2013年02月16日

●隈研吾講演会「新しい歌舞伎座について」@サントリー美術館

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 サントリー美術館で開催中の「歌舞伎座新開場記念展 歌舞伎 ―江戸の芝居小屋―」。その一環として開催された記念講演会「新しい歌舞伎座について」を聴講しました。講師は新しい歌舞伎座の設計者隈研吾氏

 新しい歌舞伎座では春夏秋冬異なった照明を計画している。また、夜中まで照らす予定。建物も見所いっぱい。普通の建物の3倍手間がかかっている。多種の布を使っている。とてもこの時間では説明できない。今回は現場では出来ない話として歴史の話。建物について調べていくと、非常に変わった経緯を経て継承されてきたことが分かり、とても面白い。

 歴史と継承
 3F、4Fの展示でその一端がうかがえます。
 1693年頃。伝菱川師宣「上野花見歌舞伎図屏風」。能の影響。通路が舞台。舞台と観客の間に白洲=間があり、空間全体が舞台。さらに飛躍させたのが歌舞伎。
 1779-94。江戸中期。立体的シューボックス型。
 1850年頃。歌川広重「東都名所 猿若町芝居」。江戸後期。
 1872年。三代歌川広重「東京開華名所図絵之内 新富座戯場の図」。明治初期に江戸三座の移転。後に三座を統合して歌舞伎座が誕生。
 1889年。第一期歌舞伎座。洋館+瓦屋根+円形棟飾、玄関は切妻。演劇改良運動の流れを受けて、パリ・オペラ座をモデルに、欧米人が観ても楽しめることを目指して作られた。
 立地は井上馨が「皇居から海に続く道を作らなければならない」と主張して作られた晴海通りに面しており、オペラ通りの突き当たりにオペラ座があるのに倣っている。天井に求心的なシャンデリアがあり、戦後に舞台と一体的な作りとなるのと対称的。照明はガス灯。それまでは昼間の明るい時に上演していた。ガス灯照明見たさに来る人も。
 パリ・オペラ座は1875年に完成。ナポレオンIII世が25年かけてパリを大改造して大通りを作った。金を使って華やか。内部の吹抜空間を大間と呼ぶが、階段が主役で、劇場に来た人がお互いに主役になれる演劇空間。歌舞伎座の洋館+三角屋根構成、シャンデリア、内部空間はオペラ座に倣っている。
 1911年。第二期歌舞伎座。和風の作り。洋風の帝劇ができた影響?唐破風登場。
 1925年第三期歌舞伎座開館。1921年先代が火事で消失、1923年再建中に関東大震災で被災するも、1年で復旧して開館。第四期は戦後、第五期は東日本大震災後。大きな危機の後に建ち上がる因縁がある?
 1924年。第三期歌舞伎座。設計は岡田信一郎。41歳で設計、49歳没。洋式建築の天才。垂直性の高い二棟を並べて間に唐破風。垂直に伸びる洋風、水平に伸びる和風の良いとこどりミックス。柱の表現が立体的。風呂・ホテル建築に真似された。何故か?目立つ必要があるから。壁は何色だったか?写真で見ると黄色っぽいけれども、顔料をすり潰してみると炭のあとに白がでた。真っ白だったのだろう。コンクリート造。日本の型枠大工は世界一。大工が上手いから。斗供、屋根の反りもコンクリート。唐破風のカーブは途中で勾配が反転するので雨が漏る。贅沢に銅板敷いて瓦を葺いている。何故瓦で葺くか?洋風建築だから。大間のバルコニーは曲線。
 1950年。第四期歌舞伎座。先代が空襲でほとんど消失。設計は吉田五十八。数寄屋造住宅の名手。双翼+切妻屋根のスッキリとした和風建築。
 2013年。第五期歌舞伎座。銀座協議会と協議して設計を進めている。
 大間。赤い漆塗りの柱に提灯の意匠は、今回はウレタン塗装7回塗りで再現。華やかさが重要なので、バルコニーは曲線に戻す。照明は間接照明に。カーペットは残っていたものを調べて平等院鳳凰堂曼荼羅を再現。
 劇場。天井は巨大な竿縁天井+間接照明。壁の業平格子は繊維を固めて作ったので燃えやすいので、今回はガラス繊維を混ぜたセメント板で再現。座席からの舞台への可視線計算を行い、どこからでも花道が見えるように。障害となる柱はなくしている。椅子は大型化して、わずかに金糸を用いて華やかに。全体の空間ボリュームが大きくなって音響も改善。蛍光灯をLEDに変更して色温度の再現性も向上。外壁は微妙にクリームかかった白。木場に原寸を作って確認。
 時代の変化。20世紀は工業、効率。それ以前の祝祭都市の時代に戻る。鉄骨造。棟を下げて広場。柱と壁の間に目地を入れる。分節されて軽快に見える。屋根の垂木の反りは一本一本違うので、垂木はアルミで作る。さらに軽快に。柱型はGRC(ガラス繊維補強セメント)。サッシはスチールだと錆びるので、アルミで作ってスチールの細さに見せる。外壁は粉体塗装で漆喰の質感を再現。
 説明を聞いて実物を観ると良く分かる。新しい歌舞伎座へどうぞ。

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 論点を歌舞伎座の歴史と継承の物語に絞込み、明晰な語りで観客の心を掴んで新しい歌舞伎座へと誘う。見事な講演でした。

Posted by mizdesign at 2013年02月16日 23:52
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