点+作者によるテキスト。「オープンブック」。大きく開かれた本に、緻密に書き込まれたドローイング。昔の天動説をベースに、作者の内面が混ざり合ったような世界。地球断面に見立てた作品発生の図解はユニーク。「Knifer Life」。横長の大作。ナイフに上半身を覆われた人(?)。狼たちと宙に舞う無数のナイフ。そして立体。赤い紐が張り巡らされた中を、悠然と歩む全身鏡貼りの狼。床に敷き詰められた鏡破片に照明が反射して、壁、天井面に複雑な光を映し出します。レーザービームのように細く、鋭角に折れ曲がる赤い紐は無機的な空間に奥行きと変化を与えます。その美しさにうっとり。この作品と暮らしてみたい。大広間に直結して6帖の展示スペースを設けて本作を配置。大広間には大型液晶とソファ。電動の遮光スクリーンが閉じると一躍シアタールームに早変わり。。。展示スペースだけで自分の仕事スペースが埋まることに気づいて現実に帰りました。会場にあった大原美術館での展示図録と見比べると、床敷(木の実?)がなくなって赤い紐が加わり、別展示だった鏡の破片が床に敷き詰められています。会場に合わせて微調整をしているようです。こんなに充実したコレクションが無料で観られるなんて、東京はスゴイ。
 いったん外へ出て児玉画廊へ。刺繍を使ったドローイング?ちょっとピンとこないので早々に退散。

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 次に恵比寿のMA2ギャラリーへ。設計は千葉学建築計画事務所。交差点の角に建つ黒い箱。大きな開口部から内部が垣間見えます。黒い外壁は鉄板。建物と塀が一体になったようなシンプルなボリュームに、大きく孔を穿って街に開いたように見えます。中では3人の作家さんの作品を展示中。吹抜空間に2階開口から光が射して、空間に変化を与えています。階段下の形をそのまま現した斜め天井に合わせて斜めに展示した鶴の群れの写真が印象的。2階に上がると、床面に盛られた塩の造形。窓際の白い盛り上がりが手前に来るにしたがって床面のグレーに溶け込む。そのグランデーションがミニチュアの波を思い起こさせます。シンプルな建物かと思ったら、意外と線が多く感じたのは何故だろう。空間のボリュームに対して多くのモノを詰め込んでいるからか?

 そして高橋コレクション神楽坂へ。こちらは常設展。まずは会田誠「犬(雪月花のうち‘月’)」。包帯少女。日常の顔に包帯巻の手足。その先はあるのだろうか。痛々しい?虚無?不気味。山口晃「九相圖」「日光図、月光図」。後者は左右に並べた対の作品。黄色の輪郭線だけの日光と、ネガポジ反転のような月光。赤く光る目は続無残の輔でお馴染み。こんなタッチの作品もあるのだなと新発見。奥に小谷元彦。スズメを脅す目玉の立体版のような大きな渦巻きが三つ。真鍮の基部、そこに挿された羽。ダイナミックな作りは、写真よりもずっと良いです。西尾康之。巨大女性と街。ウルトラマンのように巨大化した女性が街を破壊するカタルシス?やっぱり高橋コレクションは面白い。

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 最後に銀座、博多昭和ホルモン食堂銀座店へ。昭和の歌謡曲が流れる懐かしい雰囲気の中、ヤカンビールを飲み、焼酎を飲み、焼肉を食べる、食べる、食べる。肴はアートの話題と窓の外の風景。最後の最後はカラオケで〆。ハシャギ過ぎと出張疲れで、翌日は何処にも出かけられず。でも、とても楽しい週末でした。

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2008年02月12日

●「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」@森美術館

 森美術館で開催中の「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」を観ました。

 展示室に入ると左手にシュテファン・バンケンホール「柱像:男」「柱像:女」。素朴な一木造(?)の彫刻にホッとします。右手にトーマス・ルフのポートレイトシリーズ。どこが特別なの?と思いつつじっと見る。チャック・クロース「セルフ・ポートレイト」の大きさに惹かれ、その裏手の荒木経惟「さっちゃん」を観るあたりから違和感を感じます。

 次室に進み、赤い円形カーペットに白い応接セットが置かれているのを観て、なんとなくそのわけが思い浮かびました。展示室の中に、スタイリッシュな応接スペース?まるでセットのよう。その壁面に、時系列やアーティスト名の制約を付けず、アートワークが並んでいる。「アートワークと空間の競演」という視点が好きなので、そのアプローチの違いに戸惑いました。この点については、後で聞いたシンポジウムで、美術館と企業コレクションの違いという話が出てきたので一応納得。

 オフィス(のセット)の中が今一つ落ち着かないので、アートワークそのものを観ることに専念しました。森村泰昌「階段を降りる天使」は画面の中で森山さん大活躍。畠山直哉「ブラスト 5707」の一瞬を捉える迫力。ジャン=ミシェル・バスケス「タバコvsインディアンの酋長」。彼の作品は初めて観たかも知れない。映画はずいぶん前に観ましたが。トーマス・シュルトゥルート「ナショナル・ギャラリー・ロンドン」。絵の前の観客も含めた作品。アンドレアス・グルスキー「99セント」。カラフルで空疎(に思える)風景。他の作品も普通の景色を色彩豊かに捉えていて魅力的。

 同時展示「もうひとつの風景:森アートコレクションより」。展示経路がつながっているので、実質一つの展覧会。オフィス空間が終わって、普通の展示空間へ。山口晃「東京圖 芝の大塔」。これって立体だったんだ。

 10年ほど前、当時勤めていた設計事務所でUBSの内装設計を担当しました。オフィスに当たり前にアートワークがある環境、スタイリッシュで機能的な家具。それらは魅力的であると同時に、激烈な部門間の統廃合と会社間の合併を繰り返す戦場のような場所でした。デザインの消費の早さに驚き、もっと長いスパンでモノ作りできる環境が欲しいと思ったことを覚えています。思うところ多々。

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2008年02月05日

●企業ブランディングにアートを活かす

 森美術館で開催中の「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」。そのシンポジウム「企業ブランディングにアートを活かす」を聞きました。直島の仕掛人、福武總一郎氏が出席されることに興味が湧きました。
 以下はその聴講メモ(走書き)です。聞き取り、メモの追いつかない箇所が多々あることを御了承下さい。
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南條さんのあいさつ:UBSのコレクション1,400点から140点を展示。オフィス空間に画がかかっている様子を再現。Art and Life。日頃からアートを楽しむ、コレクションをしましょうと言っている手前、森美術館のコレクションも一室を設けて展示。中国ブームから、日本、アジアも活性化。美術館の勢いが落ちる一方で、コレクターの時代が来ている?

