2008年05月09日

●茂木健一郎「欲望する脳」

 茂木健一郎「欲望する脳」を読みました。「欲望」と「脳」という相反しそうなイメージを結びつけるネーミング。快楽の中を漂いつつ現実と切り結ぶ茂木論理の飛躍と展開を期待して購入しました。本書は、集英社のPR誌「青春と読書」に連載された「欲望する脳」に一部加筆、修正を加えた、全24章からなるショートエッセイ集です。

 冒頭に孔子「七十従心」が登場し、その境地とはいかなるものかと謎賭けします。それが全編を通してのキーテーマとなります。
 「己を律した聖人の人生訓を底本にした、茂木流時事説話」と思えた前半は、かなりテンションが下がりました。章が短いので、快楽に浸る間もなく、あっという間にまとめ。字数の制限か、キーワードの羅列はツライ。茂木節とショートエッセイは相性が悪いのでは?と思ってしまいました。

 しかし、それだけではない。読むにつれて、そんな思いが募ります。
 「14 欲望の終わりなき旅」。荻尾望都さんとの対決。それまで仙人の如く淡々と達観してきた茂木節が少し変調します。「人間、追い詰められるとなんとかなるものである」。傍観から舞台へ上り、「終末開放性」を足がかりに既定論を踏み越えて行きます。
 「15 容易には自分を開かず」。若冲登場。「鳥獣花木図屏風」、「動植綵絵」、ついでにフェルメールの名も。一気に興味が高まり、BRUTUS「若冲を見たか」が思い浮かびます。そして「糸瓜群虫図」を材にとって、「「自分」という宇宙に立て篭もることで、開かれた地を獲得してきた」と結びます。ゾクッ、ゾクッと茂木ワールドが広がってゆきます。
 「18 アクション映画とサンゴの卵」。「ヒーローが必ず勝つアクション映画とサンゴの卵が海に放出されて、淘汰されていくプロセス」。その対比と、同一性の指摘。
 「19 欲望と社会」。「偶有性」登場。「私たち人間は、自分の脳の「使用説明書」を知らずに日々生きている」。
 「20 一回性を巡る倫理問題」。秘仏拝観を通して、「一回性」の論理に辿りつく。それは万能の理論ではなく、諸刃の剣。「うさんくささを甘んじて受け入れなければならない」。
 「21 魂の錬金術」。シャチは溺れて死ぬ。その凄惨なる末路。そして話は冒頭に回帰します。「否定的な感情を消し去りさえすれば良いというのは、精神における行き過ぎた「衛生思想」ではないのか?」。「「負」から「正」への転換の技法」。「七十従心」はもの凄い勢いで解体され、再構築されて、まるで何事もなかったかのごとく現実との折り合いを説く。このスピードとメリハリと接点の持ち方が飛び抜けています。
 「22 生を知らずして死を予感する」。「七十従心」解題その2。それは、死後に完成する理想像。えーっ!
 「23 学習依存症」。エピローグ。学習の悦楽と「七十従心」。
 「24 一つの生命哲学をこそ」。グランドフィナーレ。「可能無限」が溢れる現代。「欲望」が「利己的」のニュアンスを失って、その先は。。。

 時間をかけて書き綴られたせいか、それとも意図的なのか。論調が少しづつ変化してゆき、テーマが当初のイメージから大きく変容してゆく過程はスリリング。聖人を固定化せず、変化し続ける存在として捉えて、強さも弱さも合わせて論じるスタンスも独特。大上段に構えず、小論の積み重ねと飛躍で話を引っ張る大技は、読んでいてドーパミンが分泌されます。

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2008年04月25日

●長谷川高「家を買いたくなったら」

 長谷川高「家を買いたくなったら」を読みました。最近の読書を通して「自分だけの場所」が必要だと思うようになったのですが、さてどうやって手に入れようかと思ったところで目に入った本です。多くの人が気になるテーマに対して、漠然と「家を手に入れたくなったら」と囁きかけるタイトルが上手いです。冒頭にはキレイな写真に少しキャプションを添えて、タイプ別の理想の家の例が数ページ並びます。帯には「がんばらないで「理想の家」を手に入れる」。「はじめに」は、「ちゃんと答えが書いてあります」という力強い言葉で締めくくられています。

