2009年10月30日

●名和晃平展「Transcode」@ギャラリーノマル

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 ギャラリーノマルで開催された名和晃平展「Transcode」を観ました。古い長屋と高層マンションが混在する街中を抜けて行くと、広い前庭にパーゴラ屋根を架けた空間が現れます。左手に垂れ幕、奥に三角屋根の白い箱。前庭に置かれたテーブルと椅子が、街とギャラリーを緩やかにつなぎます。

 入口から一枚壁を回り込んで奥へ進むと、液晶モニターが2台。画面がビーズで覆われ、その皮膜越しに映像が流れています。振り返るとさらに2台。ビーズを通して大胆に解像された映像が球面に映り込み、静的かつ変化に富む映像が美しいです。Pixcellの概念と電子機器は、とても相性が良い。

 さらにもう一枚壁を回り込むと、壁が白から黒に反転。虚無の空間に床面だけが発光します。床ディスプレイに映るのは、大きさを変えつつ動き続ける無数のDot。三点一組で動き、空間が振動するような錯覚を覚えます。明快で徹底した図と地の反転。そこに落ちる自分の黒い影に、確かな存在感を感じます。

 シャープな視点と鮮やかなプレゼンテーションがとても心地良いです。

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2009年10月20日

●生活の中の美 北大路魯山人展@何必館・京都現代美術館

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 何必館・京都現代美術館で開催中の「生活の中の美 北大路魯山人展」を観ました。
 入口を入ると壁一面に魯山人の器が並び、期待感を高めます。
 2階に上がると、花を生けた花入(備前旅枕花入かな)と、水を張った手桶(織部だったと思う)がポンと置いてあり、その存在感に圧倒されます。ガラスも何もないので、思わず手を伸ばしそうになります。
 3階はガラスケースですが、織部の小さな直方体型向付(だったかな)が可愛い。
 5階の自然光展示は、畳座敷に散らし置いた書と器が絶品。「つばき鉢」はガラスケース展示で、他器の精気溢れる存在感に比べると今一つ。
 B1階に降りて、再度ガラスケースなし展示。右側エレベーター寄り3点に目が釘付け。古木を敷き枝を活けた鉢(名前失念)の空間美は、時間が止まるような錯覚を覚えます。「雲綿鉢」の美しさも引き立つ。「織部蟹絵平鉢」(このフロアじゃなかったかも)の図柄も愛らしい。「生活の中の美」は超絶眼福です。

 一つ残念なのは作品リストがないこと。受付で聞いたら「図録を買って下さい」といわれたけれども、図録は写真集として独立した作品なので、展覧会の記録ではない。「自分の目で観ること」を大切にしているので、何を観たかが記録に残らないのは寂しい。だったらメモをとれって話ですが。

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2009年10月19日

●国宝 青不動御開帳@青蓮院門跡

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 「国宝 青不動御開帳」中の青蓮院門跡を拝観しました。
 長屋門の両脇に聳える楠。その枝ぶりは、空を覆うが如し。

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 殿社内を歩き、革頂殿より「相阿弥の庭」を眺めます。龍心池を中心とする池泉回遊式庭園で、滝が流れ、萩が季節を写します。紅葉の頃はさぞかし。。。

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 小御所を経て本堂に至り、青不動のお前立像にお参りします。ミニチュアみたいで可愛い。
 再度小御所を通って宸殿へ。紙片に願い事を記入して、いよいよ拝観。縦203.2cm、横148.5cmの大画面に、火焔を背負い、左右に童子を従え、憤怒の形相を浮かべた青い不動明王が鎮座します。保存状態は意外なほど良く、照明を当てているので画面も明るいです。特に火焔と火の鳥の見事さは眼福。暗闇の中でこの像に礼拝したら、その霊験に恐れおののくことでしょう。まさに平安時代の至宝。よくぞ現代まで護り伝えられてこられました。

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 龍心池を中心に庭園散策。

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 宸殿に向けて大きく枝を伸ばす楠。見事な庭園と楠を満喫しました。