トーク1:ペトラ・アレンズ(UBSアートコレクション・コレクティブアドバイザー)
ブランディングにアートを活かす。
Brand: Brand is promise. ex.BMW.
Pepsi vs CocaCola.
Zen vs iPod. Zen technically superior. iPod become market leader using brand. emotional relationship.
Brand can change the way how people taste.
UBS Brand:
about "You and Us": Deeper relationship with our clients. Receive high media reputation.
The UBS Art Brand in Action: 展覧会の記録。Moma NY、Latin America, Swizerland,Tate modern London, Singapole, Sydney.
ぼぼUBSの活用内容のサマリー。

トーク2:ジャン=クリストフ・アマン(UBSアートコレクション・アドヴァイザリーボード)
美術館コレクションと企業コレクションの違い。
美術館のコレクションは年代順に構成される。特に古い美術館。それ以上のドラマはない。
美術館はスタイル(様式?)に沿って揃える、企業は作品で選ぶ。
美術館はコレクションを構成する。企業はCollaboratorとEmployeeを向いている。Visitorのためではない。
UBS many of our clients are art collector.
UBS has future. Coming generation is deeply interested in contemporary art.

トーク3:福武総一郎(株式会社ベネッセコーポレーション代表取締役会長兼CEO)。
東京から岡山に戻って何をして良いのか分からなかった。
木村尚三郎「耕す文化の時代」。「どこにでも通用する普遍性を持った、しかも地方的な土地の匂いがする生き方」「鑑賞する中から触発されて行動する」。bene よく/esse 生きる。
企業は社会との関わりの中で生きている。他人の田は青く見える。自分たちの誇るものをどんどん壊してきた。
西田正憲「欧米人による瀬戸内海の風景論」。
地域を良くしていきたい。直島。民家が残っているところに草間さんを持ってくる。
護王神社。日本の神道は素晴らしい。教義がない。なのに自分たちが持っている素晴らしいものを信じていない。潰れかけた神社を建替えるという条件で実現した。
地中美術館のモネ。たまたま手に入った。聖地を作りたい。タレルとダリアも協力。生きていることの祝福。常に変わり続けていく。赤南瓜。はいしゃ。
現代美術。コピーができない。アーティストが願いをこめている(ものしか購入しない)。問題矛盾だらけの大都会よりも大自然の中に置いた方が良い。
良い地域とは、年寄りの笑顔が良い地域。若い人は放っておいても元気。自分の未来に希望が持てる。
東京はあまり良い未来を予測できない。お金を稼ぐには良い。
企業がアートに期待すること。
1.企業の方向性。地域、過疎、年寄りの笑顔。
2.グループの求心力。
3.発信力。Travelersのnext 7 wonders にnaoshimaが選ばれている(会場からオーッと歓声)。ボンド映画のロケ地。
企業のイメージ向上。復元力になる。困ったときは助けてもらえる。良い人材を採るのに良い。
企業価値を上げるのに、現代アートは切っても切り離せない。企業にとってアートは欠くべからずもの。やればやるほで成長していきたい。
日本の経済界はまだまだ経済が目的。経済は文化のしもべ。個性と魅力ある地域の集合体、日本になって欲しい。

ディスカッション:ペトラ・アレンズ、ジャン=クリストフ・アマン、福武總一郎
モデレーター:南條史夫
UBSはアートフェアにも参加。バーゼル、マイアミに顧客用VIPルームを設けている。Always helping client。同時にOpen to Everyone。
UBSは巡回型。福武さんがサイトスペシフィックな訳は?南條さんに相談して進めたので、南條さんに聞いて下さい。良い地域を作るための手法としてアートがある。主役じゃない。年寄りと過疎。世界が一目置くことを目指した。作品も建築も妥協しなかった。時間とともに積み重なっていくことが大事。
越後妻有トリエンナーレ。縁も縁もない。知人の北川フラムさんがやっていて、2回目を見に行った。このままだと上手くいかないと思った。3回目の資金集め等の手伝いをかってでた。4回目は総合プロデューサーとしてお手伝いする予定。
ベネッセとUBSの違い。ベネッセと違って、UBSは一人の決断で進まない。比べるものではない。本を書いて下さい。そして残り59カ国に翻訳して下さい。
変化する姿を見てもらいたい。
UBSのコレクションは欧米中心から非欧米へ。どう価値を判断?Quality is our root.

質疑:
若手アーティストの育成について。UBS Young Artist(支援プログラム?)があります(UBS)。財団を作りました(福武)。
ベネッセの今後の展開。直島、2010年せとうち国際芸祭。資金を出し続ける財団を作った。犬島、手島のプロジェクト。大竹伸朗の美術館。
アートをブランドとして使うさいに気をつけること。ブランドを高めるためのアート。島の味方と分かるまで10年。

南條さんの締め:森美術館も森ビルのブランド戦略の一端。企業だけの話ではない。個人も買う時代。

世界規模の戦略でビジネスの一環としてアートの活用を説くUBSを縦軸に、対照的な展開で現代アートの聖地を発展させ続ける福武さんを横軸に据えてのシンポジウム。全く間をおかずにどんどん話題を振り、進め、切り替えていく南條さんの舵捌きでとても締まった2時間弱でした。何より福武さんのちょっと朴訥な語り口と驚くほどの行動力を備えたキャラクターが強烈。直島に行った直後に、仕掛けた御本人の話を伺えるのはとても幸運でした。腑に落ちるところが山のようにあり、鮮烈な感動を覚えました。