 本編はまだ購入は先という方に向けて、焦らずがんばらず「理想の家」のイメージを固めることを薦め、その探し方、お金の話、タイプ別の物件の注意点、購入時及びその後の注意点を順に述べてゆきます。広く浅くタイプ別に網羅する視点は、入門のための概論という感じです。冒頭の写真をケーススタディとして、それぞれの事例を掘り下げるのかと思ったのですが、そういった部分はありません。

 内容がおかしいわけではありませんが、「買わせる」ポイントをしっかりと押さえた本の作りの方が遥かに印象に残りました。考えてみれば、不動産を扱う方は「売る」プロです。この分野は手強そうです。

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2008年04月22日

●梅田望夫「ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか」

 梅田望夫「ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか」を読みました。「世界中の情報すべてを整理し尽くす」という壮大なビジョンを掲げるグーグルを核に、ゾクゾクするようなビジョンを示した「ウェブ進化論」の続編ということで楽しみにしていた本です。

 オプティミズムを貫くわけ、前作とのつながりを説明して、いざ本編へ。前作で示した「学習の高速道路の先の大渋滞」のサバイバルとして「高く険しい道」と「けものみち」の二つの選択肢を示します。「好きを貫いて生涯を送ること」を人生の幸福と定義し、高速道路を疾走する若いネット・アスリートに贈る三つの言葉が素晴らしいです。「Only the Paranoid Survive. (病的なまでに心配性な人だけが生き残る)」、「Entrepreneurship (アントレプレナーシップ)」、「Vantage Point (見晴らしの良い場所)」。

 後半は、作者のこれまでを振り返りつつ生き方を探ります。「けものみち」を歩く処方箋としての「五百枚入る名刺ホルダー」を始め、かなりビジネス書方面へ舵を切ります。「正しいときに正しい場所にいる」は全くおっしゃるとおり。「好き」の強度を手がかりに生き方を開拓する「ロールモデル思考法」は梅田流サバイバル術の要。終盤は若い人へ贈る言葉を細やかに述べて完結です。

 前作のゾクゾクするような高揚感に比べると、本書はやや細切れな感じがあります。どうしてかと考えてみると、これからの時代を生きる処方箋を、過去の作者の行動に求めるところがズレの原因かと思います。その一方で、ないモノを語るのだから過去を参照しつつ話を組み立てるのは当然です。そうすると、本書は続編でなく、短編を集めた外伝と捉えるのが適当かと思います。
 もう一つ。本書を作者の成功体験を綴るビジネス書と捉えると、成功部分の煽りが弱い分中途半端に思えます。反対から考えると、中途半端でも論旨が完結するところが本書の特徴と思えてきます。型にはまったビジネス書でなく、今まさに生成せんとする事象を捉える徒手空拳の記。わずか240ページほどでこれだけ思索を喚起するところが、この本の最大の魅力です。

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2008年04月14日

●小山登美夫「現代アートビジネス」

 小山登美夫「現代アートビジネス」を読みました。著者は現代アートの有力ギャラリーのギャラリストであり、アートフェア等でも精力的に活動されている方です。去年オープンしたガラス張りのTKG Daikanyamaは、一般層にも積極的にアピールしようという姿勢と、うねるアクリル面の視覚的な面白さがバランス良く機能していて印象的です。売り文句は「奈良美智、村上隆を世に出した仕掛け人が語る、アートとお金の関係とは?」。アートイベントラッシュに沸いたこの時期に、タイミング良いなと購入しました。

 内容は、誤解されがちなアート業界の仕組みを、平明な構成、表現で語ってゆきます。去年のアートフェア東京のラウンジトークでは三潴さんが、森美術館のウェルカムパーティーでは南條さんが語っておられましたが、アートファン層拡大の好機という認識は共通のようです。小山版の特徴は、奈良、村上の2大キラーコンテンツを擁するところでしょう。以下、印象に残ったフレーズの抜粋です。