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2009年10月07日

●新・根津美術館

 3年半の休館を経て、新創開館した根津美術館の内覧会に行きました。 

注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

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 大きく変わったのはアプローチ。
 以前は蔵だった建物を建て替えて展示棟とし、以前のエントランス兼展示棟は事務棟へと用途変更。表参道からみゆき通りを南東に向かった突き当たりに、黒い二層のボリュームが壁の如く現れます。都市と庭園を隔てる黒い壁。

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 黒壁に突き当たると、90度右に折れて、竹で覆われた外壁と竹林で挟まれた道が伸びます。大きな庇が迫り出して、空を覆います。

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 外壁の端部に至り、左に90度折れると、大庇に嵌めこまれたガラスの箱が現れます。分断、視点変換、素材切替。映画のカット割のようにパッ、パッ、パッと場面が切り替わります。
 「ようこそ、新・根津美術館へ!」

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 エントランスを進むと、2層吹抜けのホールに至ります。その向うには、庭園が透けます。

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 展示室1 [企画展示]「吉野竜田図」の鮮やかな桜と紅葉の共演が、目に沁みます。

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 展示室3 [彫刻]。コンパクトなスペースに仏像彫刻の美品が並びます。驚くべきはガラスの存在感のなさ。かすかに映り込むので存在することは分かりますが、すぐに忘れてぶつかりそうになります。

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 展示室4 [青銅器]。黒壁に嵌めこまれたガラスケース。段々天井の間接照明に、クローバー型展示ケースが映えます。

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 ガラスの箱を抜けて、庭園へ。手入れの行き届いた緑と石畳のコントラストが美しい。

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 道は緩やかに蛇行しながら、NEZU CAFÉへと至ります。和紙を貼ったような質感の天井、その一部から自然光が透け、間接照明の光と相まって黄金色に輝きます。ガラスに囲まれたカウンターは、庭園の緑に取り込まれるよう。

 都市と庭園の境界を劇的にデザインする空間構成。ガラスの美しさを極限まで極めた素材演出。その空間体験は、東京でもっとも新しく、もっとも美しい散歩道のようです。

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2009年10月06日

●皇室の名宝-日本美の華- 1期 (後編)@東京国立博物館平成館

 「皇室の名宝-日本美の華- 1期」のブロガープレビュー後編です。前編はこちら。

注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

 第2章 近代の宮殿装飾と帝室技芸員
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 後半の華は工芸品。当代最高の技と素材で作り出される奇跡の業の数々は、瞬く間も惜しいほどの眼福。
 川之邊一朝ほか「菊蒔絵螺鈿棚」。違い棚に施された、高蒔絵と螺鈿による菊花と小鳥紋様。細やかな花弁に螺鈿を施し、その輪郭は金で抜く。また反対に、輪郭のみを螺鈿で抜く。まさに超絶技巧。豪華な金地に、螺鈿がクルリクルリと七色の輝きを放つ様は、空から羽が舞い降りる様。こんなに美しいモノを見たことがありません。

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 並河靖之「七宝四季花鳥図花瓶」。漆黒の闇に浮かび上がる、桜のピンクと紅葉の青。その間を飛び交う小鳥たち。絞り込まれた照明が絶大な効果を発揮して、神々しいまでに美しい。

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 大連窯業株式会社「菊桐鳳凰文ガラス花瓶」。大きなクリスタル・ガラスに刻まれた菊桐鳳凰の祝賀図案は、その大きさと相まって貫禄十分。存在感と透明感が共存する不思議な世界。

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 海野勝珉「蘭陵王置物」越しに、川端玉堂「四時ノ名勝」を望む。工芸技術の精華と、四季の景の共演。あまりにも贅沢なひととき。

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 そして絵画に回帰。
 鏑木清方「讃春」。皇居前広場で寛ぐ富裕層の女学生と、隅田川で船暮らしの母子の対比。そして両者に等しく春が訪れる。