安藤さんも面白いですが、福武さんも同じくらい面白かったです。お二人が話すと凸凹漫才になりそうだ。

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2007年12月20日

●TNM&TOPPANミュージアムシアター@東京国立博物館

 東京国立博物館で開催されている「TNM&TOPPANミュージアムシアター」を観ました。印刷会社が誇るVR技術のデモンストレーションを兼ねて、アートワークを体験するイベントの凸版印刷版です。比較的脚を伸ばしやすい上野での開催だったので、初めて体験しました。申し込み及び集合は表慶館。一時間前に申し込みに行ったら、二番目でした。試験段階ということで、まだまだ空いているようです。
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 シアターは少し歩いた建物の中に設置されています。出し物は「国宝 聖徳太子絵伝」。法隆寺東院伽藍、夢殿の後方左側にある絵殿に納められている壁画絵です。映像は全編CGで、東院伽藍をゆっくりと廻って絵殿へと入って行きます。高密度で映される映像は、CG独特のノッペリとした質感をかなり克服しています。わずかに夢殿屋根に載る宝珠の反射表現や、木材の凸凹感を表現しないといった箇所に嘘っぽさが残ります。後者は建物に入ると表現されるようになるので、演算処理能力の問題なのでしょうか。

 建物に入ると、その壁面に「聖徳太子絵伝」が浮かび上がり、本編スタート。かなり損失の激しい場面になると、江戸時代の模写を重ねて映して鑑賞を助けてくれます。お馴染みの10人の話を一度に聞く逸話から、驚異のジャンプ力や弓の腕前を披露する場面等々。伝説の数々が非常に分かりやすく解説されて行きます。ナビゲーターの方がゲーム機のようなコントローラーで画面内を自在に移動し、適度に場面解説が入る体験は、非常に臨場感がありかつ理解しやすいです。VR分野も技術のデモから、技術を使いこなす段階に入ったことを実感しました。

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2007年12月19日

●東京藝術大学 大学院美術科博士審査展@東京藝術大学美術館

 東京藝術大学美術館で開催された「東京藝術大学 大学院美術研究科博士審査展」を観ました。こちらで知ってチェックしておりました。博士審査が展示になるとは、さすが藝大!というミーハーな興味で観に行ったのですが、内容もバリエーションに富んでいます。学科名と展示作品のギャップを眺めながら歩くのが楽しいです。

 3階の展示。田口和奈「その中にある写真」。人物写真が並んでいて、ここ油絵学科?というギャップと、引き込まれるような表情に見入ってしまいます。張利「RESEPTUREシリーズ」。外面と内面を極端に切替えたファニチャーデザイン(?)にも見えます。触りたい欲求に駆られる、感覚に訴えるサーフェス。石川直樹「ARCHIPELAGO 群島」。南の島に行って、溶け込んで、島々を巡る巡礼記?。こちらは先端。仕事の都合で南に通っているので興味深いです。

 B1階の展示。保存修復のブースが妙に楽しい。鈴鴨富士子「油絵修復における補彩絵具の保存性に関する研究」のズラリと並ぶ色サンプル。菊池正敏「「秋篠寺乾漆心木」現状模刻及び復元考察」の仏様の製作過程の再現。古代の謎を解き明かすような研究の数々は、これも藝術だなと改めて納得。

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2007年08月21日

●ユトリロ展-モンマルトルの詩情-@千葉県立美術館

 お盆休み二日目は千葉市へ。千葉県に住みながら、千葉市に行くのは講習会と千葉市美術館くらい。今回は千葉県民なこちらこちらのオススメで、千葉県立美術館の「ユトリロ展-モンマルトルの詩情-」へ出かけました。

 炎天の下、大屋根が横たわる千葉県立美術館と、その向こうにポートタワー。煉瓦とガラス、水平と垂直、70年代と80年代の対比。美術館の設計は大高建築設計事務所、竣工は1974年。煉瓦積みの耐久性に優れた外壁、コンクリートの荒々しい質感を引き出した内壁、勾配屋根の架構が劇的なホール等、なかなかの仕上り。風車状に広がる展示スペースと、45度軸をずらして緑地へと延びる休憩スペースを組み合わせたプランもなかなか。複数の県美術団体の展覧会が開かれていて、県民ギャラリーとしては盛況。ただ、県立美術館としては少々寂しい。
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 「ユトリロ展」は、彼の有名な「白の時代」から始まります。彼の絵と並べて元絵となった絵葉書や当該地の写真を展示し、その背景を解説パネルで的確に述べてゆく構成は、淡々としていて見やすいです。母を慕いつつも満たされることのない境遇、飲酒と幽閉。その複雑な環境と、絵葉書と、天賦の才が産み出す「漆喰の白」。書き割りのように見える彼の絵の秘密が明かされていきます。
 彼の絵が売れると分かり、次々と登場する近縁のマネージャー。お酒のために絵を描き続けるユトリロ。絵は初期に及ばずとも、画家としての評価は高まり、パリ名誉市民賞も受賞して、70年を超える生涯を閉じます。
 絵は「ムーランの大聖堂」でピークに思えて、それ以降のものに魅力を感じませんでしたが、ユトリロの生涯をパネルと絵画で辿るツアーとしてはとても良く出来ていました。絵を観に行ったつもりだったので、ちょっと複雑な気分。

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2007年08月15日

●日本美術院研究所跡@五浦海岸

 明治39年(1906)、岡倉天心は日本美術院を五浦に移し、彼と共に4人の画家(横山大観、菱田春草、下村観山、木村武村)が移住します。そこで修行僧のような出で立ちで制作に励む4人を写した有名な写真がありますが、何かの展覧会でそれを見てとても興味を持ちました。東京で活躍していた俊英が、何ゆえ断崖に張り付くような場所に移り住み、制作に励むに至ったのか?