 第1章「誰も見たことのないものに価値を見出す ギャラリストの仕事」。著者の自己紹介とギャラリストの仕事について。ギャラリストは広義で画商に含まれるが、「展示空間=ギャラリーを持ち、みずから企画展示する点が、大きな違い」。
 第2章「村上さんと奈良さん アーティストはどこにいるの?」。アーティストはどのように育っていくかを、村上隆、奈良美智の軌跡を辿りつつ紹介。「奈良さんの絵はイラストとどう違うの?」「僕は描きたいものしか描かないよ」。「「これでもいいんだ!いいはずだ!オレたちの文化も捨てたもんじゃない」」。「自分にとってよい作品をつくることが大前提」。「自分の描きたいものや表現したい世界を、客観的に見ることが必要」。
 第3章「アートの価値はどう決まる 投資を考えている方へ」。アートとお金の話その1。「現代アートは産地直送、適正価格で売ってます」。「プライマリー・プライスとセカンダリー・プライス」。「世界基準でない、「アジア限定マーケット」」。「1980年代、アートバブル狂走曲」。
 第4章「マーケットを動かすのはコレクター アートを買ってみる」。アートとお金の話その2。「潜在的なマーケットを発掘するために」。「現代アートは団体戦で勝負をかける」。「日本アートフェア興亡記、NICAFの顛末」。「アートを楽しめる人がコレクター」。
 第5章「日本をアート大国へ アートビジネスの展望」。「例えば、アートバーゼルはスイス最王手の銀行UBSが、アートバーゼル・マイアミ・ビーチはゴールドマン・サックス社が、ロンドンのフリーズはドイツ銀行が、大スポンサーとしてフェアを支えています」。「日本の美術館に、奈良、村上がない理由」。

 ギャラリストって何する人?という疑問から、村上、奈良作品の価値、アーティストに必要な素養、現代アートとお金を巡る事情、世界のアート事情、そして日本の課題まで、とても良くまとまっています。森美術館「UBSアートコレクション展」の話とリンクしたり、去年の「アートフェアTOKYO」が現代アートのみでなかった訳等々、色々となるほど!と思いました。アートファンの方には興味深い一冊だと思います。

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2008年04月13日

●本田直之「レバレッジ・リーディング」

 本田直之「レバレッジ・リーディング」を読みました。副題は「100倍の利益を稼ぎ出すビジネス書「多読」のすすめ」。勝間和代さんの著書に名前が出ていたのと、書店に平積みだったので自ずと目に入り、購入しました。
 内容はタイトル通り、本によるインプットから、100倍の利益というアウトプットへと至る流れを、レバレッジ(梃子)をキーワードに解説します。「読書」は投資という視点から多読を薦め、本の探し方、読み方、フィードバックの仕方まで。このサイクルの繰り返しをレバレッジ(梃子)と呼ぶところが秀逸です。ビジネス書の単価を1,500円と設定し、その100倍(150,000円)の利益を得るという風呂敷の畳み方も上手。
 逆に、タイトルと「はじめに」でほぼ内容を語り尽くしているので、残りの160ページほどは、その補足説明と化しています。作者の述べる「八十対二十の法則」を地でいっていてなるほどと思いました。「そもそもレバレッジ・リーディングは読書ではありません。投資活動です。」とあり、再度なるほど。

 余談。本書と勝間和代「効率が10倍アップする 新・知的生産術」には、投資としての読書法が登場しますが、その手法は大きく共通し、ディテールが少し違います。前者は文庫本をページを折り、書き込みをし、要点はメモに書き起こして常時携帯せよと説きます。後者はパーッと読んで必要なときに引き出せれば良いと、速度最優先です。投資額も前書は年間100万円、後者は月10~15万円とボリュームアップ。両書の間には1年のタイムラグがあり、その間のグーグルの席捲、前書を踏まえつつ貪欲に吸収、カスタマイズしてゆく後者の学習意欲といったものが感じられました。

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2008年04月10日

●原田ゆふ子・黒田祐子「沖縄に住む」

 原田ゆふ子・黒田祐子「沖縄に住む 理想のセカンドライフの過ごし方」を読みました。沖縄に通い始めて早半年。そのわりに、沖縄に関する本を読んでないなと思ったときに目に入りました。
 内容は明快、簡潔。沖縄での生活に関する基礎知識、移住に関するイントロ、そして体験談。対象はシニア層ですが、沖縄生活入門書としてコンパクトにまとまっています。私自身が観光以上、居住未満な滞在状態なので、ミニ知識としてちょっと面白いです。

 沖縄最大の魅力は「暖かさ」。確かに。冬もランニングに励んで、ずいぶん健康になりました。
 沖縄の夏が、「暑いというより痛い」という記述はなるほど。その例証として「真夏でも、沖縄の最高気温は32~34度程度である」という数字は分かり易いです。そして「沖縄の日照時間は日本一少ない」というのも納得。本当に良く雨が降ります。
 沖縄の物価は、「モノによっては意外に高い」。その通り。食べ物も日用品も東京と同じ感じです。家賃も決して安くないです。島外への移動が基本的に飛行機なのが、かなりこたえます。

