2017年05月31日

●2017年5月の鑑賞記録

 5/1
〇木×仏像@大阪市立美術館
 飛鳥仏《菩薩立像》の正面のみの造形、《試みの大仏》のどっしりとした造形、《宝誌和尚立像》の割れ顔と丸太のような後ろ姿。クス→カヤ→ヒノキと材料の変遷。一木造→割矧造→寄木造と製作手法の変遷。仏像という木の造形を軸にした時間旅行。
 塑像心木すらも一木造、内刳の実見、御衣木加持の実痕跡、寄木造仏像の製作中頭部。いかに木から仏像が誕生するか?ここまで細部に迫る展示を観たことがない。
 どう観ても女神像だろうと突っ込みそうな《伝聖徳太子座像》、片足を上げて踊ってるような《蔵王権現立像》。人々を救おうと基本は前のめり、しかし中にはまっすぐ立ったり、後ろに反ったりがよく分かる360°鑑賞。そんなツッコミ鑑賞も楽しい。
 そして見え隠れする快慶の存在。天王寺からJR奈良まで大和路快速で33分!快慶展@奈良博は目の前だ!(そこから2kmちょっと歩きますが…)

◎特別展「快慶」@奈良国立博物館
 第1章 後白河院との出会い。入って左手に快慶最古の作例《弥勒菩薩立像》、右手に醍醐寺《弥勒菩薩座像》。若き日の作例と言いつつ、金泥の肌に切金紋様も残る状態の良さは、仏様が顕現したよう。妙法院《後白河法皇像》。絵巻マニアに続き、こちらでも大活躍。
 悲田院《阿弥陀如来座像》。薄衣をまとう、柔らかな造形に見惚れる。勝龍寺《菩薩立像》。若々しくはりのある体躯に、思わず「美しい」と声がでる。清水寺《千手観音坐像》。奥院の秘仏だそうで、こんなところにも快慶。手広い。
 第2章 飛躍の舞台へー東大寺再興ー。浄土寺《重源上人坐像》。俊乗堂像のうつし。上手い。金剛峰寺《広目天、多聞天》。東大寺大仏殿四天王像のひな型か。極端に下を見下ろす視線は説得力あり。東大寺《僧形八幡神坐像》。あまりに精気があり、おそろしい。
 第4章 勧進の形ー結縁合力による造像ー。遺迎院《阿弥陀如来立像》。1万2千人の結縁で造られた像。権力だけでなく、新興宗教とも結びつく。運慶の工房と合わせれば、クラーナハを思わせる。八葉蓮華寺《阿弥陀如来立像》。大阪と奈良の県境にある快慶像。手広い。
 第5章 御願を担うー朝廷・門跡寺院の造像ー、第6章 霊像の再生ー長谷寺本尊再興ー。最大の後ろ盾、重源を失ってなお、快慶の活躍は続く。長谷寺《十一面観音像》は失われたが、その同材を用いた長快《十一面観音立像》から、その姿が偲ばれる。圧巻の展示でした。

 東大寺 南大門 金剛力士立像
 快慶たちが復興した仁王像が、そのまま今も立っているというのは、本当にすごいことだ。

 5/2
 法隆寺西院 金堂、五重塔
 ノコギリのない時代に、大木を割って、斫って、削って材を揃え、建てた。その建物が今も建っているのは、もう奇跡としか言いようがない。確かに、木肌が小さく波打ってる気がする。
 20年ぶりくらいに金堂の中を観て、その保存状態の良さにビックリ。今回はパピリオⅡ持参なので、細部までくっきり。奈良博の金堂展でも観ているけれど、やはり元の場所で観るほうが断然いい。壁画が焼けたのは本当に残念。

 法隆寺東院 夢殿
 救世観音像を初めて観た。聖徳太子の等身と伝わるその姿は、金色の姿に、髭を生やしたおじさん顔。長らく秘仏として観ること叶わなかった時代を経て、こうして観られて嬉しい。

 中宮寺 本堂
 菩薩半跏像。当初は彩色され、装身具があったとは知りませんでした。黒塗りの仏様だと思っていました。天寿国曼荼羅繍帳。オリジナルの絹糸の寿命が尽きかけているという解説に、経た時間の長さを思う。

 法隆寺 大宝蔵院
 あまりに多くの飛鳥、奈良時代の金銅仏、塑像仏、木造仏、様々な工芸品(それもとても状態のいいモノ)が並ぶので、現世と過去のバランスがなんかおかしい。百済観音の細身のプロポーションは確かに魅力的だけれども、それ以上に時間が捻じ曲がったような雰囲気にビックリ。

