2007年05月01日

●パリへ―洋画家たち百年の夢

 東京藝術大学大学美術館で開催中の「パリへ―洋画家たち百年の夢」を観ました。副題は「~黒田清輝、藤島武二、藤田嗣治から現代まで~」。文明開化以降パリに渡った俊英たちの作品を通して、洋画確立の軌跡を辿る企画展です。平たく言えば、教科書で見た近代以降の日本絵画がゴロゴロ並ぶ展覧会。

 第1章  黒田清輝のパリ留学時代。会場入ってすぐに、本展の顔、黒田清輝「婦人像(厨房)」。グレートーンの中の冷たさと暖かさの描写、前を見据える視線が印象的。有名な「湖畔」よりも、こちらの方が好きです。
 その師ラファエル・コラン「田園恋愛詩」。印象派の技法を取り入れたアカデミズムの画家。良いとこ取りな反面、人物表現の硬さや構図に唐突な感じを受けます。コランに黒田を紹介したのは画商林忠正だそうですが、彼はモネと親交があったことでも有名です。落ち目なアカデミズムよりも、人気絶頂の印象派の巨匠に弟子入りという可能性はなかったのでしょうか。
 山本芳翠「浦島図」。油絵でコッテリ描かれた浦島太郎と竜宮城の人魚たち。なぜかお爺さんも混じっています。群像構図と掲げた旗が、ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」を思わせますが、元ネタは観たのでしょうか。ごった煮の闇鍋のような面白さを感じます。

 第2章 東京美術学校西洋画科と白馬会の設立。黒田清輝「智・感・情」(会期後半は「湖畔」と入れ替え)。油絵のコッテリした人物像を、金屏風に貼り付けた意欲作。でもコッテリ。印象派の表現を試みた「鉄砲百合」、「雲」。こちらも西洋のローカル化(日本化)の試作な感じ。名家に生まれ、「近代洋画の父」を約束されたこの人は、真面目な秀才だったんだろうなあ。
 和田英作「野遊」。三美人像のモティーフ、ルソーを思わせる密林、天平調(?)な衣装、垂れ下がる藤。これは融合なのか回帰なのか、でも面白い。「法隆寺金堂壁画第五号壁模写」。模写とはいえ、保存状態が良くて何より。
 藤島武二「女の横顔」。西洋に範をとりつつ、東洋に「昇華」するように思えて好きです。「港の朝陽」の省略された船の描写も面白い。
 梅原龍三郎「北京秋天」。緑の人物画は苦手ですが、これは色彩が綺麗。

 第3章 両大戦間のパリ―藤田嗣治と佐伯祐三の周辺。佐伯祐三「オーヴェールの教会」、「靴屋(コリドヌル)」、「広告塔」、「パンテオン寺院」。独特の荒々しく繊細なタッチはとても心に残ります。夭折を賞賛するような言い回しは好きではありませんが、それゆえに到達できる境地があるかと思うと複雑。
 藤田嗣治の作品は去年観た「藤田嗣治展」のスーパーダイジェストという感じ。その人気っぷりは今も昔もすごいのだなと改めて実感。
 小出楢重「自画像」。卒業制作で、このふてぶてしさ!佐伯や藤田の自画像も良いですが、こっちも良いです。

 第5章 戦後の留学生と現在パリで活躍する人びと。現代的な作品が並び、一気に肩の力が抜けて気楽に観られる一方で、どこら辺がパリなのか良く分かりません。でも、この中から歴史を紡ぐ作品が出るかと思うと面白いです。岩田榮吉「日本人形(トロンプルイユ)」の立体騙し絵のような構成や、モリエヒデオ「ロベスピエールと革命的快楽」の生理的不快感を伴うインパクトが印象に残りました。物語の挿絵のような絵が目についたのは、絵画単独では成立しにくい時代なのでしょうか。

オルセー美術館展」、「異邦人たちのパリ」、「大回顧展モネ」、そして本展と、パリに縁のある企画展が続きますが、その中ではちょっと地味な感じです。でも、借り物の巨匠よりも、日本発のアートを応援したいです。

 上野公園の緑を抜けて、芸大へ。初夏の素晴らしい一時。
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 同時開催は芸大コレクション展「新入生歓迎・春の名品選」。
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 美術館ロビーから見える新緑。外壁のアースカラーとの対比が素敵。
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Posted by mizdesign at 2007年05月01日 14:41
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Tracked on 2007年05月26日 11:09
コメント

こんばんは。

アップ早っ!!
もう書く必要ないかな。

あのしりつぼみ感が
パリを象徴しているようでしたね。

Posted by Tak at 2007年05月01日 23:47

ロベスピエールには驚きました。最近のパリはあんなものですかね。

Posted by とら at 2007年05月02日 23:37

Tak様>
こんにちは。
先日はありがとうございました。

日本の近代洋画史は苦手なので、まとめて観られて良かったです。
実物で観ると印象も変わってきますね。

とら様>
こんにちは。
先日はありがとうございました。

ロベスピエールは現代アートとしては飛びぬけていると思いませんが、あの場所にあるとインパクトありますね。
100年の積み重ねを経て、パリもそれだけ身近になったのでしょうか。

Posted by mizdesign at 2007年05月03日 07:19

やはり、上階の現代絵画のあたりになると、
どっと集中力がなくなりました。
とくに抽象画になるとさっぱりです。
逆に現代から過去へ遡るという企画だったら
どうかなぁと思うのですが。

Posted by 一村雨 at 2007年05月03日 16:26

一村雨様>
こんにちは。
現代アートは評価未定で歴史がない分、軽いですね。
逆の構成でも位置付けが定まらないので、混迷に拍車がかかるだけかと。。。

でも、今の雰囲気を伝える点では、必要な展示だと思います。

Posted by mizdesign at 2007年05月06日 18:41

日本の近代絵画は、自負心が強く現れていて、そういったあくの強いところが逆に魅力なのかなぁ~と思いました。

Posted by Nikki at 2007年05月06日 19:00

Nikki様>
こんにちは。
時代を作らんとする強い自負心と、その足跡を辿る面でも、興味深い展示でした。
留学時代の絵が展示の顔になるあたりが示峻的な気も。。。

Posted by mizdesign at 2007年05月08日 20:51

こんばんわ。
先日、国立新美術館で「異邦人たちのパリ1900−2005」を見たばかりだと思ってたら、またパリですね。
やはり、パリって言葉にはちょっとだけ憧れてしまいます。

Posted by あおひー at 2007年05月12日 00:40

あおひー様>
こんにちは。
パリ大人気ですね。
同テーマで色々な切り口が楽しめるのも贅沢な話です。
ここのコレクションは展示が終わっても日本にあるのが嬉しいです。

Posted by mizdesign at 2007年05月17日 09:46
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