 五浦海岸の南から二つ目の浦「中磯」付近にある日本美術院研究所跡。翌年(1907)創設された文展で、天心、大観、観山は審査委員として参加。春草、武村はそれぞれ二等賞、三等賞に輝きます。文字通り崖っぷちからの返り咲き。
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 4つ目の浦「大五浦」と5つ目の浦「小五浦」の間にある天心旧邸を核にした茨城大学五浦美術文化研究所
 古い料亭の古材を再利用したという旧邸は、外観は手が入っていますが内部は概ね旧状を保っているそうです。ただし立入禁止なので外から眺めるのみ。
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 天心設計による六角堂と、そこから眺める太平洋。夏の晴れた日の景勝美は素晴らしいです。その一方で、曇天時の灰色の空が広がればそうとう鬱々とした雰囲気になりそう。別荘には良いが、住むにはちょっと厳しそう。当時の彼らの決意がこの地を選ばせたのか。。。
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2007年07月18日

●山種コレクション名品選 後期

 山種美術館で開催された「山種コレクション名品選 後期」を観ました。近代日本画にはそれほど興味がなかったのですが、辻惟雄著「日本美術の歴史」を読んで以降、体系立てて美術を観ることにはまっています。日本画で有名な山種美術館を訪れるのも、今回が初めて。

 入館してすぐの福田平八郎「筍」が目を惹きます。黒い筒にちょっぴり覗く緑の芽、淡い背景描写。対象の捉え方が独特で、やはり面白い。上村松園「牡丹雪」の大胆な余白のとり方、真っ白な雪と傘裏の対比、女性描写も美しい。しかしなんといっても速水御舟「炎舞」。展示室一番奥に鎮座し、スポットライトに浮かび上がるヌラヌラとした炎の揺らぎと、舞う蛾の怪しげで儚い美しさ。複数の御舟の絵画が並ぶ本展の中でも、明らかに異質に思える怪作。思っていたよりも小さくのが意外でした。

 館内は天井が低く、展示スペースも手狭でいささか雑然とした印象を受けます。まるでデパートの催事場のよう。名品が並ぶ展示内容とのギャップに少し戸惑います。立地は千鳥ヶ淵のすぐ近く。週末であたりは閑散としていますが、館内はけっこうな人の入り。固定ファンの方たちが多い印象を受けました。
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 こちらは菱田春草「落葉」を観に行った松岡美術館。コレクションを見せるための器として、なかなかの完成度。
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2007年05月01日

●パリへ―洋画家たち百年の夢

 東京藝術大学大学美術館で開催中の「パリへ―洋画家たち百年の夢」を観ました。副題は「~黒田清輝、藤島武二、藤田嗣治から現代まで~」。文明開化以降パリに渡った俊英たちの作品を通して、洋画確立の軌跡を辿る企画展です。平たく言えば、教科書で見た近代以降の日本絵画がゴロゴロ並ぶ展覧会。

 第1章  黒田清輝のパリ留学時代。会場入ってすぐに、本展の顔、黒田清輝「婦人像(厨房)」。グレートーンの中の冷たさと暖かさの描写、前を見据える視線が印象的。有名な「湖畔」よりも、こちらの方が好きです。
 その師ラファエル・コラン「田園恋愛詩」。印象派の技法を取り入れたアカデミズムの画家。良いとこ取りな反面、人物表現の硬さや構図に唐突な感じを受けます。コランに黒田を紹介したのは画商林忠正だそうですが、彼はモネと親交があったことでも有名です。落ち目なアカデミズムよりも、人気絶頂の印象派の巨匠に弟子入りという可能性はなかったのでしょうか。
 山本芳翠「浦島図」。油絵でコッテリ描かれた浦島太郎と竜宮城の人魚たち。なぜかお爺さんも混じっています。群像構図と掲げた旗が、ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」を思わせますが、元ネタは観たのでしょうか。ごった煮の闇鍋のような面白さを感じます。

 第2章 東京美術学校西洋画科と白馬会の設立。黒田清輝「智・感・情」(会期後半は「湖畔」と入れ替え)。油絵のコッテリした人物像を、金屏風に貼り付けた意欲作。でもコッテリ。印象派の表現を試みた「鉄砲百合」、「雲」。こちらも西洋のローカル化(日本化)の試作な感じ。名家に生まれ、「近代洋画の父」を約束されたこの人は、真面目な秀才だったんだろうなあ。
 和田英作「野遊」。三美人像のモティーフ、ルソーを思わせる密林、天平調(?)な衣装、垂れ下がる藤。これは融合なのか回帰なのか、でも面白い。「法隆寺金堂壁画第五号壁模写」。模写とはいえ、保存状態が良くて何より。
 藤島武二「女の横顔」。西洋に範をとりつつ、東洋に「昇華」するように思えて好きです。「港の朝陽」の省略された船の描写も面白い。
 梅原龍三郎「北京秋天」。緑の人物画は苦手ですが、これは色彩が綺麗。

 第3章 両大戦間のパリ―藤田嗣治と佐伯祐三の周辺。佐伯祐三「オーヴェールの教会」、「靴屋(コリドヌル)」、「広告塔」、「パンテオン寺院」。独特の荒々しく繊細なタッチはとても心に残ります。夭折を賞賛するような言い回しは好きではありませんが、それゆえに到達できる境地があるかと思うと複雑。
 藤田嗣治の作品は去年観た「藤田嗣治展」のスーパーダイジェストという感じ。その人気っぷりは今も昔もすごいのだなと改めて実感。
 小出楢重「自画像」。卒業制作で、このふてぶてしさ!佐伯や藤田の自画像も良いですが、こっちも良いです。

 第5章 戦後の留学生と現在パリで活躍する人びと。現代的な作品が並び、一気に肩の力が抜けて気楽に観られる一方で、どこら辺がパリなのか良く分かりません。でも、この中から歴史を紡ぐ作品が出るかと思うと面白いです。岩田榮吉「日本人形(トロンプルイユ)」の立体騙し絵のような構成や、モリエヒデオ「ロベスピエールと革命的快楽」の生理的不快感を伴うインパクトが印象に残りました。物語の挿絵のような絵が目についたのは、絵画単独では成立しにくい時代なのでしょうか。