〇特別展覧会 海北友松@京都国立博物館
 60歳代から頭角を現し、宮家、天皇にも認められた絵師。その生涯を、狩野派時代の作品や海北家伝来資料から若き日を探り、活躍期の絵画へと通観することで、浮かび上がらせる。京博にしかできないであろう、ポスト桃山絵画史に新たな一ページを加える展覧会。
 第一章 絵師・友松の始まり、第ニ章 交流の軌跡。狩野派時代の絵画に見られる友松の特徴、海北家伝来図書から浮かび上がる交友関係と気質。限られた資料から専門家が若き日の友松像を提示する。孫が書いた履歴って、当然誇張があるんだろうなあ…
 第三章 飛躍の一歩、第四章 友松の晴れ舞台。支援者幽斎のつてで建仁寺塔頭の襖絵、屏風を手がけ、友松へと覚醒。それが評価されて大方丈障壁画《雲龍図》へ。薄暗い日本家屋に浮かぶ龍は、さぞ恐ろしかっただろう。スロースタートな展示も、いよいよエンジン全開。
 第五章 友松人気の高まり、第六章 八条宮智仁親王との出会い。《野馬図屏風》の見事な袋馬描写。《扇面貼付屏風》金地の浜に打つ波、詩的に舞う扇。クライアントの求めに応じて、墨から金碧に。友松世界が加速する。
 第7章 横溢する個性、第8章 画龍の名手・友松。《花卉図屏風》右隻に牡丹、左隻に春の花。金地に写実的な花が舞う画面は華やかで美しい。そして暗闇に浮かぶ《雲龍図屏風》。待ってました、これぞ桃山絵画、これぞ友松!
 第九章 墨技を楽しむ、第十章 豊かな詩情。墨技で一息入れて、《月下渓流図屏風》。展示室奥面に二隻並べる置き方は、松林図屏風を思わせる。たっぷりの余白、霧に浮かぶ景色、ところどころの彩色。その詩情溢れる情景に見惚れる。友松物語の美しいエンディング。
 展示も建物も素晴しいですが、両者のマッチングは今ひとつ。展示空間中央に設置された端正で美しい階段通路と視線の通る空間構成が、鑑賞の集中力を削ぐ。1階では特別展の動線が仏像展示で分断される。せっかくの見せ場の前に、集中力がブツ切り。もったいない。

 5/3
 WOLS@川村記念美術館
 写真、ドローイング、油絵を通して、作家の凝視する眼差しが迫ってくる。観ているのは絵なのか、病んだ心なのか。何を観ているのか分からず混乱するが、とても心に残る。研究所敷地内のツツジ山開放中。新緑もきれい。

 5/5
 The First Monday in May@Bunkamura
 METキュレーター アンドリュー・ボルトンが企画する《China:Through The Looking Glass》。その緊迫感高まる舞台裏を追い、メットガラの華麗な映像で締める。タフで美しい世界。

 5/7
 いちはらアート×ミックス2017
 Carsten Nicolai: Parallax@市原湖畔美術館。白黒の光と音と振動の組合せは、見応え、聞き応えたっぷり。
 アートハウスあそうばらの谷 鈴木ヒラク"道路"。養老渓谷の新緑、古い家屋の中にピカピカと光り、かつ陰影の美。
 月出工舎。土の造形と、倒木を利用した舞台。
 内田未来楽校。地域の人たちが、売却の危機にあった市原市最後の木造校舎を、保存・活用している施設。地域協働の作品も場にぴったり。その在り方自体が文字通り、未来楽校。
 市原市の山側には行ったことがなかったので、いろいろな場所を回れて楽しかったです。アクセスの悪さもあり、集客は苦戦しているようですが、次回があると良いですね。

 5/12
〇ブリューゲル「バベルの塔」展@東京都美術館
 宗教から民衆への画題の変化、ボスからブリューゲルへの絵画の継承進化。そして《バベルの塔》。閉館10分前、6重の人垣を少しずつ前進しながら鑑賞。思ったよりもずっと美しい画面に感動。ひしめき合いながらの鑑賞が、絵の中の民衆のようでした。

 5/21
 美女と野獣@シネマイクスピアリ
 エマ・ワトソンの黄色のドレスを観て、俄然観る気に。主題歌が流れ、背景が回転するシーンの美しさに感動し、パリの追加エピソードに涙を流す。悪事を1人に背負わせ、みんな仲良しのハッピーエンド。力技に押し切られた気がしつつも、満足。

 5/26
 みんなのカフェ&ショップ『キタノスミス』@太田市美術館・図書館
 開架図書とソファのある図書館が居心地良い。

Posted by mizdesign at 2017年05月31日 23:23
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