 後半は移住体験談です。思いの強さと行動力が大切。資金計画も大切。

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2008年04月08日

●島田裕巳「日本の10大新宗教」

 島田裕巳「日本の10大新宗教」を読みました。帯には「新宗教には、なぜ巨大なカネが集まるのか?」。寺院、神社の宝物は言うに及ばず、尾形光琳「紅白梅図屏風」を擁するMOA美術館、先日の運慶作仏像の落札など、美術と宗教は関係が深いです。その気になるところを剛速球で突く帯に惹かれて購入しました。
 内容は、著者がピックアップした10の新宗教について、その成り立ち、歴史、特徴について簡潔に述べてゆきます。一通り説明が終わって、それで。。。と思ったところで終わりです。帯に偽りあり。出版社の作戦がち。一人の視点で並列に述べていくところがウリといえばウリ。一つの章に、単一の宗教だけでなく、その本家筋、分家筋といった周辺も交えて述べていくところもウリといえばウリ。時系列を意識して、旧来からの布教方法を用いるところから、非日常性を意識しない現代的なところへと並べるところもウリといえばウリ。でも、帯のインパクトには敵わないです。
 気になったフレーズ。「芸術や自己表現の強調は、教団のイメージアップには大いに役立つが、信者を集める武器になるものではない。」なるほど。

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2008年04月07日

●上野千鶴子「おひとりさまの老後」

 上野千鶴子「おひとりさまの老後」読了。今年で40歳。人生のフレームワークを組む必要があるなあと思いつつ本屋を見ていたら、目に入った本。パラパラとめくって女性向けと気づいたものの、まあいっかと購入。
 「ひとりでおさみしいでしょう」といった他者の思い込みを大きなお世話と切り捨て、ようこそシングルライフへ!と勢い良く語りだします。最低限必要なのは「自分だけの住まい」という論点から建築へも話が膨らみ、建築家山本理顕さん設計の東雲の公団住宅も登場します。「女の持ち家率は高い」、「身を守るルールは自分で決める」とポンポン論が進みます。そして後半。人付き合い、お金の話とより身近な話題になり、介護の話を経て、死に方の話で終わり。ものすごくポジティブに、時に倣岸、時にシニカルに語り尽くすあっという間の260ページ。すごいエネルギー。
 「自分だけの住まい」を手に入れることと、老後の資金を蓄えることが、おひとりさまの必須項目。それにしても、どうして男の扱いがこんなにゾンザイなのだろう。。。

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2008年04月02日

●梅田望夫「ウェブ進化論」

 梅田望夫「ウェブ進化論-本当の大変化はこれから始まる」読了。時代の寵児グーグルを中心に、ウェブ社会の「次の10年の三大潮流」を分かり易く解説。「三大潮流」とは「インターネット」、「チープ革命」、「オープンソース」。よく耳にするけれども聞き流し気味な言葉をちょっと理解。

 ゾクゾクするのは、やはりグーグルの在り様。「世界の情報を整理し尽くす」という構想の下、インターネットの「あちら側」に情報発電所を構築、「こちら側」と全く異なるプラットフォームの下、チープ革命を推し進める。無料サービス「グーグルマップ」の登場は記憶に新しい。現代ではほぼ不可能と思われた「全体を俯瞰する視点」を、ものすごいスピードとテクノロジーで手に入れる。漫画のようだ。いや、現実がフィクションを追い越している。

 後半は、ウェブ社会と既存価値観の衝突、その課題点も浮かび上がらせた上で、作者の信じる進むべき方向性=「不特定多数無限大への信頼」へと進む。実際に生活の大変換につながるかは置いておいて、好奇心はものすごくそそられる。

 ブログも登場します。ツールの使い方として、バーチャル研究室は楽しげだ。

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2008年03月22日

●佐藤可士和の超整理術

 「佐藤可士和の超整理術」読了。表紙をめくると木地の大机の奥に小さく腰かける著者の写真。白い空間に黒い服。それが本書の内容を雄弁に物語る。本の装丁も著者。白い表紙に文字だけのタイトル。ストレートに本書の内容を示し、「超」をつけて特別に。気がつけば手にとってレジに持っていってしまった。

 内容は整理術=快適に生きるための方法論を、「状況把握」「視点導入」「課題設定」の三段階に分けて解説。実際の仕事を交えつつ話を進めていくのでとても分かりやすいです。ファーストリテイリングのCIの清新さに流石と唸りました。

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2008年03月21日

●勝間和代「効率が10倍アップする新・知的生産術」

 勝間和代「効率が10倍アップする新・知的生産術 -自分をグーグル化する方法-」読了。
 NIKE+iPODを導入することを決意。ランニングの習慣化と耳からのインプットの有効化の一石二鳥の効果をあげるぞ!