オルセー美術館展」、「異邦人たちのパリ」、「大回顧展モネ」、そして本展と、パリに縁のある企画展が続きますが、その中ではちょっと地味な感じです。でも、借り物の巨匠よりも、日本発のアートを応援したいです。

 上野公園の緑を抜けて、芸大へ。初夏の素晴らしい一時。
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 同時開催は芸大コレクション展「新入生歓迎・春の名品選」。
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 美術館ロビーから見える新緑。外壁のアースカラーとの対比が素敵。
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2007年04月24日

●大回顧展モネ@国立新美術館

 国立新美術館で開催中の「大回顧展モネ」を鑑賞しました。
 日本人に人気の高いモネの、新しい国立美術館の開館を記念しての、大回顧展。今回の展示の特徴は、作品を年代順ではなく、テーマ毎に並べているところにあります。これは賛否両論ありそうですが、モネの同系統の作品を見比べて、その差異を楽しむという点でとても優れています。名ガイドさんの解説付で観たので、見応え十二分でした。質、量ともに、今年1、2位を争う内容だと思います。

 第1章 近代生活。一枚目は「ゴーディベール婦人」。光を粒子の重ね合わせとして描く以前の作品。色彩とポーズの美しさが印象的。中程に「日傘の女性」が、モネ展のキックオフを告げるが如く登場。後半に「読書をするシュザンヌと描くブランシュ」。萌えるような緑と、人物と背景を同じ比重で描く視点。

 第2章 印象。「雪の中のコルサース山」から初期の名作「かささぎ」まで、雪を描いた作品が並びます。雪の白を、遠景、日の当たる所、日陰と描き分ける様が見事。「アルジャントゥイユのモネの庭」曇天のバラ園と「庭のカミーユ・モネと子供」の晴天下のバラ園。光の変化を鋭敏に捉える、モネの眼を実感できます。「モントルグイユ街、1878年パリ万博の祝祭」の実体を失い、美しい色彩の揺れで描写される旗に、時間の経過と祝祭の熱気が感じられます。

 第3章 構図。「プールヴィルの税官吏の小屋、波立つ海」から「エトルタの日没」を経て「ポール=ドモワの洞窟」と並ぶ海と岩の描写。海は荒れ、太陽光を映し込み、透けて深底を垣間見せる。岩も荒々しく、静寂に沈み、そして暖かな色味を見せる。千変万化の自然を捉える確かな眼。「大運河、ヴェネツィア」のロマンティックで暖かな色彩美、その隣に「コンタリーニ宮」。川面越しに正面から宮殿を捉えることで、静寂さと時間の流れを封じ込めた作品。今回一番印象に残りました。さらに振り返ると「黄昏、ヴェネツィア」。燃えるような日没が大気に霞む、その幻想的で美しい眺め。

 第4章 連作。「ルーアン大聖堂、正面とサン=ロマン塔」、「霧のルーアン大聖堂」と並ぶ青い大聖堂。「オルセー美術館展」で観た光の大聖堂とは全く異なった表情を見せます。「ウォータールー橋、ロンドン」から「国会議事堂、日没」へと至るロンドンシリーズ。曇天に沈む街、霧に霞む眺め、薄く射す光に煌く水面、平面のような奥行きのない世界に浮かぶ夕日。橋を重用する構図といい、自然描写といい、とても日本的な捉え方に思えます。

 第5章 睡蓮/庭。クライマックスは睡蓮。「日本風太鼓橋」、「ばらの小径」の抽象絵画のような描写も興味深いですが、ポーラ美術館蔵の「睡蓮」の大胆に水面のみを切り取る構成と美しい水面と花の描写が好きです。太鼓橋のある池に睡蓮が浮かぶお馴染みの絵がないのが残念。それを貸し出すと所蔵美術館の立場がない?

 視覚的な見栄えから考えて分けられたのではと思うほど、各章ごとに見応えのある作品が並び、併設された「印象派の巨匠、その遺産」も含めて、大回顧展の名に相応しい展示でした。

 大規模ギャラリースペースとしてのお披露目は大成功だと思います。波打つガラス壁が緑を取り込むようで印象的でした。
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2007年03月04日

●日本橋-八重洲 アート巡り

 「フンデルトヴァッサー展」のチケットをいただいたので、週末の日本橋へと出かけました。年末にプラネタリウムを観たり年始に志野茶碗を観たりで、この界隈に出かける機会が増えてきました。ビジネス街から24時間人が集う街へと変貌が進んでいることを実感できます。せっかくなので、日本橋から八重洲まで、アート巡りを楽しみました。

 始まりは五街道の起点、日本橋。日本橋三越本店で開催中の「フンデルトヴァッサー展」へ。鮮やかな色彩と渦巻く線が作り出す豊穣なイメージに圧倒されます。日本の木版技術者とコラボレートした版画の数々、版画集「雨の日に見てごらん」シリーズ、巨大なタペストリー。自然に帰るというよりも、人工物すら取り込んで自分の世界へと再構築してゆく暴力的とも思える力強さ。それは、宮崎駿さんや荒川修作さんの元ネタとしても興味深いです。最後に上映されていたビデオも、彼の物静かで過激な人柄がうかがえて良かったです。ただ、今回の展示を観る限り、彼は画家であって、建築家ではないと思います。
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 日本橋三井タワーの吹抜けを経て、三井記念美術館へ。「三井家のおひなさま」、「丸平文庫の京人形」が開催中です。どんな絢爛豪華な世界が展開するのかと楽しみにしていたのですが、意外と普通。最後の「丸平文庫の京人形」が良かったです。金屏風や紅白幕を背景に展開される、花を抱え舞踊る人形の数々。醍醐の花見もかくやと思わせる華やかさは、三月の節句に相応しいです。特に舞踏人形(胡蝶)が印象に残りました。
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 日本橋高島屋。「髙島屋美術部創設百年」というお知らせを新聞で見て、近代著名画家の作品がズラズラと並ぶのかと思い寄りました。実際には、再来年の創設百年に向けて、3年に渡り記念企画展を開催していくそうです。皮切りとして開催中の「名家百画展」と「美術百年の継承展」を観ました。近代から現代へと脈々と続く日本ファインアートの歴史を、画家にとって大切な商談窓口であろう髙島屋の視点から通観します。実物で観る作家インデックスという感じ。
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 一休みして、ブリヂストン美術館へ。「じっと見る 印象派から現代まで」展を開催中です。展示室壁面沿いに折り上げて光源を隠す天井、絨毯とフローリングを貼り分けて靴音を抑える床、作品テーマ毎に色を塗り分ける壁、展示室中央に置かれたソファと閑静な館内。絵画とじっくりと向き合える素敵な場所です。ポスターにもなっているルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」のフワフワした愛らしさと、藤田嗣治「ドルドーニュの家」のモダンなセンスが印象に残りました。人物画の印象が強い藤田ですが、建物画も上手いと思います。あの乳白表現を連想させる白壁は独特の質感を湛えます。

