2017年03月12日

●ミュシャ展@国立新美術館

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 国立新美術館で開催中のミュシャ展を観ました。アールヌーヴォーの代名詞のような、華麗な装飾女性画で今でも人気の高いアルフォンス・ミュシャ。パリでの成功の後、故郷に戻り、16年かけて描いたという畢生の超大作《スラブ叙事詩》全20作が日本で観られるとあって、公開最初の週末にもかかわらず、開館前から行列が。

 叙事詩の内容理解に音声ガイド必携と聞いたので、入口で音声ガイドを借りて中へ。作品リストはA4見開き両面印刷の豪華版。全20作の配置と図版が載っているので、鑑賞にとても便利。スラブ叙事詩は全3室に分けて展示。

 第1室
 第1室は「神話の時代」。

 01《原故郷のスラブ民族》。天井の高い新美展示室の天井に届かんばかりに巨大な画面。青トーンの美しい星空の下、画面右下に侵入者から身を隠す人々、左上に両手を広げて立つ司祭。壮大な叙事詩の世界に一気に引き込まれる。

 04《ブルガリア皇帝シメオン1世》。スラブ文学の立役者シメオン皇帝の下で文献の翻訳に勤しむ学者たち。功績は素晴らしいが、その下に使える人々は過労気味に見える。

 05《ボヘミア王プシェミスル・オタカル2世》。「黄金の王」オタカル2世の姪とハンガリー王子との婚礼。主役であるはずの花嫁がどこにいるのかよく分からない。

 06《東ローマ皇帝として戴冠するセルビア皇帝ステファン・ドゥシャン》。東西ローマをスラブ人皇帝が治める栄光の時代。叙事詩の中で一番晴れやかに感じられる。

 第2室
 第2室は「フスの改革とフス戦争」。

 07《クロムニェジージュのヤン・ミリーチ》
 09《ベツレヘム礼拝堂で説教をするヤン・フス師》
 10《クジーシュキでの集会》
 フス三部作。先駆者ヤン・ミリーチ、フス、フス処刑後のクジーシュキ。仮設足場を効果的に使った構図が多い。

 08《グルンヴァルトの戦いの後》
 11《ヴィートコフ山の戦いの後》
 12《ヴォドニャヌイ近郊のペトル・ヘルチツキー》
 フス戦争。戦勝も敗走もある中、遺体が並び、疲れた表情の人々から悲しみと悲惨さが伝わってくる。

 13《フス派の王、ポジェブラディとクシュタートのイジー》。 画面中央の大窓から射す光で満ちる空間。その中心に立つ、赤い衣装を着たローマ法王特使。画面右側、怒りのあまりに椅子を倒して立つイジー王。美しい色彩の下に繰り広げられる、緊迫した瞬間。

 14《二コラ・シュビッチ・ズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛》。画面中央に立ち昇る黒煙。右側にトルコ軍とシゲット防衛軍。左側に火薬庫に火を放たんとする提督の妻。要塞陥落直前の異様な雰囲気に満ちている。

 16《ヤン・アーモス・コメンスキーのナールデンでの最後の日々》。改革の敗北、亡命先での指導者コメンスキーの最後の日々。寒々とした画面の中で、希望のランプが灯る。

 第3室
 この部屋はなんと写真撮影OK!絵柄も、戦闘や死体等のない、見栄えの良い絵が並ぶ。

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 館内は大入り状態でも、比較的落ち着いて鑑賞できます。新美のガランドウ大空間が大活躍。

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 15《イヴァンチツェの兄弟団学校》。青空と城壁と尖塔の手前に広がる緑の広場。右手の印刷所で聖書を印刷中。嵐の前の静けさのような、美しく穏やかな一枚。

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 19《ロシアの農奴制廃止》。スラブ叙事詩制作の資金援助をしたアメリカの資本家チャールズ・クレインが希望したテーマ。自由を獲得した瞬間にもかかわらず、宮殿は霧に霞み、色調も重く感じられる。

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 17《聖アトス山》。私にとっては、村上春樹の紀行文「雨天炎天」でおなじみの聖地アトス。画面下半分に修道僧、上半分に天使。斜めに光射す聖堂の中、現実と天界が重なる構図が美しい。

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 18《スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓い》。叙事詩制作時の現代を描く。顔を描いていないので未完成という扱い。

 20《スラブ民族の賛歌》。青は神話、赤はフス戦争、黒は敵、帰路は自由と平和と団結をもたらす人々。叙事詩の終幕に相応しい、ヒロイックな構図と色彩。

 驚くほど巨大で美しいミュシャの傑作を、新美のガランドウ大空間のおかげで、そこそこ落ち着いて鑑賞できるのが素晴らしい。一部写真撮影可の配慮もうれしい。双眼鏡をもって再訪せねば!

Posted by mizdesign at 2017年03月12日 23:11
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