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2008年03月18日

●山田真哉「さおだけ屋はなぜつぶれないか?」

 山田真哉「さおだけ屋はなぜつぶれないか? 身近な疑問からはじめる会計学」を読みました。確定申告の季節、やさしい会計モノ、少し前のベストセラーの三点がポイント。

 さおだけ屋、フランス料理店等などの舞台設定が功を奏して、好奇心がスムーズに会計学へ向かいます。一章ワンセンテンスに絞り込まれた明快な論点のおかげで、あっという間に読了。確定申告の決算書を眺めて、数字のセンスを磨かないとなあと反省。要約すればA4用紙一枚におさまりそうな内容で、ちょっとためになる、前評判通りの内容でした。

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2008年03月17日

●海堂尊「チーム・バチスタの栄光」

 海堂尊「チーム・バチスタの栄光」を読みました。第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、医師であり作家である多才な作者、映画化の勢い。相変わらずミーハーな選択です。

 青天の霹靂のごとく、栄光のバチスタ・チームに潜む謎の解明を命じられる昼行灯の主人公。前半は、その目を通して登場人物個々の輪郭を浮かび上がらせます。そして後半。もう一人の主人公が登場して、ものすごいスピードでその輪郭を突き崩し、天才外科医の秘密を明るみに出し、そして事件の核心へと突き進みます。主人公と一体になって、ジェットコースターに乗りながら解説を聞いているようなスピード感。続編への布石もしっかりとうって幕。

 印象に残るのは、精緻に練られたプロット。無駄を削ぎ落とした構成と、そこから生まれる情報の飢えと疾走感。その一方で登場人物の造形をきっちりこなすそつなさ。何より緊迫感ある手術シーンの描写。文句なく面白いです。続編も2編あるので、そのうち読んでみたいです。

 ついでに映画の予告編。緊迫感に満ちたシーンの数々が、平坦な台詞のやり取りとして並ぶ。活字のトリックであるミステリーと映像は別物に思えました。

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2008年03月04日

●五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」

 五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」を読みました。現代建築の研究者として広く活躍中の著者が、16のテーマに沿って現代建築を読み解きます。

 スーパーフラット、モビルスーツといった現代のキーワードを豊富に盛り込み、現代のスター建築家の作品を次々に登場させ、過去から現代へと連続した時系列の中で論が進みます。昔読んだ本が登場したと思ったら、その次に最新の建築が登場して、昔習った建築史が現代まで拡張するようです。ちょっと現代建築通になった気分。個人的には「第十五章」、「第十六章」が特に興味深かったです。

 「第十五章 メディア-雑誌、写真、模型」
 書物、雑誌、新聞の登場が建築デザインを広く伝播した。メディアが時間を加速させる。製版精度が荒い頃は建築ディテールも荒く、製版精度が上がると建築ディテールも繊細になった。メディアが建築に影響を与える。写真の登場が建築家による透視図に頼る必要をなくし、建築家と編集者の力関係を逆転させた。モダニズム建築の時代の建築雑誌は白黒写真がメイン。細かい装飾やディテールよりも、はっきりした、抽象的な構成を強調するようなデザインが白黒写真に合っていたはず。
 20世紀後半に入って視覚中心主義に対する批判。手触り、写真でない感覚への傾倒。プレイステーションなどのゲーム機でも、目と指から体そのものを動かすゲームの登場。CGから模型による差異の検討へ。

 「第十六章 透明性と映像-モニタとしての建築」
 リテラル-文字通りの透明性、フェノメナル-現象としての透明性。後者は古典主義建築にも遡って見出すことが出来る。近代になってガラスを使うようになって登場した透明性の概念が、過去の建築にも適用できる。現代は半透明性に焦点。
 映像への応用。リテラルな映像性、QFRONT等。ブレードランナーの世界の現実化。フェノメナルな映像性、銀座ルイ・ヴィトン等。ダン・グレアムのアート。
 谷口吉生の建築に多くみられる映像的な仕掛け。法隆寺宝物館の水盤。同じ概念が平等院鳳凰堂の池にも見出せる。過去に遡る映像性の概念。MoMAは映画のワンシーンのようにマンハッタンをフレーミング。とても映像的。

