2011年04月02日

●江戸の人物画-姿の美、力、奇@府中市美術館 (前期)

 府中市美術館で開催中の「江戸の人物画-姿の美、力、奇」(前期)を観ました。

美の百様
 志村榛斎「見立江口君図」。象の背に波濤が広がり、その中に遊女が腰掛ける。ダイナミックな構成に加えて、頭に挿した簪が放射状に伸び、普賢の化身というヒーロー造形がとてもカッコイイ。

「迫真」のゆくえ
 円山応挙「三美人図」。森美で観て以来の再見。それぞれの特徴を捉えた三人の女性像。「描かれた当人はどう思ったのだろう」という解説に、確かにと思った。自分たちのお得意さんの戯れと、笑って流したのだろうか。

聖の絵姿
 住吉広行「賢聖障子絵」。強弱ある黒い輪郭線が白地と赤地の衣装から浮いて見えて、マンガの輪郭線のようだった。

ポーズ考
 「舞踏図」。緻密に描き込まれた着物柄、扇子を手に動きのあるポーズ。金地を背景に6人の女性が並ぶ。写実的に見えて観念的。そんな世界に引き込まれます。
 円山応挙「鍾馗図」。上半身を少し捻り、左手を前に出して裾をキュッと掴み、右手は画面奥に隠れながら剣を握る。西洋人のような相貌。研究熱心な人だったのだろうなあ。
 谷文晁「法隆寺五重塔塑像図」。涅槃に入る釈迦の周りで従者たちが声の限り歌っているように見えた。
 海の向こうの不思議とロマン
 曾我蕭白「太公望・登竜門図」。府中市美といえば、蕭白。毎回毎回優品が出てきて本当に嬉しい。左手に水辺から跳ねる鯉、右手に大波を縫って姿を現す龍。白と黒の対比も明確。まとまりがとてもいい三幅対。上手いなあ。
 曾我蕭白「蝦蟇仙人図」。極端な縦長構図に薄墨でヘロヘロと、蝦蟇を調教(?)する仙人を描く。上手いなあ。

人という営み
 円山応挙「元旦図」。山裾から頭を出す日の出、伸びる男の影。簡潔に描かれた光と影。そして行間に満ちる余韻。機に敏な人だったのだろうなあ。
 西川祐信「高士と美人図」。雲間から覗き見して神通力を失う仙人。ところがどっこい、その後のエピソードがすごい。
 歌川広重「命図」。「ああ命取り女」。コミカルだけれど深い。
 曾我蕭白「美人図」。モノクロームの世界に彩色された女が立つ。口元にはスルメイカをくわえている。こえー。と思ったら手紙だった。でもやっぱり生々しくて怖い。
 林閬苑「妖怪図」。デフォルメの効いたプロポーションどりと、滑稽な表情とポーズ。何か分からないが面白い。現代の風刺画のよう。
 春叢紹珠「皿回し布袋図」。「水をこぼさなければ、わたしは豆蔵じゃ」。深い。けれどそれは置いておいて、楽しい。
 円山応挙「波上白骨座禅図」。府中の展示は毎回強力なオチで楽しませてくれます。今回は応挙のこれ。衣服も血肉もなくなって、一挙にスーパーヌード。解説文を壁面に大書して、エンディングを盛り上げます。それにしても大乗寺の応挙コレクションはスゴイ。一度出かけなければ。

かわいい
 白骨でキレイに空っぽになった心に、「かわいい」の文字がスコーンと突き抜けます。仙涯、蘆雪、若冲と有名どころを取り揃えて、見事な二段オチ。

 やはり府中市美の企画展は別格。毎回毎回、新しい視点を開いて見せる企画力と、個人蔵を多く集めてそれらを色付ける構成力。そして観客を楽しませる仕掛けをタップリ盛り込む演出力。桜の季節に柔らかく射す光。あたたかい。
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Posted by mizdesign at 23:52 | Comments [0] | Trackbacks [6]