2009年07月05日

●辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」

 辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」を読みました。「奇想の系譜」を読んで以来待ち望んだ、「岩佐又兵衛」総決算本です。

 又兵衛が複雑なのは、勝以として落款を残した画家「岩佐又兵衛」と、浮世絵の創始者として数多くの絵巻群を残した「浮世又兵衛」とのダブルイメージの重なりと混乱。両者の乖離が大きくなるほどに現実味を失い、特定人物を意味しない「又兵衛風」という言葉だけが広がってゆきます。

 その伝説の中から事実を引き出し、「岩佐又兵衛」という個人に話を集約していくところが本書の真骨頂です。その「豊頬長頤(ほうきょうちょうい)」な顔つき、絢爛豪華な又兵衛風絵巻物。本書では、彼の放浪の人生、死後の伝説の誕生、近代の又兵衛論争、絵巻物作者についての最新の見解が語られます。学生時代から彼を研究対象とし、50年近くも又兵衛絵画を見続けてきた辻氏の眼を通して語られる又兵衛像はとても説得力があります。時系列上のものさしを得たことで、彼の作品を観る楽しみが俄然増しました。

 本書のラストには、「デロリ」ということばとともに岸田劉生の名が登場します。絵巻物群作者について一応の決着をつけたところで、さらなるテーマを提示して本書は終わります。又兵衛を巡る物語は続きます。

Posted by mizdesign at 2009年07月05日 08:46
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