2011年02月12日
●立体曼荼羅@東寺講堂

金沢文庫で開催中の「運慶展」は、運慶一門による東寺講堂立体曼荼羅の修復から始まります。その過程で、仏舎利が出現する奇跡が起こって運慶の名が上がり、平安密教の諸尊像はその後の運慶仏の手本となったとか。私は運慶=鎌倉時代という認識でいたので、平安時代の作例が手本という捉え方は意外であり、新鮮でした。
というわけで、東寺講堂立体曼荼羅を観に行きました。京都生まれの大阪育ちのくせに、東寺を訪れるのは実は今回が初めてです。かの有名な五重塔の軒先の下がったシルエットに、「技巧に走って本質を見失った」という先入観があってあまり好きでなかったのです。でも今回はそんなこと関係なし。
修学旅行生で賑わう境内を抜けて、講堂へ。菩薩、大日如来、明王。それぞれ5体の尊像で形成された3つの領域が並び、その左右を四天王と梵天、帝釈天が固めます。合計21体の仏像が並ぶ様は壮観です。中でも興味を惹くのが、X線撮影で頭部に仏舎利が確認されたという不動明王。そのお顔立ちはずいぶんと細部が失われているように見えますが、逆に運慶の時代からの生き証人(?)として説得力があります。まさにあの頭部に鑿を当てたところ、仏舎利が顕現したわけです。さらにその左手に少し離れて座する帝釈天。こちらは体内に古いお顔が埋め込まれているそうです。修理に際して、痛んだお顔を外して新しいお顔を制作する運慶一門の姿が思い浮かびます。言われて見れば、確かに愛知・滝山寺 帝釈天立像と似ているような。
これら諸尊像は、東京国立博物館で開催される「空海と密教美術」展(2011/7/20-9/25)に出展されるそうです。最新の照明設備で浮かび上がる立体曼荼羅!もう楽しみでなりません。
●「日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館
東京国立近代美術館で開催中の「「日本画」の前衛 1938-1949」を観ました。
I. 「日本画」前衛の登場
山崎隆「象」。大胆な形態と色彩のコンポジション。
山岡良文「シュパンヌンク・袋戸棚小襖」。前衛美術を自らの生活空間に用いた、興味深い作品。写真、CG、模型等で、山岡邸の様子をもう少し見たかった。
II. 前衛集団「歴程美術協会」の軌跡
船田玉樹「花の夕」。大画面に広がる写実的な樹形と荒々しいピンクのドット。まるで西洋から輸入したバウハウス的感覚と、日本で培われた琳派的感覚の融合のように見えて、ドキドキした。
丸木位里「馬(部分)」。素材、描法といった根底から前衛にアプローチする。ものすごい説得力と地力を感じた。
III. 「洋画」との交錯、「日本画と洋画」のはざまに
靉光「ライオン」。靉光展以来、久しぶりに観る「あの眼」。独特の造型感覚が、本展の中でも異様な存在感を放つ。
IV. 戦禍の記憶
山崎隆「歴史」。ダイナミックで荒々しい自然と、直線的で無機的な人工物の対峙。ひるがえる旗の意図がよく分からなかったけれども、自由と対極にあるということなのだろう。
V. 戦後の再生、「パンリアル」結成への道
山崎隆「神仙」。前章に登場した同名作との相違から、時代の変化がうかがえる。強烈な赤い色彩と、エネルギーの奔流のような自然。
バウハウスの輸入から始まり、琳派の影響が見え隠れしつつ、様々な試み、時代の変遷を紹介して戦後の新たな出発で〆。新たな異形世界への旅立ちは迫力がありますが、そこで物語が閉じている感もあります。個人的には、その因子が感じられる現代アート作品を最後に並べて、現代への継承を見たかったです。
本展は1999年に京都国立近代美術館で開催された「日本の前衛 Art into Life 1900-1940」の続編だそうです。展覧会の構成力で定評のある京近美らしく、本展も非常に資料的価値が高くかつ、興味を喚起する内容でした。記憶に残る展覧会として、必見だと思います。
東京展は2月13日で終了しますが、その後、広島県立美術館(2/22~3/27)へと巡回します。