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 上村松園「雪月花」。ふっくらとした顔立ちの松園美人が、散り行く桜の花びらを受け止め、観月を楽しみ、御簾を巻き上げて雪を眺めます。最後は女性らしい柔らかな感性で〆。

 「皇室の名宝」の題名に相応しい、全編が見所の、異様に密度の濃い展示でした。しかも2期は全点展示替、正倉院宝物も登場して、更にヒートアップ!「平螺鈿背円鏡」の細工の美しさは、図録を見るだけで悶絶モノです。

 最後にお題。「もし1点だけ持って帰れるならどれにするか? どこに飾りたいか?」。私の答えは「菊蒔絵螺鈿棚」、ベッドも机もダイニングに押し込んで、寝室に飾ります。家具でありながら空間を感じさせる「違い棚」が大好きです。超絶技巧の極みのような高蒔絵と螺鈿の競演にメロメロです。

 今回のブロガープレビューの機会を与えてくださった関係者の方々に、厚く御礼申し上げます。

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2009年10月05日

●皇室の名宝-日本美の華- 1期 (前編)@東京国立博物館平成館

 上野の東京国立博物館平成館で明日から開催される「皇室の名宝-日本美の華- 1期」のブロガープレビューに参加しました。

 宮内庁所蔵の名宝を展示する施設「三の丸尚蔵館」は、展示作品の質は文句なしですが、狭いのが玉に瑕。行く度に、「皇室の名宝が一堂に会する展覧会が観たい!」という願いは募るばかり。まさかその願いが叶うときが来るとは!しかもブロガープレビューという鑑賞機会に恵まれて!もう狂喜乱舞です。

注:画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

 第1章 近世絵画の名品
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 入口入った突き当たりにドーン!と構えるのは、狩野永徳・狩野常信「唐獅子図屏風」。「我こそは永徳、絢爛豪華、安土桃山文化の頂点に立つものなり」といわんばかりに、金地の雲と大地を雄雄しく歩む二頭の若獅子。その左手に、軽やかに飛び跳ねる子獅子。最強の絵師とその曾孫、桃山狩野と江戸狩野の競演は、オープニングを飾るに相応しい貫禄と奥行。

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 右側に視線を移すと、伝狩野永徳「四季草花図屏風」伝狩野永徳「源氏物語図屏風」が並んで華を添えます。旧桂宮家伝来の、永徳周辺で制作された屏風。豪快な金地の雲と大地の画面の中に、四季の花と宮廷の雅。

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 左手に折れると、伊藤若冲「旭日鳳凰図」!岩山に佇む二羽の鳳凰。一羽は朝日に向かい大きく羽を広げています。ハートマークがフリフリする尾羽がキュート。モクモクとした雲、三角定規のような波。画面全体からオーラが放散されるよう。

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 そして振り返ると、伊藤若冲「動植綵絵」が広がります!広々とした空間と充実した照明に浮かび上がる全30幅揃いの畢生の大作は、もう一生ものの感動。精緻極まる細密描写と色彩に目が釘付け。尚蔵館で見たときとは、全くの段違いの迫力です。展示空間に全く力負けしないどころか、オーラを発散しているようにすら見えます。

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 一点一点観ていくと時間がいくらあっても足りませんが、それでも目が離せない密度と美しさ。そして全点揃うことで形成される空間の美しさ。それは仏に捧げる祈りのようです。これを観ずして若冲は語れない。

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 次室は江戸絵画の巨匠たち。円山応挙「旭日猛虎図」。揃えた前脚とすぼめた肩、クリクリッとした目が凶悪なまでに可愛い。思わずねこバス!と叫びそうになります。

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 酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」。金地に輪郭のない花鳥。十二ヶ月折々の取り合わせ。詩を観るような至福のひととき。
 振り返ると岩佐又兵衛「小栗判官絵巻」。超絶精緻に描きこまれた画面、豊頬長頤な独特の顔立ち。食い入るように見入ってしまいます。