 最後に八重洲ブックセンターへ。気になっていたあの本や、仕事に役立ちそうなこんな本、アートの世界が広がりそうなそんな本がゴロゴロ。ついでだから我慢していたあの本も手を出すか!といったノリで気づけば数冊が手元に。買いすぎました。
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 面的な繋がりを強化するべく「メトロリンク日本橋」という無料巡回バスもあります。六本木アートトライアングルもそうですが、これからは箱の勝負でなく、面的なネットワークの充実が地域の力になります。

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2007年02月26日

●異邦人たちのパリ

 国立新美術館で開催中の「異邦人たちのパリ 1900-2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」を鑑賞しました。

 展示はパリゆかりの作家の作品を、近代の巨匠から現代作家まで一気に駆け抜けます。膨大なポンピドー・センターのコレクションがコンパクトにまとまって引っ越してきたような展示は華やかで、国内最大級の展示スペースを誇る新美術館をアピールする面でも効果的。

 「Section1 モンマルトルからモンパルナスへ」。入口すぐに藤田嗣治「カフェにて」があり、少し進んでマルク・シャガール「緑の自画像」、アルベルト・ジャコメッティ「デディーの肖像」と密度濃く並びます。特にシャガール「エッフェル塔の新郎新婦」が並ぶあたりが印象的。コンスタンティン・ブランクーシ「眠れるミューズ」は、これだけ作品が並ぶ中でも、確たる存在感を放っています。

 「Section2 外から来た抽象」。ヴァリシー・カンディンスキー「相互和音」はとても好きな作品。でもあまり目立っていません。ザオ・ウォーキー「青のコンポジション」の力強さ、アガム「ダブル・メタモルフォーゼIII」の動く騙し絵のような面白さと美しさが素敵。「ああ、美術館に来てるな」という充実感があります。

 「Section3 パリにおける具象革命」。理屈っぽい作品が多かったです。それだけ現代に近づいたということ?

 「Section4 マルチカルチャーの都・パリ」。現代アート展。最後のチェン・ゼン「ラウンド・テーブル」が印象に残りました。円卓を囲みながら座れない椅子。論旨を、机に椅子をめり込ませるという明快な造形で表現するところがスマート。

 この華やかな世界も5/7まで。「あそこに行けば何々が観られる」という常套手段を持たない箱が、どんな魅力的な世界を展開してくれるのか楽しみです。
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2007年02月18日

●オルセー美術館展

 東京都美術館で開催中の「オルセー美術館展」を鑑賞しました。平日の午後に出かけて、ちょっと混んでいる感じ。入口にある「混雑しております」、「大変混雑しております」、「入場規制をしております」の三段階表示では、「混雑しております」になっていました。

 人の入りとしてはまだまだ余裕があるものの、展示室入口や、小品が角部を集まるところでは、幾層もの人垣が出来て鑑賞という雰囲気ではありません。大作、話題作を中心に、ちょっと離れて観て回りました。

 「I 親密な時間」。最後に展示してある大作、アルベール・バルトロメ「温室の中で」が素晴らしかったです。建具による光と影のコントラスト、その中に浮き立つ白と紺の衣装を着た婦人、そして奥に広がる庭園。モデルを務めた奥様が亡くなると筆を折って彫刻へ移ったという解説を読んで印象がさらに深まりました。

 「II 特別な場所」。クロード・モネ「ルーアン大聖堂」の光の表現が印象的でした。巨大な建築物を、陰影に頼り過ぎず、光に同化もしくは溶け込むように描画する観察眼と技術と執念。ちょっと近寄り難い北斎のような画だと思いました。

 「III はるか彼方へ」。フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのゴッホの寝室」は、AOKITで構図も舞台装置も予習バッチリで本家と御対面。床のハゲチョロ具合や、壁のペンキ塗り重ね感が本家の方がリアル(?)で、意外と健康的な絵という印象でした。

 「IV 芸術家の生活」。エドゥアール・マネ「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」に目が釘付け。マネの黒の魅力は宿題として持ち帰るとして、その黒を引き立たせる背後の光の表現が素晴らしい。それほど大きくない作品ながら、遠くからもその光り輝く様が美しい。間近で観る意外と荒いタッチとのコントラストは、まさに印象派という魔術。

 「V 幻想の世界へ」。ヴィルヘルム・ハンマースホイ「室内、ストランゲーデ30番地」に流れる静謐な時間。開け放たれた扉の白と、奥に垂れ下がるテーブルクロスの白の対位。両者をつなぐカーペットの縦線模様。壁に小さく飾られた絵画による視線の小休止。奥のソファと横手から射す光が、右手へと広がる空間を予感させる。とても読み易い構図だけれども、それは舞台装置に過ぎない。普遍性を与えるモノはなんだろうか。

 オルセーにまた行きたいなという気持ちでいっぱいになる、素敵な一時でした。
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2006年11月30日

●スーパーエッシャー展

 Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「スーパーエッシャー展」の鑑賞メモです。
 行ったのは展覧会初日の11/11。講演会を聴いてから展示を観たこともあって、これまでのエッシャー像が一変するくらいの興味深い内容でした。内容についてはこちら(講演会展示)とこちら(講演会展示)で詳しくレポートされています。是非御一読下さい。