 メディア、透明性、映像性といった現代建築のキーワードを、とてもスムーズに建築史に織り込んでいて感心しました。マイベストブック、ジークフリート・ギーディオン「空間・時間・建築」に登場したリテラルな透明性が拡張されて映像性へと至りMoMAへと着地する構成は、イメージ的にもダイナミックで美しい。

 東京都庭園美術館で開催中の「建築の記憶-写真と建築の近現代-」展は、この視点を踏まえて観ると奥行きが俄然増しそうです。行くのが楽しみです。

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2008年02月21日

●茂木健一郎「脳を活かす勉強法」

 出張で増えた細切れ時間を使って、本を読むことにしました。その一冊目。
 茂木健一郎「脳を活かす勉強法」。購入の動機は「脳」。最先端の科学な匂いと、未知の領域のミステリー感、そしてベストセラーという煽り。

 「困った子」がトップへと昇り詰める筆者の体験談からスタート。その秘訣は「自分の脳をいかに喜ばせるか」。以降、一貫して「学習の快楽」をキーワードに話が進みます。他者を意識せず、ひたすら快楽を追及する清々しいまでの没入感。「タイムプレッシャー」、「瞬間集中法」ととてもタフな行動を、短いフレーズでテンポ良く解説して行きます。天才を「強化回路」が暴走した普通の人と述べるくだりは独特。ただし、暴走のきっかけがいつ来るかは誰にも分からない。単なる勉強法でなく、幅広く応用できる(気にさせる)ところが良いと思います。

 特に印象に残ったフレーズ。「1分、2分という時間でも集中してやる」。それはけっこう有効。「人とのかかわりの中で「知」ははぐくまれる」。ごもっとも。「脳のゴールデンタイムを積極的に活用する」。朝型になろう。

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2006年09月22日

●とりぱん若冲風

 今週号のモーニングの表紙を見て、「おっ」と思いました。
 以前から若冲っぽいなと思っていた「とりぱん」が表紙を飾っているのですが、その絵柄が本当に若冲風です。
 別に絵柄が似ているとか、仏画を描くというわけでなく、庭先に設けたえさ台にやってくる鳥たちの観察記をありていに描く視線とか、連載が決まる前に仕事を辞めてしまう生き方とかが若冲っぽいと思っていたので、駄洒落を真面目にやられて面食らうという感じです。でもうれしいです。
 先日の山口晃の表紙絵といい、モーニング編集部はツボをくすぐるのが上手いです。内容は結構波があるけど。。。

 とりぱん1巻と記念撮影。本日2巻が発売だそうです。
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2006年07月02日

●もやしもん

 「もやしもん」が面白いです。菌を見る力のある大学生の主人公が、強烈な個性を持つ教授や院生や学部生たちに囲まれて展開する某農大を舞台にしたキャンパス漫画です。が、本当の主役はかわいく擬人化?された菌たち。ピンポン玉のような菌たちが「かもすぞ」とワラワラと画面を漂う絵を本屋さんで見た人も多いのでは。

 副題は農大物語、英名は「Tales of Agriculture」。作者の石川雅之さんの緻密な話作りと細かく描き込まれた絵柄と相まって、何度も読み返してしまいます。コメディ調の展開を追ううちに、人間と菌の切っても切れない関係、切れないなら仲良く付き合おう、堪らなく美味しそうな日本酒というふうに興味が広がります。菌が跋扈する世界を描くことでこんなに面白い世界が開けることをイメージできた作者の構想力と、それを伝えようとする努力が凄いなあと思います。

 建築好きとしては、校舎を改装して発酵蔵を作るくだりが好きです。湿気への配慮からコンクリートと木の壁材としての適不適を盛り込んだり、密閉度の高い住宅の欠点に触れたり。巨大ステンレス流しに水勾配を付け忘れる部分は、さすがにそれはないだろうと思いましたが。せっかくの一枚モノのステンレス鏡面仕上を、わけあってスチールたわし磨き仕上に変更するエピソードは笑えます。

 もやしもんの欄外には、菌一つ一つのプロフィールが掲載されています。単体だと読み飛ばすだけですが、本編中の彼らの活躍?と合わせて読むと面白さが倍増します。モノの性質や仕組から話を組み立てることは、結果重視の今日では軽視されがちな部分ですが、切り方と見せ方でいくらでも上手く伝えられるという好例だと思います。農業が一区切りついたら、建築の世界も切ってもらいたいものです。

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