2015年01月04日

●ホイッスラー展@横浜美術館

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 横浜美術館で開催中の「ホイッスラー展」を観ました。
 「ホイッスラーって誰?」というくらい画家について知らないので、まずはチラシで予習。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(1834-1903)、アメリカ・マサチューセッツ州生まれ、パリ、ロンドンと移住。以降、英国とフランスを行き来して活躍。「唯美主義」を主導、ジャポニスムの画家としても知られる。
 さらにフリーマガジン「ミュージアムカフェ マガジン」でホイッスラーの人物像について予習。辛酸なめ子さんの描き下ろし漫画が、わずか4ページで画家の生涯をエピソード満載で描写。ダンディでモテ男かつ、気性が激しくトラブルの絶えない人物像をイメージしつつ展示へ。

注:展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

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 第1章 人物画
 「農夫」1855/58年、「煙草を吸う男」1859年頃。初期油彩画はクールベのレアリスムの影響がうかがえる。
 「12点の写生エッチング集」1858年。画家の最初の成功はエッチング集。
 「灰色と黒のアレンジメントNo.2:トーマス・カーライルの肖像」1872-73年。水平・垂直線を意識した構図と、灰色基調の落ち着いたトーン構成。
 幅広く取り組み、成功を収めていく過程が思い浮かびます。
 「トリクシー(ビクトリアス・ホイッスラー夫人)」1892/94年、「バルコニーの傍で」1896年。ドライポイント、リトグラフの高い技術、的確な輪郭線とラフな陰影描写が抒情性を高める。数多くの浮名を流した画家が54歳にして結婚。以降彼女の死まで続く幸せな時代。その終焉とともに彼の画業も完結。
 えっ、完結?随分ときれいにまとめられてる気が。。。

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 第2章 風景画
 時計の針を戻して、主題を風景画に切り替えて第2幕。
 「オールド・ウェストミンスター・ブリッジの最後」1862年。石橋から鉄橋への架け替えを舞台に、職人、船頭等の労働者を描いて、活況を呈するロンドンを活写。歴史の証人のような視点と、新たなパトロンを求めるしたたかさ。
 「16点のテムズ川の風景エッチング集」1859年。前景に労働者と船、中景に川、遠景に街。練られた構図と、シャープな線描。上手い。
 「肌色と緑色の黄昏:バルパライソ」1866年。閉塞的なロンドンから逃れて、チリへ。夕暮れの一瞬を捉えた色彩が美しい。予めパレット上に絵具を整え、のびのある絵具で日暮れ頃に一気に描いたというエピソードに感銘を受ける。
 「ヴェニス、12点のエッチング集」1879/80年。ラスキンとの裁判で勝訴するも破産、ヴェニスにて再起を期す。その思いが伝わるような見事な刷り。

 展示室を出て、共用部分に設置された仮設ブースへ。
 「青と金色のハーモニー:ピーコックルーム」1876-77年。画家がデザインした内装を、壁面3面を使った映像で再現。デザインよりも、「クライアント不在中に勝手にデザイン変更、制作した上に内覧会まで開催。クライアントとの仲は決裂」というエピソードの方が印象に残る。その経緯にもかかわらず、本空間を手を加えずに使い続けたクライアントは、寛容というか、1枚上手というか。

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 次の展示室へ。
 第3章 ジャポニスム
 風景画展示をひとまず中断して、人物画のメインビジュアルを展示。
 「白のシンフォニー No.2:小さなホワイト・ガール」1864年。本展のメインビジュアル。意外と小さい。モデルの横顔と、ガラスに映るななめ顔の表情の落差がすごい。なんというか、うんざりという心の声が聞こえてきそう。
 「白のシンフォニー No.3」1865-67年。本展のメインビジュアルその2。白いソファに身を横たえ、手を置くポーズをとる二人のモデル。「古典古代を思わせる装飾的セッティングの中に人物を描く」構図は、まさに唯美主義 。

 風景画再開。
 「ノクターン:ソレント」1866年。薄く溶いた絵具で描かれた空と波、青トーン一色の静寂な世界。
 「青戸銀色のノクターン」1872-78年。陸と海と船の境界がさらに不明瞭になり、深い霧に閉ざされていく。
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 「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」1872-75年頃。構図の参考となったであろう歌川広重「名所江戸百景のうち「京橋竹がし」」も併せて展示。大きく橋をクローズアップして、橋脚と円弧を描く橋の一部で画面を切り取る。水面に船と船頭、橋に人影。遠景に街の灯り。
 ホイッスラー作品と浮世絵との構図の関連性を示す展示は他にも複数点。興味深い見せ方ではあるけれども、あまり多いと構図の相関性ばかりに気が行ってしまってかえって他の大切な点を見落としてしまう気もする。

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 ホイッスラー旧蔵品。アトリエのホイッスラーの写真はまさに、その男ダンディにつき。開き直りとも感じられる「敵をつくる優美な方法」の書名、愛用の蝶のサインが可愛い。

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 ミュージアムグッズは「髭押し」。中でもパパブブレキャンディは売れ行き好調で、1月中頃には売り切れそうとのことです。(再生産の予定なし)


 油彩、エッチング、ドライポイント、水彩、リトグラフ。リアリズム、唯美、海景、浮世絵。多才で研究熱心な画家の多岐に渡る足跡を、質の高い作品で辿ります。絵画系統、時系列が若干混乱しやすいので、ある程度予習してから観た方が、より楽しめる展示だと思います。年末年始休暇のリラックスした一週間の最後を飾るにふさわしい、素敵なひと時でした。
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□展示概要
 会期:2014年12月6日(土)~2015年3月1日(日)
 休館日:木曜日、2014年12月29日(月)~2015年1月2日(金) 
 開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)
 ※夜間開館:2014年12月22日(月)~12月24日(水)は20時まで開館
 (入館は19時30分まで)

 会場:横浜美術館
 http://yokohama.art.museum/

 主催:横浜美術館、NHK、NHKプロモーション
 協賛:あいおいニッセイ同和損保、テラ・アメリカ美術基金、日本写真印刷
 協力:FMヨコハマ、神奈川新聞社、首都高速道路株式会社、日本航空、みなとみ らい線、横浜ケーブルビジョン

 「ホイッスラー展」公式サイト
 http://www.jm-whistler.jp/

Posted by mizdesign at 2015年01月04日 23:36
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