 講演会「M.C.エッシャーの絵画と錯視構造」。講師はBunkamura ザ・ミュージアムのプロデューサーを務めておられる木島俊介さん。とてもスマートな語り口で、絵画にまつわる薀蓄を交えつつエッシャーの生涯を振り返ります。
・エッシャーの父は優れた港湾技術者で、仕事で日本に滞在した。福井県三国に彼設計のドームがある。
・人間は知っているものしか描けない。自分が見たいように描く。
・版画は世界を二元的に見る。対立と照応。図と地。
・エッシャーの絵の変遷。イタリア旅行時の絵に見る、明暗が交錯する世界。モノをそのまま描くのでなく、モノが持っているものを効果的に描く。「昼と夜」に見る、光と影の上下関係。平面の正則分割から無限性へ。円の概念の導入、永久運動による無限性表現。
・無限性の表現に必要なもの。イスファハンのドーム、神が顕れる場所。ローマの無限唐草文様、メディコスモス。
・エッシャーは球の追求の半ばで亡くなった。トポスの中に美が顕現するのを待っている。
 究極の表現として無限性を、その手法としてドーム空間を提示し、エッシャーがそこを目指しつつ道半ばで亡くなったことを(仮定して)惜しむ構成は、講演会としてそんなのありなの?とちょっとビックリ。話が上品かつ難しかったですが、エッシャーを観る幾つかのキーワードと視点を得られて良かったです。

 「スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡」。
 若い頃の自画像、イタリア旅行での立体的な地形や都市、建築空間の描写。これらは、版画家よりも、才気溢れる若き建築家がグランドツアーとして古典を巡る様を髣髴させます。
 そしてイタリアを離れるとともに平面の世界へと移行。ここでも正則分割というシステムを導入して、表現に制約を課します。それは建築が構造というシステムでもって、重力という制約と常に向かい合うかの如く。ネタ帳「エッシャーノート」に見られるパターンの研究は、絵で書いた数式のよう。「昼と夜」は時間=光と影の交錯と、立体から平面的へと変化する描写と相まって、昼と夜を繰り返す時間空間体験のようです。
 立体グリッドをトビウオに置き換えた「深み」は、立体グリッドを構造体、トビウオをファサードと読むと分かり易いと思えます。座標点に被せるのが、単なる直方体かトビウオかの違い。その一方で、エッシャーの絵をCGで立体化した映像で観ると、彼の空間が意外と単調に思えます。平面上で表現される立体及び空間体験と、立体で実体験と化す建築では、やはり目指すところが違うのか。モダニズムの頃だから、当時は一致していたかも。
 そして錯視のトリック。このあたりから「知られているエッシャー」の世界へ。「滝」においては、建築はトリックのための舞台装置に留まり、錯視が主役に躍り出て見えます。

 エッシャーはどうして建築家にならなかったのだろう。偉大な版画家の展覧会にその問いはなかろう。理屈では分かっていても、会場でずっと気になりました。木島さんの話術に呑まれたのか、随分と濃いひとときになりました。展示はエッシャーの全貌に触れるまたとない機会になっています。フレッシュな気持ちでもう一度行きたいと思います。

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2006年11月04日

●光彩時空 in 東京国立博物館

 東京国立博物館屋外スペースで開催中の「光彩時空」を鑑賞しました。ライトアップと邦楽ライブを組み合わせた幻想夜景絵巻と銘打ったイベントです。照明デザイン及びプロデュースは、数々のライトアップイベントで有名な石井幹子さん。

 ライブは東洋館前、本館前、平成館前、法隆寺宝物館前の順に、1周1時間半かけて巡回しながら行われるので、観客もそれに合わせて移動します。様式、時代の異なる建物を巡回するうちに、あたかも時間空間を超越した絵巻物を体験しているような感覚を覚えるという仕掛けです。

 2周あるので、ゆっくりと過ごせるのが良いです。本館国宝室で「観楓図屏風」を鑑賞し、東洋館レストランで食事をして、改修の終わった表慶館を観つつ、光と音の饗宴を楽しみました。想像以上に面白かったので、寒空の下に少々長居をし過ぎました。

 本館前には所蔵品の映像が次々と映ります。派手なイベントには光琳が似合います。
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 東洋館前で邦楽ライブ中。中央に5人ほどで演奏しています。演奏自体はこじんまりとしています。
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 宝物館のライトアップ。ピンクの照明が映えます。ライブスペースとしては少々手狭。
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2006年09月05日

●ピカソとモディリアーニの時代

 都内で時間が空いたので、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ピカソとモディリアーニの時代」展を鑑賞しました。対象を解体、再構築しつつも、画面からはメルヘンチックな味わいが感じられる不思議な時代です。

 展示はブラックから始まります。幾何学形態に還元、再構築された画面が、美味しそうな梨に見えてきます。さらに断片化し切り刻まれた光のプリズムのような画面が続きます。ピカソ、レジェと続いてモディリアーニの部屋へ。この部屋は良いです。今回の展示の顔である「母と子」を中心に、赤と青の競演を背景の青ストライプが引き立てます。中央のソファに腰掛けて部屋を見回すと、満たされた気分になります。次の部屋に進むと、ミロとクレーの不思議な世界に幻惑され、カンディンスキー「コンポジション」のルールあるメルヘンに目が釘付けになります。最後に第二次大戦後の絵画が並んで終了です。近代絵画を散歩するように観て廻れる、バラエティ豊かな展示だと思います。

 美術館、書店、レストランに囲まれた密度の高い中庭。実に9年ぶりに来ました。
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2006年07月14日

