2018年09月15日

●「世界を変えた書物」展@上野の森美術館

 上野の森美術館で開催中の「世界を変えた書物」展を観ました。

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 知の壁
 うねる書架が、これから語られるであろう「偉大な書物」にまつわる物語を予感させます。

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 ウィトルウィウス「ラテン語より俗語に翻訳された十巻の建築書」, 1511年。原典は紀元前の成立。現存する最古の建築論書かつ、おそらくはヨーロッパにおける最初の建築論書。本書が当時の建築に与えた影響は不明だけれども、2000年を経てなお当時の「建築」が意味したところを伝える。

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 アンドレア・パラーディオ「建築四書」, 1570年。最初期の職業建築家がウィトルウィウス、アルベルティに倣って記した古典リスペクト建築デザイン指南書。個人の理論を「本」という情報媒体で宣伝することで、時代を超えて、ヨーロッパ、アメリカをパラーディオ様式が席巻する。

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 ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ「古代ローマの廃墟及び建造物景観」, 1748年。古代ローマの遺跡を基に描き出される幻想景観。古典が上書きされて新たな価値を持ち、新古典主義に影響を及ぼす。

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 知の森
 エウクレイデス(=ユークリッド)「原論(幾何学原論)」, 1482年。建築が拠って立つ基本概念の一つ、ユークリッド幾何学=ギリシア幾何学の集大成。世界最長の教科書。

 映像シアター
 ミュージアムトーク。本展監修者竺覚暁の名古屋展(2013年)におけるミュージアムトーク。本来展示の中核であるはずの「図書の背景・価値・相互関係」を液晶モニターの中でノンストップで解説。

 うねる書架造形と稀覯本の表紙や冒頭のみをズラリと並べる見せ方、展示の核となる「背景、価値、相関性」の解説を映像シアターの「ミュージアムトーク」に集約する構成、「知の繋がり」のほとんど情報密度のない巨大なオブジェ等は、ビジュアルインパクトはあるものの、展覧会としてはハリボテという感じ。
 他方、教育教材としてみると、ワークショップ的な作業を通して場を作り上げていく楽しさがとても伝わってくるので、最先端の教育環境づくりに意欲的に取り組む、金沢工業大学のプロモーションとしてとてもよく出来ていると感じました。

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●建築の日本展@森美術館 3回目

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 森美術館で開催中の「建築の日本展」を会期終盤。もう一度観ておこうと3度目の鑑賞。
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 04建築としての工芸
 《待庵》原寸再現。実物は外からしか観られないので、非常に再現度の高い内部を、茶室の中から観られるのはとても貴重な体験。会期初期は内部の写真撮影禁止だったのが、解禁になっているのも嬉しい。

 05連なる空間
 《パワー・オブ・スケール》。前回観た時は、ステージの上まで自由に上がれて作品との一体感が凄かったけれども、今回はステージに上がれなくなって、普通のインスタレーションになった感じ。作品の保守との兼ね合い?

 06開かれた折衷
 伊藤忠太 野帳。法隆寺の建築史上の位置付けや、桂離宮の間取り、丁寧に彩色されたスケッチ。建築に対する情熱が伝わってくる。

 09共生する自然
 藤井厚二のスケッチブック。棚の重なり、幾何学的構成等。聴竹居では観られなかった、推敲の軌跡が観られて良かった。
 A House for Oiso。土壁に木箱を載せた住宅。縄文後期から昭和までの民家の形式を考察して、一つの「家」にするという驚きの発想と実現。
 House&Restaurant。建築主の生活パターンの分析から得たボリュームを「穴を掘る」ことで創り出し、コンクリート充填した上で揚重する住宅+レストラン。
 今、最も注目を集める建築家の最近作かつ、土の手触りを連想させる手法を織り込んだ作品で締めるところが、縄文から続く日本建築の遺伝子の現代への継承を問う本展らしい。

 大胆な新旧並置と、模型と大きな文字が目立つ大味な構成は、図らずも建築の置かれる現状を体現しているようにも観える。その価値判断は分からないけれども、観ておくべき展示と思います。

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