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 そして最後は葛飾北斎「西瓜図」。西瓜の上に薄紙を載せ、包丁を置くその描写力!長々と剥いた皮を吊るす縦長の構図。第一章のトリを飾るに相応しい、清々とした画面。

 これで半分。第2章に続きます。

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2009年10月01日

●9月の鑑賞記録

 9月の鑑賞記録です。

 9/5
特別展「染付 藍が彩るアジアの器」@東京都国立博物館平成館
 伊万里と鍋島が良かった。水車紋大好き。平野コレクションの蜃気楼も構図と凹凸がバッチリ決まっていて良い。食卓を再現する展示も良かった。

 特別展「伊勢神宮と神々の美術」@東京都国立博物館平成館
 装飾太刀が美しかった。でも柄の上下に緋の糸で留めてあると解説にある朱鷺の羽がみつけられず。

 アジアギャラリー@表慶館
 とても観やすいダイジェスト版東洋館。

平常展@東京国立博物館本館
 浄瑠璃寺四天王にご対面!彩色が綺麗に残る美麗さに見とれた。仁清の壺の立体彩色の美しさも良い。伝雪舟の花鳥画も初対面。

 9/12
特別展「黄金の都シカン」@国立科学博物館
  「魅力的な黄金文明の遺産」+「日本人研究者の研究の軌跡」という二本立ての構成。一日ブログ記者の恩恵にあずかって、満喫しました。

トリノ・エジプト展@東京都美術館
 イビの石棺とツタンカーメン像、そして死者の書。死後の復活を願う儀式と品々が、今も強く心惹かれる。

 山口晃トークショー@丸善
 エッセー漫画「すずしろ日記」出版記念。イケメンゆるキャラ画伯の日常にクスリ。サイン会で、ファンの方々の想いの深さにビックリ。ディープな世界だ。

 ギャラリー椿コレクション展@ギャラリー椿
 桑原弘明さんの小品が良い。まとまって見られる機会がないかな。鈴木亘彦さんの作品も好き。

杉本博司「Lighting Fields」@ギャラリー小柳
 実験的技法をアートに昇華する審美眼が凄い。恐れ入りました。

 9/21
よみがえる浮世絵-うるわしき大正新版画展@江戸東京博物館
 当時の写真パネルを並べて、時代の中に新版画を位置付ける展示が良かった。橋口五葉の探究心に惹かれた。

 イタリア美術とナポレオン展@大丸ミュージアム・東京
 ボッティチェリとナポレオン一族。

 9/26
THE ハプスブルグ展@国立新美術館
 イタリア、ドイツ、スペイン、オランダと国別にブースを分け、それぞれに代表画家を擁するスケール感が素晴らしい。ヨーロッパの覇者ハプスブルグ家を実感できる。

 9/27
若冲ワンダーランド(第1期)@MIHO MUSEUM
 新発見の屏風と個人蔵をズラリと並べ、まだ知らない若冲の世界が広がります。もう絶賛。次はいつ行こうかと算段してしまう。

オクサスのほとりより@MIHO MUSEUM
 紀元前の出土品の工芸レベルの高さに唖然呆然。金色の煌めき、細工の細かさ、壮大な時間軸の流れ。ペルシア絨毯もすごい。

没後50年 北大路魯山人 美と食の巨匠が挑んだ世界@滋賀県立陶芸の森 陶芸館
 「星岡茶寮」時代の実用の器に焦点を当ててます。実際に料理を盛った写真パネルも併置して、その美味しそうなこと、この上なし。

琳派展XII 鈴木其一-江戸琳派の風雲児@細見美術館
 個人蔵と合わせて、展示の8割以上が其一筆。残りは弟子たち。クローズアップの美から、様々な肉筆、美しい小品。淋派ファン必見!

 「THE ハプスブルグ展」と「若冲ワンダーランド」が観られて幸せ。「Lighting Fields」の知覚的な驚きも良かった。

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