●没後30年 高島野十郎展

 三鷹市美術ギャラリーで開催中の「没後30年 高島野十郎展」を鑑賞しました。柏市増尾にアトリエを構えたという話を聞いて、これは行かねばと思いました。

 展示は4章からなります。入口を入ると「青年時代」です。若き日の自画像が並びます。暗いトーンの中、袈裟と鋭い眼光が印象的です。次いで「欧州時代」。ヨーロッパでの風景画が並びます。明るめのトーンに旅先での感動が伝わるようです。そして帰国後の絵画を展示する「慈悲としての写実」。「朝霧」は画面中段に三本の木が描かれています。それぞれの濃淡を書き分けることで、朝の霧を描写し、画面に奥行きを与えています。まるで絵が呼吸しているようです。画題も馴染みある新宿御苑や、奈良の寺々が登場して引き込まれます。中でも「雨 法隆寺塔」は縦に引いた雨線が美しく、ザーッという音が聞こえるようです。その一方で何気ない自然の描写も素晴らしく、「菜の花」の素直で大胆な構図、「流」の水と岩場の表現には目を見張ります。最後が「光を蒔く人」。太陽を描き、月を描き、最後は蝋燭の炎を描いた絵が並びます。写実的な描写と相まって、こんなにも光が描けるものかと驚きます。部屋を暗くし、絵だけに照明を当てて、蝋燭の炎の臨場感を高める演出も効果的です。

 空気や光といった、目には見えないモノを意欲的に描く姿勢と、その技術には驚くばかりです。増尾の田と里山の風景がとても新鮮に見えるようになりました。

 もうじき始まる「柏市所蔵美術品展」では、高島野十郎の作品を含む10数点が展示されます。場所は中村順二美術館、会期は7/19-7/30です。詳しくはこちらをご覧下さい。

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2006年06月06日

●アート・スタディーズ 第6回

 建て替えが進む東京を歩いていると、建物の寿命って意外と短いのではと思うときがあります。そんなときに目にとまったのが「アート・スタディーズ/20世紀日本建築・美術の名品はどこにある?」。全20回かけて、20世紀建築・美術を通史的に検証、発掘を試みるレクチャー+討議イベントです。いろいろと興味深い話が聞けそうだと直感したので、遅ればせながら第6回から参加することにしました。

 今回は1930年代を題材に、「和洋統合の精華」というテーマで進みます。建築は吉田五十八を取り上げ、堀口捨巳との違い、ミースとの比較を通して考察します。美術は須田国太郎を取り上げ、黒田・安田・梅原との違いを踏まえて彼の取り組みを紹介します。「DNAレベルの再構築」というキーワードでもって両者はつながります。吉田は「古典」をミースに通じる近代の「合理性」でもって再構築し、須田は油彩絵画を材料、性質に立ち返りヴェネツィア派を参照して再構築します。同時代の建築と美術に共通項を設定して、専門の方に語ってもらう試みはとても興味深いです。相乗効果を生むところまでは行きませんが、一粒で二度美味しいに近い感じ。先日ハウス オブ シセイドウのミニシアターで須田国太郎の初個展(1932年)の再現CGムービーを観たのが良い参考資料になりました。

 会場は東博資料館でした。窓から平成館が見えます。もうすぐ「プライス展」です。
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2006年05月13日

●「藤田嗣治展」 夜間鑑賞

 昨日は午後から役所と現場に行って、終わったのは夕方遅くでした。夜間鑑賞にピッタリの時間だったので、再度「藤田嗣治展」を観に行きました。構成は一本芯が通っていて、作品はバラエティに富んでいる展示が好きなので、その点でこの展示はとても魅力的です。

 構成は前回踏まえたので、今回は好きな作品探しをしました。
 一番は「猫」。躍動感ある多数の猫を奥行きのない平面に貼り込んだような不思議な構成、その中で顔の周りだけ面相筆で描き込んでディテールを浮き上がらせてマクロ撮影のような効果を生む技法。見飽きない面白さがあります。
 二番は1936年の「自画像」。「まあ、ゆっくりしていきなよ」とでもいうように、懐に猫を抱いて寛いだ藤田が迎えてくれるようです。日本情緒で埋め尽くされた画面も和みます。
 三番は「動物宴」。猫、犬、狼、猿、鶏。擬人化された動物たちのパーティー風景は分け分かりませんが、賑やかでコミカルな楽しさに溢れています。これまで主役だった裸婦は壁のデッサンに追いやられ、遂に動物たちの時代が到来です。
 四番は「カフェにて」。落ち着きのある色彩の中に、黒い服を着た白い肌の女性。上唇を少し伸ばして口を噛むような口元、アイシャドウが綺麗な憂いを帯びた瞳。藤田の様々な特徴を集大成したような一枚。

 20:10頃の様子。夜間鑑賞でも人出は変わらず。大人気です。
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2006年05月11日

●藤田嗣治展

 東京国立近代美術館で開催中の藤田嗣治展を鑑賞しました。卓越した画力と奔放な生き方、そして死後の公開制限。近代の画家にもかかわらず、これまで断片的にしか触れる機会のなかった彼の全貌を知る、またとない機会です。

 展示は藤田の足跡を辿りつつ、その時代時代の画を並べています。パリへ向かうところから始まり、独自の画風を確立しての成功、パリを離れて中南米を経由して日本への帰還、戦争画を経て、再びパリへ旅立ちそして移住。舞台とパートナーを次々と替える奔放さ、その度に新たな描法を吸収してゆく貪欲さ、それらを画に昇華する高い技術、「細い線に乳白色の色彩」や「おかっぱ頭に猫」といった独自性確立への執念が、画の変遷を通して伝わってきます。

 パリで大成功を収めた「細い線に乳白色の色彩」の後には中南米での「太い線と豊かな量感と色彩」が並び、その大胆な変化は驚きです。主題である人物画の合間には自画像や動物画がはさまれ、親しみの涌く一面を見せてくれます。再度パリへ渡った頃から登場する「動物に囲まれた乳白色の人物画」は、それまでの経験が熟成され表出しているようで興味深いです。そして上唇を少し突き出し、噛むような口元と、丸く憂いを帯びた瞳の人物描写は、とても現代的に思えます。立体的に藤田の人物像が感じられる、よくまとまった回顧展だと思います。

 混んでると評判なので、平日の夕方に行きました。待たずに入れましたが、少々時間切れ気味でした。
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